国家管轄権外区域の海洋生物多様性保全と持続可能な利用に関する協定
『国連が海洋の保護条約協議へ「海洋版パリ協定」』
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/122600139/?P=1
という記事がナショナルジオグラフィックに掲載されたのはまだ記憶に新しいところだ。
国連における海洋に関連した議論や国際的な海洋会議の開催、また、1994年に成立した国連海洋法条約に現状では対応できないところところがあり、時代に合わせた改訂が必要だという議論を目にしてきたことから、この記事はちょっとしたクリスマスプレゼントのように思われた。
2017年12月24日、10年以上におよぶ議論の末に、ついに本格的な条約交渉を行うための政府間
会議を招集する採決が国連でとられた。その結果、これから2年間にわたり、「海の憲法」とも呼ばれ
る「海洋法に関する国際連合条約」に基づいて、法的拘束力を持つ条約の詳細が協議される予定だ。
日本も関与するというような記事を見ていたし、準備委員会が発足した過程も知りたかったところ、1月29日、笹川財団と日本海洋法研究会の共催によるシンポジウムが開催されるという告知があったので早速参加することにした。
シンポジウムは、同志社大の坂元茂樹教授の挨拶の後、以下の7名のプレゼンテーションとパネルディスカッションで構成されていた。
「BBNJ新協定:準備委員会における議論と今後の展望」長沼善太郎(外務省海洋法室条約交渉官)
「BBNJ準備委員会:NGOからの報告」前川美湖(笹川平和財団海洋政策研究所チーム長)
「環境法に湿潤される海洋法ーBBNJに見られるCBDの影響」都留康子(上智大学総合グローバル学部教授)
「BBNJ準備委員会におけるMPAをめぐる議論」西本健太郎(東北大学大学院法学研究科准教授)
「名古屋議定書から見たBBNJ」西村智朗(立命館大学国際関係学部教授)
「サンゴ礁研究ー沖縄をフィールドとした現場からの報告と提言」竹山春子(早稲田大学理工学院教授)
「MPAを含む区域管理型ツールに関する議論:BBNJと漁業」森下丈二(東京海洋大学海洋制作部科学部教授)「国家管轄権外海域の生態系はいかにして保全すべきか?」白山義久(海洋研究開発機構理事)
資料配布はなし。
この顔ぶれをみると、ほとんどが法学関係者で、海洋の専門家、生物関係の専門家がほとんどいない。確かに、協定の準備委員会に至るまでの過程についての長沼交渉官の話はよどみがなく、プロセスはよくわかったのだが、続くプレゼンターの人たちの話も、これまでの準備会合で議論された成立までの問題点とコンセンサスに至るのが難しい障壁の指摘がほとんどで、そもそものところ、なんでこうした取り決めが(しかも拘束力のある取り組みが)必要なのか、という背景については、ここの話では把握できなかった。
他方、他の条約や地域的な協定との整合性を始め、この協定の法的、あるいは実効的な問題性と今後の展望(わからない!)というところについては、官僚もそして国連公認のNGOもほぼ同じ報告というのも奇異であった(例えば、環境への関心が高まったことと、途上国の遺伝子資源の利益配分への強い執着についての言及は今後の展望に関する問題として出されたものの、全体として実に’クール’で、ほとんどが部外者のような発言だった。特にNGOとして、この新協定準備委員会をどのように促し、今後どのような獲得を目指しているのか、政府や関係者に何を求めているのかというところー特に現在の日本における関わりと今後の提案ーが不明だったのはとても残念)。
もしかしたら、海洋の危機というのは十分に共有されている言わずもがなのことで、専門家として発言するのはみっともないと思ったのかもしれない。しかし、一方で、最後に登壇されて公海、特に深海底における生態系と生物多様性の保全の意義を力説された白山義久氏が、いわば基調講演のような形で最初に話されていたら、問題を山積させても、なおかつ見切り発車させなければならなかった海の現状把握と、新協定で可能なこと、不可能なことがはっきりしただろうし、今後海洋保全に向けてどのような展望を切り開くべきかという’海洋大国(?)’日本の役割がもっと見えるようになったのではないか、と思う。
もっとも、産業利益と関係のない、将来世代も含めてすべてが共有できるような国際的な決まりには常に及び腰の日本のことだから、公海の国際的な管理とか、ましてや遺伝資源を巡っての先進国と途上国のせめぎ合いには、さりげなく仲介者のふりをして凌いでいくのが楽なのかもしれないが。
(新協定に至る流れの概要は以下のリンクを参考に)
外務省長沼善太郎交渉官 https://www.spf.org/opri-j/projects/docs/135_BBNJ_1.pdf
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