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2015年6月 3日 (水)

デントーなのだ!

 最近、海外と比較して、やってることの正当性を訴える根拠として(あるいはこちらの方が正確かもしれないが、「問答無用!」と切り捨てる際に便利なことばとして)、「伝統」あるいは「文化」という言葉が用いられる事が目立つ。
 「伝統」ではいわば先輩格の捕鯨については、産業としての存在にかげりが見えた80年代から「働く人の権利」のかわりにその言葉が(PR会社の上手なキャンペーン活動が当たって)使われるようになってきたのだが、今回の飼育イルカの捕獲方法についても同様に、だんだん「日本の伝統だから守らなきゃ」と言う方向に向いて、議論が迷子になってしまった。
 捕鯨とか、イルカ猟が伝統かどうかという議論だけでなく、「伝統だから残すべきなのか、そうではないのか」、という議論もまた欠かせないと思うが、この際はとにかく誰かさんの印籠のようなものでそうした議論はもってのほからしい。かつてはパンダもゴリラも食べられてきたわけだし、伝統として存在したものでも、倫理や道徳、社会通念に照らして問題があれば、やめるという選択をすることもできる。まずはそこから始める必要がある。

 先週金曜日の国会の環境委員会では、ある議員がボン条約批准を進めるよう意見を出し、バランスを取るためだったのだろう、「太地のイルカ追込み猟が一説によると縄文時代に始まった」というような内容の発言をした。
 国際的に鯨類学者として傑出した研究者と認められている粕谷俊雄博士の「イルカ 小型鯨類の保全生物学」(東大出版)は、日本における小型鯨類の生態、人との関わり、そしてその保全の方向を記した博士の集大成というべき本だ。そこでは確かに、第3章のイルカの追い込み漁業3.1(86頁)で、能登半島の石川県真脇の遺跡から、大量のイルカの遺骸が出土し、群集性のイルカ種であった事から、「追い込み漁が行なわれた事を示唆しており、しかも複数種の存在は、それが反復して行なわれた事を示している」と記されている。
 だから議員の発言は一部では正しいのだろう。しかし、注目すべきは、著者がそれに続けて「それが偶然発生した集団座礁に便乗したものか、それともなんらかの原因でイルカが湾内にきたのを好機としてそれを追い上げたのか、さらに進んで湾外から追込みを始めたのかは動物遺骸だけでは判断できない」と慎重に述べていることだ。
 繰り返し食べていた事は事実だが、イルカをどうやって捕まえていたかは不明ということだ。ここにある、沿岸部での昔の食性を「だから(守るべき)日本古来の伝統文化だ」と一直線に主張するのは短絡ではないか、と思う。
 1月に海洋大学で開催された鯨類学入門講座でも、加藤秀弘氏が「イルカ追い込み漁は紀元前5千年前からという説もある」という発言をされたので、本人に根拠を聞いてみたが、いまだに返事をいただいていない。

 一方で、近代科学の進展がかつてのような牧歌的な野生生物の持続的な利用を不可能にしているという事も考えなければならない。ましてや、生存戦略として一産一子で長時間おなかで子育てをし、授乳期も長い鯨類に関しては、慎重にしても管理する事が難しいのは当ブログのコビレゴンドウについて述べた通りだ。現在行なわれている高速漁船でイルカの探索(及び無線よる近隣漁船からの情報提供)を行なって群れを発見し追い込むという方法は、かつてオイコスに故高木仁三郎さんが書いてくれたように「生物は生きるためにには、みな他を殺して食べている」にしろ、「ライオンがシマウマの大量捕獲用の高性能ライフルを用いるようなことになったら、ライオンとシマウマの共存はありえない」というくだりを思い出させる。もっと切実感があって「科学的に管理している」はずのマグロやウナギでさえ、絶滅が危惧されるところ、産業として規模の小さいイルカ漁業の調査、研究にそれほどの力を入れているというはずもない(データが古い事やモニタリングも不十分なことをたびたびIWCから批判されている)。個人の所有物でない、しかも国の仕切りを超えて移動する可能性のある動物を、一部の人たちが利用するのを’伝統だからいい’とすます国や議員に対して、日本人としてもっと声を上げていかなければならないのではないだろうか。しかも、今回問題となっているのは水族館での飼育に関してである。国際的にも明らかにされているように、食べるためというより、高額で取引できる生け捕りを主目的にして産業が生き延びている実態がある。この前もブログに書いたように、太地でハンドウイルカが常時捕獲されるようになったのは、1980年から動物園用の飼料としての販路が出来たことによるもので、太地で水族館のための生け捕りが盛んになったのは21世紀になってからだ。

参考:
http://blogs.yahoo.co.jp/nankiboys_v_2522/33027399.html
(生鯨類売上収入       26,690,000
 生イルカ売上原価       4,600,000)

これも:
http://togetter.com/li/824325


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