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2018年9月21日 (金)

IWC67会議報告−2

<保全か保存か、それとも保護か?>

3日目に日本の提案する「IWC改革案」の議論が行われ、(オーストラリア代表の「なんでコンセンサスが得られないとわかっているような提案を?」というツッコミもあった)議論がだいたい出たところで、議長がNGOの発言を認めた。最初にIWMC,WCT, GGTなど日本支持の3つのNGOの発言の後、IKANの発言する機会がやってきた。

「japan_way_forward_intervention_final_1.pdf」をダウンロード


「1982年に採択されたモラトリアムがクジラの個体数管理として最も成功したものである。モラトリアムについて、IWC内に異なる意見があるが、この提案は時宜に際して後退でしかない。
この提案についてコンセンサスでの採択を求める日本の態度に感謝するが−今回すでに多くの反対する国々から意見が出ているように−これは可能なことではない。この提案は、日本のこれまでの意見の延長線にあり、コンセンサスに至るようないかなる新たなアイデアも入っていない。

さらに私たちは以下の理由でも提案に反対する:
提案される「持続的捕鯨委員会」は、商業捕鯨に再開に反対する国やオブザーバーのが議論に参加することを認めていない。これにより、IWC内でのコンセンサスに至るあらゆるチャンスを潰し、クジラ保護に貢献するためだけではなく、責任ある海洋資源管理の基礎でもある<コンサーベーション(保全)>に矛盾するものである。
附表の修正の元での投票規則の変更により、過半数採択は、IWC内における商業捕鯨再開のための障壁を取り除くことにはならない。この方法は、包括的な議論の妨げとなり、より多くの票の獲得のための競争を引き起こすので、結果としてだれかが勝って、だれかが負ける元になる可能性がある。

この提案がもし通過するならば、商業捕鯨モラトリアムが無効になるだろう。モラトリアムは、商業捕鯨により、乱獲と害のある違反行為でクジラの個体群が絶滅の縁に追い込まれた資源管理の失敗のため、独自に開発されたものである。モラトリアムの無効化は、この数十年、回復途上にあるクジラ個体群の回復を反転させる恐れがある。
一方、私たちは、専門的な多くの議論に感謝し、より多くの議論が政府、オブザーバーにより取り交わされることを支持し、この提案に強く反対し、取り下げられるよう求める。」

発言の前に、日本語の通訳の方に、この「コンサーベーション」という言葉を‘保存’ではなく、‘保全’と訳して欲しいとお願いした。日本政府がこれまで官製の訳として、コンサーベーションを‘保存’、そしてコンサーベーションコミッティを‘保護委員会’と訳して来たのを知っていて、機会があったらなんとかしたいと思っていたからである。保存という言葉では「責任ある水産資源管理の基礎」とあきらかな矛盾が生じる。
日本政府は、捕鯨に関する立場の違いを整理しようという気がないばかりか、溝を際立たせるためにこのコンサーベーションという言葉をわざと‘保存’としているのではないか、と疑いを持ってきたからだ。

「守る」という言葉には、3通りの言葉がある。普通の辞書ではそれぞれの違いは書かれていないので、こだわるな、という向きもあるかもしれないが、環境・自然保護の分野では結構厳密に考えられている。
例えば自然“保護”協会の以下の文章。

https://www.nacsj.or.jp/archive/2000/03/1078/

かつて、自然というのは手をつけずそのままが良いとされて来た。プリザーベーション(保存)という考え方である。
プロテクションは(保護)だが、守ることというかなりあいまいなところにある。
それにたいして、コンサーベーション (保全)は、人の介入を含む広い範囲でのいわゆる守ることを指しており、今時の自然保護活動としてはだいたいこの言葉が使われている。ただ単にそのまま守るというだけではなく、より良い状態に持っていくために管理するという考え方が入る。この条約の趣旨である保全と管理がこの言葉に込められているという見方もできる。1946年に出来た条約前文にもこの言葉があって、それによって健全な捕鯨産業・・・というくだりもある。

IWCにコンサーベーション ・コミッティ(日本訳は保護委員会)が提案された時、日本政府が反対した大きな理由は、ICRWの目的である保存と管理のうちの1つだけしか目的としていないというようなものだったと記憶している。今回の提案に含まれている持続的捕鯨委員会は、だから(殺す、殺さない)2つの委員会がIWC内に存在することでバランスが取れるというのがその主張である。ここで‘保護委員会’の仕事に管理が入っては理屈が立たなくなる。
実際は、CC(conservation Committee)は、混獲に対しての取り組み、緩和策、絶滅に瀕する種の保全に取り組み、また、ホエールウォッチングのガイドラインづくりなども行ってきた。
こうした取り組みはいわゆる‘保存’で語れるものではない。また、殺す行為に対して、保全することが将来的にもし捕鯨が可能となったとしても、こうした管理はその妨げにはならない(最も人々に保護意識を植え付けて捕殺に反発をもたらすかもしれないが)。
だから、2つの委員会が同列ではないことを強調すべく「保全は責任ある水産資源の管理の基礎」という言葉をあえて入れた。最初、この言葉に反応する所もあるかも知れないと思ったのだが、これに反発するNGOはなく、多くの人から「とてもよかった」と評価されたのはうれしかった。
その日の後半は、偶然かどうか通訳さんが「保全」という言葉を何回か使って、あれ?と思ったが、翌日にはすっかり保存に戻っていた。

