2017年11月 6日 (月)

ボン条約会議

 「移動性野生動物種の保全に関する条約(通称ボン条約/CMS)」がこの10月24日から28日にかけて、フィリピンのマニラで開催された。

***************************************************************************  
https://www.jiji.com/jc/article?k=20171030036362a&g=afp
   移動性野生動物34種が新たに保護強化対象に、ボン条約会議
  【マニラAFP=時事】フィリピンの首都マニラで28日に閉幕した「移動性野生動物種の保護に関する
条約(CMS)」(ボン条約)の締約国会議で、ライオンやチンパンジーなど野生動物34種が新たに保護
強化の対象リストに加えられた。
 移動性動物種は国境をまたいで移動することなどからその保護は特に難しいとCMS事務局長の
ブランディー・チェンバーズ氏は言う。動物たちが移動した先が野生動物保護体制が徹底されて
いない国である可能性もあるからだ。
 会議では、今以上の保護対策が必要だとしてライオン、ヒョウ、チンパンジーなどの対象リスト入り
が決まった。なかでもチンパンジーは近年、生息地の減少などで個体数が急激に減っているという。
アフリカ全土での個体数が9万頭を下回ったキリンもリスト入りした。
 このほか、ハゲワシやコンドル10種や世界最大の魚類ジンベイザメ、カスザメ、ドダブカ、
ヨシキリザメ、モンゴルと中国の国境が接する地域が生息域とされるゴビグマなどもリストに
加えられた。ゴビグマの生息数は世界で45頭とされている。(後略)
***************************************************************************

 残念ながら、日本はこの条約に未加盟である。
なぜなのか、と繰り返し行政に聞いてきたが、クジラが入っているから、とか、我が国の考え方と異なるところがある、日本ではウミガメを食べる習慣がある、他の協定で間に合っていて入るメリットがないとかの答えが返ってくる。2014年に、国会である議員さんが質問してくれたところ、検討中だという回答を受け、「20年間も検討し続けているのか?」と苦笑い。

 「わが国(=霞ヶ関+永田町)と考え方が異なる」という返事には、日本政府の野生生物や環境への後ろ向きの考え方が如実に出ている。ワシントン条約に関しては、国際的に色々と批判されて、成立後5年経ってやっと一杯の留保品目を抱えて加盟したが、CMSに関しては、そうした具体的な規制はないし、いろいろと’脛に傷を持つ身’だからなまじ加盟して難癖をつけられたくないのだろう。
 今回も、海洋生物に関連して重要な決議が採択されたが、そのうちの鰭脚類、ジュゴン目、クジラ類等の海棲哺乳類の重要海域(IMMAs=Important Marine Mamale Areas)は、当然のことながらここまでしっかりと進んできたか、と素直に嬉しいのだけど、一方で日本の加盟のハードルを上げたのだろうな、とも思う。

http://www.cms.int/sites/default/files/document/cms_cop12_crp8_immas_e.pdf

 日本政府の考えている海洋保護区は、どこからも反対されないような緩い規制と管理区域だと私は思っている。日本政府が日本独自の海洋保護区の設置で最終的には何を設計していくのか(つまり愛知目標の数合わせ以外ということだが)、よくわからない。既存の漁業管理区域などで、生物多様性が増したり、漁業生産が増したところがどれくらいあるのか、海洋保護区の指定とともに数値も示すべきだと思う。
(でも・・・・もしかしたら、海洋保護区で海が豊かになるなんて、ハナから信じていないのかもしれない。
   一種の他国からの嫌がらせとしか思っていないのかもしれない。この辺り、中国政府の考え方はどんどん国際化してきている)
 昨年せっかく公表した日本の重要海域は、海洋保護区の基礎的なデータを提供していると思っていたのだけど、聞くところによると、水産庁の一部の人が「事前に相談されなかった」、とかでむくれてしまって、座礁しているらしい。重要海域を抽出する努力は、私たちの税金と関わった担当官のみならず専門家の方たちの努力の結晶であり、異論を唱えたければご自分でもっと上等なものを作って海洋の生物多様性と、漁業に貢献すれば良いものを
面倒なことをしないですむ口実にしているのかもしれない 。

 ボン条約会議に戻ると、ようやく海中騒音問題にスポットライトが当てられた。2000年、アデレードのIWC会議のサイドイベントで、今は亡きベン・ホワイトさんが米海軍の低周波ソナーが鯨類に与える音響被害について一生懸命述べていたことを今更のように思い出す。今回会議では海中騒音に関しての環境影響評価のガイドラインが採択されたようだ。海洋開発がひどく活発化していること、また、船の航路が世界の海を縦横無尽に走っていることなど、海洋環境における騒音は、特に音を頼りに生きている生物たちにとっては危機的な状況のはずだ。

http://www.cms.int/sites/default/files/document/cms_cop12_doc.24.2.2_marine-noise_e_n.pdf

ブッシュミートとしての海棲哺乳類問題。
野生動物肉の利用=ブッシュミート問題は、ワシントン条約などでも取り上げられており、科学的な根拠を持って持続的に利用でき程るかどうか、とかなり曖昧な点もある。
海棲哺乳類について言えば、特定の海域に生息するものだけでなく、幾つもの国にまたがって移動している種も少なくないので、勧告では、参加国も参加していない周辺国も協力して情報を共有し、科学的なデータを集めて、適切な技術や資金提供、人材育成などを通じて、リストされている海棲生物が持続的に収穫されているかどうか確認すること、とされている。

