2026年6月14日 (日)

ネズミイルカから再生エネルギー問題を考える

 4月15日、山形県鶴岡市の市議だった草島進一さんという方から、洋上風力発電問題についてのメールを頂いた。山形県の遊佐というところに建設を計画されている洋上風力発電が渡り鳥や予定地の海生生物に影響を与える可能性があり、その中にネズミイルカが含まれるので、問題を共有したいということだった。洋上風力発電による環境影響については、すでに海外でいくつもの例があり、環境や騒音のもたらす悪影響を考えて、設置場所については厳しい規制があるそうだ。ドイツのように、2009年にすでに海洋生態系を反映した海洋空間計画により、設置場所が沿岸から30mにあるだけでなく、イルカの保護ゾーンも設置されているところもある。ちなみに、海洋空間計画とは、海洋の保全と利用を適切に考慮して配置を考える政策だ。また、洋上風力発電では先輩格の台湾ではその設置に関して、漁業者の反対に加え、生息する絶滅を懸念されるタイワンシロイルカへの悪影響が研究者やNGOから指摘され、設置場所が沖合40mの規制がかかったという。台湾ではIT産業が盛んで電力の消費がかなり大きいため、洋上風力による発電出力が大きくなると、それだけ離岸距離も沖合へと移動させなければならないきまりができた。ご存知のように、クジラ類にとって音響は生活の基盤となるので、設置のための杭打ちや継続的な騒音が彼らの生活にもたらす影響が懸念されたのだ。

 日本では、沿岸各地での洋上風力が計画され、北海道や東北で少なくない数の計画が進行中らしい。問題は、日本の計画では、沿岸域の海深が急に深くなるため、経費的な問題も手伝って沖合2kmと他に例のない近さだ。海中だけでなく、音響専門家によると、陸で生活する人にも不眠などの影響がでる可能性がある。

 

 私はイルカの研究者でもないし、なにか言える立場ではないと困惑したが、そこではたと、ネズミイルカについては何も知らないことに気がついた。

 クジラ類は水産庁管轄で、その下にある国際研究開発法人、水産研究・教育機構というところが「国際漁業資源の現況」でデータを公表しているが、イルカ類については「小型鯨類の漁業地資源調査」で8種のイルカ漁業対象種が取り扱われており、そのほかには同じ対象種であるイシイルカが特記されている他、漁業対象種でないものはスナメリとシャチだけが掲載されている。それらの種は、これまで何らかの目的で調査・研究が行われている種で、それ以外の沿岸のイルカについての公的な情報は、1996年に発行された日本水産資源保護協会の「日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料」で、ネズミイルカはその(III)V.水生哺乳類くらいしか見当たらない。

 ネズミイルカは、いわゆる「ネズミイルカ類(英名ポーパス)」と呼ばれる小型イルカの仲間で、日本沿岸では、「ハーバーパーポス」という英名が示すように、沿岸100m前後の冷たいところを好む。ネズミイルカの他に北の海域を利用するのは、漁業対象種であるイシイルカがいるが、南方面には希少種と認められているスナメリが、九州から仙台湾付近までを利用して、ネズミイルカ類の3種が北と南に棲み分けていると思われる。ただし、昨今の気候変動で、海水温も変化するため、この北と南の棲み分け具合は変わる可能性があり、実際、新潟でもスナメリのストランディング個体が認められているという。

 

 日本は折に触れてエネルギー生産力のない国というふうに言われているが、これは、これまでのエネルギーの供給元が石炭や石油といったいわゆる化石燃料に頼るところが大きかったことによると思われる。これら化石燃料の排出する二酸化炭素による地球の気候変動から、国連は各国に二酸化炭素排出量を減らすように(排出量ゼロ=ゼロ・エミッション)勧告しており、日本は2050年に向けてのいわゆるカーボンニュートラル、温室効果ガスの排出を吸収分と相殺して実質ゼロ(ニュートラル)にするという取り組みを進めている。

