PortorosIWC 第1日目
9月15日、第65回IWC総会は、スロベニアの外務大臣、環境副大臣の挨拶で開始された。国土の60%を森林が占めるという緑豊かな国の、わずかにアドリア海に開いた保養地、ポルトロスの海に面したホテルでの会議で、正面のIWCの垂れ幕を上げると、そのまま海が眺められる。
第65回本会議の暫定概要は以下:
http://iwc.int/private/downloads/192hiqnljnoksok0oswsks4oc/IWC65%20Summary%20of%20Outcomes.pdf
<科学委員会のレポート概要>
事務局による投票権の説明、議題の採択のあと、早速、北門利秀議長による科学委員会報告書の概要説明が開始された。2013年に北西太平洋のミンククジラの資源評価が修了したという報告があった。
(科学委員会報告書参照 https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=3436)
<先住民生存捕鯨>
前回パナマにおいて、グリーンランド先住民の新捕獲枠が、ザトウクジラの捕獲枠増に反発して採択されなかった。閉会中、デンマーク政府やグリーンランド自治政府からの働きかけなどがあり、EUを中心に協議が行われて来た。又、スイス代表が議長を務める小作業部会を経て、デンマーク政府提出の附表修正案とEU諸国の共同提案による決議案(先住民生存捕鯨の尊重とその管理の考え方の明確化)がパッケージとして出され、コンセンサスで承認してほしいという要求がEUを代表してイタリアから提出された。
これに対して、附表修正(4分の3)と決議(過半数)では票決のあり方が異なるという異議が出され、議論の末それぞれが採決に付されたが、いずれも採択された。
*グリーンランドのザトウクジラの中には、カリブ諸国から移動するものがある事、ホエールウォッチング資源として重要だとするラテンアメリカ諸国の意見があった。
*先住民生存捕鯨自体に反対する国はないというのに、日本の森下代表はこれを評して「スーツやTシャツがあれば着物を着なくていいというような議論だ」と、久々の的外れコメント(お帰りなさい、森下さん!)。
*NGOとしてWDCは商業的な性格を持つグリーンランドの先住民生存捕鯨のあり方に疑問を示した。一方で、アラスカ捕鯨協会からはIWCの規制により自由に捕獲できない生存捕鯨の問題を陳述。
イギリスの環境大臣が会議に出席しており、サンクチュアリの重要性について、海域の保護、研究/調査の重要性とウォッチングのメリットから支持を表明。また、最近とみに問題となっている海洋投棄物や船との衝突、ら網など、人為的なクジラへの脅威に関しての保全委員会の重要性を訴えた。
(ちなみに、日本政府ー水産庁はconservationを「保存」と訳している。そして、「保存ばかりで利用が示されないのはバランスを欠く」、などという主張をする。しかし、conservationには、自然環境分野でいうと持続的な利用が含まれる。この辺りの考え方の違い−あるいは意図的な方向付け−が混乱を招いているように思える。同時通訳で「保存」と訳されている部分をあえて「保全」に置きかえてみよう)
<南大西洋サンクチュアリ提案>
ICRW3章の附表修正としてブラジル、アルゼンチン、ウルグアイがコンセンサスを求めて提案。2012年国連での海洋生態系の保全と公海の保全・管理など海洋保全に向けた昨今の議論の深化や海洋保護区設置の推進などを背景に準備を進め、アフリカ沿岸諸国の同意と環境を整えて13年間の念願を果たそうとした。
南大西洋サンクチュアリに関するアフリカ諸国との合意は、以下の宣言に現れている。
*モンテビデオ宣言
https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=3572
しかし、コートジボワールは早速そんなこと自分は知らないと突っぱねる。’科学的な’日本政府は、内容説明なしで、科学的根拠のないサンクチュアリに反対(科学的保全と管理とは何か、という議論が必要かもしれない。ちなみに科学委員会が承認していないのは、意見の相違が存在するからだと思う)
また、いくつかの国は捕鯨モラトリアムを持ち出し、保護が重複すると反対。提案者は合意形成に務めるとし、議題は開かれている。
<日本の小型沿岸捕鯨>
今回提案は、北西太平洋のミンククジラについてのRMP評価が修了したことから、RMPの実施検証に沿ったとされる17頭という数字を提示し(これまで持続的な数字として出していた100頭や200頭はどこへ?)、モラトリアムの解除を要求しない(修正1.28 商業捕鯨をモラトリアム解除なしに行なう)、鯨肉は地域消費(=日本国内のみ)、従事者は地域住民だけでDNAの解析と国内監視員配置、国際的なオボザーバーの参加のもとに行うというなどという説明のついた提案だ。
懸念されているJ系群への影響も考慮した数である、というが、もちろん、100~150頭にも上る混獲クジラの回避措置には触れず、また沿岸の調査捕鯨はRMPの範囲外である。
森下代表の発言は、条約の10e (モラトリアム)を検証すれば、そこで語られているのは商業捕鯨の禁止ではなく、捕獲枠がゼロだということ、商業捕鯨が悪だというような誤解は失くしてもらいたい、という主張を行った。
いつも通りの攻防が始まる。日本は過去5000年から9000年前(!)から伝統的に捕鯨に従事して来た(ロシア)、植民地主義、帝国主義はやめよ(アンティグア・バーブーダ)、地域の捕鯨従事者はすでに沿岸調査捕鯨の恩恵を受けているのでは(チリ)、南大洋捕鯨のフェーズアウトなど包括的提案であれば受け入れる(要するに南極海での調査捕鯨を再考せよ、ということーNZ)などなど。
そこで、オーストラリア代表が「RMPの枠の算出は終わっていない」と発言。算出には8つのステップを踏む必要があり、まだその3段階目でしかない。実際の適用は今後の作業計画に従い、来年科学委員会で検討される予定だという。
(詳しくは科学委員会の報告12ページ参照)
それに対して日本代表森下丈二氏は、再びICRWの10eを持ち出し、条約は商業捕鯨を否定していないと主張。そして、オーストラリアの発言に対しては、もし8つのステップを踏んだなら(踏んでなかったのね!)、オーストラリアは商業捕鯨を認めるのか?と喰ってかかった。
つまり日本は、この枠の提出を本気で行ったわけではなく、決議案が否定される事を前提に、見せかけの謙虚さをもって‘反捕鯨国に翻弄されるかわいそうな沿岸捕鯨‘を演出したのだという事を自ら暴露したわけだ。
第1日目はこうして過剰演出の果てに終了。
*今回の通訳について。
IWC総会の言語は公式には英語、フランス語、スペイン語であり、同時通訳が入る。日本政府は独自に日本語の同通を付けており、その恩恵を受けている。それが、ここ数年「水産庁の予算削減」(関係者の話)により、質がかなり落ちてきた。以前の通訳の方たちは神業か?と思うほど、発言内容をきちんとすべて訳して会議に貢献してきた。しかし、今回は最悪の部類に入るのではないかと思う。まず、何を話しているのか理解がないまま訳しているので、私のようなものにもかなり誤訳がある事が分かる。又、通訳は3人だが、そのうちの一人は、分からなくなると途中から黙り込んで、発言者の意見を最後までサボタージュする。まあ、スペイン語やフランス語の英訳を通しての日本語訳は結構きついというのは分かる。それでも時にふと、クライアントさま向けに都合の悪いところはさぼっても良いと思っているのではないか、と下衆の勘ぐりをしてしまうのだった。
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