2022年1月14日 (金)

日本の海生生物・保全と利用のギャップについて

 一昨日、久しぶりに鯨研通信が届いた。第491号、発行日を見ると2021年9月とある。ははあ、さてはIKAがもう消滅したと思って発送しなかったな。ところが、年末にIKAニュースが届いて(あれ?まだあったわ)と、律儀に送ってきたんだな、ととりあえず感謝。

鯨研通信は、こちらのニュースと「交換こしよう」と言ってきたのはあちらであり、それから多分20年近くだと思うが、ニュースの交換は続いてきた。普通は入手できないような情報に触れることができて、たとえば、希少個体群、J-stockの混獲が日本沿岸で広域で認められたことなど、使わせていただくような資料もある。

今回は、資源調査にドローンを使っているという報告で、スナメリに関する調査も昨年行われたことを知った。ただし三河湾だけ。

また、「水産白書」に見る捕鯨論という小野征一郎という方の寄稿文もあったが、それを見ると、政府の白書であるにかかわらず、なんだ、捕鯨推進プロパガンダをそのまま使っているじゃないか、という今更ながらの残念感があった。まあ、書いた方自身そのスタンスに一分の迷いもないから書いたのだろうけど、参考文献として(水産白書のではない)、都合よく真田さんや佐久間さんの書いたものを利用しているのもどうかと思った。

まあ、日本のご立派な水産学者先生の(多分)多くが、確信的であるかないかは別として、捕鯨推進の立場の擁護をしているのだから驚くこともないが。

そういえば先だって、生物多様性国家戦略の新たな策定に向けて、ちょっとした意見を環境省に申し上げたので、その要約を書いてみようと思った。

ちなみに私が国家戦略の策定プロセスに何らかの意見を言ってきたのは2002年の新戦略以来なので、驚くことに、20年間もいちゃもんを言い続けたことになる。初めて国家戦略が策定された時は、各省庁が勝手に書いたホッチキス留めであったので、新戦略の担当課長は大張り切りで、きちんとした戦略を作り上げようと部下に発破をかけた。また、一部ではあるがNGOからの意見も聞く場を設けた。しかし、海洋に関しては、環境省と水産庁がきっちりと縦割りを維持しており、捕鯨については、水産庁が推進の立場を意気揚々と述べるという感じで、鯨が魚を食べすぎて漁業者が困っているみたいなことも平気で書いていた。環境省の担当者に、あんな科学的でないこと書いたら恥ずかしいでしょ、と削除してもらおうとしたが、水産庁は聞き入れない。しかし、局長の懇談会で図らずも、海生生物の保全と管理についてフロアから発言して受け止めてもらうという第一歩があった。

と、ちょっと脇道に逸れたが、昨年末のIKANの意見を少し書いてみる。

・国家戦略における海洋の部分は20年経ち、当初から見れば前進していると考えられる。COP10前後には、海洋生物多様性戦略がつくられ、また、条約で求められているEBSAs(重要海域)選定も行われた。海洋生物レッドリスト作りもあった。

・しかし、一方で、環境省は相変わらず、陸を主眼とし、広域であるにかかわらず、海の保全には及び腰である。今回の国家戦略研究会を見ればわかるように、海洋の専門家は12人中たった一人でこの状況は数年来変わっていない。課題においても海洋に関しては乏しい。

・2017年の種の保存法の国会議論での問題指摘に対し、当時の山本環境大臣は、環境省は船舶を持っていない、と答弁した。船に言及したのは初めてではあるが、これまでも悉く海洋に及び腰の理由として「データがない、予算がない、人もいない」ということを挙げてきた。しかし、水産庁と同じ規模で実施する必要がどこにあるのか?水産庁が持つデータなり予算なり人なり、船で得られるものを水産庁を手足として利用すればいい話で、これは「生物多様性基本法」によって国家戦略が国の法律になっているので『筋」である。

・なかなか、力関係で弱いというのだろうが、現在、増加を求められている海洋保護区に関して、重要海域の科学的根拠によってより頑健な保護区設定に向けて前進してほしい。

・また、部局内での強固なスクラムも実現のためには必要だ。

・たとえば、海洋のレッドリストの問題がある。ほとんどの市民も知らない魚1種を情報不足種としてリストしたほか全てを普通種にしたり、国際的に管理される種については評価しないことも鳥の場合とは異なる。国会でも問題となったレッドリスト見直し検討を早急にすべきだ。

