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2014年5月28日 (水)

鳥獣保護法‘改正’

<‘指定鳥獣’(=シカなど増え過ぎの動物)の数を半減させるための改正>
 5月22日、参議院環境委員会で鳥獣保護法改正が多数決で(共産党は反対)採決され、翌23日、本会議で成立した。
 報道でも伝えられたように、今回の'改正’は、シカやイノシシが増えすぎて、生態系や農作物に甚大な被害が及んでいる事から、こうした動物を「指定鳥獣」として、大量の捕殺や生息地の縮小を行い、「適正な数(被害がそれほど甚大ではなかった頃まで)」に管理(=コントロールで、国際的に通用する言葉である「ワイルドライフマネージメント」ではない)するというものだ。そのため捕殺効率を良くするため、専門の業者を都道府県に認定させたり、夜間銃猟の禁止緩和や死体の放置を一定の条件の下で許可するという。環境省のいい分としては、同法がこれまで主軸としてきた「保護」から、「管理」への転換を行う(法律の名前にまでワイルドライフマネージメントではない「管理」をいれる!)というおおきな‘改正’である。

http://mainichi.jp/shimen/news/m20140523ddm041010134000c.html
http://sankei.jp.msn.com/life/news/140523/trd14052314020015-n1.htm

 環境省的には、その大量捕獲に関して、必ずしも科学的な知識や過剰な捕獲に対する回避措置は必要ないと考えており、大量捕殺についての一般理解のため、推定個体数を水産資源管理に使われている「ベイズ法」という数理解析でおよそシカ325万頭、イノシシ88万頭と算出し、10年間で半減させるとしている。

<1999年に既にあった問題−先延ばしの結果>
 一部の野生動物が増えて農作物に被害を及ぼしているので、早急に問題を解決しなければならない、という議論は今に始まった事ではない。この種の法律の国会論議で初めて脚光をあびた1999年改正の時は、すでに数の増加が目立って問題となったエゾシカについて、北海道が独自に保護管理計画を作成し、駆除を始めていた。
 当時の自民党農水議員が、「鳥獣保護法は保護に偏り過ぎだ」という主張を繰り返し始めたのもこの頃で、環境庁(当時)はその対策として、新たな保護管理計画、「増え過ぎ、減り過ぎの鳥獣に関して、都道府県が個体数管理、被害防除、生息地管理の3本柱で科学的、計画的な特定鳥獣保護管理計画を策定する」という方針を打ち出した。

 改正はもとが地方分権一括法に基づくものだったので、このときの目玉の特定計画は、任意の計画として地方に任せられ、シカなど、規制の緩和がインセンティブになるものに関しては作成が進んだが、行政の力量次第で地方によるばらつきもひどく、科学的、計画的に進まなかった事は、現在の結果で明らかである。

<NGOは99年から専門家配置、予算確保を主張してきた>
 このとき、NGOは県境を持たない野生鳥獣が、地方分権による権限の委譲によって区分され、また、都道府県でも不十分である専門的知識を有する行政担当者がいない市町村にさらに下ろされる事、唯一具体的な数のコントロールに終始し、計画の3本柱である生息地管理や、被害防除がおろそかになる事を懸念し、都道府県における専門的知識を持つ職員の配置、また、鳥獣の保護管理をきちんとすべく、趣味のハンターではないワイルドライフマネージャーの設置、そのための予算の確保が不可欠だと主張した。
 野党が元気だった頃の国会議論であり、管理を先行させた北海道で、放置されたエゾシカの死体を食べた絶滅危惧書のオオワシやオジロワシが鉛弾による中毒でばたばた死んだ事もあり、それまでこの法律では考えられなかったほど議論は盛り上がりを見せ、あわや廃案!というところまで行った。環境庁(当時)が妥協案を提出しそれを大手のNGOが吞んだことから、結果は3年後の見なおしが付則につけられ、いくつもの附帯決議もついた。(3年後というのは議論に加わった議員たちの任期から来ており、必ずしも結果判断に妥当だったわけではない)