それと商業的な生け捕り問題も問題になっている。
捕獲に関するガンドラインは任意であり、歯切れが悪いが、野生個体の商業的な利用に関しては捕獲、移動や輸出入についての規制を求めている。また、事務局に生け捕りに関してワシントン条約やIWCとの協力を推進することや参加国に対して生け捕りに関する情報の共有を求めている。

移動する生き物について、周辺国が協力して保全を考えるときに、1国で勝手な使い方をしては困るというのは当たり前の話だ。特に生け捕り問題では、特に日本に大きな責任があると感じる。
散々利用してきたが、この上、さらに利用し続けたいのであれば、ちゃんと条約に参加して堂々とそれを訴えるべきではないだろうか?

今回のテーマ「彼らの未来は私たちの未来」という言葉をよ〜〜く噛み締めてみたい。

2016年8月29日 (月)

水産庁の概算要求額は・・・

みなと新聞(8月29日)によると
「水産庁17年度概算要求 16%増2061億円 輸出拡大へ基盤整備2割増」

そのうち、捕鯨以外の資源調査全体の予算概算要求が46億円である一方、調査捕鯨は51億円!

「水産資源」としては’書き割り’程度でしかないクジラ捕獲調査の方が、他の資源調査を合わせたよりも多い不思議。

同じ鯨類でも、50種以上いると言われる沿岸鯨類のうち資源として利用していないイルカ類はレッドリスト作成時にも調査せず。
北の海、オホーツク海のツチクジラ個体群は、水産庁推定でさえ610頭なのに、産業が継続。しかも、漁業者が「カラス」と呼んでいたツチクジラは、NOAA調査で別種だったことが判明。


2016年6月10日 (金)

TED油濁事故の毒の代償:スーザン・ショー

 ずっと気になって来た事象についての悲しい現実を見る。
海の生き物たちはどうなるのか?そして私たちの将来世代は?

http://headlines.yahoo.co.jp/ted?a=20160603-00000925-ted

翻訳
私は海洋毒性学者です メキシコ湾の現状を大いに心配しています 特に 大量に使用されている 有毒な分散剤 コレキシットについてです 私は海洋汚染について 長きにわたり 研究を行い 海洋生物 特に海洋哺乳類に 及ぼす影響について 調べてきました 研究の結果 海洋哺乳類は 私たちが莫大な量の有害物質を 年々注いでいる 食物連鎖の一番上に 存在していることが分かりました そしてその哺乳類たちは こんな状態です こんな悲しいスライドで 胸が痛いですが 世の中全てが幸せなわけではありません 私の分野ではなおさらのことです 海洋哺乳類の体には 数百種類ものあらゆる有害な化合物が 蓄積されていて 深くショックを受けます そして 世界各地の 何万もの海洋哺乳類が 着実に絶滅に向かっています 彼らの約3分の1程度が 30年以内に絶滅すると 予測されています〔・・・〕

2016年4月20日 (水)

核のゴミを海に!?

 今朝の毎日新聞によると、経産省は高レベルの核のゴミを海に捨てるつもりでいるらしい。

http://mainichi.jp/articles/20160420/ddm/008/010/066000c

 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分を巡り、経済産業省の作業部会は19日、沿岸部の海底地下(海岸線から約15キロ以内)に埋め立てる方法について、「技術的に実現可能性がある」とする報告書案をまとめた。
海底の地下は人への影響が少なく、土地利用の制限も小さいために処分場建設の選択肢の一つと位置づけた。[・・・]

エネルギー開発に、カーボンストレージ、そしてこれ。
海の受難は続く。

2016年2月22日 (月)

国際シンポジウム「海洋における温暖化と酸性化」

17日は、久しぶりに海洋政策研究所主催のシンポジウムに参加した。
https://www.spf.org/opri-j/news/article_20895.html

 2014年、同研究所が海洋政策財団であったときに、海洋の酸性化についての海洋研究開発機構の白山義久氏の講演を聴き、予想以上に大きな問題であることを知った。
開会挨拶の中で、寺島綋士さんが2014年のセミナーのことにふれ、もっと一般に知らしめる必要性を感じたということで、今年から3年間(だったと記憶)、研究所として酸性化問題にコミットして行くとし、その端緒となるのがこのシンポジウムだと述べられた。

 基調講演は、海洋に関する国際政策を強力に推進するデラウエア大学のビリアナ・シシン–サイン氏とフランス国立科学センターのジャン–ピエール-ガトュッソ氏。
 サイン博士は早口に海洋政策の現状と課題を次から次へと滔々と語った(以前にも感じたことだが、この方の話は、重要項目をそのまま次々に繰り出してきて、脇目もふらないところがあり、私のような素人はついていくのが大変だ)。はじめに、海洋政策における2つの柱ーボトムアップ(すなわち、国や地域の海洋に関する政策や取組)とトップダウン(国際条約や交渉における海洋環境の保全・管理と利用)及びそれら縦割りに行われている課題を統合していくことが重要だとその取り組みについて紹介された。