・また、鳥獣保護管理法における80条の削除も必要だ。2002年に全ての野生鳥類、哺乳類を同法対象としながら、「他の法律で適切に管理されている種」として多くの海生哺乳類が対象外とされている。目的の異なる水産庁が「適切」に管理しているかどうかの検証も行われないまま、対象外にし続けるのは科学的ではないのではないか。

・重要海域選定の根拠となる科学的データが不備であることは、海洋保護区設置にも支障をきたす。

・最後にボン条約の批准を早急にすべきである。2019年から商業捕鯨が開始され、国を超えて移動している可能性のあるクジラが捕獲され、市場流通している。保全と利用を旨とするならば、バランスを欠いた状態である。

 

 

2018年10月 1日 (月)

海洋資源の持続可能な利用とワシントン条約:グローバルな規範形成と日本の対応

9月26日、早稲田大学グローバル研究所主催の掲題のシンポジムが開かれた。事務局の一人として関わったことから、書くつもりであったフロリアノポリスでのIWC67総会の詳細報告の前に、少しその感想を書いてみようと考えた。

ご存知のように、日本は現在水産資源のみ21種をワシントン条約の留保対象として来た。それに関しての国内全般への十分な説明はなく、省庁間のうちわの議論のみで行われて来たことで、その検証作業は知った限りでは実施されていない。
そのような状況の中、アカデミックな場で多様な主体による検証が行われることは快挙と言えるものだが、今後に向けて、いくつかの問題を感じた。
まず、趣旨説明が行われなかった。代わりにワシントン条約の簡単な紹介があった。残念ながら、これがこの後の議論の深化に多少とも影響を与えたような気がしている。

最初の演目は「ニホンウナギの保全と持続的利用:現状と課題」で、中央大学の海部健三氏の話だ。
いつも思うのだが、彼の言葉はその実績に支えられており、非常に明快で訴える力が大きい。彼の人気の所以だと思われるが、今回も、ニホンウナギの現状とともに、持続的な利用を可能にするためのポイントが「消費速度の低減及び再生産速度の増大」として語られた。シラスウナギを含めて、漁獲の制限と生息環境の回復が必須だが、いずれも実現されていない。対策の実現の中で、ワシントン条約という国際取引をどのように使っていくか、その役割の明確化を訴えた。
「ワシントン条約は敵か味方か:サメの管理を例に」は東北大学の石井敦氏によって話された。サメの生態とその科学的地検の不確実性を出し、サメを条約の規制対象とする動きを紹介。しかし、日本はこれに一貫して反対してきた。理由としては、(他の水産種でもそうなのだが)ワシントン条約には管理するノウハウがないので、むしろ地域漁業管理機関の管理が適切だというものである。彼の主張は、ワシントン条約を漁業の敵とみなすのではなく、資源管理にとって相補的に利用したほうがいいという提言であった。
しかしここで、水産庁の太田審議官が噛みついた。彼の話の流れにある幾つかの事実について可否をただし、日本政府の立場を正当化したのだ。しかしこれは、彼の提言を損なうものではないし、むしろ、どのような相補的な利用が可能なのかというより深い議論に持っていくことで、今後の資源管理の問題を明らかにできたと思う。しかし、審議官に唱和する会場からの石井氏の主張が「主観的だ」などというあまり生産的ではない意見もあって、せっかくの提言が生きなかったのは残念。

次は、水産研究・教育機構の中野秀樹氏による「大西洋クロマグロCITES掲載の顛末」という1992年から何回か、ワシントン条約で提案されてきたクロマグロの附属書掲載提案が、もしかしたら地域漁業管理機関における資源管理強化の推進に役立ったかもしれないというような話で、やはりワシントン条約と地域漁業管理機関との関係を俎上にあげながら、資源の管理に重点を置いた話題提供だった。
本来はこの3つのテーマの話を検討して次に繋げる作業が必要だったのだろうが、ワシントン条約による規制が正しい在り方かどうか、のような矮小化された議論に終わった。
ちなみに、日本の漁業管理には、予防原則があまり重要視されていないようだ。

