太地もうで(2)道の駅/公衆トイレ/地方都市における福祉
太地は開放的で明るいところだ。博物館の前の道路は広く、シュロの並木が南国を思わせる風情で並ぶ。町そのものもいわゆる漁師町の風情とは大分異なり、港付近には一昔前の感じの日本家屋が立ち並んでいるものの、小高い丘にあたりでは、ゆったりとした空間に洋風の洒落た建物が多い。清潔で明るく、「貧しい過疎の町」という雰囲気ではない。
前回、太地を訪れた時、話題になったことの一つは三軒町長が力を入れている福祉の問題だった。高齢者福祉のためのノンステップ循環バス、町のあちこちに置かれた木のベンチ、そして公衆トイレ。町長はとりわけ公衆トイレの清潔さを重視し、全てをエコタイプの水洗トイレに変えたことがご自慢だった。
今回、話に聞いていた道の駅のトイレを使用し、その高級ホテル顔負けの設備にびっくりした。だから当然ながら、会見の最初に私が口にしたのはトイレのことだった。三軒町長は、町の衛生については常に気を配っていると話し、いつでもピカピカの公衆トイレを町全体に行き渡らせている、という。
環境への配慮ということも町長の気にかけることで、究極の目的は、町全体を博物館とすることだそうだ。花の咲く木を植樹し、家々の窓から桜の花や紅葉を普通に眺められ、清潔で安心して暮らせる町。
彼の説明によると、「国民年金で、一人暮らしのお年寄りが安心して暮らせるところ」が究極の目的だそうだ。こども園と合体させた老人福祉施設、朝昼300円で賄われる給食が子供の健康と暮らしに貢献する。そして日帰りの施設に洗濯物を持って行けば帰るときに受け取れるようなランドリーサービス等々。
彼が当選した後で、町長、副町長、教育長の歳費を半減させたと話してくれた。しかしもちろん、それどころで済む話ではない。(生きたイルカの販売の利益から、小中学校の教材を無償化するという方針もあり、それに関しては、議員の一人から「生き物の命で贖うのか」と反対されて一晩眠れなかったともいう。)
三軒町長の次々と打ち出されるアイデアに関しては、正直舌をまくところが多い。確かに、老後に尊厳を持って自立した生活を送りたいと思うのは正当な欲求ではある。しかし、現状から言えば、(また日本の福祉政策の軽さから言えば)日本全国津々浦々、こうした福祉政策を実現させるには、政治的にかなりの力こぶが必要とされると思う。だから、ダメと言うつもりはない。
そんな中、こうした町長の政策に対しては、財源を含めて問題を指摘する声は町の中にある。
これまでの事業の経費は、町の財政をはるかに超えるものも多く、毎年、国や県からの補助金、地方債、過疎債といった資金の投入がある。もちろん、国会議員との太いパイプによって可能なことだが、借金として、将来世代に残るものもある。もしも、こうした施策が実現したとして、それをずっと継続させていくには相当の原資が必要だろう。
ちなみに、8月11日に完成された道の駅の工事費用は:233,280,000円
その内訳は113,000,000円が国庫補助金、107,000,000円が過疎債、後の13,280,000円が一般財源
人口3千弱の町としては規模が大きすぎるような道の駅は漁協の経営だそうだが、季節外れであることや、台風が近づいていたせいもあるかもしれないが、滞在中の2度の訪問では、地元の人たちを含む食事客がちらほら、運営にかかる予算をまかなえるほどの客の入りがあるとも思えなかった。
最後の日は、台風による激しい雨風が太地を見舞ったが、そんな中、道の駅の駅舎前に、10人ほどの人たちが雨に打たれて整然と並んでいる。どうやら、衆議院選挙のちょうど前日にあたり、自民党の地元候補が立ち寄るということで、出迎えに出ているらしい。
やがて、雨の中、候補者本人が、SPと思われる人達とはいってきて、売り場を回り、人々にあいさつをしていった。
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