 ボトムアップの好例として日本の海洋基本法を持ち出されたのにはがっくり。まあ、主催者が音頭をとってできた法律だから仕方ないのだろうが・・・

 一方で、国際的な海洋政策推進に関しては、2015年の持続可能な開発会議(SDGs)のプロセスに入っていなかった海洋を、主要課題に入れることに成功したこと、またパリでのCOP21における海洋問題を提起し、海洋と気候変動に関して政治的なリーダーシップを発揮し、46に及ぶパートナーシップのもと、オーシャンズデイをハイライトとしてたくさんの海洋関連のイベントを行った。そして、海洋環境の変化が小島嶼国に与える深刻な影響がクローズアップされ、最終的な合意文書には島嶼国の人々の努力が実って意欲的な目標値(1.5%)につながったことを評価した。
 もう一つの課題は、今、海洋問題で国際的に注目されている国の管轄外の海域、つまりABNJだ。その保全と管理に関しては、国連海洋法条約の元、国連で議論が行なわれている。海洋はつながっており、温暖化、酸性化だけでなく、海洋の汚染や海洋ゴミなど、その64%を占める公海における管理は健全な海洋環境にとって非常に重要なのだが、残念なことにはABNJについて、各国が最も関心を寄せるのは、公海における遺伝子資源の獲得や航行の自由、鉱物資源採掘など利益につながるところで、なかなか合意形成も難しいところだ。今後の動向が注目される。この3つの課題をどのように政策的に前進させていくかが今問われている。
 次のガトゥッソ氏は、海洋のもと機能の重要さとそれ故に海洋環境の変化が私たちにもたらし得る甚大な影響を、現在の二酸化炭素排出量が変化しない場合とコペンハーゲン合意に従った場合の比較を示し、なぜ今、私たちが排出量を大幅に制限しなければならないのかということを分かりやすく示した。そして、すでに計測可能な変化が認められる危機的な状況であることを訴えた。過去にはそれほど多くはなかった研究がこのところ実態に合わせてうなぎ上りに増えているそうだ。その上で、パリ合意がどれほど海洋問題にとって重要であるのかを強調した。つい最近、フィジーが最初に合意を採択したというニュースを見たが、この合意が早急に実現していくことが望ましい。
(ついでだが、COP21のシンボルマークは素晴らしい!
http://www.ambafrance-jp.org/article9503
ついでにこの漫画もフランスらしい)

 基調講演が終了し、パネルに移ってモデレーターの白山義久氏、宮原正典、井田徹治、山形俊男氏あわせて4人のパネラーが登壇、それぞれ短いプレゼンテーションが行なわれた。
 白山さんは冒頭にも書いたことだが、海洋の酸性化の問題についてこれまでも精力的に訴えてきた方で、タイトルもそのものずばり、「海洋酸性化問題をいかに主流化するか」である。すでに北極域で始まっている貝類の殻の消失など実際の危機について人一倍強い懸念を抱いていることが分かる。しかし、今回かなり違和感があったのは、カーボンストレージのプロジェクト紹介だった。後のディスカッションで早速サイン氏が懸念を示されたが、それについて、すでに苫小牧でかなり大掛かりな実証試験が行われており、規制に関しては海洋汚染塔防止法という国内法があるので対処できると彼は主張する。しかし、同法は船舶などによる油汚染や有害物質の漏出に対するもので、陸域に深い穴を掘り、そのまま海洋の深層部分までパイプを通してCO2を貯蔵することによる海洋生態系への影響については不明であリ、白山氏の思いは伝わるものの、海洋の環境影響評価手法が確立されていない状態で進めることは問題があるのではないかと思った。気候変動の緩和策として、繰り返し海洋、沿岸域の改変という技術的な解決法が訴状にのぼるが、それらがともすると海洋の生物多様性の損失につながるもので、先の生物多様性条約会議では、ユースがジオエンジニアリングに強い反対の意見を出したことが記憶に新しい。
 宮原氏の話も興味深かった。水産系ではこれまであまり漁業との関連で温暖化や酸性化を取り上げることが少なかったが、今回、彼が関わる調査の中で、黒潮の流れが早まり、親潮との混交海域における稚魚の成育に問題が起きるという懸念が示された。マグロ問題では、産卵海域や稚魚の成長する海域の保護に後ろ向きだという話を聞いていたが、どうせ将来的にはこうした問題が起きるのだから、いまのうちにとってしまえと思っていると勘ぐるのはうがち過ぎだろうか?冗談はさておき、彼も後で言っていたように、日本人の食に海洋の変化がどれほど大きく関係して来るかという提起は、問題の主流化に大きく貢献するのだろう。
 井田氏はメディアの立場として、酸性化の他に、海洋が抱えている海洋ゴミの問題や海のデッドゾーンなど、健全な海を保全するのに喫緊の課題を紹介しつつも、目の前に見えることではないこれらの問題への一般の関心の低さ、と報道の難しさを訴えた。最後の山形俊男氏は、海洋酸性化がもたらす私たちの生活への影響を経済的な規模も含めて示し、その上でその実態をまず解明していく必要性を訴え、「海洋危機監視」をいプロジェクトの立ち上げと情報の発信をしていくという計画を述べた。