もともと、このシンポジウムは10月1日からロシアのソチで開催されるワシントン条約常設委員会を意識して行われたものだ。その中でも、日本のいわゆる‘イワシクジラの海からの持ち込み’が条約違反に当たるかどうか、という判断が行われるということに関して、メディア等を通じて広く一般に知らしめることが大きな目的としてあった。この点について、午後のセッションでゲストスピーカーとして来日したアメリカ、ルイス&クラークロースクールのエリカ・ライマン教授のプレゼンテーションがあった。
ワシントン条約では、絶滅の恐れの高さによって国際取引を規制している。その中で最も規制の強いのは、附属書Iに掲載される野生生物で、一切の商取引が認められていない。今回の北太平洋のイワシクジラはこれに該当し、また日本が数多く行っている留保品目には入っていない。
ワシントン条約では多国間における取引の規制が行われているが、海洋に関しては、公海で捕獲され、自国に持ち込まれるものについて「海からの持ち込み」という規定がある。付嘱書Iに掲載され公海で捕獲され、持ち込まれるものに関しては、調査目的であることが前提となり、商業的な流通は原則認められていない。日本の場合、イワシクジラの調査捕鯨による捕獲された肉の国内への持ち込みが、この規定に反するという議論が昨年のワシントン条約常設委員かいで大きな議論となり、その結果、日本は追加質問に答えること。そして事務局による調査団の派遣を受け入れることを条件に、今回の常設委員会に結論を先延ばしにした。
ライマン教授は、この結果が事務局によって商業的な利用が主目的である可能性が強いとして、常設委員会に対して「違反認定しない場合は条約規則や諸決議との間に不整合が生じる」と訴えている。
日本は、北西太平洋でのイワシクジラの捕獲は、国際捕鯨委員会で認められた8条の規定によるものとしているが、捕獲の科学性や妥当性の是非を問題にしているのではなく、その製品が陸揚げされてからを問題にするのだという。
彼女は、決定は常設委員会の仕事としながら、公海で解体され、一部の調査用のサンプル以外の大部分が可食部分として処理され、陸揚げされて調査機関に所蔵されるのではなく、共同販売という鯨肉の販売会社に保管され、学校給食やレストラン、通販などで広く流通されている事実を指摘。商業的な流通というのはもしそれがすべて次回の調査捕鯨の費用に充てられるとしても、また事実上の利益を生んでいなくても、利益を得るための行為であることを明らかにした。
また、このケースそのものが、ワシントン条約における遵守規定の大きな試金石になると指摘し、常設委員会の決定に期待した。
(2に続く)

2018年5月23日 (水)

海洋基本計画

 日本の海洋に関する法の集約は、内閣府の属する「海洋基本法」で、その実施にあたっては、海洋政策本部が海洋基本計画に基づき当たることになっている。
海洋基本法は2007年に制定され、基本計画は5年ごとに見直しされ、今回が第3次の計画策定になっている。

最初の2回までは、中核たる産業推進の学者や関連企業に加わり、私たちNGOもヒアリングを受けた。しかし、今回は、20日程度のパブコメのみである。

昨日は、笹川平和財団に所属する海洋政策研究所が主催する海洋フォーラム151回として、海洋政策本部の内閣府総合海洋政策推進事務局長の羽尾一郎氏が先週(15日)に閣議決定された第3期計画について説明された。

会場は、それらしい関係者で満員の盛況である。せっかくの海洋全般にかかる政策であるのに、関心を持つのは法に直接、間接的に利害関係のある産業界(と関連の研究者かな?)が主なのが少し残念。

しかし、なにせ内閣総理大臣が長である法律である。今回の主軸は「政府一丸となって領海や海洋権益を守り抜く」と、「海洋の安全保障」が’いの一番’に挙げられている。昨今の近隣諸国との対話の欠如からすれば、こ右下やや被害妄想的な立ち位置は当然のことかもしれないが、国際的な海洋保全の大きなうねりの中では随分と古い話に見えてしまう。

もう一つは、もちろん当初から海洋権益と両輪であった海洋開発である。メタンハイドレードをはじめ、資源として活用’できそう’なものへの試験的な取り組みがさらに加速すると思われる。これについて、羽尾氏自身「ビジネスではなく」とわざわざ注釈をつけていたが、国が資金を出し、日本周辺海域の海洋資源を探査し、利用できそうなものから(実用化できるかどうかとは別に)手をつけるわけである。もちろん、これらに関する研究も盛んに行われる。

今回はこれに北極における日本の関わり方も特だしされることになった。温暖化によって、北極周りの航路ができることや資源開発など、(北極海域における保全の重要性を強調して欲しかったところだが)日本も乗り遅れたくはないということだろう。

