「人間が動物の生命を真に尊重するためには、どれほどの道のりが必要なのか」、8月5日付のロスアンジェルスタイムズの意見欄で、非営利団体「オーシャン・コンサーベーション・ソサエティ」の会長で、鯨類行動学の専門家、マッデレーナ・べアッツイはこう嘆いている。
昨年、ロリータ(彼女の出身海域の先住民ルミ族の言葉ではトキタエ)と呼ばれてきたマイアミ・シーアクアリアムのシャチの所有権を、新たな持ち主が手放すことを決意し、マイアミ・デイド郡とロリータを支援する組織と共同でサンクチュアリに移送する法的拘束力のある共同署名を調印したので、連邦政府の許可が降り次第、ロリータは元々の住処であった北西太平洋の海域に設置されるサンクチュアリに移される運びとなった。
ロリータ=トキタエは、1970年、いまから半世紀前にワシントン州にあるペンコーブで捕獲された、1966年生まれと推測され現在飼育下で生存する唯一のサザンレジデントシャチだ。サザンレジデントのシャチは、2005年に連邦の絶滅危惧種法で絶滅危惧とされ、現在は73頭しか生存していない。
しかし、飼育下にある彼女は、当時同法の適用外で、生まれ故郷とは異なる暖かすぎる気候のマイアミの、日差しを遮る屋根もない狭い水槽で、1日3度のショーを強いられてきた。また、1980年にはパートナーとして導入されたオスのシャチのヒューゴを失いその後はたった一人で生きてきたのだ。群れで暮らすシャチにとって、この状況は望ましいものではなく、背ビレは折れ曲がり、同じところをぐるぐると回る、或いは壁に向かってじっと動かない様子を鯨類の行動ををよく知るベアッツイは「(その)絶望感に圧倒された」と記述している。
彼女の運命が変わる兆しを見せたのは、2015年、非営利団体の粘り強い抗議や訴訟の結果として、NOAAが飼育下にあるロリータ(トキタエ)を彼女が所属するサザンレジデント同様に絶滅危惧種法にリストすることになったからだ。即時解放は、50年間もの長期的な飼育下にあるシャチにとってリスクが大きいとNOAAは判断した。しかし、2022年になって、ロリータ=トキタエは改正した動物福祉法の対象となり、一般への展示も禁止されたことやその飼育状況の改善も求められていることから、新たな持ち主にとってもメリットは無くなったのだろう。
彼女の移送までの期間は早くて今後2年のうちが約束されている。サンクチュアリという環境が彼女にとってどう働くかはわからない。しかし、現在の貧弱な飼育環境から、彼女が健康であるうちに一刻も早く解放されることがのぞまれる。
最近のコメント