 海洋基本法の中にはもちろん海洋環境の保全や生物多様性という言葉がちりばめられている。しかし、では法の下で具体的に行なわれていることは何か、というと、活発に邁進しているのは海洋開発計画であり、活発に議論されているのは領土問題で、環境は今のところお飾りに過ぎない。
 一方で、その埋め合わせのように、笹川財団による「ネレウスプログラム」やグローバルオーシャンコミッションの紹介など、海洋の危機に警鐘を鳴らす試みがなされている。同じ根元から出てくていると思えるこのふたつの矛盾を整理し、健全な海洋環境を守る方向に展示、国際的な海洋保全に歩調を合わせていくためには、一般市民の積極的な関与が求められると感じる。残念ながら、内閣府にある海洋政策本部に市民の声を届けるのはこれまでの経験から言うと難事というほかはない。最近盛んに発信されている日本の食の問題を考える上で、健全な海洋は必須だというのに。
 

2016年1月23日 (土)

乱獲による魚の減少は想像を超えているらしい

 違法な漁獲や小規模な漁獲が各国の報告に含められていないなどで、この半世紀の間にFAOがこれまで認めていたよりもずっと多くの魚が漁獲されてきたという新たな評価が。

「Overfishing causing fish populations to decline faster than thought, study finds」
New assessment shows the world has been taking far more fish out of the ocean over the past half century than admitted

http://www.independent.co.uk/environment/overfishing-causing-fish-populations-to-decline-faster-than-thought-study-finds-a6821791.html

2013年11月 1日 (金)

ロス海海洋保護区設立ならず

 ホバートで開催されたCCAMLRの結果。またしてもロシアとウクライナの反対で、アメリカとニュージーランドの提案していたロス海の海洋保護区設置は否決されてしまったようだ。同様に東海岸の保護区もかなわなかった。

Russia and Ukraine have blocked the creation of the world's largest ocean sanctuaries around Antarctica… again. This has demonstrated their sheer lack of political will to protect the last ocean wilderness on earth.

This comes a mere three months after Russia and Ukraine pulled the rug out from underneath negotiations in Germany. These two states continue to steadily erode the genuine efforts of other countries to protect these waters for future generations.

Unlike Russia and Ukraine, we have the will and determination to keep up the fight to protect these pristine waters and the thousands of species that call it home. We know that you do too. Share the above picture [https://www.facebook.com/photo.php?fbid=600820279975230&set=a.254870317903563.61527.233933866663875&type=1&theater] with your friends and family and ask them to Join The Watch [http://www.antarcticocean.org] today.

There is no doubt the 25 Members of CCAMLR (the Commission for the Conservation of Antarctic Marine Living Resources) feel the public pressure and know the world is watching their every move. Because of our campaign, countries like South Korea, Norway and Chile are becoming more and more supportive of Southern Ocean marine protection. Now we need to escalate public support and you are the agents to make this happen.

The two ocean sanctuary proposals that CCAMLR failed to pass were a US and New Zealand proposal for the Ross Sea, known as the most intact marine ecosystem left on earth, and a proposal from Australia, France and the EU for an East Antarctic ocean sanctuary.

While this is a major disappointment, our hopes remain strong for 2014. Stay tuned.

Steve Campbell, Campaign Director

The AOA Team

2013年10月18日 (金)

「次世代に海を引き継ぐために」PEW+日本財団ジョイント

 「次世代に海を引き継ぐために」は、アメリカの大手NGO,PEW慈善財団と日本財団の共催による共同海洋シンポジウム。溜池山王のANAインターコンチネンタル東京で10月10日に開催された。
 
 シンポジウムは、主催団体(笹川陽平・日本財団/ジョシュア・ラインハート・PEW両氏)と元外務、環境大臣の川口順子氏の挨拶の後、3つのセッションに分かれて行われ、それぞれ、海外ゲストと日本人ゲストが「気候変動などによる海の変化と漁業への影響」(ダニエル・ポーリー氏、山形俊男氏)、「海の管理に関する課題と可能性の共有」(マイケル・ロッジ氏、坂元茂樹氏)、「持続可能な海の実現に関する課題と新たな展望の共有」(ジェーン・ルブチェンコ氏、寺島綋士氏)としてそれぞれ講演された。

 ポーリー博士の講演を聴くのは今回で3回目になるが、相変わらずの早口、だが豊富なデータをもとに現状を訴えた。海洋と魚類の環境は次第に悪くなる・・・。日本でも、最近、本来は漁獲のないマグロやサンマが北海道で漁獲されたニュースもあったが、有名な大型魚種を捕り尽くして次の段階に移り、最後はクラゲ、というフィッシング・ダウンの図も登場しての未来予測。

 今回の話で記憶に特に残ったのは、気温変化による魚の移動で、魚はそれぞれが最適な温度を目指して季節や環境次第で移動するということ。温暖化が進行すれば、南での漁業活動ができなるだけでなく、米など農産物の食料生産にも支障が出て、沿岸途上国に問題がおきるだろうということ。移動だけでなく、えら呼吸している魚の酸素の吸収量の減少で、魚が小型化する可能性もあるということも紹介された。短期的には北で漁業活動している地域は収入が増えるかもしれないが、長期的には誰も得をしない。