もちろん、「開発と環境との調和」という文言も出てくる。2014年、持続可能な開発に関する国連会議で初めて海洋が(14)目標に入ったが、その内容紹介などもちろんなく「エスディージーズに基づいて」と知る人にしかわからない言い方で済ますのは問題だと思った。
一応、海洋保護区への言及があり、愛知目標の2020年までに海域の10%を保護区に、という説明があるが、漁業者による管理区域を含めて現在8.3%だという話となり、PPTでは本文にあった「抽出された重要海域」への言及はない。
まあ、「海洋の保全は健全な産業による」というのが環境保全への説明であるから。
まあ、計画の骨格を作る参与会議の座長経団連の前会長、座長代理はなんとかコンサルティング会社の代表、海洋環境を水産系のお方という顔ぶれなのだから。
それでも、深刻な海洋のプラゴミについては、少し時間をかけて説明していたのは少し嬉しい。使い捨てプラスティックやめようよ、というパブコメ意見を出したのだが。

海洋に関しては、気候変動や酸性化、海洋ゴミなど国際的に活発な議論と保全への動きがある。世界の海洋政策をリードするつもりである心意気はいいが、国際協調の言葉通りに、もっとしっかり国際的な流れの沿った海洋政策を目指して欲しいと思う。

2018年1月31日 (水)

国家管轄権外区域の海洋生物多様性保全と持続可能な利用に関する協定

『国連が海洋の保護条約協議へ「海洋版パリ協定」』
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/122600139/?P=1
という記事がナショナルジオグラフィックに掲載されたのはまだ記憶に新しいところだ。
国連における海洋に関連した議論や国際的な海洋会議の開催、また、1994年に成立した国連海洋法条約に現状では対応できないところところがあり、時代に合わせた改訂が必要だという議論を目にしてきたことから、この記事はちょっとしたクリスマスプレゼントのように思われた。

      2017年12月24日、10年以上におよぶ議論の末に、ついに本格的な条約交渉を行うための政府間
      会議を招集する採決が国連でとられた。その結果、これから2年間にわたり、「海の憲法」とも呼ばれ
      る「海洋法に関する国際連合条約」に基づいて、法的拘束力を持つ条約の詳細が協議される予定だ。

 日本も関与するというような記事を見ていたし、準備委員会が発足した過程も知りたかったところ、1月29日、笹川財団と日本海洋法研究会の共催によるシンポジウムが開催されるという告知があったので早速参加することにした。
 シンポジウムは、同志社大の坂元茂樹教授の挨拶の後、以下の7名のプレゼンテーションとパネルディスカッションで構成されていた。
「BBNJ新協定:準備委員会における議論と今後の展望」長沼善太郎(外務省海洋法室条約交渉官)
「BBNJ準備委員会:NGOからの報告」前川美湖(笹川平和財団海洋政策研究所チーム長)
「環境法に湿潤される海洋法ーBBNJに見られるCBDの影響」都留康子(上智大学総合グローバル学部教授)
「BBNJ準備委員会におけるMPAをめぐる議論」西本健太郎(東北大学大学院法学研究科准教授)
「名古屋議定書から見たBBNJ」西村智朗(立命館大学国際関係学部教授)
「サンゴ礁研究ー沖縄をフィールドとした現場からの報告と提言」竹山春子(早稲田大学理工学院教授)
「MPAを含む区域管理型ツールに関する議論:BBNJと漁業」森下丈二(東京海洋大学海洋制作部科学部教授)「国家管轄権外海域の生態系はいかにして保全すべきか?」白山義久(海洋研究開発機構理事)
資料配布はなし。

 この顔ぶれをみると、ほとんどが法学関係者で、海洋の専門家、生物関係の専門家がほとんどいない。確かに、協定の準備委員会に至るまでの過程についての長沼交渉官の話はよどみがなく、プロセスはよくわかったのだが、続くプレゼンターの人たちの話も、これまでの準備会合で議論された成立までの問題点とコンセンサスに至るのが難しい障壁の指摘がほとんどで、そもそものところ、なんでこうした取り決めが(しかも拘束力のある取り組みが)必要なのか、という背景については、ここの話では把握できなかった。
他方、他の条約や地域的な協定との整合性を始め、この協定の法的、あるいは実効的な問題性と今後の展望(わからない!)というところについては、官僚もそして国連公認のNGOもほぼ同じ報告というのも奇異であった(例えば、環境への関心が高まったことと、途上国の遺伝子資源の利益配分への強い執着についての言及は今後の展望に関する問題として出されたものの、全体として実に’クール’で、ほとんどが部外者のような発言だった。特にNGOとして、この新協定準備委員会をどのように促し、今後どのような獲得を目指しているのか、政府や関係者に何を求めているのかというところー特に現在の日本における関わりと今後の提案ーが不明だったのはとても残念)。

