安易、不正確、そしてフェイク
3月31日昼過ぎに日新丸船団が南極から帰ってきたということだ。
元号が発表されるという騒ぎに隠れて、4月1日になって、大本営発表もあった。
そして、いつものように安易で不正確な歓迎の記事も。
船に乗っている人たちはお仕事なのだし、悪く言うつもりはない。また
記事の書き手が過酷な環境に耐えた乗組員たちに感情移入しがちなのは仕方ない
かもしれない。しかし、どの報道も、かつては(大小の差はあれ)調査捕鯨に対して
批判、あるいは疑問を呈したことがあると思われるのに、今回はそれがまったく触れられていない。
「例えば、毎日新聞。関係者や船員、船員の家族ら計約200人を集めて開かれた式典で、
<水産庁の長谷成人長官は「30年間の調査で集めた科学的情報は人類の財産と言える」と調査捕鯨の意義を強調>
’人類共有の財産’を反対を振り切っての捕獲は、それほど世間に喜ばれているようには見えないが。
まあ、それはそれでいいとして、31日付の読売新聞の書き方はちょっと問題だと感じた。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20190330-OYT1T50239/?fbclid=IwAR3QCau8n8FlSTqUuiVAOmpkMHv_AY
(ログインしなければ読めないが、問題を感じたところは)
「地道な調査捕鯨で生態や生息数を明らかにし、国際的に高い評価を受けてきた」というくだりと、
(その結果として)51万頭という生息数が確認できたというところ。
殺して生息数が明らかになったという話はこれまで聞かない。生息数は目視調査で、船は日本が提供して
IWCのSOWERというプロジェクトで2008年まで行われた。また、個体数の推定は、過去の捕獲数をもとに、
科学委員会でいくつものシミュレーションを検討し、その中の精度の高いと思われる選択肢を本会議に提示し、
本会議で2012年に合意されたのが51万頭で、必ずしも’調査捕鯨が明らかにした’ものではない。
4月1日の記事では、「・・調査捕鯨を続けてきた。調査で得られた科学データは、広大な海域に生息する
鯨の数や生態を明らかにし、世界の研究者から高い評価を得てきた」と微妙に変わっているが。
殺す調査は必要ないと再々言われ続け、それでも耳垢をとって年齢を査定するのが重要だとし、
代替の方法が示されても変えようとしなかった。(確か、海洋大学である教授は「だって、年はわかっても
何ヶ月かという細かいことはわからないでしょ」とおっしゃったのを聞いた覚えがある)
また、捕獲調査で明らかにするとしてきた性成熟や妊娠の有無、何を食べているかなどは別に殺さなくても
調べることができる。(何を食べているかなどは、殺した時に何を食べていたかではなく、もっと長いスパンで
の食餌のあり方を調べられるそうだ)
よく、日本だけが科学的とか、科学調査をやっているのは日本だけという主張があるが、何も殺さなくても
調査はできるのだし、実際に多くの科学者が例えば、ミンクが南極でどのように餌をとっていて、他の
クジラたちと競合しないようにしているか、とか、どの海域で繁殖しているかなど公表してきた。
日本のメディアはあまり熱心にこうした報道を行わないようだが。
商業捕鯨が再開される7月直前まで北西太平洋の調査捕鯨もやるとかいうニュース(山口新聞)も
あったが、ワシントン条約でお約束したイワシクジラ捕獲の許可を出さないなら、調査捕鯨の許可
を出してもOKということか。
報道する人たちは、これまでの様々な批判と自ら調査捕鯨について示した疑義を思い出し、「お帰りなさい」
と言うだけではなく、批判すべきところはきちんと批判すべきだと思う。
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