 次の山形氏の話は、気候変動と気候の変化の区別化について丁寧に説明、近年当たり前に起きている異常気象がどうして起きているかという基本的なところから解説された。冒頭のIPCCパネルの報告の引用で、CO2のうちの90%が海に吸収されること、深さ300mのところの海水温が過去50年間で0,05℃上がったが、これは陸上であれば1000倍で45℃上がったことを意味するといわれたことはやはり恐ろしい。
 気候変動に関しては、近年、見かけ上は地球上の平均気温は決して上がっていない、という話におや?と思った。エル・ニーニョ、ラ・ニーニャ、それにインド洋ダイポールモードなど、海水温の変化による気象現象が単純に現れるのではなく、エル・ニーニョもどき、ラ・ニーニャもどきと言った気象のバリエーションで、夏期における高温と冬期の低温が組合わさったりして各地での農業活動などに影響を与えている。今後は大気と海水温両面からのデータを元に、気候の変動を観測し、農水業などにデータを提供していく必要がある、とのこと。
 こうした気候の変動は先のポーリー氏の話とどこでつながるのだろう?と聞き終わって疑問に思ったが、最後のパネルディスカッションの冒頭に、温暖化そのものは進行している。ただし、変化は一直線ではなく、こうした様々な現象と関わっていると聞いて納得した。

 セッション2は、海洋の国際法に関することで、これまで断片的な知識しかなかった国連海洋法条約についての話を興味深く聞くことができた。
 マイケル・ロッジ氏は、国際海底機構に所属する法律顧問で、条約発効から20年経た海洋法条約(UNCLOS)
に新たな課題が出ていること、特に公海の管理に関しての緊急性を訴えられた。しかし、これまで10年かけて発効した条約は、沿岸国の自由と航行自由の原則の微妙なバランスに立っており、保全や環境問題にシフトしにくい現状があるとした上で、現在抱えている3つの課題について話された。
 一つは、普遍性(Universality)で、現在の参加国は166で、アメリカを始めまだ加盟していない国があり、国際法としての慣習で、締約国以外に対する拘束力がないこと。あらたな協定に関して自動的に受け入れるという条項がないため、たとえば深海底の採掘に関する実施については多国間合意に時間がかかりすぎるという問題を抱えてきた。

 二つ目はコンプライアンスの不足。締約国でも条約を遵守していないところがあり、例えば12カイリを越える海域での操業に関して4カ国が違反しており、また接続海域に関しては12カ国が違反をしている。また、脆弱な生態系を保全するという194条に関しても、海山での底引き網の操業で冷水サンゴの破壊など、生態系への影響が大きい。また、94条に関して言えば、旗国船の管轄が不十分なため、IUU(国際法や協定外の違法な操業)漁業の船舶への有効な対策ができない。残念なことにこうした生態系保全への対策の不十分さや乱獲を防げないことが条約に反対する国への口実になってしまっている。

 三つ目は新たな課題への対処。その一つで最も緊急性のあるものは、保全に関わることである。
問題は三つあり、一つは公海の生物資源の保全で、FAOの行動規範が93年に作られているし、国際協定や地域漁業協定などもあるが、それでも公海での漁船団は漁獲可能量を遥かに上回っている。日本は中国に次ぐ魚の消費国として積極的に課題解決に寄与してほしいと言われた。
 もう一つはバイオプロスペクティング、公海における遺伝資源の利用と配分に関してで、今も国連で議論が重ねられているが、国境を越えた海域での生物多様性保全へのルールができていない。技術やノウハウを持つ先進国によるアクセスと商業利用により配分がうまくいかないことが課題となっている。
 最後は違反行為等への執行。航海自由の大原則が障壁となり、麻薬や武器輸送、ヒューマントラフィッキングなどの違法行為やIUU漁業に対する取締や介入に限界がある。
 今後こうした問題解決には法執行能力の強化や法そのものの改定と言った作業が必要だが、簡単ではなく、工夫して時代変化に対応していかなければならない。特に公海については、公共財であり、長期的な保全が重要で、そのためには分野別のアプローチを改め、統合的な管理体制が重要とした。

 次の坂元教授は、海洋法条約における新たな課題としての海洋保護区の設置と遺伝子減の問題をあげた。また、92年の生物多様性条約において提案されている保護地域の海洋保護区は定義が各国の裁量に任せられているが、生物多様性保全の立場から各国が推進する中、日本は海洋基本法において、漁業に資するための保全を定義しており、今後これを日本型の資源保存管理手法として世界に発信するとしているが、資源の再生という考え方を入れ込まなければ国際的には受け入れられないだろうと警告。また、遺伝資源については、国連の国を超えた海域での生物多様性(BBNJ)の作業部会で議論されているが、途上国が遺伝資源の衡平、公正な分配を主張している。公海での探査活動はUNCLOSで認められており、新たな規制が必要ないと主張するものもあり、全市や海洋保護区、環境影響評価やキャパシティビルディング、技術移転などに包括的に対処するための法的な枠組みが必要だとした。日本の海洋政策も原点に立ち戻れ、という指摘はうなづけるものだ。
 
 坂元教授の話で初めて知ったのだが、国際海底機構が鉱物資源の管理に関し、EEZ内のマンガンや海底の熱水鉱床、コバルトリッチクラストなどの規制と持続期な利用に関し、環境影響評価のガイダンスや勧告を行っているのだ。今期改定された海洋基本計画においては。あくまでも開発が先で環境影響評価はその手法などを検討するに留まっているが、これでは不十分ではないか、と思った。