 もしかしたら、海洋の危機というのは十分に共有されている言わずもがなのことで、専門家として発言するのはみっともないと思ったのかもしれない。しかし、一方で、最後に登壇されて公海、特に深海底における生態系と生物多様性の保全の意義を力説された白山義久氏が、いわば基調講演のような形で最初に話されていたら、問題を山積させても、なおかつ見切り発車させなければならなかった海の現状把握と、新協定で可能なこと、不可能なことがはっきりしただろうし、今後海洋保全に向けてどのような展望を切り開くべきかという’海洋大国(?)’日本の役割がもっと見えるようになったのではないか、と思う。

もっとも、産業利益と関係のない、将来世代も含めてすべてが共有できるような国際的な決まりには常に及び腰の日本のことだから、公海の国際的な管理とか、ましてや遺伝資源を巡っての先進国と途上国のせめぎ合いには、さりげなく仲介者のふりをして凌いでいくのが楽なのかもしれないが。
 
(新協定に至る流れの概要は以下のリンクを参考に)
  外務省長沼善太郎交渉官  https://www.spf.org/opri-j/projects/docs/135_BBNJ_1.pdf
 

2017年11月 6日 (月)

ボン条約会議

 「移動性野生動物種の保全に関する条約(通称ボン条約/CMS)」がこの10月24日から28日にかけて、フィリピンのマニラで開催された。

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https://www.jiji.com/jc/article?k=20171030036362a&g=afp
   移動性野生動物34種が新たに保護強化対象に、ボン条約会議
  【マニラAFP=時事】フィリピンの首都マニラで28日に閉幕した「移動性野生動物種の保護に関する
条約(CMS)」(ボン条約)の締約国会議で、ライオンやチンパンジーなど野生動物34種が新たに保護
強化の対象リストに加えられた。
 移動性動物種は国境をまたいで移動することなどからその保護は特に難しいとCMS事務局長の
ブランディー・チェンバーズ氏は言う。動物たちが移動した先が野生動物保護体制が徹底されて
いない国である可能性もあるからだ。
 会議では、今以上の保護対策が必要だとしてライオン、ヒョウ、チンパンジーなどの対象リスト入り
が決まった。なかでもチンパンジーは近年、生息地の減少などで個体数が急激に減っているという。
アフリカ全土での個体数が9万頭を下回ったキリンもリスト入りした。
 このほか、ハゲワシやコンドル10種や世界最大の魚類ジンベイザメ、カスザメ、ドダブカ、
ヨシキリザメ、モンゴルと中国の国境が接する地域が生息域とされるゴビグマなどもリストに
加えられた。ゴビグマの生息数は世界で45頭とされている。(後略)
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 残念ながら、日本はこの条約に未加盟である。
なぜなのか、と繰り返し行政に聞いてきたが、クジラが入っているから、とか、我が国の考え方と異なるところがある、日本ではウミガメを食べる習慣がある、他の協定で間に合っていて入るメリットがないとかの答えが返ってくる。2014年に、国会である議員さんが質問してくれたところ、検討中だという回答を受け、「20年間も検討し続けているのか?」と苦笑い。

 「わが国(=霞ヶ関+永田町)と考え方が異なる」という返事には、日本政府の野生生物や環境への後ろ向きの考え方が如実に出ている。ワシントン条約に関しては、国際的に色々と批判されて、成立後5年経ってやっと一杯の留保品目を抱えて加盟したが、CMSに関しては、そうした具体的な規制はないし、いろいろと’脛に傷を持つ身’だからなまじ加盟して難癖をつけられたくないのだろう。
 今回も、海洋生物に関連して重要な決議が採択されたが、そのうちの鰭脚類、ジュゴン目、クジラ類等の海棲哺乳類の重要海域(IMMAs=Important Marine Mamale Areas)は、当然のことながらここまでしっかりと進んできたか、と素直に嬉しいのだけど、一方で日本の加盟のハードルを上げたのだろうな、とも思う。

http://www.cms.int/sites/default/files/document/cms_cop12_crp8_immas_e.pdf

 日本政府の考えている海洋保護区は、どこからも反対されないような緩い規制と管理区域だと私は思っている。日本政府が日本独自の海洋保護区の設置で最終的には何を設計していくのか(つまり愛知目標の数合わせ以外ということだが)、よくわからない。既存の漁業管理区域などで、生物多様性が増したり、漁業生産が増したところがどれくらいあるのか、海洋保護区の指定とともに数値も示すべきだと思う。
(でも・・・・もしかしたら、海洋保護区で海が豊かになるなんて、ハナから信じていないのかもしれない。
   一種の他国からの嫌がらせとしか思っていないのかもしれない。この辺り、中国政府の考え方はどんどん国際化してきている)
 昨年せっかく公表した日本の重要海域は、海洋保護区の基礎的なデータを提供していると思っていたのだけど、聞くところによると、水産庁の一部の人が「事前に相談されなかった」、とかでむくれてしまって、座礁しているらしい。重要海域を抽出する努力は、私たちの税金と関わった担当官のみならず専門家の方たちの努力の結晶であり、異論を唱えたければご自分でもっと上等なものを作って海洋の生物多様性と、漁業に貢献すれば良いものを
面倒なことをしないですむ口実にしているのかもしれない 。

