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2014年7月18日 (金)

「科学者がいうことには」その2

 5月4~24日までスロベニア、ブレッドで開催されたIWC科学委員会のレポートが6月10日に出た。JARPAII の議論は、「科学許可」についてのAnnex O という文書にある。

 JARPAIIについては、畑中氏も触れている2月に日本で開催された評価会議が報告されている.評価会議は、1昨年の本会議で決められたビューロー(本会議が隔年になった事を受けて、議長・副議長ほかアメリカ、日本、パナマ、ガーナの6人により構成される事務局のようなもの)により選出された8人の科学者により構成されている専門家パネルによって行われた。

 ついでながら5月の科学委員会の科学許可に関する報告書の最初には、科学委員会がJARPAIIの議論を行うのは適切ではないとして、何カ国かの科学者が参加しなかった事が報告されており、従って、これら科学者たちはこの評価会議の報告に合意しないだろうと断ってあるので、畑中氏が科学委員会のお墨付きを得ているようにいうはどうかと思われる。

 評価会議報告ではまず、評価会議に課せられた課題は(日本から)提出されたJARPAIIの個々の調査結果の科学的な評価を行う事だと強調し、科学許可のもとでの調査そのものについての否定や支持を行うものではないとしている。

The Panel emphasised that its task was to provide an objective scientific review of the results of JARPA II; its task was not to provide either a general condemnation or approval of research under special permit.

 つまり、判決の調査捕鯨が科学目的かどうかの議論は、もともと評価会議の課題ではないということだ(最も、畑中氏もそこは微妙な書き方をしており、科学委員会が「『調査の成果』を認める」として、計画そのものを評価しているという書き方はしていない)。

 素人でもおかしいと思ういくつかのポイントについて、畑中氏の批判と2月の科学委員会の評価会議報告とを比べてみよう。

<評価会議のいくつかの評価ポイント>

 ICJで問題になった計画の目的とその期限(無期限である事)について、評価会議もJARPAIIの計画の目的が大まかで非常に幅広い性質をもっており、かつ進行中であることから、目的が達成されているかどうかという十分な評価はむずかしい、と指摘している。そして、調査に期限をつけて、目的と下位の目的の計画を練り直し、目的に適った計画であるかどうか評価ができるものにすべきだと勧告している。賛否を言う立場ではない評価会議でもJARPAIIの目的に関しては評価するのが困難だという判断をしているのだ。(畑中氏も調査目的と必要標本数とともに「必要計画年数が重要」といっているが、IWCでも繰り返し問題を指摘されているJARPAIIが無期限である事はICJでの判断の一つの根拠となった。ちなみに。氏はミンククジラの調査期間を6年間としている、と書いているが、これは評価期間の区切りが6年毎ということでJARPAIIそのものの計画期間ではない)

Before considering individual objectives, general comments applicable to all aspects of the programme are identified. The Panel noted that the general and extremely broad nature of the objectives and its ongoing nature made it difficult to fully review how well the programme met its own objectives. It recommended refined objectives and sub-objectives with timelines for progress be developed to be more easily assess if the objectives have been met.

 畑中氏は判決の主要な根拠となったものは、1)必要な標本数の科学的根拠が弱い2)設定した標本数と実捕獲数にギャップがあり、第1期調査と同じことをやっているに関わらず、標本数を過大なまま据え置いた点だとし、捕獲実数が計画と異なる事を認めながらも、政治的な駆け引きや妨害によって実現出来なかっただけで、科学調査に問題はなかったとしている。

 評価会議の報告は、「データ収集は天候や氷の状態や抗議者の妨害行動によって影響を受け、計画された収集活動が数年の間出来なかったので、計画目標の達成が大幅に阻害されることを懸念 し、抗議などによる妨害があっても調整できるようなしっかりした計画の方法を事前に開発する事を勧める。例えば現存するデータの手助けによるシュミレーションスタディなどが考えられる」としている。(ちなみにこの後にも、個別の調査結果に対して商業捕鯨時代のデータをもっと活用したら、とか、他の調査の結果も活用したらとか、繁殖海域の入らない限られた調査海域で得られる結果は不完全なので、他の機関や国などの調査との連携が必要という指摘がたびたび出て来ており、評価会議が必ずしも提出された報告を高く評価したわけではない事が読み取れる)

 Because data collection disrupted due to weather, ice conditions and increasing sabotage activities by protestors resulted in not achieving the designed sampling scheme for some years, the Panel was concerned that this could severely compromise the ability of the programme’s objectives to be met. The Panel recommended that an explicit protocol be developed to specify a priori how the design could be modified if disruption by protestors occurs; simulation studies based on existing data should assist in this.