 洋上風力発電の問題について調べてみると、2019年、再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)が作られた事がわかった。エネ庁によると、2040年までに、温室効果ガスを73%削減するためには、再生エネルギーの割合をすべてのエネルギー供給の構成で22.9%から全体の4割から5割まで上げる必要があるということらしい。そのうちの風力発電によるものを現在の1.1%から4〜5倍(3000万〜4500万kw)に引き上げるつもりであるようだ。管轄は内閣府を筆頭に、経産省、国交省、そして環境省だが、環境省の役割というのは、「海洋環境等の保全の観点から海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域の指定等を行うための環境大臣による調査等の実施及び環境影響評価法に基づく手続のうち当該調査等に相当するものを適用しない特例措置の創設」

わかりにくいかもしれないが、要は発電事業者が事前に行っていた初期環境影響調査は国(環境省)が実施するので、重複する環境影響評価を事業者は行わなくてもいいことになったということで、一見すると海洋環境保全にいいように見えるが、実際は既存するデータの文献調査が主で、設置のためのスピード解決を目指すためでしかない。現在、実施が計画されている海域は、長崎と千葉のほか、東北と北海道に10箇所、予定される海域も10箇所ある。遊佐はもちろん、他の予定地についても懸念がでてくる。

 先だって、草島さんの勉強会で、海生生物の音響の研究者の赤松友成氏が洋上風力発電による音の影響は、過去の事例では一時的という話をされた。もし海域を利用する時期がわかれば回避は可能かもしれないということらしい。その話の中で、2020年に環境省が北海道から鹿児島県にかけての海生哺乳類調査を春と夏の2回行ったと言われたので、(水産庁が関わらずにどんな方法で調査したのだろう?)と疑問をいだいた。2017年の国会審議において、時の環境大臣が’船がないから(クジラ類調査は)できませーん!’と答弁したのを聞いたからだ。実際は生態調査というよりは、洋上風力発電の設置の可能性のある海域での環境影響評価の一環で、その時に目視されたイルカを調査報告として出しただけだと思われる。北海道周辺で発見された小型イルカはイシイルカと思われるとも言われたので、実際はどの海域をどの種がどの時期に利用しているかということは不明な結果だ。また、魚類については(当然ながら水産庁管轄であり)環境省の調査に含まれていないようだ。要するに、プロセスの迅速化を図るあまり、海域での生息状態が明らかでないような調査結果を下に、環境大臣が判断を下すということになる。

 もともとネズミイルカについては、2,3頭というかなり小さな群れで、なかなか発見しにくいためか、研究が進んでいないようだ。だからといって、ネズミイルカの座礁が周辺の海岸で見つけられていることを考えても「海域を利用していない」という事にはならない。問題は、主務官庁である水産庁と環境省が協力し、地道な生態調査を始めなければ、適切な調査報告をもととした環境大臣の環境影響評価の判断はできない。

 

 さらなる疑問は、離岸距離を遠くに離せばいいのかということもある。日本の沿岸は多様な海生生物が生息する場所であり、絶滅を懸念されるニシコククジラだって、日本の沿岸を移動しているのだ。

 

 このところ、AIデータセンターの設立が盛んだ。私が古い人間だからかもしれないが、AIのすさまじい展開・発展については懐疑的で、ヒトのより良い生活のためというよりも、これによって利益を得る一部の人達のためだとしか思っていない。しかし、残念ながら、懐疑的波方は少数であり、台湾においても高出力が必要とされるのは、これが大きいが、日本では日本以外にも台湾や韓国の企業が設立を目指しているそうだ。問題は、これによって莫大なエネルギーが必要となることだ。電力だけでなく、機械を冷やすための水の大量消費も地元住民の生活の直結してくる問題があり、最近、カリフォルニアの小都市がAIデータセンターの設立を、圧倒的な住民投票で否決したという記事を見た。

 エネルギー消費拡大とゼロエミッションの間で、再生エネルギーだけでなく、原発回帰も行われるという情けない時代に私たちはいる。将来の世代の資産を食い尽くすような私たちの考え方や行動をこの問題をきっかけとしてもう一度真剣に考えるときではないだろうか。

 





2026年2月 2日 (月)

伊豆で突きん棒猟!