 セッション3は、元NOAA(米国海洋大気局)長官のジェーン・ルブシェンコ氏。2006年に作られたPEWの海洋委員会の提言に関係し、オバマ政権のもとでその提言に沿って科学チームを組織、それまで不十分であった米国EEZ内の管理を、利用に偏することなく、海洋保全におけるよきStewardとして守ることにシフト。「使ってよいが使い尽くすべきではない」というモットーのもと、連邦レベルだけでなく、地域レベルでも生態系アプローチにより新たな漁業管理を行った。年ごとに魚種別の漁業管理計画を策定し、32種にのぼる枯渇していた資源の再構築に成功した。EUにおいても今年米国の手法を導入して共通の漁業政策が策定されるという。
 また、海洋保護区に関しては科学的な根拠に基づき、禁漁区を設けることで生物多様性が拡大し、個体サイズが大きくなり、豊度が増すことにより保護区の外にも恩恵が広がること、また、保護区の設置により、気候変動や酸性化への回復力をつけることができることを強調した。

 寺島綋士氏は、昨年6月に行われたリオ+20での海洋についての取組を中心に話を進められた。1992年に採択されたアジェンダ21の17章に海洋に関する国際的な枠組みの必要性が述べられており、2002年のWSSD(ヨハネスブルグサミット)においての制度的な枠組みの必要性が書かれている。リオ+20の成果文書の「 Future We Want」にも海洋について取り上げられているが、これは、その直前に行われたオーシャンズ・デイ・アット・リオにおける海洋宣言にある生物多様性保全と沿岸・海洋の統合的な管理、生態系アプローチ、海洋保護区のネットワーク、IUU漁業や過剰漁獲の防止、有害な補助金廃止、海洋ゴミやブルーエコノミーへの移行などの提言から取り入れられた。今後は小島嶼国の問題など取り組むべきことはたくさんある。アジアにおいては、「東アジア海域の環境管理パートナーシップ(PEMSEA)」が沿岸域の統合的な管理などに積極的に取り組んでおり、今回の海洋基本計画にも沿岸域の総合的な管理があげられているが、こうした取組を進めることが持続的な海洋管理の上でも重要と話された。

 その次は、特別スピーチとして、内閣特命海洋担当大臣の山本一太氏が「我が国における海洋政策」と題したスピーチを行った。「世界の海は危機的な状況にある・・・」というシンポジウム冒頭の言葉と関係ない人はこの人ただ一人と見受けた。
 冒頭、「中国での会議で公用語はブロークンイングリッシュだということを知った」そうで、なんと、選挙演説口調で、全編「英語」で通した(昔のアメリカのポップソングブックは、英語の下にカタカナでルビがふってあったが、それを思い出させるような、ブロークンというよりカタカナイングリッシュと言った方がふさわしいようなものだった)。主催者のPEWの人たちは英語圏だろうが、聴衆は9割がた以上日本人と思われ、よくできた同時通訳もあるところで、どういう考えなのか理解に苦しんだ。しかも、話の中心は海洋基本計画の中の開発の推進であり、(たぶんやってますという見せ場のつもりだろうと思われる)震災漂流物の実地調査に行った西海岸での出来事を話した挙句、その後始末はNGOがするという。あとは海洋にダダ漏れしている放射能が問題ないことをどうやって世界に納得させるか、ということだけなのだ。
 せっかくの内容の充実したシンポジウムの格が一気に下がったような演説だった。こうした人が日本の海洋政策を推進しているのだと思うと将来は暗い。

 そのあとパネルディスカッションもこうした演説の毒気に当てられたか、講演者の話の足りないところを補う以上のまとまりはなかった。
 それまでの中身が濃かったこともあり、非常に残念な結末だった。

2013年10月11日 (金)

ロス海海洋保護区設立に向けての集まり

 10月4日金曜日、表参道の地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)で、FoEがサポートするAOA(Antarctic Ocean Alliance)の南極海の自然に関する写真展に合わせ、事務局のロバート・ニコル氏の南極海に海洋保護区を、という緊急セミナーが開催された。AOAは地球上に最後に残された手つかずの自然というべき南極の保全を進めようと言う国際NGOの連合組織だ。
http://antarcticocean.org/ja/
南極海における自然資源の開発を最小限に食い止めるため、周辺海域に19カ所の海洋保護区をCCAMLR(カムラー=南極海生物資源の保存に関する委員会)に提言し、現在はアメリカとニュージーランドの共同提案するロス海の海洋保護区設置を支援してきた。前回会合では、これまで難色を示してきた日本や韓国、中国などがその提案を受け入れ、前進が期待されたところを、ロシアとウクライナのあまり合理的ではない反対によって成立しなかった経緯がある。
 そして、今月末、タスマニアのホバートで開催されるCCAMLRに向け、今度こそロス海を海洋保護区(とフランスなどの提案する南極東岸)に設定しようとニコル氏はあちこちの政府などを説得して回っているようだ。
 CCAMLRは、南極海で活動する世界25カ国が参加している国連海洋法条約のもとにある委員会だ。南極におけるオキアミやメロなど魚類について、捕獲枠を海域ごとに策定し、過剰な捕獲を規制している。
 ニコル氏の説明は、ロス海の生態系のすばらしさ、特異性を紹介し、保護区を設立することにより、生物多様性の保全と生態系のプロセスをモニタリングすることの重要性や、深海魚メロの産卵、採餌域の保護、気候変動、酸性化への避難場所としての海域を保護することの重要性だ。
 しかし、今回は、緊急ということもあり、参加者の中には国内では知名度の低いCCAMLRの役割についての基礎的な知識いためか、余り積極的な意見もでず、ニコル氏のプレゼントは噛み合ない議論が続いたのは残念だった。
 日本では、それほど過剰ではないにしろオキアミやメロなど、南極海での操業が行われ漁獲物が消費されている。
 また、日本の調査捕鯨は、南極を6つの海区に区切ってクジラ捕獲調査を行っている。その二期調査の目的の一つに南極の複数種調査による生態系の解明があげられているが、総会ではたびたびCCAMLRがやっているんじゃないの?とか、CCAMLLRと協力しているの?という質問が出ている。南極海の保全は日本と無関係ではない。幸いなことに、今回も日本政府としては、見直し時期などを入れ込むことを条件に賛成しているようなので、世界最大級と言えるロス海の海洋保護区の設置が実現するかもしれない。
 

