« ストランディングレコード(送付感謝) | トップページ | 生物多様性国家戦略の検討 »

2022年1月14日 (金)

日本の海生生物・保全と利用のギャップについて

 一昨日、久しぶりに鯨研通信が届いた。第491号、発行日を見ると2021年9月とある。ははあ、さてはIKAがもう消滅したと思って発送しなかったな。ところが、年末にIKAニュースが届いて(あれ?まだあったわ)と、律儀に送ってきたんだな、ととりあえず感謝。

鯨研通信は、こちらのニュースと「交換こしよう」と言ってきたのはあちらであり、それから多分20年近くだと思うが、ニュースの交換は続いてきた。普通は入手できないような情報に触れることができて、たとえば、希少個体群、J-stockの混獲が日本沿岸で広域で認められたことなど、使わせていただくような資料もある。

今回は、資源調査にドローンを使っているという報告で、スナメリに関する調査も昨年行われたことを知った。ただし三河湾だけ。

また、「水産白書」に見る捕鯨論という小野征一郎という方の寄稿文もあったが、それを見ると、政府の白書であるにかかわらず、なんだ、捕鯨推進プロパガンダをそのまま使っているじゃないか、という今更ながらの残念感があった。まあ、書いた方自身そのスタンスに一分の迷いもないから書いたのだろうけど、参考文献として(水産白書のではない)、都合よく真田さんや佐久間さんの書いたものを利用しているのもどうかと思った。

まあ、日本のご立派な水産学者先生の(多分)多くが、確信的であるかないかは別として、捕鯨推進の立場の擁護をしているのだから驚くこともないが。

そういえば先だって、生物多様性国家戦略の新たな策定に向けて、ちょっとした意見を環境省に申し上げたので、その要約を書いてみようと思った。

ちなみに私が国家戦略の策定プロセスに何らかの意見を言ってきたのは2002年の新戦略以来なので、驚くことに、20年間もいちゃもんを言い続けたことになる。初めて国家戦略が策定された時は、各省庁が勝手に書いたホッチキス留めであったので、新戦略の担当課長は大張り切りで、きちんとした戦略を作り上げようと部下に発破をかけた。また、一部ではあるがNGOからの意見も聞く場を設けた。しかし、海洋に関しては、環境省と水産庁がきっちりと縦割りを維持しており、捕鯨については、水産庁が推進の立場を意気揚々と述べるという感じで、鯨が魚を食べすぎて漁業者が困っているみたいなことも平気で書いていた。環境省の担当者に、あんな科学的でないこと書いたら恥ずかしいでしょ、と削除してもらおうとしたが、水産庁は聞き入れない。しかし、局長の懇談会で図らずも、海生生物の保全と管理についてフロアから発言して受け止めてもらうという第一歩があった。

と、ちょっと脇道に逸れたが、昨年末のIKANの意見を少し書いてみる。

・国家戦略における海洋の部分は20年経ち、当初から見れば前進していると考えられる。COP10前後には、海洋生物多様性戦略がつくられ、また、条約で求められているEBSAs(重要海域)選定も行われた。海洋生物レッドリスト作りもあった。

・しかし、一方で、環境省は相変わらず、陸を主眼とし、広域であるにかかわらず、海の保全には及び腰である。今回の国家戦略研究会を見ればわかるように、海洋の専門家は12人中たった一人でこの状況は数年来変わっていない。課題においても海洋に関しては乏しい。

・2017年の種の保存法の国会議論での問題指摘に対し、当時の山本環境大臣は、環境省は船舶を持っていない、と答弁した。船に言及したのは初めてではあるが、これまでも悉く海洋に及び腰の理由として「データがない、予算がない、人もいない」ということを挙げてきた。しかし、水産庁と同じ規模で実施する必要がどこにあるのか?水産庁が持つデータなり予算なり人なり、船で得られるものを水産庁を手足として利用すればいい話で、これは「生物多様性基本法」によって国家戦略が国の法律になっているので『筋」である。

・なかなか、力関係で弱いというのだろうが、現在、増加を求められている海洋保護区に関して、重要海域の科学的根拠によってより頑健な保護区設定に向けて前進してほしい。

・また、部局内での強固なスクラムも実現のためには必要だ。

・たとえば、海洋のレッドリストの問題がある。ほとんどの市民も知らない魚1種を情報不足種としてリストしたほか全てを普通種にしたり、国際的に管理される種については評価しないことも鳥の場合とは異なる。国会でも問題となったレッドリスト見直し検討を早急にすべきだ。

・また、鳥獣保護管理法における80条の削除も必要だ。2002年に全ての野生鳥類、哺乳類を同法対象としながら、「他の法律で適切に管理されている種」として多くの海生哺乳類が対象外とされている。目的の異なる水産庁が「適切」に管理しているかどうかの検証も行われないまま、対象外にし続けるのは科学的ではないのではないか。

・重要海域選定の根拠となる科学的データが不備であることは、海洋保護区設置にも支障をきたす。

・最後にボン条約の批准を早急にすべきである。2019年から商業捕鯨が開始され、国を超えて移動している可能性のあるクジラが捕獲され、市場流通している。保全と利用を旨とするならば、バランスを欠いた状態である。

 

 

« ストランディングレコード(送付感謝) | トップページ | 生物多様性国家戦略の検討 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。