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2015年12月18日 (金)

ニッポン捕鯨政策再考を聞いてきた

 日本鯨類研究所の主催した掲題のシンポジウムを聞いてきた。

<海外ゲストはコメントのみ!>
 副題が「海外からみた日本の捕鯨政策」というのだが、発言者(米コンサルタント会社で日本の調査捕鯨の広報アドバイザーのC・カーター氏、元ワシントン条約事務局長のU・ラポアント氏、ウルグアイの元漁業機構、現国際コンサルタントのC・マザール氏、日本の捕鯨アドバイザーをしているニュージーランドのG・インウッド氏)はすべてよく知られた日本の捕鯨政策支持者で、いってみれば「海外の捕鯨アドバイザーから見た」としたほうが正直なところ。
 2時間で4人?、と思ったが、聞いてみてなるほど、と合点が言った(鯨研は最近お金持ちになったのでしょうか?)。
 水産学会会長の黒倉氏挨拶に続き、最初にプログラムにはなかった森下コミッショナーが事実上の基調講演(捕鯨政策をめぐる情勢についてのいつものおはなし)を20分間ほど行ない、そのあとゲストによるパネルディスカッション。4人はディスカッションの初めに15分ずつのコメントを行い、あとは、質疑に移った。

□カーター氏の話は
 最初のカーター氏の話は、マデイラで行われたIWCの際に、BBCのラジオ番組で反捕鯨NGOとの討論を行なった時のこと。彼の主張は、トラは現在3千頭しか残っていないが、(南極の)ミンククジラは50万頭もいる。保護するとしてどっちの優先順序が高いか?、とインタビュアーに聞いたが、その女性は、数については知らなかった。彼の主張は、反捕鯨の論理は保全でも利用でもなく、政治の場に道徳や倫理を持ち込み、豊富に存在するクジラを資源利用させない。クジラが大きいとか、賢いとか特別視してその価値観を押し付けている、というような新しくもない話だ。たった333頭取るのが何で問題か?(彼は調査捕鯨として認識していない?)
 カーター氏の無責任さは際立っていて、オーストラリアと日本の政治家が判断すべきだとし、またこの後モデレーターの八木氏に解決策について聞かれると、「IWCを脱退しちゃえば」と言い切る。また、会場でのほとんどの人が食べていないし、問題を知らないという意見に対して「(資源として利用できるかどうかで)日本人が知らない、食べていないということは問題ではない」!
□ラポアント氏の話
 次のラポアント氏は、自分がかつてその座についていたワシントン条約事務局長の時の絶滅に瀕するワニの保全について、持続的な商業利用によって解決できたと彼の功績を紹介。彼は、野生生物の保全は利用があってこそという考え方の持ち主で、これまでも利用を推進してきた日本が世界のリーダーであることを再々強調、そのために攻撃されているが、反捕鯨の政治的なやり方に負けずに世界をリードすべきとした。

 彼の推奨する、利用することで得た資金を保全にまわすというやり方は一見魅力的だが必ずしも有効というわけではない。例えば、彼がワシントン条約事務局長をやめさせられた原因である象牙取引では、南アフリカ諸国を巻き込んで日本が強く主張して再開した象牙取引の結果、ゾウの密猟が激しくなり、アフリカ諸国の内戦を助長する資金源となって、現在は国連安全保障委員会にまでその解決が求められる状況になってしまったのではないか。
□マザール氏
 かつて、OLDEPESCAという一部ラテンでの地域漁業団体を組織していた。彼は、ミンククジラの推定頭数も、政治的な理由から低く抑えられていると見ている。人と海洋動物の間には食糧資源を巡る競合があり、例えば、ウルグアイでは15万頭いるアシカのコロニーがあって、漁業者の魚を奪っているという。また、牛の取引では、人道的捕殺法を巡り、EUが倫理的な価値を押し付ける結果、新植民地主義が生まれているが、日本はそれと戦っている。クジラ論議では偽善的な側面がある。動物の権利が人より上であってはいけない。
□インウッド氏
 ニュージーランド出身の彼は、まずニュージーランドが漁業資源管理で世界に誇れる業績を持っていることを強調し、クジラだけそれから除外するのは矛盾していること、政府としても一貫性がないことを知りながら、世論によりどうすることもできない。クジラ問題は政治的な解決しか出来ない。

 意見の対立については、「反捕鯨の論理が政治を動かしている」、「NGOは金儲けのためやっている」、「反捕鯨は貧しい人たちの権利を奪っている」、「欧米の倫理観の押しつけ」「日本が‘持続的利用’でリーダーシップをとればよい」など、彼らの論理はこれまで何回も繰り返されてきた捕鯨推進の立場の正当化だけで、日本の国内事情の把握はされていない(そうした情報を与えていない、あるいは都合の悪い情報を意図的に閉め出している???)。
 この後の、八木氏の質問、政治的な解決法としてどんな方法があるか、については、カーター氏は先に書いたが、ラポアント氏は直接的な解決法の提示ではなく、反捕鯨のNGOは保全目的ではなく、保全をツールにして、金集めをしているだけという指摘、マザール氏、インウッド氏は、会議場からNGOを閉め出して非公開で結論を出せばよいという時代に逆行した提案。
彼らの持論が利用の推進であるとしても、ただそれを主張することが実際の解決にどれほど役立つか、どうすべきかという課題は彼らに与えられてはいなかったのか、解決のための議論は深まらなかった。

 そしてそのあとの会場質問では、鯨研の研究者ダン・グッドマン、島一雄元IWC日本代表、捕鯨界のドン大隅氏(この二人は、海外ゲストの‘ニッポンよいしょ’に感謝の発言←予定調和的パフォーマンスか?)、そしてあのアンティグア・バービューダのジョアン・メサイア氏まで登場(IWCでの発言の再現)して、がんばっているニッポンにエールを送った。

 この間、国内では鯨肉消費の落ち込みようが認識されて、捕鯨対立を冷静に見る人たちは遠い公海での捕鯨が商業的に引き合わないことに気づき始めており、南極で調査することに対しても疑問は広がっている。また、メディアでも大本営発表のウソに気づき始めて、これまでのような捕鯨推進陣営の代弁だけではなく、多様な意見が見られるようになってきた。捕鯨勢力には、こうした現状への危機感もあるのだろう、「メディアが本当のところを理解していない」というようなコメントもいくつか出てきて、むしろこうしたところへの’海外だって理解している’という発信が必要だったかもしれない。
 議論への反論は出なかったが、いずれにしても、内側から崩壊していくのを強権政治が押しとどめているに過ぎないわけで、伝統だの文化だの言っても、サイレントマジョリティは「食べない」という選択をしているのが現実だ。

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