 ボン条約会議に戻ると、ようやく海中騒音問題にスポットライトが当てられた。2000年、アデレードのIWC会議のサイドイベントで、今は亡きベン・ホワイトさんが米海軍の低周波ソナーが鯨類に与える音響被害について一生懸命述べていたことを今更のように思い出す。今回会議では海中騒音に関しての環境影響評価のガイドラインが採択されたようだ。海洋開発がひどく活発化していること、また、船の航路が世界の海を縦横無尽に走っていることなど、海洋環境における騒音は、特に音を頼りに生きている生物たちにとっては危機的な状況のはずだ。

http://www.cms.int/sites/default/files/document/cms_cop12_doc.24.2.2_marine-noise_e_n.pdf

ブッシュミートとしての海棲哺乳類問題。
野生動物肉の利用=ブッシュミート問題は、ワシントン条約などでも取り上げられており、科学的な根拠を持って持続的に利用でき程るかどうか、とかなり曖昧な点もある。
海棲哺乳類について言えば、特定の海域に生息するものだけでなく、幾つもの国にまたがって移動している種も少なくないので、勧告では、参加国も参加していない周辺国も協力して情報を共有し、科学的なデータを集めて、適切な技術や資金提供、人材育成などを通じて、リストされている海棲生物が持続的に収穫されているかどうか確認すること、とされている。

それと商業的な生け捕り問題も問題になっている。
捕獲に関するガンドラインは任意であり、歯切れが悪いが、野生個体の商業的な利用に関しては捕獲、移動や輸出入についての規制を求めている。また、事務局に生け捕りに関してワシントン条約やIWCとの協力を推進することや参加国に対して生け捕りに関する情報の共有を求めている。

移動する生き物について、周辺国が協力して保全を考えるときに、1国で勝手な使い方をしては困るというのは当たり前の話だ。特に生け捕り問題では、特に日本に大きな責任があると感じる。
散々利用してきたが、この上、さらに利用し続けたいのであれば、ちゃんと条約に参加して堂々とそれを訴えるべきではないだろうか?

今回のテーマ「彼らの未来は私たちの未来」という言葉をよ〜〜く噛み締めてみたい。

2016年8月29日 (月)

水産庁の概算要求額は・・・

みなと新聞(8月29日)によると
「水産庁17年度概算要求 16%増2061億円 輸出拡大へ基盤整備2割増」

そのうち、捕鯨以外の資源調査全体の予算概算要求が46億円である一方、調査捕鯨は51億円!

「水産資源」としては’書き割り’程度でしかないクジラ捕獲調査の方が、他の資源調査を合わせたよりも多い不思議。

同じ鯨類でも、50種以上いると言われる沿岸鯨類のうち資源として利用していないイルカ類はレッドリスト作成時にも調査せず。
北の海、オホーツク海のツチクジラ個体群は、水産庁推定でさえ610頭なのに、産業が継続。しかも、漁業者が「カラス」と呼んでいたツチクジラは、NOAA調査で別種だったことが判明。


2016年6月10日 (金)

TED油濁事故の毒の代償:スーザン・ショー

 ずっと気になって来た事象についての悲しい現実を見る。
海の生き物たちはどうなるのか?そして私たちの将来世代は?

http://headlines.yahoo.co.jp/ted?a=20160603-00000925-ted

翻訳
私は海洋毒性学者です メキシコ湾の現状を大いに心配しています 特に 大量に使用されている 有毒な分散剤 コレキシットについてです 私は海洋汚染について 長きにわたり 研究を行い 海洋生物 特に海洋哺乳類に 及ぼす影響について 調べてきました 研究の結果 海洋哺乳類は 私たちが莫大な量の有害物質を 年々注いでいる 食物連鎖の一番上に 存在していることが分かりました そしてその哺乳類たちは こんな状態です こんな悲しいスライドで 胸が痛いですが 世の中全てが幸せなわけではありません 私の分野ではなおさらのことです 海洋哺乳類の体には 数百種類ものあらゆる有害な化合物が 蓄積されていて 深くショックを受けます そして 世界各地の 何万もの海洋哺乳類が 着実に絶滅に向かっています 彼らの約3分の1程度が 30年以内に絶滅すると 予測されています〔・・・〕

2016年4月20日 (水)

核のゴミを海に!?