2013年10月 9日 (水)

海に関連するシンポジウム(2)

10月1日には、東大海洋アライアンスによる「新海洋像:海の機能に関する国際的な評価の現状」が
東大の小柴ホールで開催された。

趣旨は:
 東大などを中心とした研究チームが平成24年から5年間の研究として
「新海洋像:その機能と持続的利用」をテーマに、海洋の物質循環と生態系
の機能を解明し、 漁業操業の制限強化といった即物的な内容に終始してきた
国際的な議論を越え、さまざまな恵みをもたらす海洋の機能と価値を
複数のまとまりとして見る海洋区系ごとに評価することで新しい海洋管理
を提唱する。」
というもの。

ちなみに、海洋アライアンスは
「東京大学がこれまで培ってきた海洋に関わる知識と人材を融合し、海洋と人類の新しい親和的・協調的な関係を築くために、専門分野を超え、組織横断的な教育・研究活動を実施・支援していく(東大海洋アライアンスホームページhttp://www.oa.u-tokyo.ac.jp/digest/index.html)」である。

 今回のシンポジムでは、アライアンスの理事であり東大農学生命研究科の古谷研教授が冒頭挨拶を行い、海洋の生態系と物質循環による海洋の持つ様々な機能=恵みについて紹介。これまでの生物地理学の区分を越えて、これまで知られてこなかった外洋域、特に公海における生態系の構造や物質循環機能についての研究とガバナンスの追求を、法的経済的な枠組みを含めて文理融合的なアプローチにより進めることが重要であるとした。

 次の講演者のピータ・ブリッジウォーター氏は、UNESCO生態・科学分野部長やラムサール条約事務局長など国際機関で活躍してきた。彼は、1972年のストックホルム人間環境会議で海洋汚染への警告が発せられて以来、ヨハネスブルグサミットなどをへて海洋生物多様性の解明が進んできたこと、を紹介。地球上に生息する33の動物部門のうちで、15部門は海洋にだけ生息すること、また最近の知見では海水中にこれまで知られてきたものとは異なる真菌類が発見されたことなどから、海洋には「不明であることが明らかであるだけでなく「不明であることが明らかになってさえいない」ことがまだ存在することを指摘したことは興味深かった。また、「生態系サービス」に関する研究では、人間へのサービス提供が中心で、人間中心的な見方に陥りがちであることを警告、CBDにおける生態系アプローチの導入と単一種と分野ごとの管理から、海洋空間計画をツールとして用いるべきだと言う主張は納得しやすかった。

 次のベンジャミン・ハルバーン氏は、海洋健全プロジェクトのリーダーとして海洋の現状と改善に向けての海洋保護区設置を進言している。この海洋健全度指数は、海の健康診断としてコンサーベーションインターナショナルの知人から昨年紹介されたプロジェクトで、海の健康を、沿岸の自然度や生物多様性、沿岸における漁業のあり方や食料提供、水の安全性、インフラなど社会的な要素を含めた10の項目を円グラフで表示、17の地域での海の健康度を100点満点評価をしている。ちなみに平均点は60点で日本の評価は65点。http://www.oceanhealthindex.org/
 海の現状を可視化し、モニタリングを継続して更新していく所は使いようによってはすごく分かりやすいものだと思う。国によって海域の問題点を洗い出し、積極的にこの採点をあげていく政策をとるところが増えれば、全体としての海洋環境と海からの恵みは改善されるということなのだろう。ただ、評価として入れ込む項目の選定、評価対象となっているデータなどに問題はないのかという疑問はある。
 会場から、核による汚染も盛り込むべきという意見が出た。今のところ、数値に入れ込めるほど世界的には大きくないので今後考慮するという話だった。