 先程、光海丸の石井さんから電話をもらった。本を送ったお礼に電話をくださったのだが、近況を伝え合う中で、なんと、伊豆で突きん棒猟が許可され得たということを聞いた。東伊豆の30隻あまりの漁船が申請しているそうだ。キンメを取る漁業者が、イルカに魚を取られるから、「駆除」目的で申請したらしい。私のチェックが甘かったのだが、確かに2025年度のイルカ捕獲枠に、スジイルカ10頭、ハンドウイルカ13頭、ハナゴンドウ3,オキゴンドウ7,シワハイルカ1,カズハゴンドウ5頭、静岡県の突きん棒猟枠があった。石井さんによれば、シワハイルカなど見たこともない、という話で、問い合わせた水産庁の担当者は、万が一見間違えて捕獲した場合に違反とならないように、念のために捕獲枠がついていると答えたそうだ。はじめは爆竹で脅して追い払ったようだが、効果が薄れてきたため、方法を変えるという。

 イルカの仲間がキンメを食べるので漁業者が困ってどうにかしたいということは理解できるものの、はい、そうですか、という水産庁の管理のいい加減さに違和感を覚える。キンメを取ろうとした現場を見て殺すののか、それともイルカ類が見えたらただちに殺すのか、この種数と数を見れば後者なのだろう。突きん棒猟における監視はないので、市場に流れた時点で確認をするという話で、イルカ猟を行って、食べる習慣もある地域で、漁業者はイルカ肉を販売するつもりなのだろう。まだ捕獲実績は確認できていないが、漁業被害という名での捕獲には、海域でのイルカの種数やその推定数、個体群の動き具合など、それに対応する管理を行うのが水産庁の役目ではないのか。

2023年9月 2日 (土)

フランスの水族館で生まれたシャチの家族が日本に?

須磨海浜公園内に水族館(神戸須磨シーワールドhttps://kobesuma-seaside-park.jp/pdf/230516_suma-naming-hp.pdf)

が新たに建設されることを懸念してきたが、最新の情報が入ってきた。それによると、フランスのマリンランド・アンディーブから4頭のシャチが日本に移送され、そのうちの何頭かは須磨シーワールドで飼育される可能性がある。

(情報簡単翻訳 ー情報もとはhttps://www.facebook.com/oceans.orcas

関係筋によると、マリンランド・アンティーブのシャチの移送は、2024年1月から2月の冬季閉鎖期間中に行われる予定だという。このことは、輸送を証明する航空会社からも確認されている。4頭のオルカ、ウィキー、イヌーク、モアナ、ケイジョ(いずれも血縁関係にある)は日本に輸出され、3つのパークに分散されるようだ:


- 鴨川シーワールド:4頭のメスのオルカがいる: ラン、ラビー、ララ、ルナ
- 名古屋港水族館: メス2頭、オス1頭:ステラ、リン、アース
- 神戸須磨シーワールド  


神戸須磨シーワールドはまだオープンしていないが、鴨川シーワールドを所有するグランビスタグループが開発中である。
2023年9月以降、オルカスタジアムへの一般入場は週末のみに制限される。MLAのオルカはすべて同園で生まれ、これまで一度も移送を受けたことがない。
フランス国内の活動家グループ(@cest.assez.associationなど)は、移送を阻止するための法的手段を模索するとともに、政府に支援を求めている。MLAはまだ許可を得ていないため、十分な世論の圧力があれば、MLAの決定を覆すか、許可を拒否することができると期待されている。
彼らの努力を支援するために、@cest.assez.associationのバイオグラフィーとストーリーにリンクされている嘆願書に署名してください。

(ここまで)

