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2016年5月26日 (木)

イルカの展示と飼育

 <イルカの飼育、お寒い国内事情>

  水族館で、動物の福祉に反するという理由で、和歌山県太地の追込み猟によって捕獲されたイルカを飼育しないという取り決めがWAZA/JAZAで取り交わされてからもう1年になる。
  最近、2015/2016の猟期で捕獲されたバンドウイルカ180頭のうち、105頭が’生体販売’要するに飼育販売されたというニュースがいくつか出た。昨年のJAZAの決定についてはもともとその実効性に疑問があったが、希望数150頭で実売数105という結果はなんとも暗澹たる思いがする。
 
  国内におけるイルカ飼育施設は50施設でダントツ世界一だ。そのうちJAZA会員施設でイルカを飼育しているのは26施設で、残りは非会員。すでに導入しているところに関しては、おとがめなし、さらにこの後の及んで新規に参入し、イルカを購入したところもある。それだけ、イルカの展示が儲かるということである。

<歯止めはあるのか>
  イルカ捕獲は国が許可した産業だという事実、また、動物の福祉というのが得てして犬やネコに着物を着せてグルメ食を与えるイメージがある日本では、イルカの捕獲にまつわる非人道性には思い至らないところがあるし、そもそも’危険にさらされることのない環境’で、’飢えることもない’人工飼育への抵抗感はなきに等しい。
こうした現状に対する歯止めというものはないのだろうか?

 若干弱いものではあるが、動物を飼育展示する場合は、環境省の定めた動愛法の動物取扱業としての登録は必要であり、またその下で決められた展示動物の飼育基準は守らなければならない。
 
□動物福祉に関してー参考動愛法「展示動物の飼育基準」より
  (2) 施設の構造等
   管理者は、展示動物の種類、生態、習性及び生理に適合するよう、次に掲げる要
   件を満たす施設の整備に努めること。特に動物園動物については、当該施設が動物
   本来の習性の発現を促すことができるものとなるように努めること。
   ア 個々の動物が、自然な姿勢で立ち上がり、横たわり、羽ばたき、泳ぐ等日常的
   な動作を容易に行うための十分な広さと空間を備えること。
また、展示動物の飼
   養及び保管の環境の向上を図るため、隠れ場、遊び場等の設備を備えた豊かな飼
   養及び保管の環境を構築すること。

  基準は残念ながら、数値で表されているわけではないので、強引に「基準を満たしている」と突っ張ればすむようなもので、また動物取扱業を管理する都道府県の行政と言っても、それ専門の職員が存在するとは限らず、保険などの部署の中にあるに過ぎない。これまでの経験から言うと、担当者に愛護法違反を訴えても、積極的な対応が取られた試しがない。
 しかし、一般常識から言っても海水浴場や運河のようなところで飼育して観光客に触らせることが、この基準を満たしているとは到底言えないだろう。

 また、私自身の経験から言うと、パニックに陥ったイルカたちが互いに傷つけあい、もがき、海を赤く染める様子を思い出すだに、追込みが残酷ではないという意見には同意できない。
  だいたい、嫌いな音で追い立て、狭いしきりに追込み、幼い子イルカを母イルカから引き離して捕獲する追込み猟によって捕獲されたイルカの子どもを、続けて購入したいというような考え方が常識に照らし合わせておかしいと世間は思わないのだろうか?また、毎日数百キロを移動し、自ら出す音で環境を認識し、仲間と会話し、獲物を捕まえる暮らしをそっくり取り上げて、人との接触だけを無理強いして一生を送らせることが動物の福祉に反しないと本気で考えるのだろうか?

<行かないという選択>
  海外とは文化が違うというのが都合の悪い時に必ず出てくる日本の関係者の言い訳だが、日本人がそれほど海外と違って無慈悲で賢い判断力がないとは思えない。
 アメリカでは、1昨年製作された「ブラックフィッシュ」により、鯨類飼育展示の大御所、シーワールドがその存在を危うくしている。それは、映画によって現実を知らされた多くの人たちが鯨類飼育に反対してシーワールドに行かなくなり、それに同調した人気ミュージシャンの参加ボイコットなどで入場者数が激減し、株価が急落したことを見れば、事実を伝えるー知ることの重要さが見えてくる。

 夏が来ると電車の吊り広告などにも、水しぶきをあげるイルカのショーの写真のような、子どもたちを誘うようなものが増えてくるが、人道的な観点だけでなく教育的な観点からも、「見ない、行かない」選択を一般がすることを心から望みたい。
だいたい、イルカというものがペットのように扱われ、狭い水槽で飛んだり跳ねたりして喜んでいるなどと子どもたちが本気で信じるのは嫌でしょう(子どもだけではないって?)?

太地の生け捕りイルカ販売増、「入手禁止」1年
http://www.yomiuri.co.jp/osaka/news/20160523-OYO1T50010.html

2016年5月16日 (月)

JARPN II出港

 水産庁の記者発表によると、北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN II)が5月12日より実施されたようだ。
2月に行われたIWC科学委員会の専門家パネルの評価を受け、今年11月には新しい計画が発表されるそうだから、これはJARPNとしては最後の航海となる。

 すでにいくつか記事が出ているが、気になるのは、「ICJの判決を受けて」イワシクジラ90頭、ニタリクジラ25頭に捕獲頭数を減らしたというところだ。確かに数は減らしてあるが、ミンククジラは「時期が」とかなんとかで徐々に捕獲しなくなったのはそれよりも前のこと。実際、2013年には100頭の枠のうち、捕獲頭数はたったの3頭だ。この頭数減らしが判決によるものではないということは、IKA-NET NEWSを読まれておいでの方にとっては目新しいものでもなんでもないのではないか。

IUCNのレッドリスト付嘱書Iに掲載されるイワシクジラが捕獲対象に加えられた2002年には、世界の著名な科学者21名が、ニューヨークタイムズに、「商業的な本質を持つ捕獲プログラムは、科学の独立性とは相容れない」とJARPNに反対する意見広告を出した。
イワシクジラについては、ワシントン条約の取引禁止種となっているが、日本政府は他のクジラ類のような留保をしていない。日本の船が捕獲したものに、科学当局の水産庁が許可を出しているという考え方だが、いわゆる「海からの持ち込み」規定に反するという意見もある。
国内でどうしてもイワシクジラを食べたいというわけでもなく、現に2011年に初めて競りを実施した時は、競りにかけられたイワシクジラを含めた肉の75%が売れなかったという「実績」もある。絶滅危惧とランクされているクジラを捕獲し続ける理由が見当たらない。

こうした問題を抱えて11月に出される新計画がどのようなものになるのかはわからないが、何れにしても腐った土台の上に家を建てても傾くだけではないだろうか。

(腐った土台の上のもう一つの「家」についての詳細は、IKA=NET NEWS63で。
http://ika-net.jp/ja/newsletter)

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