 午後からは、CBD事務局の海洋担当ジヒュン・リー氏の講演。2010年のCOP10以降の海洋、特に公海におけるEBSAs(ecologicaly biologicaly significant area)の地域ワークショップの開催など、非常に盛りだくさんの現状を急ぎ足で説明。私にとっては、名古屋会議以降にどんなことが起きているかが分かって一番興味深い講演ではあった。
 CBDでは法的な縛りがないところに加えて、国際機関における綱引きや各国政府の思惑で、このEBSAsの重みがどんどん軽くなっていく様子を名古屋ではかいま見た。現在はいくつかの地域ワークショップが開催され(日本からの資金提供に感謝)、そのうちの75%がすでにカバーされているとのことで、関係者のみなさんのご努力に感謝だ。
 海洋に関しては、乱獲、酸性化や海中の騒音、海洋がれきなど懸念される問題が多く、今後は公海や深海における生物多様性の確保が急務であり、彼女がよく言及する、海はひとつながりであり、全体で考えなければならない(ocean as a whole)というコンセプトは重要だと思う。
 また、話の中にCBDの環境影響評価基準がIMOで採用されたということが出てきて、そのことを詳しく聞きたかったのだが、次の森下さんがEBSAsについていろいろ質問をしたため(どうも元々は余り関心がなく、CBDについてはよく知らないように見受けられた)適わなかったのが残念だった。実は今年4月に策定された海洋基本計画では、海洋開発の奨励が盛んに出てくるが、肝心の環境影響評価については、「その手法を検討する」程度の書き込みでしかなく、開発の後づけの環境影響評価では意味がないのではないか、と思っていたところなのだ。
(参考:CBD-COP11における環境影響評価のガイドライン)
http://www.cbd.int/decision/cop/default.shtml?id=11042#_Toc124570465

 次は森下丈二氏。IWC会議でおなじみの水産庁のプリンスだ(おっと、今は水研センターですが)。
昨年リオ開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)の成果文書「The future we want」の中の
海洋部分についての解説で、きちんと読んでいなかった分、分かりやすく面白く聞いた。
 海洋に関する諸問題の重要性については「常識」になっているが、議論においてはなかなか一致点を見ることができない。特に公海における生物多様性の「保存」と持続的利用に関して、国連海洋法条約のもとに新たな条約を作ろうという提案があり、生物多様性「保護」と海洋保護区のための法的枠組みを求めるEUと、新条約を遺伝し資源の経済的利益分配の貯め、新条約を求める途上国、そして、新たな法的な枠組みは煩雑さを増すだけだ反対するアメリカ、日本、カナダの対立で、2014年の国連総会で検討するという妥協案が合意されたということだ。
 また、愛知目標の3にある補助金に関しても、WTOで合意形成が計られてきたものの、漁業に悪影響をもたらす補助金の撤廃を訴えるEUなどと、補助金による支援が必要な途上国などの意見の相違が埋まらない。一方で、日本はアメリカ、韓国、ロシアと早々に北太平洋漁業条約を結んだそうである。

 IISDのレポーティングサービスなどを見ていると、このところ様々な国際会議で途上国の存在感が増し、先進国による利益の独占への反発と、新たな利益の分配、資金援助やキャパビルなどの要望に、国際経済そのもののかげりも影響してなかなか合意形成ができない状態が続いていることがわかる。
 途上国を始め、どちらかと言えば短期的な利益追求に対して、長期的な展望を求める声がなかなか現実化していかないもどかしさを感じる。

 次は世銀のジェームズ・アンダーソン氏の世銀による持続可能な漁業への支援活動の報告。環境、経済、社会の持続可能性という「トリプル・ボトム・ライン」の達成に向けた漁業管理制度構築への指標開発についてある。アウトプットとして様々な漁業活動における資源管理の健全性や環境影響、漁獲高、資産やリスクから漁業者(所有者、船長、乗組員)の抱える問題、市場での健全性や加工、関連事業の実効性など多方面からその漁業と制度の評価を行う、一方インプットとしては総合的な環境や国のガバナンス、国家経済や漁業権など諸条件、漁業コミュニティの特徴、インフラなどで支援対象となる漁業活動を評価するものだ。世銀はこのところ海洋の健全さに関して積極的な保全を訴えており、こうした試みにおいても、持続可能な漁業の支援が円滑に行われることが望ましい。

 最後は、かつて水産庁で捕鯨担当として面識があり、東大で教鞭をとっている今も水産関連に強い八木信行氏である。彼の主張は、国連海洋法条約における問題点の洗い出しと方向性である。
 同条約に書き込まれている、単一種管理に基づく最大持続可能生産量(MSY)の概念を、今後は複数魚種の一括管理の方が望ましいのではないかとする。これまで、MSYの考え方では生態系への理解の上での海洋環境の変化やレジームシフトなどを考慮する中、新たな概念の構築が必要だとする。また、200海里の設定も資源管理の上では問題がある、という。こうした視点を、新たな法律の枠組み(BBNJ=国を超えた生物多様性)にも入れ込んでいくべきではないか。
 一方で、海洋の生物多様性を計るのに陸の尺度を当てはめがちだが、海洋に関しては別の尺度が必要。陸における(商業的)狩猟の継続不可能性に比べて、漁業が存続してきた理由は、その物質生産スピードの速さによる。
 確かに海洋に関しては、陸と同様に保全を考える必要はないのかもしれないが、一方で海洋環境の大きな変化を見ていくと、そこだけで判断していいものなのか、と疑問がわく。

最後に紹介された北海道野付におけるアマモとの共存を目指して、底引きではなく帆船を用いたエビ漁業の映像は面白かった。

 国際的には、海洋環境悪化についての懸念が膨らんで、大きな問題として語られている。しかし、これまでの日本の様々な分野での意見を見ていると、そうした変化についてかなり楽観しているのではないか、と思ってしまう。素人の考えかもしれないですが。