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2018年10月 1日 (月)

海洋資源の持続可能な利用とワシントン条約:グローバルな規範形成と日本の対応

9月26日、早稲田大学グローバル研究所主催の掲題のシンポジムが開かれた。事務局の一人として関わったことから、書くつもりであったフロリアノポリスでのIWC67総会の詳細報告の前に、少しその感想を書いてみようと考えた。

ご存知のように、日本は現在水産資源のみ21種をワシントン条約の留保対象として来た。それに関しての国内全般への十分な説明はなく、省庁間のうちわの議論のみで行われて来たことで、その検証作業は知った限りでは実施されていない。
そのような状況の中、アカデミックな場で多様な主体による検証が行われることは快挙と言えるものだが、今後に向けて、いくつかの問題を感じた。
まず、趣旨説明が行われなかった。代わりにワシントン条約の簡単な紹介があった。残念ながら、これがこの後の議論の深化に多少とも影響を与えたような気がしている。

最初の演目は「ニホンウナギの保全と持続的利用:現状と課題」で、中央大学の海部健三氏の話だ。
いつも思うのだが、彼の言葉はその実績に支えられており、非常に明快で訴える力が大きい。彼の人気の所以だと思われるが、今回も、ニホンウナギの現状とともに、持続的な利用を可能にするためのポイントが「消費速度の低減及び再生産速度の増大」として語られた。シラスウナギを含めて、漁獲の制限と生息環境の回復が必須だが、いずれも実現されていない。対策の実現の中で、ワシントン条約という国際取引をどのように使っていくか、その役割の明確化を訴えた。
「ワシントン条約は敵か味方か:サメの管理を例に」は東北大学の石井敦氏によって話された。サメの生態とその科学的地検の不確実性を出し、サメを条約の規制対象とする動きを紹介。しかし、日本はこれに一貫して反対してきた。理由としては、(他の水産種でもそうなのだが)ワシントン条約には管理するノウハウがないので、むしろ地域漁業管理機関の管理が適切だというものである。彼の主張は、ワシントン条約を漁業の敵とみなすのではなく、資源管理にとって相補的に利用したほうがいいという提言であった。
しかしここで、水産庁の太田審議官が噛みついた。彼の話の流れにある幾つかの事実について可否をただし、日本政府の立場を正当化したのだ。しかしこれは、彼の提言を損なうものではないし、むしろ、どのような相補的な利用が可能なのかというより深い議論に持っていくことで、今後の資源管理の問題を明らかにできたと思う。しかし、審議官に唱和する会場からの石井氏の主張が「主観的だ」などというあまり生産的ではない意見もあって、せっかくの提言が生きなかったのは残念。

次は、水産研究・教育機構の中野秀樹氏による「大西洋クロマグロCITES掲載の顛末」という1992年から何回か、ワシントン条約で提案されてきたクロマグロの附属書掲載提案が、もしかしたら地域漁業管理機関における資源管理強化の推進に役立ったかもしれないというような話で、やはりワシントン条約と地域漁業管理機関との関係を俎上にあげながら、資源の管理に重点を置いた話題提供だった。
本来はこの3つのテーマの話を検討して次に繋げる作業が必要だったのだろうが、ワシントン条約による規制が正しい在り方かどうか、のような矮小化された議論に終わった。
ちなみに、日本の漁業管理には、予防原則があまり重要視されていないようだ。

もともと、このシンポジウムは10月1日からロシアのソチで開催されるワシントン条約常設委員会を意識して行われたものだ。その中でも、日本のいわゆる‘イワシクジラの海からの持ち込み’が条約違反に当たるかどうか、という判断が行われるということに関して、メディア等を通じて広く一般に知らしめることが大きな目的としてあった。この点について、午後のセッションでゲストスピーカーとして来日したアメリカ、ルイス&クラークロースクールのエリカ・ライマン教授のプレゼンテーションがあった。
ワシントン条約では、絶滅の恐れの高さによって国際取引を規制している。その中で最も規制の強いのは、附属書Iに掲載される野生生物で、一切の商取引が認められていない。今回の北太平洋のイワシクジラはこれに該当し、また日本が数多く行っている留保品目には入っていない。
ワシントン条約では多国間における取引の規制が行われているが、海洋に関しては、公海で捕獲され、自国に持ち込まれるものについて「海からの持ち込み」という規定がある。付嘱書Iに掲載され公海で捕獲され、持ち込まれるものに関しては、調査目的であることが前提となり、商業的な流通は原則認められていない。日本の場合、イワシクジラの調査捕鯨による捕獲された肉の国内への持ち込みが、この規定に反するという議論が昨年のワシントン条約常設委員かいで大きな議論となり、その結果、日本は追加質問に答えること。そして事務局による調査団の派遣を受け入れることを条件に、今回の常設委員会に結論を先延ばしにした。
ライマン教授は、この結果が事務局によって商業的な利用が主目的である可能性が強いとして、常設委員会に対して「違反認定しない場合は条約規則や諸決議との間に不整合が生じる」と訴えている。
日本は、北西太平洋でのイワシクジラの捕獲は、国際捕鯨委員会で認められた8条の規定によるものとしているが、捕獲の科学性や妥当性の是非を問題にしているのではなく、その製品が陸揚げされてからを問題にするのだという。
彼女は、決定は常設委員会の仕事としながら、公海で解体され、一部の調査用のサンプル以外の大部分が可食部分として処理され、陸揚げされて調査機関に所蔵されるのではなく、共同販売という鯨肉の販売会社に保管され、学校給食やレストラン、通販などで広く流通されている事実を指摘。商業的な流通というのはもしそれがすべて次回の調査捕鯨の費用に充てられるとしても、また事実上の利益を生んでいなくても、利益を得るための行為であることを明らかにした。
また、このケースそのものが、ワシントン条約における遵守規定の大きな試金石になると指摘し、常設委員会の決定に期待した。
(2に続く)

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