IWC67会議報告−3日目
3日目は、先住民生存捕鯨の議論の続き。2日会議終了後にコンセンサスを得るための合意形成が図られ、幾つかの修正が行われた。例えば懸念が表明されていた自動更新に関しては、合意されたタイムラインで情報の提供を行い、6年ごとに総会で安全性について検討し、変化が認められなければ更新すること。また、キャリーオーバーに関しては、科学委員会での確認を行うなど。また、クジラの捕殺に関してもロシア側から福祉レポートを出し、改善するとされた。多くの国が改善に感謝し、支持を表明。しかし、中南米諸国の中でのWWに依存する共同体への影響が検討されていないなど、まだ懸念を示す国があり、結局は採決に。
結果は、先住民生存捕鯨に関する附表修正に賛成の国は58、反対7、棄権5。
次の議事は、科学委員会の報告。
ヒゲクジラ
個体数に関する評価の見直し。同じデータセットを使い、評価プロセスを均質化。資源が回復しているか/したか/懸念があるかに関する評価を繰り返して、どこに問題があるかを見ていく。
懸念:北太平洋セミクジラ 漁網による絡まりや船との衝突が要因。アメリカ、カナダの当局と協力にして保護を推進。
オホーツク西部のホッキョククジラ(ASW対象外)石油、ガス掘削が脅威。フィールドワークを再開し、隔年モ
ニタリングを推奨。
メキシコ湾 ニタリクジラ 衝突海部のための航路変更、漁具の管理など。
南アフリカセミクジラ 長期的モニタリングが必要だが財源が不足している。
小型鯨類
ハンドウイルカの分類が最終化された
懸念:揚子江スナメリ 2020年までに揚子江全体で漁業禁止措置をとる。
インダス、ガンジス、イラワジカワイルカ それぞれ重大な懸念(イラワジ、刺し網が脅威。メコンダムの開発
が生息域を破壊など)
コビトイルカ(ブラジル、ボリビア、ペルーにまたがる)運河建設による脅威。混獲、らもうなど。
ハンドウイルカ(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ)個体群サイズが小さく、混獲や皮膚疾患により減少。
漁業用の餌としてのアマゾンカワイルカ捕獲懸念。
生体捕獲を行っているオホーツク海のシャチへの懸念も示された。カムチャツカ海域のシャチは、定住性、移動性の2つのエコタイプがあり、個体数も少なく、それぞれに管理が必要な状態であるにもかかわらず、ロシア当局が捕獲許可を出してきた。
議論が開始され、まず、モナコが科学委員会の作業が他の機関から評価されるようになっており、より強化して国際的にもリーダーシップをとるべきだと意見。
毎回、懸念が示されるメキシコ湾のバキータ(コガシラネズミいるか)に関しては、長年その調査、研究をしてきたメキシコ代表(保全委員会の議長も務める)が政府の取り組みを紹介しつつも、バキータが混獲される原因になっているトトアバの密漁について、取引額がコカインよりも高値を呼んでおり、場合によっては1日で16万ドルも稼げる現状を訴え、生息域の北側で取締が弱いことを示した。トトアバを利用してきた中国が前回に引き続き今回参加していないので、国際的な防止策には至らない。
イギリスが小型鯨類基金に1万ポンド提供。(後ではNGOもアジアのカワイルカに、と支援の申し出。こうしたボランタリーな資金提供が小型鯨類の調査や研究を支えている)
アルゼンチン、ブラジルなどが自国の保全計画等の取り組みを報告。
報告書は採択された。
次の議題は「鯨類の健康と疾病」
ブラジルのギアナイルカに特殊なウィルスが発生したことやアメリカ西海岸の有害な藻類の発生などの報告がある。
次は「個体群分類」
ノルウェーがDNA解析を今後マイクロサテライトに変える、など。
「鯨類の環境」
IWCのSOCERプロジェクトで気候変動問題に取り組む。
CCAMLRや南極条約との協力で氷縁後退などに対処。
チリが主体となって、前回の決議に次いで、鯨類の生態系への機能向上貢献を理解し、ボン条約など国際機関と協力してより強力に科学委員会と保全委員会にその理解の前進を促す決議案を提出している。
IWC_67_17_rev1.pdf
こうした研究は最近とみに増えてきており、クジラの二酸化炭素の貯留機能、死体が深海の貧弱な生物多様性を豊かにしていること、糞による中層、海面などの生物多様性への貢献など、様々な形で報告されてきており、人間の肉の消費と比べて多様な形で海洋生態系に貢献していること、したがって今だけではなく将来にわたって、人類にも貢献するのだろうことは理解できる。
しかし、これは私の個人的な偏見かもしれないのだが、わざわざ決議として残すことで、こうした生態系の複雑さを強調することが両方のサイドの合意形成に資するか?という疑問が前回決議の時にもあった。(中学、高校とミッションスクールで、文句なしに素晴らしい宣教師の先生たちに育まれた私の感性がいじけて発露するのだろうか、そうした親切な’教え’が必ずしも人々の理解に有効だとは限らない、むしろ溝の深化となるのではないか?という猜疑心がある)
早速、捕鯨推進勢力からの反発意見が出てくる。
日本「鯨類だけ取り上げて、それぞれの役割を無視している。大体、条約の趣旨を無視した決議案で立場の異なる人たちが受け入れるは難しい」
ノルウェー「日本の賛成。栄養段階は環境により変化する。例えば、鯨の餌生物の分布にも影響されるもので、1%未満の捕獲で大きな影響があるとも思えない」
