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2024年1月19日 (金)

中央環境審議会で「今後の海底下への二酸化炭素回収・貯留に係る海洋環境の保全の在り方について」が議論されていたんだ・・・

https://www.env.go.jp/content/000190902.pdf

 

苫小牧でのCCSの実証実験について、気になっていた。政府が補助しなければ採算が取れないのではないかと思っていたが、このような議論があるのは、考えてみればまあ、おかしくはない。

ただ、CO2削減に関して、こうした大がかりなプロジェクトをやってればなんとかなるという感じがあり(これだけではないが)相変わらず、前のめりなのが気になる。

クジラは誰のものか?

『日本の太地沖で捕獲される小型鯨類の頭数の減少は、商業捕鯨で記録された種と同じパターンをたどっており、最も価値の高い種が先に枯渇していることを示すことが明らかになった。1982年以降、コビレゴンドウの漁獲量は漁獲枠の3359%の間で推移し、ピーク時(198085年)には11%まで減少した。提供されたデータは、日本の追い込み漁に関与する複数種の沿岸個体数が減少しているという当委員会の以前の懸念を補強するものである。著者らは、より予防的な管理アプローチを実施すべきであると強く提案した。』IWC科学委員会2023年報告よりの抜粋)

イルカを捕獲する漁業は、古くから存在した。しかし、戦中戦後の食糧事情から、その捕獲等数は増加いたため、1990年から船の管理が始まり、1993年に水産庁による捕獲枠が設定されて、関係同県に通知されるようになった。その後、2007年に管理が不十分だと考えた当時の担当者により、捕獲枠が改定されたが、事業者の意向が完全には払拭されないまま、5年をかけて漸減、その後は2017年に2種が新たに加えられた。現在の捕獲枠の10種で10920頭である。

捕獲枠が大きいのは、突きん棒猟でのイシイルカの捕獲数による。イシイルカの突きん棒猟は、鯨肉の代替物としてカジキマグロの突きん棒をしていた漁業者が参入したことで増加し、1993年に設定された当時17,700頭に設定されており、たびたびIWCでも問題とされた。2007年に改定されたときに16,875頭になりその後漸減しているが、現在でも総数8534頭の枠が北海道、宮城、岩手に与えられている。しかし、実際の捕獲頭数は東北大震災以前から減少している。過去10年間の記録では、北海道は2017年に745の捕獲枠に対して17頭のみ、青森は実績がないため捕獲枠がなく、岩手は枠7649頭に対して11年に1945頭、以下405頭、1235頭、1560頭、1068頭、1357頭、864,818,925,502頭、宮城は141頭の枠で、実数が8,0 18、34、32、1、24、15、8.3、9である。

一方で、冒頭のIWC科学委員会の報告にある太地における追い込みで捕獲実績で一番多かったのは2013年の1239頭で最小は2017年の822頭、1870頭の捕獲枠に達している年はない。太地では、西日本への販売をはじめとしたコビレゴンドウ(マゴンドウ)の需要が大きかったが、2012年に捕獲枠101頭を超える172頭を捕獲した他は低位で推移し、ここ数年は枠の10%程度の捕獲である。このため、漁業者の訴えに応じて2017年には新たにシワハイルカとカズハゴンドウ合わせて320頭の捕獲枠追加があった。2007年の捕獲枠の改訂に際して「沖合の別の個体群が見つかった」とされて枠の増加があったオキゴンドウは、2011年に17頭捕獲されたきりでその後は一頭も捕獲できていない。一方で、もともと利用されてきたスジイルカは取れる時は捕獲枠をはみ出して捕獲されている(太地におけるスジイルカ追い込みの捕獲枠450頭に対し、2012年508頭、2013年498頭、2016年625頭)。

一体、水産庁の捕獲枠に管理の意味があるのだろうか?

脱退後の商業捕鯨についても同じことが言える。ミンククジラの捕獲は、開始したときは母船式(共同船舶)と基地式(沿岸)で53頭の枠があり、44頭が捕獲されている。その後は母船式はイワシクジラとニタリクジラ捕獲に絞られ、ミンククジラの捕獲は基地式捕鯨4社により、2020年には95頭(枠112)、2021年には91(枠120)、2022年には58頭(枠107)、しかも三陸で捕獲が難しくなり、今では主に道東でおこなわれている。漁業者はこの不漁を温暖化による餌の北上に伴う移動が原因としているが、それを確認できるような調査はされていない。ミンククジラの生態に関して言えば、繁殖する南方海域の特定もできておらず、また、個体群の構成についても、現在認められているO個体群、J個体群のほか科学委員会での議論ではY(中国よりの海域)と沿岸海域に生息する可能性のあるP個体群についてもまだ「いない」と断定できるだけの調査結果はない。基地式捕鯨の、調査捕鯨から商業捕鯨への移行は、2019年以前から関係者の中でさえ疑問視する向きがあった。現在も母船式、基地式いずれも補助金によって生きながらえている状態と言える。

水産庁の管理不全は、漁業者にとって不都合なだけでなく、私たちにとっても大きな問題だ。なぜなら、イルカやクジラをはじめとする野生生物は、それを利用する一部のものの所有物ではなく、国を超え、世代を超えた人々のものであり、私たちがまたそれらが固有の権利を持つと考えることを妨げるものではないのだから。

政府やその同調者たち、その代弁者たちに腹が立つのは、本来であれば沿岸の野生生物たちをまず守り、その存続を真剣に図るべき立場の人たちが、それを怠る方便として、保護を訴える諸外国や人々を非難し続けることだ。特にIWCに深く関わりのある某教授が繰り返しその立場を批判している本を出版しているが、一度も沿岸の生物保全について語ろうとしたのを聞いたことも見たこともないことだ。

 

 

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