フランスでは近年、鯨類の水族館飼育が動物福祉の観点から問題視され、新たな飼育はできないことになった。また、現在飼育中の鯨類についても、飼育継続を望まない方向になっている。そのこと自体は喜ばしいことだが、飼育されてきた鯨類が今度は異なる飼育施設にうつされる懸念も大きい。

2023年8月19日 (土)

ロリータ=トキタエ、解放目前に逝去

マイアミ・ヘラルド紙が19日、前日18日の午後にロリータの愛称で呼ばれるシャチが死亡したと伝えた。

https://www.miamiherald.com/news/local/community/miami-dade/article278388494.html

捕獲されたのは推定4歳で、死亡した時の年齢は57歳とされる。アメリカの絶滅危惧種法にリストされ、長年飼育されてきたマイアミ水族館の環境に問題があると2022年に動物福祉法違反を指摘され、北西太平洋のもっと冷たい海のサンクチュアリに解放される目前の死だった。昨年秋から体調を崩し、回復途上にあると言われていたが、この2日間、容体が悪化、必死の手当も実らなかった。

同じく48年前に群れから引き離されていくつかの水族館を転々として87年からサンディエゴのシーワールドに閉じ込められ、解放の目処のなっていないノーザンレジデントに所属するコーキーの一刻も早い解放が望まれる。まだ間に合ううちに。

https://www.thesun.co.uk/news/18883667/seaworld-saddest-orca-corky-inbreeding/

2023年8月 9日 (水)

ロリータ(トキタエ)と呼ばれたシャチ

「人間が動物の生命を真に尊重するためには、どれほどの道のりが必要なのか」、8月5日付のロスアンジェルスタイムズの意見欄で、非営利団体「オーシャン・コンサーベーション・ソサエティ」の会長で、鯨類行動学の専門家、マッデレーナ・べアッツイはこう嘆いている。

 昨年、ロリータ(彼女の出身海域の先住民ルミ族の言葉ではトキタエ)と呼ばれてきたマイアミ・シーアクアリアムのシャチの所有権を、新たな持ち主が手放すことを決意し、マイアミ・デイド郡とロリータを支援する組織と共同でサンクチュアリに移送する法的拘束力のある共同署名を調印したので、連邦政府の許可が降り次第、ロリータは元々の住処であった北西太平洋の海域に設置されるサンクチュアリに移される運びとなった。

ロリータ=トキタエは、1970年、いまから半世紀前にワシントン州にあるペンコーブで捕獲された、1966年生まれと推測され現在飼育下で生存する唯一のサザンレジデントシャチだ。サザンレジデントのシャチは、2005年に連邦の絶滅危惧種法で絶滅危惧とされ、現在は73頭しか生存していない。

しかし、飼育下にある彼女は、当時同法の適用外で、生まれ故郷とは異なる暖かすぎる気候のマイアミの、日差しを遮る屋根もない狭い水槽で、1日3度のショーを強いられてきた。また、1980年にはパートナーとして導入されたオスのシャチのヒューゴを失いその後はたった一人で生きてきたのだ。群れで暮らすシャチにとって、この状況は望ましいものではなく、背ビレは折れ曲がり、同じところをぐるぐると回る、或いは壁に向かってじっと動かない様子を鯨類の行動ををよく知るベアッツイは「(その)絶望感に圧倒された」と記述している。

彼女の運命が変わる兆しを見せたのは、2015年、非営利団体の粘り強い抗議や訴訟の結果として、NOAAが飼育下にあるロリータ(トキタエ)を彼女が所属するサザンレジデント同様に絶滅危惧種法にリストすることになったからだ。即時解放は、50年間もの長期的な飼育下にあるシャチにとってリスクが大きいとNOAAは判断した。しかし、2022年になって、ロリータ=トキタエは改正した動物福祉法の対象となり、一般への展示も禁止されたことやその飼育状況の改善も求められていることから、新たな持ち主にとってもメリットは無くなったのだろう。

