イルカ猟が始まる
まだまだ、残暑の激しい今日この頃だが、毎年9月の声を聞くとイルカ猟開始がまず頭に浮かぶ。
和歌山県太地でここ数日、若者たちのイルカ猟反対デモがあるようだが、一方で海保が(シーシェパードを想定して)海上での抗議行動への対処訓練の報道がある。海外から、この時期にわざわざ船で捕獲阻止に来るとはあまり考えられず、海保の訓練は、問題の解決からすれば税金の使い道を誤っているように感じる。
政府は、これまでも鯨類は水産資源だとして、捕獲、利用を推奨してきた。取る側の言い分として「伝統的な日本の食」を前面にしているが、その実、イルカ猟で潤っているのは追い込みによる生体の捕獲のみのようだから、この口実は実際に捕獲し続けているという既成事実の上に成り立っている説得力に欠けるものではある。
欧米を中心に海外で生体展示に対する風当たりが強まる中、日本での生きたイルカ捕獲はアジアや中東を中心に国際的にも重要な供給源となっており、イルカ猟師としては旨味のある業を早々簡単には捨てないだろうと思われる。水族館におけるイルカの飼育がどれほど酷いか、という情報の提供も今のところ馬の耳になんとやらのようだ。町としても、そうした生業の人がいる限りは支援せざるを得ないと町長は言っていたが、持続性に関していえば、需要の将来的な動向(肉の需要は限定的で、野生個体の展示という需要がどれほど続くのか)と同時に、イルカそのものの生息も問題だ。
それでも一応、反対の声を意識してか、イルカ捕獲についても不十分ながらかつてよりもきめ細やかな情報提供もするようになってきている。
http://kokushi.fra.go.jp/R01/R01_49_whalesS-R.pdf
ただ、延べ50〜100日の主要な種の目視調査+大型鯨類の調査に付随した調査で、それぞれ複雑な社会構造を持つハクジラ類の調査として十分と言えるのか、捕獲個体や座礁・混獲個体の調査で「系群(個体群)構造」の理解がどの程度進むのか疑問であり、そもそも、イルカの生息調査として、推定個体数がメインという方法が最善と言えるのか。
実際に、2007年に「沖合に別の群れがいた」とされて捕獲枠が拡大したオキゴンドウは、沖縄では少しばかり捕獲されてはいるものの、太地での実績は、2018年までの捕獲は、(2011年の17頭を例外として)枠70頭に対してゼロである。
もともと肉として需要の高かったコビレゴンドウ(マゴンドウ)や生体捕獲で一番人気のバンドウイルカも、枠を遙かに下回る状態で、2017年にその代替としてカズハゴンドウとシワハイルカが対象となった。
これらは、猟師たちとしては取りたい種だからこそ、取れない現状は問題だと考えるのだ。
太地での追込みの詳細に関しては海外NGOが情報を公表しているのでそれも参照してほしい。
https://www.cetabase.org/taiji/drive-results/
ちなみに今年度の捕獲枠は以下に公表されている。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/attach/pdf/index-51.pdf
イルカ猟に反対するIKANではあるが、双方の埋めがたい溝を考えた時に、問題解決の方向として日本沿岸のイルカの生息実態の解明がまず最初だと思っている。上記の水産・研究教育機構が真摯に現況を公開してはいるが、その現状把握にはさらに第三者的な検証が必要だと思っているので、まず、保全の観点から環境省主導での調査が行われ、その結果に従ってつぎに資源管理を行うというやり方が良いのではないかと思う。
残念ながら、環境省は水産庁の資源として扱われる種に関与するのには積極的ではないのは、2017年に発表された海のレッドデータの歪みで明らかだろう。また、官僚の中には「資源管理に予防原則はなじまない」という発言をするところとの官庁との調整は容易だとは思われない。しかし、今後の日本沿岸の生物多様性の保全はもちろんのこと、利用する側にとっても持続的に管理されることは今後必要だはないだろうか。特に現在のような危機的な海洋環境を考えれば尚更。
少なくとも、2017年時点で行った太地の関係者との意見交換では、その点までは合意できたと考えているのだが。
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