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2016年2月22日 (月)

国際シンポジウム「海洋における温暖化と酸性化」

17日は、久しぶりに海洋政策研究所主催のシンポジウムに参加した。
https://www.spf.org/opri-j/news/article_20895.html

 2014年、同研究所が海洋政策財団であったときに、海洋の酸性化についての海洋研究開発機構の白山義久氏の講演を聴き、予想以上に大きな問題であることを知った。
開会挨拶の中で、寺島綋士さんが2014年のセミナーのことにふれ、もっと一般に知らしめる必要性を感じたということで、今年から3年間(だったと記憶)、研究所として酸性化問題にコミットして行くとし、その端緒となるのがこのシンポジウムだと述べられた。

 基調講演は、海洋に関する国際政策を強力に推進するデラウエア大学のビリアナ・シシン–サイン氏とフランス国立科学センターのジャン–ピエール-ガトュッソ氏。
 サイン博士は早口に海洋政策の現状と課題を次から次へと滔々と語った(以前にも感じたことだが、この方の話は、重要項目をそのまま次々に繰り出してきて、脇目もふらないところがあり、私のような素人はついていくのが大変だ)。はじめに、海洋政策における2つの柱ーボトムアップ(すなわち、国や地域の海洋に関する政策や取組)とトップダウン(国際条約や交渉における海洋環境の保全・管理と利用)及びそれら縦割りに行われている課題を統合していくことが重要だとその取り組みについて紹介された。

 ボトムアップの好例として日本の海洋基本法を持ち出されたのにはがっくり。まあ、主催者が音頭をとってできた法律だから仕方ないのだろうが・・・

 一方で、国際的な海洋政策推進に関しては、2015年の持続可能な開発会議(SDGs)のプロセスに入っていなかった海洋を、主要課題に入れることに成功したこと、またパリでのCOP21における海洋問題を提起し、海洋と気候変動に関して政治的なリーダーシップを発揮し、46に及ぶパートナーシップのもと、オーシャンズデイをハイライトとしてたくさんの海洋関連のイベントを行った。そして、海洋環境の変化が小島嶼国に与える深刻な影響がクローズアップされ、最終的な合意文書には島嶼国の人々の努力が実って意欲的な目標値(1.5%)につながったことを評価した。
 もう一つの課題は、今、海洋問題で国際的に注目されている国の管轄外の海域、つまりABNJだ。その保全と管理に関しては、国連海洋法条約の元、国連で議論が行なわれている。海洋はつながっており、温暖化、酸性化だけでなく、海洋の汚染や海洋ゴミなど、その64%を占める公海における管理は健全な海洋環境にとって非常に重要なのだが、残念なことにはABNJについて、各国が最も関心を寄せるのは、公海における遺伝子資源の獲得や航行の自由、鉱物資源採掘など利益につながるところで、なかなか合意形成も難しいところだ。今後の動向が注目される。この3つの課題をどのように政策的に前進させていくかが今問われている。
 次のガトゥッソ氏は、海洋のもと機能の重要さとそれ故に海洋環境の変化が私たちにもたらし得る甚大な影響を、現在の二酸化炭素排出量が変化しない場合とコペンハーゲン合意に従った場合の比較を示し、なぜ今、私たちが排出量を大幅に制限しなければならないのかということを分かりやすく示した。そして、すでに計測可能な変化が認められる危機的な状況であることを訴えた。過去にはそれほど多くはなかった研究がこのところ実態に合わせてうなぎ上りに増えているそうだ。その上で、パリ合意がどれほど海洋問題にとって重要であるのかを強調した。つい最近、フィジーが最初に合意を採択したというニュースを見たが、この合意が早急に実現していくことが望ましい。
(ついでだが、COP21のシンボルマークは素晴らしい!
http://www.ambafrance-jp.org/article9503
ついでにこの漫画もフランスらしい)

 基調講演が終了し、パネルに移ってモデレーターの白山義久氏、宮原正典、井田徹治、山形俊男氏あわせて4人のパネラーが登壇、それぞれ短いプレゼンテーションが行なわれた。
 白山さんは冒頭にも書いたことだが、海洋の酸性化の問題についてこれまでも精力的に訴えてきた方で、タイトルもそのものずばり、「海洋酸性化問題をいかに主流化するか」である。すでに北極域で始まっている貝類の殻の消失など実際の危機について人一倍強い懸念を抱いていることが分かる。しかし、今回かなり違和感があったのは、カーボンストレージのプロジェクト紹介だった。後のディスカッションで早速サイン氏が懸念を示されたが、それについて、すでに苫小牧でかなり大掛かりな実証試験が行われており、規制に関しては海洋汚染塔防止法という国内法があるので対処できると彼は主張する。しかし、同法は船舶などによる油汚染や有害物質の漏出に対するもので、陸域に深い穴を掘り、そのまま海洋の深層部分までパイプを通してCO2を貯蔵することによる海洋生態系への影響については不明であリ、白山氏の思いは伝わるものの、海洋の環境影響評価手法が確立されていない状態で進めることは問題があるのではないかと思った。気候変動の緩和策として、繰り返し海洋、沿岸域の改変という技術的な解決法が訴状にのぼるが、それらがともすると海洋の生物多様性の損失につながるもので、先の生物多様性条約会議では、ユースがジオエンジニアリングに強い反対の意見を出したことが記憶に新しい。
 宮原氏の話も興味深かった。水産系ではこれまであまり漁業との関連で温暖化や酸性化を取り上げることが少なかったが、今回、彼が関わる調査の中で、黒潮の流れが早まり、親潮との混交海域における稚魚の成育に問題が起きるという懸念が示された。マグロ問題では、産卵海域や稚魚の成長する海域の保護に後ろ向きだという話を聞いていたが、どうせ将来的にはこうした問題が起きるのだから、いまのうちにとってしまえと思っていると勘ぐるのはうがち過ぎだろうか?冗談はさておき、彼も後で言っていたように、日本人の食に海洋の変化がどれほど大きく関係して来るかという提起は、問題の主流化に大きく貢献するのだろう。
 井田氏はメディアの立場として、酸性化の他に、海洋が抱えている海洋ゴミの問題や海のデッドゾーンなど、健全な海を保全するのに喫緊の課題を紹介しつつも、目の前に見えることではないこれらの問題への一般の関心の低さ、と報道の難しさを訴えた。最後の山形俊男氏は、海洋酸性化がもたらす私たちの生活への影響を経済的な規模も含めて示し、その上でその実態をまず解明していく必要性を訴え、「海洋危機監視」をいプロジェクトの立ち上げと情報の発信をしていくという計画を述べた。

 海洋基本法の中にはもちろん海洋環境の保全や生物多様性という言葉がちりばめられている。しかし、では法の下で具体的に行なわれていることは何か、というと、活発に邁進しているのは海洋開発計画であり、活発に議論されているのは領土問題で、環境は今のところお飾りに過ぎない。
 一方で、その埋め合わせのように、笹川財団による「ネレウスプログラム」やグローバルオーシャンコミッションの紹介など、海洋の危機に警鐘を鳴らす試みがなされている。同じ根元から出てくていると思えるこのふたつの矛盾を整理し、健全な海洋環境を守る方向に展示、国際的な海洋保全に歩調を合わせていくためには、一般市民の積極的な関与が求められると感じる。残念ながら、内閣府にある海洋政策本部に市民の声を届けるのはこれまでの経験から言うと難事というほかはない。最近盛んに発信されている日本の食の問題を考える上で、健全な海洋は必須だというのに。
 

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