ネズミイルカから再生エネルギー問題を考える
4月15日、山形県鶴岡市の市議だった草島進一さんという方から、洋上風力発電問題についてのメールを頂いた。山形県の遊佐というところに建設を計画されている洋上風力発電が渡り鳥や予定地の海生生物に影響を与える可能性があり、その中にネズミイルカが含まれるので、問題を共有したいということだった。洋上風力発電による環境影響については、すでに海外でいくつもの例があり、環境や騒音のもたらす悪影響を考えて、設置場所については厳しい規制があるそうだ。ドイツのように、2009年にすでに海洋生態系を反映した海洋空間計画により、設置場所が沿岸から30mにあるだけでなく、イルカの保護ゾーンも設置されているところもある。ちなみに、海洋空間計画とは、海洋の保全と利用を適切に考慮して配置を考える政策だ。また、洋上風力発電では先輩格の台湾ではその設置に関して、漁業者の反対に加え、生息する絶滅を懸念されるタイワンシロイルカへの悪影響が研究者やNGOから指摘され、設置場所が沖合40mの規制がかかったという。台湾ではIT産業が盛んで電力の消費がかなり大きいため、洋上風力による発電出力が大きくなると、それだけ離岸距離も沖合へと移動させなければならないきまりができた。ご存知のように、クジラ類にとって音響は生活の基盤となるので、設置のための杭打ちや継続的な騒音が彼らの生活にもたらす影響が懸念されたのだ。
日本では、沿岸各地での洋上風力が計画され、北海道や東北で少なくない数の計画が進行中らしい。問題は、日本の計画では、沿岸域の海深が急に深くなるため、経費的な問題も手伝って沖合2kmと他に例のない近さだ。海中だけでなく、音響専門家によると、陸で生活する人にも不眠などの影響がでる可能性がある。
私はイルカの研究者でもないし、なにか言える立場ではないと困惑したが、そこではたと、ネズミイルカについては何も知らないことに気がついた。
クジラ類は水産庁管轄で、その下にある国際研究開発法人、水産研究・教育機構というところが「国際漁業資源の現況」でデータを公表しているが、イルカ類については「小型鯨類の漁業地資源調査」で8種のイルカ漁業対象種が取り扱われており、そのほかには同じ対象種であるイシイルカが特記されている他、漁業対象種でないものはスナメリとシャチだけが掲載されている。それらの種は、これまで何らかの目的で調査・研究が行われている種で、それ以外の沿岸のイルカについての公的な情報は、1996年に発行された日本水産資源保護協会の「日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料」で、ネズミイルカはその(III)V.水生哺乳類くらいしか見当たらない。
ネズミイルカは、いわゆる「ネズミイルカ類(英名ポーパス)」と呼ばれる小型イルカの仲間で、日本沿岸では、「ハーバーパーポス」という英名が示すように、沿岸100m前後の冷たいところを好む。ネズミイルカの他に北の海域を利用するのは、漁業対象種であるイシイルカがいるが、南方面には希少種と認められているスナメリが、九州から仙台湾付近までを利用して、ネズミイルカ類の3種が北と南に棲み分けていると思われる。ただし、昨今の気候変動で、海水温も変化するため、この北と南の棲み分け具合は変わる可能性があり、実際、新潟でもスナメリのストランディング個体が認められているという。
日本は折に触れてエネルギー生産力のない国というふうに言われているが、これは、これまでのエネルギーの供給元が石炭や石油といったいわゆる化石燃料に頼るところが大きかったことによると思われる。これら化石燃料の排出する二酸化炭素による地球の気候変動から、国連は各国に二酸化炭素排出量を減らすように(排出量ゼロ=ゼロ・エミッション)勧告しており、日本は2050年に向けてのいわゆるカーボンニュートラル、温室効果ガスの排出を吸収分と相殺して実質ゼロ(ニュートラル)にするという取り組みを進めている。