彼女の移送までの期間は早くて今後2年のうちが約束されている。サンクチュアリという環境が彼女にとってどう働くかはわからない。しかし、現在の貧弱な飼育環境から、彼女が健康であるうちに一刻も早く解放されることがのぞまれる。

2023年8月 8日 (火)

IWC,コガシラネズミイルカの絶滅警告

この8月6日、IWCは初の絶滅警告をコガシラネズミイルカに出した。

https://iwc.int/en/

コガシラネズミイルカは、カリフォルニア湾北部の、メキシコにのみ生息する2mにも満たない小型のイルカである。IWCによると、このイルカは1997年に570頭いたと思われているが、2018年には10頭しか確認できなくなった。原因は、同じ海域に生息しているこれも絶滅の恐れのあるトトアバという魚を漁獲するための刺し網による混獲である。トトアバは、コガシラネズミイルカとほぼ同じ大きさで、生息海域も同じくしているが、この魚の浮き袋が中国では高級食材、あるいは薬として珍重され、異常な高値がついている。

メキシコ政府は、2005年から、刺し網による代替漁法の奨励や生息海域の一部保護など、保護策を講じてきた。にもかかわらず、コガシラネズミイルカの混獲はおさまらず、生息数が増えることがない状態である。

IWCにおいても、この問題は毎回取り上げられ、早急な問題解決をメキシコ政府に求める決議を繰り返してきたが、刺し網によるトトアバ漁は継続し、密漁も横行(その金額の大きさから麻薬取引と比べられることも)、代替漁法は一向に進んでいない。

IWCは、トトアバの違法な国際取引が問題解決の壁となっていることを指摘し、直ちに、刺し網を100%他の漁法に変えない限り、絶滅は目前だと警告している。

 

 

2022年2月 7日 (月)

太地シャチ捕獲から25年

1997年の今日、2月7日に、太地にシャチの家族10頭が追い込まれた。この件については、ブログで何回も書いているので詳細はそれに任せるが、4半世紀前のことであるのに、いまだに強く記憶に残っている。このところ、資料整理を行なっており、昨年10月にも少し詳しい情報を掲載したところだ。

http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/2021/10/index.html

このところ、意見交換ができていないが、関係者の話では1昨年あたりでも、やはり、高額取引できるシャチの捕獲は魅力的らしいことが伺えた。幸いなことに、日本国内での捕獲は止まったままだし、また次の捕獲地になったロシアでも、海外への移動はできなくなったというニュースがあり、また捕獲は科学目的か教育目的に限られ(まだ懸念は残るが)、枠の提示は停止されているというのは喜ばしい。

ただ、それで問題解決というわけではなく、人間活動による海洋の汚染が、世界各地のシャチをはじめとしたクジラ類を苦しめていることは度々ニュースになっている。とくに、海の食物連鎖の頂点にいるというところでは、1990年代からシャチに溜まった高濃度の化学物質汚染が懸念されてきた。アメリカのサザンレジデント個体群の化学物質汚染と餌生物減少による激減は繰り返し問題となっていることは既知の話だろう。

日本の’国際漁業資源の現況’では、とてもたくさんいるかのように書かれているが、現実を見据え、きちんとした科学調査とその上での保全の前向きな施策が望まれる。

2022年1月 7日 (金)

ストランディングレコード(送付感謝)

昨年末に、2020年に収集されたストランディングレコードが、石川創さんから送られてきた。

氏が鯨研に在籍されていた時に開始されており、下関の鯨類資料室に移られてからも継続して記録されてきたものだ。資料室が閉鎖となり、移動されるということで、ストランディングレコードはストップしてしまうのか、と懸念したのだが、今回は、日本セトロジー研究会(山田格博士が会長)の「日本セトロジー研究」に掲載されることになったそうだ。山田博士はこれまでも座礁・混獲された鯨類の標本を管理されてこられた方で、部分的にストランディングレコードを公表されてきたと記憶しているところで、信頼できる移動先があって本当に良かったと感じている。