 今朝の毎日新聞によると、経産省は高レベルの核のゴミを海に捨てるつもりでいるらしい。

http://mainichi.jp/articles/20160420/ddm/008/010/066000c

 原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分を巡り、経済産業省の作業部会は19日、沿岸部の海底地下(海岸線から約15キロ以内)に埋め立てる方法について、「技術的に実現可能性がある」とする報告書案をまとめた。
海底の地下は人への影響が少なく、土地利用の制限も小さいために処分場建設の選択肢の一つと位置づけた。[・・・]

エネルギー開発に、カーボンストレージ、そしてこれ。
海の受難は続く。

2016年2月22日 (月)

国際シンポジウム「海洋における温暖化と酸性化」

17日は、久しぶりに海洋政策研究所主催のシンポジウムに参加した。
https://www.spf.org/opri-j/news/article_20895.html

 2014年、同研究所が海洋政策財団であったときに、海洋の酸性化についての海洋研究開発機構の白山義久氏の講演を聴き、予想以上に大きな問題であることを知った。
開会挨拶の中で、寺島綋士さんが2014年のセミナーのことにふれ、もっと一般に知らしめる必要性を感じたということで、今年から3年間(だったと記憶)、研究所として酸性化問題にコミットして行くとし、その端緒となるのがこのシンポジウムだと述べられた。

 基調講演は、海洋に関する国際政策を強力に推進するデラウエア大学のビリアナ・シシン–サイン氏とフランス国立科学センターのジャン–ピエール-ガトュッソ氏。
 サイン博士は早口に海洋政策の現状と課題を次から次へと滔々と語った(以前にも感じたことだが、この方の話は、重要項目をそのまま次々に繰り出してきて、脇目もふらないところがあり、私のような素人はついていくのが大変だ)。はじめに、海洋政策における2つの柱ーボトムアップ(すなわち、国や地域の海洋に関する政策や取組)とトップダウン(国際条約や交渉における海洋環境の保全・管理と利用)及びそれら縦割りに行われている課題を統合していくことが重要だとその取り組みについて紹介された。

 ボトムアップの好例として日本の海洋基本法を持ち出されたのにはがっくり。まあ、主催者が音頭をとってできた法律だから仕方ないのだろうが・・・

 一方で、国際的な海洋政策推進に関しては、2015年の持続可能な開発会議(SDGs)のプロセスに入っていなかった海洋を、主要課題に入れることに成功したこと、またパリでのCOP21における海洋問題を提起し、海洋と気候変動に関して政治的なリーダーシップを発揮し、46に及ぶパートナーシップのもと、オーシャンズデイをハイライトとしてたくさんの海洋関連のイベントを行った。そして、海洋環境の変化が小島嶼国に与える深刻な影響がクローズアップされ、最終的な合意文書には島嶼国の人々の努力が実って意欲的な目標値(1.5%)につながったことを評価した。
 もう一つの課題は、今、海洋問題で国際的に注目されている国の管轄外の海域、つまりABNJだ。その保全と管理に関しては、国連海洋法条約の元、国連で議論が行なわれている。海洋はつながっており、温暖化、酸性化だけでなく、海洋の汚染や海洋ゴミなど、その64%を占める公海における管理は健全な海洋環境にとって非常に重要なのだが、残念なことにはABNJについて、各国が最も関心を寄せるのは、公海における遺伝子資源の獲得や航行の自由、鉱物資源採掘など利益につながるところで、なかなか合意形成も難しいところだ。今後の動向が注目される。この3つの課題をどのように政策的に前進させていくかが今問われている。
 次のガトゥッソ氏は、海洋のもと機能の重要さとそれ故に海洋環境の変化が私たちにもたらし得る甚大な影響を、現在の二酸化炭素排出量が変化しない場合とコペンハーゲン合意に従った場合の比較を示し、なぜ今、私たちが排出量を大幅に制限しなければならないのかということを分かりやすく示した。そして、すでに計測可能な変化が認められる危機的な状況であることを訴えた。過去にはそれほど多くはなかった研究がこのところ実態に合わせてうなぎ上りに増えているそうだ。その上で、パリ合意がどれほど海洋問題にとって重要であるのかを強調した。つい最近、フィジーが最初に合意を採択したというニュースを見たが、この合意が早急に実現していくことが望ましい。
(ついでだが、COP21のシンボルマークは素晴らしい!
http://www.ambafrance-jp.org/article9503
ついでにこの漫画もフランスらしい)