(この日のIISD報告の中にインターベンションの時の写真が掲載された)
http://enb.iisd.org/iwc/67/13sep.html

2018年9月19日 (水)

IWC67会議報告−1

 9月10日より開催されていたIWC国際捕鯨委員会の本会議が14日に終了した。
ご支援くださった皆さんにお礼を申し上げるとともに、少し遅れてしまった報告をお送りしたい。

今回の会議に関しては、IWC事務局のライブストリームもあり(フランス語、スペイン語はポルトガル語訳だったそうだが)、また、国際環境会議の報告をしているIISDが詳細報告をしているので、かなり内容的にも透明度が高まったと思う。日本語訳もあれば、もう少し大本営発表の虚しさがわかろうというものだが。

http://enb.iisd.org/download/pdf/enb3402e.pdf?utm_medium=email&utm_campaign=2018-09-03%20-%20IWC%20Brazil%20-%20ENB%20-%20English%20-%20Summary%20SW&utm_content=2018-09-03%20-%20IWC%20Brazil%20-%20ENB%20-%20English%20-%20Summary%20SW+CID_1eaf185e75c07c32577ff2b4bce9a3af&utm_source=cm&utm_term=PDF

67回会議は、まず、世界的にクジラの非致死的利用の流れが定着してきたことが確認できた会議だった。
フロリアノポリス宣言の採択 (拘束力はないが)で明らかなように、捕鯨よりも沿岸地域における小規模、零細漁業者によるホェールウォッチング産業の振興が評価された。
今時、捕鯨のための大型船団の造船や維持は採算が合わないことが明らかになっており、それよりも地域漁業者の運営と観光、地元住民の組み合わせによる非致死的利用の方が現実的で開始しやすいだろう。
それに合わせて、IWCはガイドラインを策定し、このほど、オンラインで入手可能なハンドブックを公開している。

もう一つ、管理の前進としてあげられるのが、先住民生存捕鯨(AWS)の捕獲枠の更新とそれに伴う諸条件の整備で、これまであった先住民の方々の不満を概ね解消できるものとなったようだ。求められたコンセンサスとはいかなかったが、先住民生存捕鯨の必要性では一致するも、例えば捕獲枠の自動更新は今後問題にならないのか、セントビンセント&グレナディーンのアメリカの捕鯨者が持ち込んだヤンキー捕鯨が果たしてASWなのか?など積み残し課題が残っているので、反対票があったことは結果としては良かったと思う。

さらに、管理能力における瑕疵だった日本の調査捕鯨に関しては、前回、評価のための常設作業部会の設置が採択され、実際に、かなり満足のいく仕事を果たした。常設委員会議長は、オーストラリアのニック・ゲイル氏で、今回報告では評価を行なった専門家パネルの報告書や科学委員会の議論を一般でもわかるように噛み砕いており、好評だった。また、調査捕鯨の商業性が指摘され、この報告書が採択されるかどうかでもめたが、結局は議長サマリーに収められることになったのは管理における成果と思われる。

実際、留保の上で商業捕鯨を実施している、ノルウェーでも枠をこなしきれず、またアイスランドは今年、国内用のミンククジラの捕鯨を、沿岸に設置されたサンクチュアリのために燃油の採算が合わないという理由で休漁となった。もう一つ、日本用のナガスクジラ捕獲を実施しているクバルルは、ロフトソンという捕鯨業者のワンマン経営で、息子は事業を受け継ぐことを否定している。今回選出された首相が緑系ということもあり、政策としてそろそろ捕鯨をやめる選択肢も上がっているようだ。

また、これまでは管轄外であった、小型鯨類についでも、鯨類の専門家の集団を抱えた保全管理組織として国際的にも責任ある対応を取るべきというこえが強まって来ている。

ということで、非致死的利用の流れは収まりそうにない。
捕鯨を継続したい日本は、主張する沿岸国の権利と、コモンズである鯨類の捕獲に関して今後どのような国際合意を求めていくのか、慎重に、地道に検討する必要がある。
一方で、IKANとしては、少数意見を簡単に押しつぶすような方法ではなく、柔軟で受け入れやすい撤退の方向性を示してほしいと思っている。


20180913nanami2

photo Junko Sakuma


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