一方で、立場の異なる私のようなものに、石川さんがきちんとお送りくださったことに感謝、である。

記録の情報源となっているのは、

1。発見者あるいは観察者からのもの

2。新聞記事、書籍、雑誌ウェブサイト等からの収集

3。学術論文、学会報告などの公表された情報

4。他の公表されたデータベース等からの転載

という収集方法は変わっていないようだ。ただし、下関でのデータが西日本が主であったのに比べ、入手された情報は広がっているように見える。

もちろん、このデータベースが全ての座礁・混獲鯨を網羅しているわけではないが、毎年、夥しい数の鯨類が座礁したり、混獲されたり、また漂着したりしており、必ずしもこのデータベースで原因を究明することはできないかもしれない。

水産庁がHPで公開しているヒゲクジラの混獲数と必ずしも一致しないが、100頭を超えて推移してきたミンククジラの混獲は減少しているのは確かなようだ。

気になるのはスナメリの漂着・死亡数の多さだ。2018−2019では277頭、2020年は238頭と他と比べても飛び抜けている。

沿岸に生息するスナメリは(水産庁のレッドリストでは普通種だが、アジアの東スナメリについてIUCNは絶滅危惧種の1つとしている)、明らかに絶滅を危惧される個体群があり、その生息状況をかつて環境省と水産庁の共同で調査したことがあったと思う。このような調査を是非とも継続的にやっていただきたいものだ。

 

2021年11月 5日 (金)

太地シャチ捕獲事件(6)

 1997年2月に捕獲され、3つの水族館に収容されたシャチたちは、解放を願う人々に’TAIJI 5’と呼ばれた。

2008年に名古屋港水族館に’ブリーーディングローン’の名目で貸し出されたメスが死亡して、すでに5頭全てがこの世にいないが、少しその履歴を記してみよう。

この群は、千島列島より北方周辺から子産み・子育てのために南下し、また北に戻るトランジエント(移動型)のシャチに分類されるだろうことが、スポング博士が確認した背中のサドルパッチと呼ばれる灰色の模様と、捕獲当時に吐き戻されたミンククジラの皮でほぼ確認されている。レジデント(定住型)シャチが主に生息海域の魚類を捕食するのと異なり、移動型のシャチは、主にアザラシやイルカ、クジラなど海生哺乳類を捕食すると考えられている。

 *ちなみに、日本のシャチ研究は、2000年に入って主に民間の研究者によって始められ、現在は道東での個体識別も行われているようだが、  日本における定住型シャチの存在はまだ未解明のようである。水研センターによる北西太平洋の推定個体数は、2007年に飛躍的に激増した。 同年は、北の範囲も明らかでなく、水産庁もその信頼性について「水研センターに聞いて」と投げたくらいだが、令和2年度の’国際漁業資源の現況’でも「1992~1996 年の8~9 月の目視調査データの解析から、北緯 40 度以北で 7,512頭(CV = 0.29)、北緯 20~40 度で 745 頭(CV = 0.44)」と北限こそ示されたものの、1999年から開始された、ロシア、カムチャッカの調査など公開されているデータや、北海道の調査などは反映されていない数字である。


1。アドベンチャーワールド

  オス1 捕獲時の体長・体重 3.75m・700kg (シャチの誕生時の体長は2.1~2.5m体重180kg程度と考えられている)

     追い込みの後、母親にピッタリ寄り添い、捕獲作業時に浜で大きな鳴き声を上げていた個体。

     1997年6月14日死亡

  オス2 捕獲時の体長・体重 4.70m・1400kg

     ’キューちゃん’という名称でショーに出演していた。アイスランドからのメスシャチの’ラン’との間に子供が誕生したが、子育ての経験のない中、子供を攻撃し、子供は頭蓋骨骨折で死亡。

     2006年9月18日死亡

  メス  捕獲時の体長・体重 6.3m・5500kg (オトナ 体長5.5~9.8m 体重2600kg~9000kg )