 計画された頭数における致死的調査と非致死的調査の割合はどうか。
調査方法の計画決定において、非致死的調査をどう勘案したかについて、畑中氏は「非致死的調査については、得られるデータが十分に有効性とならないと判断したため行わなかった」としている。
IWCで86年に採択されたガイドラインで、致死的調査は他の方法でえられない場合のみに行うという事が合意されており、日本もその点については反対はしていない。裁判においては、非致死的調査について(本会議での)決議を尊重して捕獲数を決めたのかという問いに対し、日本は的確にこたえられなかった。一方で、ザトウクジラとナガスクジラについては、非致死的調査で結果を得られていると主張している矛盾もあり、ミンククジラの捕獲数倍増について、日本側の主張は合理的な説明となっていないと考えられた。

 致死的調査と非致死的調査に関しては、この5月の会議で9人の科学者が、評価会議における不足点(特に評価会議では曖昧にされた致死的調査と非致死的調査の検証を行わなかった点について)を指摘する文書をAnnexO1として出している。

https://archive.iwc.int/pages/preview.php?ref=3436&alternative=1848&ext=jpg&k=&search=&offset=0&order_by=relevance&sort=DESC&archive=0&page=12

 科学委員会の見解について、畑中氏は「また、得られた年齢データ(致死的データ)によるミンクのVPA解析(資源解析)を歓迎し、現段階で資源動態を最も適切に反映していると高く評価」と言っている。しかし、畑中氏が言うところのミンククジラの資源解析が「資源動態を最も適切に反映していると高い評価を受けた」という該当箇所については、以下のところしか見つけられなかった。

It agrees that the SCAA model is both the best currently available model for examining stock dynamics for the minke whales in the JARPA II area, and that the model performs well in this regard. The Panel made a number of detailed recommendations for improvements and further work. The Panel also notes that certain results from the SCAA model may not be consistent with inferences developed from other components of JARPA II or may suggest potential revisions to the design of JARPA II itself. These points concerned inter alia MSYR, stock structure and growth rate changes. They should be considered by the proponents once the revised SCAA analyses have been undertaken.

 しかし読んでの通り、この部分は資源解析のためのSCAA(statistical catch-at-age analysis)モデルを評価したのであって、調査結果についての評価ではない。そして、この文章の最後には、このモデルを使った場合、JARPAIIの計画そのものを変えないと整合性がなくなるかもしれないという事も書かれているようだ。

最後の結論にも「評価された」と読めない事もない部分もある。

The Review Panel welcomed the scientific contribution of JARPA/JARPA II. At the same time it identified those areas where further work is required and provided suggestions and recommendations that if correctly implemented, will contribute to improve analyses from the first six years of research as well as future research.

 結論として、評価会議はJARPA/JARPAIIの科学的な貢献を歓迎する。一方で更なる調査が求められる部分について与えられた助言や勧告がきちんと反映されれば、最初の6年間のみならず将来的な調査による計画の解析の改善に貢献できるだろう、と言う部分だ。
つまり、評価会議では1)計画そのものについては評価する立場ではない、2)個別評価については『良くやりましたね、だけどね・・・』という評価.3)高く評価されたモデルについては、使うならJARPAIIそのものを変更する必要があるかも、といっている。
結果を‘welcome'しながら、必ずといっていいほど‘however...'の付けられたこうした修辞を『科学委員会が高い評価」ということばにつなげる楽天性を評価すべきなのだろうか???

 畑中氏のICJ判決批判に引き続き、西脇氏やダン・グッドマン氏がそれぞれ裁判結果に異議申し立てを行っているが、その柱となるのは、国際捕鯨条約第8条の解釈と、司法裁判所判決が科学者ではない裁判官が科学的な判断をするのは間違いと言う主張や(その割に、判決に反対した4人の裁判官のコメントについては、我が意を得たりとばかりにかなりしつこく紹介しているようだが)、2月の評価会議によるJARPAIIへの「高い評価」をICJが無視しているという主張である。

<国際法としての判決に関する議論>
 日本としては、衆参両院での全会一致の調査捕鯨推進決議を受け、当初は判決を受け入れ、敗訴としてきた状況を打開していかなければならないのだろう。「判決に従う」としていた政府も、判決が第2期調査についてだけであリ、調査捕鯨そのものの否定ではない(致死的調査を否定していない)事を盾に、北西太平洋における調査捕鯨を継続し、また、今年度の南極での調査捕鯨に関しては、IWC科学委員会への提出時期が間に合わない事から非致死的調査に限って行うとしながら、早期再開に向けて花火を打ち上げているようだ。
http://www.natureworldnews.com/articles/7953/20140708/whale-hunts-will-resume-
in-2015-says-japan-prime-minister.htm
 
 5月に開催された神戸におけるICJ判決を巡るシンポジウムの中で森下IWCコミッショナーは「判決は日本とオーストラリア、ニュージーランドの3カ国に課せられたもので、IWCの88の参加国すべてに関係するものではない.また、科学調査の否定でもないし、致死的調査を否定してもいない。しかし、きっと反捕鯨国とNGOはこの判決をもとに自分たちの主張を繰り返す事だろうから、今度のIWCは重要なものとなるだろう」というようなプレゼンテーションをしたようだ。7月11日に行われた水産ジャーナリストの会での講演ではさらに1歩進めて、判決を引き分けかそれ以上の勝利とし、あらたな調査捕鯨の計画に意欲を見せている。

 しかしこうした立場を今支持する人が(捕鯨関係者+議員を除いて)どれほどいるだろうか?私たちにとってはわざわざ南極まで出向くのは愚の骨頂以外の何者でもない。
1)南極で商業活動をする企業がないというのに、これまで以上の税金を投入して調査捕鯨を続ける意味がどこにあるのか
2)「オゾンホールの発見に匹敵する重要な調査(森下発言:7月11日水産経済)」で国際貢献したいのであれば、既に開発された非致死的調査方法を使い、IWC-SORPやほかの国際機関による調査との連携
http://www.marinemammals.gov.au/sorp
を行ってこれまでの汚名を挽回すべき。

なのではないだろうか。

今度のスロベニアでの会議は、双方にとっても重要な場になるに違いない。

 
 

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