 しかし、この附帯決議は守られず、3年後に見直しが行われた際にも、同じような内容の附帯決議が再びつけられたのが分かる。

<農水の有害鳥獣対策特措法>
 一方で、農産物の被害を訴える農家の声に押され、農水議員は2006年に農業に被害をもたらす鳥獣の駆除を市町村が推進する特措法を議員立法で策定、被害対策に対して、環境省とは比べ物にならないほどの大きな予算をつける。市町村では被害防止作設置の他、独自の駆除隊を結成して局所的な解決を図った。
 温暖化や管理の失敗から、シカなどの数が増加した事ばかりが取り上げられてきたが、一方で、戦後の第1次産業切り捨て政策がこの大きな原因となっている事は余り指摘されない。鳥獣の被害の集中している中山間地域における過疎化と耕作放棄地の増加が鳥獣にとって住みやすい場所を提供していることは確かであり、鳥獣被害が離農を促進するという風に言われるが、逆に政策がしっかりしていて農村が活性化されれば、被害問題はそれほど広がらなかった可能性は高い。
 特に、TPPの推進の方向に農業経営のあり方の大規模化、産業化の方向を持ってきた政府は、そのことで棄民されていくだろう中山間地の自衛農家などの不満のはけ口として、特措法により補助金をばらまいてガス抜きをしているように私には思える。しかし、実際はものをいわない鳥獣に一切の罪を負わせて解決する事の方が容易いのも確かである。

<国会議論で取り上げられたこと>
 昨年の種の保存法改正では、環境省が抜本的な改正をしようという意志をもたなかったため、NGOはかなり強く反発し、議員へのロビイングを行った。その結果、環境省は改正に関する誠意を議員に見せるため、余り根拠もないところで突然保存法の対象種を2020年までに300種追加するという事を言い出した。結果的に、このことが種の保存法に対して大きな予算を付けることになり、現在環境省には希少種保全推進室という部屋が出来、担当職員も5人から9人に増えたようだ。

 それはともかく、鳥獣法改正では、こうした「恥」を回避すべく環境省は早くから議員(および一部NGOの管理職)への根回しをおこなったらしい。衆議院では改正法案への修正案はできず、議論そのものも選挙区の農業者へのリップサービス(捕殺促進のための規制緩和)といわゆる‘ジビエ’の普及と流通促進、衛生管理内容の緩和など、これまでの議論ではなかったほど環境省マターから外れた議論が繰り返された。(緊急的な措置としてのシカ捕殺とその肉の利用を、‘安定的に’行うというのは言葉の矛盾ではないだろうか。)また、今回、被害対策の一つとして被害対策の一つとしてオオカミの再導入も提案されたが、さすがにこれは通らなかった。
 しかし一部両親t器な議員により、議論では不十分であったものの、本来は議論されてしかるべきものが含まれた15項目の附帯決議がつけられて参議院に送られた。

 参議院では、それでもすこしはましな展開があった。議員の何人かは、鳥獣保護法の本来の目的を前提として、今回の改正が一時的な解決策である事を環境省にただしさえした。99年改正時から問題が既にあった事、それを解決できなかった事が現在につながっているとの指摘もあった。さらには、農水予算と比べて非常に少ない環境省予算も問題に上がり、大臣に必要な予算獲得を約束させた。附帯決議はさらに増えて、17項目となった。
 予算は増えた。しかし、現在の近視眼的な環境省のあり方では、どれくらい問題解決が図られるかは疑問である。

 また、今回の改正に向けてのNGOのあり方も、専門家の配置と言う1点突破にこだわって(もちろん重要ではあるものの)、全体の問題について問いきれなかったという恨みが残る。
 例えば、大きな問題としたいのは、80条である。これは、2002年に同法がカタカナ表記からひらがなに代わり、他の法律にそろえて定義が書かれたため、すべての野生鳥獣が対象となることになった。
しかし、ドブネズミやクマネズミなどの「衛生害獣(ひどい呼び方!)」と、他の法令でその捕獲を適切に管理されていると見なされている種(鯨類など)は適用を除外するという条文がつけられてしまった。このときから、繰り返し、調査研究で問題があるとされれば見直しを行うと言う文言があるものの、実際にきちんと透明性を確保した上での評価・点検は行われていないのは繰り返し言うまでもない。(水産庁との情報交換はしていると局長は今回答弁したが、実際、弱い立場の環境省がしっかりと問題を提起できるとも思えない)
 さらに、今回に関して言えば、それどころか環境省が保護管理することになった、絶滅危惧種のゼニガタアザラシを、絶滅危惧種であれば希少鳥獣に関する条項(新しく希少鳥獣についての管理について加えられた)絶滅危惧種からはずされれば特定計画によって個体数管理(捕殺)を行おうという事までつけられている。
 これではせっかく環境省に委ねられた意味もない。実際、一部の研究者は、環境省に委ねる事があだになると考えているようだ。しかし、「他の法令」での管理に関して言えば、そもそも目的が異なるのでその適切さについての判断基準にはなりえないのではないだろうか。
 それよりも、これまで資源として管理する事からデータを持っている水産庁と、資源ではなく環境の立場からの保護管理を扱う環境省の共管により、被害防除の方策だけでなく、同法対象の保護管理すべき動物として、統一して基本的な保護管理の方策を打ち立てるべきではないのだろうか。

 

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