     1997年6月17日死亡

        * 通常、成獣を水族館用に捕獲することはないが、この時、このメスは妊娠していると考えられていた。当時、内部告発でこのメスが流     産し体力を落としたため、スリングで宙吊りにして餌を流し込んでいたという未確認情報があった。スポング博士は、来日時、特にこの2頭の生存を危惧していた。

私たちは、4tトラックに黒幕を垂らし、水産庁前をスティックライトを灯してデモを行った。また、知り合いのシンガーソングライターにお願いして、シャチたちの哀歌を作ってもらって追悼ライブも行った。

 

2。太地くじらの博物館

  メス 捕獲時の体長・体重 4.55m・1400kg

  2008年9月19日死亡

  ’クー’という名称でのちに名古屋港水族館に貸し出された。

3。伊豆三津シーパラダイス

  メス 捕獲時の体長・体重 5.5m・2600kg

   2007年9月19日死亡

   アイスランドから購入したオスのシャチ’ヤマト’のお嫁さんとして期待されて購入された。

これらのシャチは、公式には’学術研究’が目的だとされている。

この’学術研究’の中身を検証するシンポジウムが、2007年11月23日、東京海洋大学で開催された。3部の構成で、第1部は「シャチの動向と整体」、2部目が「飼育下におけるシャチ研究と繁殖」で、飼育経験の長い鴨川シーワールドが「国内におけるシャチ飼育の歴史」と「飼育下におけるシャチの繁殖」を発表し、その後、まるで杖k足しのように3水族館による発表が行われた。太地は「捕獲と輸送」、アドベンチャーワールドが「飼育環境・餌・成長」、と「疾病と予防対策」、伊豆三津シーパラダイスが「繁殖生理ー性ホルモン変動を中心として」で、間に名古屋港水族館による「血液性状・体温・噴気孔内細菌そうの検討ー日本産シャチの健康管理のために」が挿入された。

 タイトルからも分かるように、動水が捕獲当初に提示した自然への理解や種の保存とは程遠い、すでに海外研究などで終わっているような飼育繁殖研究にとどまり(しかも一夜漬けっぽい内容)、同じ群に所属するシャチ間の交流観察や研究がなかったことを始め、野生シャチの生態研究とは程遠い内容であるばかりか、水族館同士さえ連携した研究をしてこなかったことが明らかになった。(後で企画した水産庁担当者が気落ちしていたという印象が残っている)。この目的の1つは将来的に学術研究目的でのシャチ捕獲の可能性だったと考えられるが、過剰な推定数を挙げてもなお、かなり無理筋だということが明らかになったシンポジウムだった。

ついでだが、終了後の懇親会で、当の推定数を作った担当者にそのことについて質問したのだが、「他で呼ばれていますので」と逃げられてしまった。

 

  ’SALTY Dreams'

   「 ガラスのような青い海 黒潮の流れに体をまかせ

  ある時は弾丸のように泳ぐ

   呼び合う声 触れ合うヒレ

   迷わないで はぐれないで

  海の青さに負けないように

  空中に身を躍らせる

  

  高い空から降ってくる 太陽の光は

  海の深さに溶け合って 七色の海の変わる

   満月の夜 波間に眠れば

   まだ見ぬ出会いを夢見て

  空の青さに負けないように

  空中に身を躍らせる

 

  嵐の夜は深く潜ろう 水の中は暖かい

  昨日生まれった幼子を ふたつのヒレで抱いて

   流れ藻に小魚は群れ

   遠くから歌が聞こえる

 海の青さに負けないように

 空中に身を躍らせる

 海の青さに負けないように

  空中に身を躍らせる」  

                          97.06.21 tateno koichi

 

2021年10月25日 (月)

太地シャチ捕獲事件(3)

シャチ問題への関心としては、都内の私立大学に拠点を置く’Free Orca'というシャチ問題に特化した勉強会のような組織ができており、IKANもそのメンバーとして、太地での捕獲以前からシャチ捕獲を警戒していたことも、捕獲に対しての素早い動きを作ることができた。