アイスランド「生態系アプローチは重要で力を入れるべきだが、科学委員会は10年以内には評価できないと言っている、知見を深めるのはいいがだから他のことをストップすべきではない」
採決の結果は、決議案支持40、反対23、棄権7、欠席1
次は鯨類への汚染問題。SOCERプログラムで汚染物質のマッピングツールを作る。各国政府の汚染物質に関するモニタリングプログラムを推奨。北極海航路の活発化による重油汚染への懸念など。
報告/勧告採択。
海洋ゴミに関しての議論。ブラジルが、放置された漁具に絡まる鯨類に関する決議案を出している。
IWC_67_11_rev2.pdf
IWCではら網に関するワークショップを行い、その対処法を開発、ネットワークを組織して対処してきている。
各国政府に自主的な報告の提出をうながし、ら網に関する能力開発を行って鯨類のら網による死亡を減少させることが目的。
日本は、委員会の管轄外であり、FAOや IMOが取り上げるべき課題だとしたが、他の機関の作業と重複しないという文言を入れることにより、採択を妨げないと発言。
各国が自国での取り組みを紹介。
追加文章を含めてコンセンサスで採択。
次は人間由来の水中騒音。
科学委員会と保全委員会の合同報告書。
EUを代表してオーストリア他から決議案が出ている。
人間由来の水中騒音としては、船の航行や地震探査、海中油田などの掘削、ソナーなどによる騒音が激しくなってきている。
特に音響に依存している鯨類に関して、科学委員会と保全委員会の協力のもと、影響を把握し、SDGs14にある2030年の汚染削減目的に向かって、IMOや CMSなどとも協力しあって削減に努める。
IWC_67_05_rev2.pdf
オーストリア代表は、確か2000年の時点で他の国に先んじて、低周波ソナーなどによる水中騒音に関する意見を述べた人だ。水中騒音による影響を各国代表は認めながらも、IWCの管轄ではない、などの意見が出る。また、現在国連海洋法条約で議論されている国家管轄外の生物多様性(BBNJ)に関しては決議に収めるべk智慧はないという意見もあって、削除するが、その上で採択。
次は保全委員会の混獲に関する報告。15カ国参加で行われたワークショップに関しての報告書が出ている。2018年から2020年に向けての混獲イニシアティブが常任委員会では採択されているが、財源が乏しく、拠出を求めた。NAMCOも混獲が捕鯨以外の脅威であると認識し、作業部会を設置したようだ。
次にフロリアノポリス宣言。
鯨類の非致死的利用の推進を訴える内容。
鯨類が生態系の機能に重要な役割を果たしていること、また自然界と人々にとって貢献していること。沿岸共同体、とりわけ途上国の人々にとって非致死的な利用が目覚ましい利益を提供していることを強調している。
さらに、21世紀の委員会はとりわけ鯨類の個体群を捕鯨前のレベルに回復させることに合意し、商業捕鯨モラトリアムの継続を再確認する。また、今日では数多の非致死的な調査方法が確立され、致死的な調査は不必要となったことも指摘。
先住民生存捕鯨が先住民共同体にとっての利益になるよう委員会が保全と管理の目的に沿い、また猟師の安全性とともに鯨類の福祉にも叶う方法を確認。
国連とその下にある環境条約と連携して鯨類保全を推進することを求めている。
IWC_67_13_rev1.pdf
「IWCの将来」と題した日本提案が出されてから、対抗措置として出されたように見えるこの提案は、最終的に、4日目の朝に採決に付され、42対27で採択された。
ここのところ、IWCを環境条約と考える認識が確かに広がっている。すでにほとんどの国が捕鯨産業から足を洗うか、関わったことがないかであり、捕鯨そのものに対してよりも、クジラの保全に強い関心を持つ国際世論が形成されているのは不思議でもなんでもない。
しかし、一方で国内に捕鯨産業を抱え、あるいはクジラを水産物として扱うことを良しとし、この条約は「漁業協定」だと認識してそれ以外のことは関係ないと考えている国々もあるわけだし、この違いをどうやって埋めていくのか
を考えるか、国際世論の動向だからそうした少数意見は押しつぶして構わないと考えるか、ということは今度こそ重要だと思える。
日本は、一応背水の陣を引いて、漁業協定であるという立場を明確にし、それを否定されたわけであり、今国内でごちゃごちゃしているIWCを脱退するとかしないとかの話もその延長線上にあると理解できる。
が・・・
しかし、ここにきて、日本がやるべきことは他にあるのではないだろうか?
私たちはこれまで、問題解決に向けて日本国内での捕鯨関連産業や鯨肉流通の実態を明らかにし、問題の解決を図ってきた。これまで日本がうやむやにしてきたことー誰を守りたいか(共同船舶なのか、地域の漁業者なのか)、どこが重要だ(商業捕鯨の再開が必要なのか、限られた鯨肉の供給を守りたいのか)と考え、残したいのかなど、日本のいわゆる’原理原則’としてきたものではなく、現実に即した解決法を真摯に見出し、そこに限って粘り強く要望していくことを考えるべきではないのか、と今回会議に参加して強く思うようになった。
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