洋上風力発電の問題について調べてみると、2019年、再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)が作られた事がわかった。エネ庁によると、2040年までに、温室効果ガスを73%削減するためには、再生エネルギーの割合をすべてのエネルギー供給の構成で22.9%から全体の4割から5割まで上げる必要があるということらしい。そのうちの風力発電によるものを現在の1.1%から4〜5倍(3000万〜4500万kw)に引き上げるつもりであるようだ。管轄は内閣府を筆頭に、経産省、国交省、そして環境省だが、環境省の役割というのは、「海洋環境等の保全の観点から海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域の指定等を行うための環境大臣による調査等の実施及び環境影響評価法に基づく手続のうち当該調査等に相当するものを適用しない特例措置の創設」
わかりにくいかもしれないが、要は発電事業者が事前に行っていた初期環境影響調査は国(環境省)が実施するので、重複する環境影響評価を事業者は行わなくてもいいことになったということで、一見すると海洋環境保全にいいように見えるが、実際は既存するデータの文献調査が主で、設置のためのスピード解決を目指すためでしかない。現在、実施が計画されている海域は、長崎と千葉のほか、東北と北海道に10箇所、予定される海域も10箇所ある。遊佐はもちろん、他の予定地についても懸念がでてくる。
先だって、草島さんの勉強会で、海生生物の音響の研究者の赤松友成氏が洋上風力発電による音の影響は、過去の事例では一時的という話をされた。もし海域を利用する時期がわかれば回避は可能かもしれないということらしい。その話の中で、2020年に環境省が北海道から鹿児島県にかけての海生哺乳類調査を春と夏の2回行ったと言われたので、(水産庁が関わらずにどんな方法で調査したのだろう?)と疑問をいだいた。2017年の国会審議において、時の環境大臣が’船がないから(クジラ類調査は)できませーん!’と答弁したのを聞いたからだ。実際は生態調査というよりは、洋上風力発電の設置の可能性のある海域での環境影響評価の一環で、その時に目視されたイルカを調査報告として出しただけだと思われる。北海道周辺で発見された小型イルカはイシイルカと思われるとも言われたので、実際はどの海域をどの種がどの時期に利用しているかということは不明な結果だ。また、魚類については(当然ながら水産庁管轄であり)環境省の調査に含まれていないようだ。要するに、プロセスの迅速化を図るあまり、海域での生息状態が明らかでないような調査結果を下に、環境大臣が判断を下すということになる。
もともとネズミイルカについては、2,3頭というかなり小さな群れで、なかなか発見しにくいためか、研究が進んでいないようだ。だからといって、ネズミイルカの座礁が周辺の海岸で見つけられていることを考えても「海域を利用していない」という事にはならない。問題は、主務官庁である水産庁と環境省が協力し、地道な生態調査を始めなければ、適切な調査報告をもととした環境大臣の環境影響評価の判断はできない。
さらなる疑問は、離岸距離を遠くに離せばいいのかということもある。日本の沿岸は多様な海生生物が生息する場所であり、絶滅を懸念されるニシコククジラだって、日本の沿岸を移動しているのだ。
このところ、AIデータセンターの設立が盛んだ。私が古い人間だからかもしれないが、AIのすさまじい展開・発展については懐疑的で、ヒトのより良い生活のためというよりも、これによって利益を得る一部の人達のためだとしか思っていない。しかし、残念ながら、懐疑的波方は少数であり、台湾においても高出力が必要とされるのは、これが大きいが、日本では日本以外にも台湾や韓国の企業が設立を目指しているそうだ。問題は、これによって莫大なエネルギーが必要となることだ。電力だけでなく、機械を冷やすための水の大量消費も地元住民の生活の直結してくる問題があり、最近、カリフォルニアの小都市がAIデータセンターの設立を、圧倒的な住民投票で否決したという記事を見た。
エネルギー消費拡大とゼロエミッションの間で、再生エネルギーだけでなく、原発回帰も行われるという情けない時代に私たちはいる。将来の世代の資産を食い尽くすような私たちの考え方や行動をこの問題をきっかけとしてもう一度真剣に考えるときではないだろうか。


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