IKANは、シャチの捕獲が伝えられると、捕獲時に行政と当初シャチ購入を検討していた5水族館に対して、行政が10頭のシャチを解放するよう、また水族館はシャチを購入しないよう求める要望書を送った。また、捕獲後には太地町、和歌山県、水産庁とともに、シャチを買い入れたと思われる3水族館に対して申入書を送り、電話で水族館の見解を質した。しかし、水産庁の見解は(1)に書いたとおり、1992年に専門家が認めていた(事実ではないことを後に確認)というもので、太地くじらの博物館の答えとして「芸を覚えさせるのも学術研究の一部であり、ショーは研究成果を披露するためのもの」という捕獲の目的そのままの答えがかえってきたし、伊豆三津シーパラダイスは回答なし、アドベンチャーワールドに至っては、シャチを導入したことさえ認めようとしなかった。

IKANは違反イルカ事件の時に連携したNGOとともに、行政と水族館への抗議ファックス行動を呼びかけた(当時は、まだファックスが主流だった)。シャチの捕獲は許可の過程の不透明さも手伝い、メディアも大々的に報道したこともあり、予想以上の成功を収めることができた。聞いたところでは、ある水族館では1日に1300通ものファックスが届いたというほどの勢いで、いまだに水産庁の幹部によっては会うと、挨拶がわりにこのことで苦情を言うものまであるくらいだ。

抗議行動が大きくなった1つの理由として、海外からの抗議の声が挙げられる。違反イルカ猟事件では、海外の連絡先が不発だったのとは異なり、今回は、水族館に長期間囚われているシャチたちの解放運動をしてきた海外の人たちが積極的に動いてくれた。その中でも、鯨類研究者のポール・スポング博士の貢献が大きい。

スポング博士とは面識があった。1987年にエコロジーの季刊誌「オイコス」を発刊する際に、私は、初めて成田から海外に渡航した。反対闘争に関わる知人もいたため、それまで成田を使うことを拒否して海外渡航経験はなかったのだ。行先はカナダ。オイコスの編集に協力してくれたMさんの知り合いで、70年代からバンクーバー島と本当の間の海峡に浮かぶハンソン島という無人島に移住し、島の前の海峡を行き来するシャチの研究に携わっているスポング博士のインタビューをするためだ。Mさんから彼については事前に聞いており、かつてバンクーバー水族館に所属していた時にシャチと触れ合い、彼らを人工的な施設に閉じ込めることの間違いを知り、鯨類学者としての立場ながら、68年にアメリカ西海岸で捕獲され、シーワールドにいる’コーキー’の解放運動を担ってきた。Mさんの希望で、発刊2号ではクジラ問題を特集する予定で、スポング博士の立ち位置はとても面白いと考えたのだ。

そのご縁があって、Mさんからシャチ捕獲に立ち会った話を聞いたスポング博士が連絡をとってきた。たまたま、友人の寄付でコンピューターを導入し、初めてインターネットを使うようになったところで、シャチ捕獲とその連絡などによって、私は、インターネットの使い方(主にメールでのやりとり)と使い慣れない英語の勉強をせざるを得なくなった。最初はメール1本に半日以上もかかった。しかし、この便利な機械のおかげで、国内だけでなく海外の情報も支援も飛躍的に受けられるようになったのだ。海外におけるシャチ捕獲への怒りは凄まじく、大きな抗議集会なども組織され、毎日その抗議行動は大きくなるばかりだった。

海外では、鯨類保護の機運が高まり、シャチの生態研究も進むと、76年には北米西海岸でのシャチ捕獲がストップし、次に捕獲地として使われたアイスランドも1989年に捕獲をやめた。またハリウッド映画の「フリーウィリー」が大ヒットしたこともあって、人々は、シャチの自由な暮らしを求め、飼育施設からの解放へと向かっていたのだ。

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