<やっと実現>
先週末の10月19日から3日間、和歌山県太地町に行ってきた。
昨年スロベニアで、三軒町長から「また意見交換をしましょう」と声をかけられたというのに、資金的にめどがつかずに延び延びになっていた会見だ。
話は、イルカ猟や飼育問題だけでなく、太地の風土、歴史、太地における福祉の考え方など多岐に及んだ。
最初に、対立する立場にあるにかかわらず、3時間と言う長い対話の時間を割いてくださってことに感謝したい。
3年前の太地訪問は、イルカ猟の是非についての国際的な立場の違いが膠着した状態で、捕獲が継続されている状態をなんとかできないものか、とかなり思いつめての訪問だった。三軒町長は、自分の立場を、「国が許可した漁業をやりたいという町民がいる以上、町として支援するのは当然」と説明し、それは、残念ながら正論だと思った。一方で、そうした率直な話の運びに、意見交換が無駄にならないのではないかという希望も見た。
その時は結局、森浦湾のクジラの海構想について、環境の観点から意見を交換し、イルカの放し飼いについては元々ある地域環境を損なう可能性を指摘し、専門家による環境調査の必要性を訴えた上で、継続してこうした場を設けようと約束して帰途についた。
残念ながら往復にかかる旅費などでそうそう簡単に動ける話でもなかったのだが。
産経新聞における森浦湾での繁殖場計画は、産経のフライングだという説明をスロベニアで受けていたものの、すでにかなりの計画が進んでいる段階での意見交換なので、今回は正直なところどんな話し合いになるのか、当初は想像もつかなかった。ただ、イルカの捕獲が水族館需要によって続いていることにも焦りを感じていたし、生けどりの正当化の「学術研究」という名で多頭飼育が進むことには、どうしても異議を唱えておきたかった。
たまたま、同行したフリージャーナリストの佐久間さんが、東京であいさつした漁業協同組合長の背古輝人さんに取材を申し込んだところ、町長との意見交換に同席されることになった。忌憚のない話し合いができるのかどうか、さらに不安は増したが、これを好機と捉えて、少しでも実りある話し合いをしようと決心した。
背古さんは、痩身長躯、年の頃は70歳前後、ごま塩頭の生真面目そうな方だ。当初懸念したような警戒心はなく、率直にご自身の経歴を話しの合間に聞かせてくれた。例えば、若い頃、従兄弟のつてでアメリカまで出稼ぎに行き、イタリア人の経営する捕鯨会社で捕鯨船に乗り、(たぶん人間環境会議の成り行きで)禁止されると日本に戻ってきた、というような思いがけない話も出た。その後も、小型捕鯨やイルカ追い込みなど、クジラ捕獲に関わる仕事に従事されてきたということだ。聞いてみたところ、オホーツクではツチクジラの群れの中にカラスらしき黒い個体も見たということだ。
イルカ猟に反対すると言いに行くだけなら簡単だが、ではどのようにして問題を解決するのか、となると答えは出ない。前夜に色々と思案し、イルカ類のきちんとした調査を、ともに水産庁に求めて行ってはくれないかという要望に絞ることにした。これまで不十分であると考えるイルカの生息状況に関する科学的で透明性の高い調査の必要性を、実際に業に携わっている方が必要だと感じて欲しい。
<イルカ資源調査の必要性>
当ブログに何回か、イルカの調査や個体数推定などの評価について書いている。
http://ika-net.cocolog-nifty.com/blog/cat22800313/index.html
毎度の話になるが、日本におけるイルカ類を含む海洋生物は水産資源として水産庁の管轄下にあり、公にその捕獲が認められている。ただ、管理のための資源評価は公表されているものの、
http://kokushi.fra.go.jp/index-2.html
もはや資源的にそれほど有用と考えられていないことも手伝って、古いデータも混在しているし、調査捕鯨のついでに適切とは言えない海域で調査が行われたり、単発的な目視調査だったりと、これまで十分な調査や評価が行われてきたとは言えない。
同じ海域で50年間も群れごとに一網打尽にしていけば、どうなるか捕獲実数にすでに現れていると思うが、それをはっきりさせるにはよりきちんとした生息調査が不可欠だ。
ちなみに、この4月に公表された海洋生物レッドリストに関しても、水産庁が評価したものは1種をのぞいてランク外(種の保存法の対象外)という信じられない結果が出ており、国会審議においても与党の招聘した専門家も、水産庁が評価することに疑問を呈し、環境省が評価してから水産庁が資源管理した方が良いという意見を述べている。
(ついでながら、水産庁評価があんまりだと、評価の市民版を作った人がいる!是非見比べてほしい。
http://kkneko.sblo.jp/article/181313159.html)