 基調講演が終了し、パネルに移ってモデレーターの白山義久氏、宮原正典、井田徹治、山形俊男氏あわせて4人のパネラーが登壇、それぞれ短いプレゼンテーションが行なわれた。
 白山さんは冒頭にも書いたことだが、海洋の酸性化の問題についてこれまでも精力的に訴えてきた方で、タイトルもそのものずばり、「海洋酸性化問題をいかに主流化するか」である。すでに北極域で始まっている貝類の殻の消失など実際の危機について人一倍強い懸念を抱いていることが分かる。しかし、今回かなり違和感があったのは、カーボンストレージのプロジェクト紹介だった。後のディスカッションで早速サイン氏が懸念を示されたが、それについて、すでに苫小牧でかなり大掛かりな実証試験が行われており、規制に関しては海洋汚染塔防止法という国内法があるので対処できると彼は主張する。しかし、同法は船舶などによる油汚染や有害物質の漏出に対するもので、陸域に深い穴を掘り、そのまま海洋の深層部分までパイプを通してCO2を貯蔵することによる海洋生態系への影響については不明であリ、白山氏の思いは伝わるものの、海洋の環境影響評価手法が確立されていない状態で進めることは問題があるのではないかと思った。気候変動の緩和策として、繰り返し海洋、沿岸域の改変という技術的な解決法が訴状にのぼるが、それらがともすると海洋の生物多様性の損失につながるもので、先の生物多様性条約会議では、ユースがジオエンジニアリングに強い反対の意見を出したことが記憶に新しい。
 宮原氏の話も興味深かった。水産系ではこれまであまり漁業との関連で温暖化や酸性化を取り上げることが少なかったが、今回、彼が関わる調査の中で、黒潮の流れが早まり、親潮との混交海域における稚魚の成育に問題が起きるという懸念が示された。マグロ問題では、産卵海域や稚魚の成長する海域の保護に後ろ向きだという話を聞いていたが、どうせ将来的にはこうした問題が起きるのだから、いまのうちにとってしまえと思っていると勘ぐるのはうがち過ぎだろうか?冗談はさておき、彼も後で言っていたように、日本人の食に海洋の変化がどれほど大きく関係して来るかという提起は、問題の主流化に大きく貢献するのだろう。
 井田氏はメディアの立場として、酸性化の他に、海洋が抱えている海洋ゴミの問題や海のデッドゾーンなど、健全な海を保全するのに喫緊の課題を紹介しつつも、目の前に見えることではないこれらの問題への一般の関心の低さ、と報道の難しさを訴えた。最後の山形俊男氏は、海洋酸性化がもたらす私たちの生活への影響を経済的な規模も含めて示し、その上でその実態をまず解明していく必要性を訴え、「海洋危機監視」をいプロジェクトの立ち上げと情報の発信をしていくという計画を述べた。

 海洋基本法の中にはもちろん海洋環境の保全や生物多様性という言葉がちりばめられている。しかし、では法の下で具体的に行なわれていることは何か、というと、活発に邁進しているのは海洋開発計画であり、活発に議論されているのは領土問題で、環境は今のところお飾りに過ぎない。
 一方で、その埋め合わせのように、笹川財団による「ネレウスプログラム」やグローバルオーシャンコミッションの紹介など、海洋の危機に警鐘を鳴らす試みがなされている。同じ根元から出てくていると思えるこのふたつの矛盾を整理し、健全な海洋環境を守る方向に展示、国際的な海洋保全に歩調を合わせていくためには、一般市民の積極的な関与が求められると感じる。残念ながら、内閣府にある海洋政策本部に市民の声を届けるのはこれまでの経験から言うと難事というほかはない。最近盛んに発信されている日本の食の問題を考える上で、健全な海洋は必須だというのに。
 

2016年1月23日 (土)

乱獲による魚の減少は想像を超えているらしい

 違法な漁獲や小規模な漁獲が各国の報告に含められていないなどで、この半世紀の間にFAOがこれまで認めていたよりもずっと多くの魚が漁獲されてきたという新たな評価が。

「Overfishing causing fish populations to decline faster than thought, study finds」
New assessment shows the world has been taking far more fish out of the ocean over the past half century than admitted

http://www.independent.co.uk/environment/overfishing-causing-fish-populations-to-decline-faster-than-thought-study-finds-a6821791.html