8月出版された例の「おくじらさま」の文中に、捕鯨/沿岸小型を取り仕切る国際課の諸貫交渉官のコメントが載っていることを見つけたこともヒントになった。彼は、これまでの資源量のデータが古いことと、捕獲枠の計算方法も現在の資源管理方式にそぐわないと認めつつ、水揚げが漁業のわずか0.1%なので、詳細な調査をするのは難しいと正直な意見を述べているのだ。
イルカ類の保全というだけでなく、持続的な事業を継続していくつもりならば調査は不可欠であり、またもし事業者が国内外に向けてその’正当性’を発言し、理解をもとめたいのであれば、科学性や透明性は不可欠であることを、なんとか共有できないものか。
もちろん、最初は「イルカについてはどこに何がいるか、漁師が一番よく知っている」と強く主張されていた背古さんも、佐久間さんが作った太地におけるイルカ捕獲枠と捕獲実績を示すエクセルグラフを見せ、捕獲枠と実績との乖離を示し、確かに海で実際に発見する機会は多いかもしれない、しかし、その群れがどこに所属するどういう群れなのかなど、みんなが納得するような調査とデータがどうしても今必要なのではないか、と言葉を重ね、調査の重要性を訴えた。
「22713598_1431662560245428_6199900073860927369_o.jpg」をダウンロード
(佐久間さんの作成したグラフ。薄い色が捕獲対象種の枠で棒グラフが実績)
また、これまで、種の保存に関して環境省との共管での調査と管理を求めているということも報告し、最後は調査の必要性を納得していただけたと思う。(特に、佐久間さんが「環境省が調査の予算をつけたらいいのにね?」というと「I hope....」と思いがけない言葉が聞けたことが嬉しかった)
<’捕鯨’ではなく’クジラ’によるまちづくりなのだ>
三軒町長は、かつて60年代に、当時の町長の庄司五郎氏が「そのうちクジラがいなくなる、捕鯨の時代は終わった」という予言をしたの先見の明だと断言する。
庄司元町長は、太地の未来を観光産業に見ており、そのための礎として太地くじらの博物館と亜熱帯植物園(現在は県警の駐留場所)を作り、太地の捕鯨史を編纂した。
三軒町長はその考えを評価しつつ、現在は町内にイルカを獲りたいという人たちがいるので、その人たちの後押しはしなければならない、しかし、将来を見据え、時代に沿って考え方を変えていくべきだとする。その先にあるのが「国際的な学術都市構想」だ。だから彼は、「捕鯨によるまちづくり」ではなく「クジラによるまちづくり」を目指しているそうだ。
彼の目指すところは、追い込み漁で捕獲したイルカを森浦湾で飼育し、いずれは仕切りの網を解いて海に帰りたいものは放す、ここで生まれたもので残りたものは残ればいい、という「放し飼い飼育」の実践だ。専門家には素人が言うべきではないとお叱りを受けるといいつつ、世界中の鯨類学者を呼び、森浦湾のイルカの様々なデータをこの実験によって集めて貢献したいとする。
イルカの自然施設での飼育と解放に関しては、ボルティモア水族館の事例を話し、イルカのリハビリと解放を方向とするイルカサンクチュアリを目指すべきでは、といったが、町長の念頭にあるのは、現段階でのイルカ捕獲の実施を否定しておらず、同町でイルカの飼育販売を手がける三好晴之氏の呼び戻しのイメージのようだと思えた。
すでに森浦湾でのイルカ飼育やタッチングが実施されており、訪問時には、幾つもの四角い浮き囲いが見え、数人の人がイルカの世話をしているらしく、時折ジャンプするイルカも見えた。
果たしてどこまで本気で、どれほどの期間を持ってやり遂げるか疑問ではあるが、当面はタッチングやイルカと泳ぐなど観光イベントは繰り返されるのだろう。こうした事業が、将来的にはマイナスになることを納得してもらう方法をなんとか考えなければ、と思った。
<おくじらさまの功罪>
道の駅には、おクジラ様のポスターやチラシ、本が並べられている。最終日に、太地道の駅でお会いしたアラバスターさんが指摘されたように、「おくじらさま」の効果として、こうした割とフランクな意見交換が可能になったのかもしれない。(アラバスターさんは、自分が利用されたと認めつつも、映画が果たした役割について、前向きに捉えたい気持ちが強いようだった)
好意的に見れば、確かに意見交換の中でも「映画によってやっと太地の人々の意見を伝えることができた」、「もっと積極的に意思表示していく必要がある」、などのコメントが何回か出てきたのは確かだ。
もつれた糸を解きほぐし、解決に導くためには、ここをスタート地点と考え、次に移るほかなさそうだ。前述の諸貫さんの言葉では、捕獲枠見直しも行われるようだが、枠見直しの根拠としての調査の必要性を訴えていかなければならない。また、環境省の種の保存法の一連の動きに中で、さらにレッドリストのよりきちんとした評価を求め、そのための調査の必要性を水産庁と共有してほしいと求めていかなければならない。宿題は山ほどある。
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