鯨類学入門講座受講報告
11月4日から10、16日と3日間にわたって、東京海洋大学で行われた「鯨類学入門講座」を受講してみた。クジラに関する海外の事例などはいろいろとネットでも拾うことができてそれなりに興味を持ってきたが、(例:http://www.youtube.com/watch?v=CDr2zb78uOU)
実際に国内ではどんな具合かということは意外に知られていないのでは、という思いもあり、また、講演する人たちが何を考えているのかということも確認したかった。
講師の面々は日本では一応名の知られた人たちだが、クジラの生態を専門としている人が見当たらない。
唯一、生態に関連した話をされたのは一番始めの加藤秀弘教授だが、生態よりは進化についてが主な話題だった(最後の感想に、聴講した人から「もっと生態の話が聞きたかった」という意見があったらしいが)。
他は、加藤研究室のお弟子さんのクジラの頭骨の話と海洋大に展示されているクジラ類の骨の紹介。
確かに進化の過程での後肢の痕跡とか、腰骨の話は興味深かったが、もう一方で、デイビット・スズキ氏から以前伺った話「花びらやオシベとメシベを顕微鏡で見て花を知ったと考えるのは間違い。花を総体として理解することは、花を分解することと同じではない」ということばを思い出す。
IWC科学委員会議長を今年から務める北門利英氏の話は、ヒトがクジラを管理する手段をどのように高めていくか、という点であり、ヒトがこの世界を牛耳っている以上、欠かすことのできない非常に重要な課題ではあるが、それ自体はクジラはどんな生き物かと言う興味を満たすわけではない。
ただし、彼が数式を示しながら、これを数式だと思うから理解できないかもしれないけど、今話したことと同じことを言っているのですよ、という説明で、理系に弱い頭にもその意味が少し理解できるようになったのは感謝であった。
そのあとは、おおむね日本の水産管理技術に関連した話題(個体数推定の出し方–宮下富夫氏、水産資源管理–田中栄次氏)、日本の捕鯨と調査捕鯨の科学性・正当性(大隅清治氏、森下丈二氏、田村力氏)と資源利用についての話に終始した。
まあ、それが日本的なアプローチですよ、と言われればそれまでだろうが、鯨類学というよりむしろ鯨類資源学+αという感じである。また、加藤教授の教室の研究のあり方では(実習は捕鯨船団に乗ったり、あるいは太地に出向いたり)、豊富な試料を得て、それに基づいたものがメインとなっているようだ。そういう立場からはもちろん、関連産業との関係も深くなるだろうし、なかなか客観的な批判もしづらくなるのではないか、と思った。
聴講する人は、というと、年代的には高校生から老年までと多様だが、中には多分これから就職期に入ろうとい人や、大隅さんの「応援団」と思しき水族館や博物館関係者がきていたようだ。講演をおとなしく聞いて、議論は行わず、終了後に直接出向いて質問したり、名刺交換をする人もいる。疑問だらけであったのは私だけか?
不快であったのは、水研センタ‐に移ってこれからIWC本会議でコミッショナーを務める森下丈二氏の話で、嘘はつかないが、肝心の点は話さないという私から見れば実に不誠実な話し方。
たとえば、南極の調査捕鯨第1期についての科学委員会の評価はすでに2006年(だっけか?)に行われている(初期目的を果たし得なかったという不面目な結果!)のに、1997年の中間報告を取り上げて科学委員会から評価されている、と報告したり、2010年の妥協案についても、日本が激しく調査捕鯨の縮小に反対してつぶす一翼となったのに、「1頭たりとも取らせまいとするオーストラリア、ラテン諸国」が悪いのだといってみたり。
あんまりだと思って講演の後に.挙手して2010年の時の日本の立場を聞いたら、今国会にかかっている例の法案のことを持ち出し、答えたら罪に問われるかもしれないから答えられない、と来た。(このような都合のいい逃げ道を作るのだな、と秘密保護法案の実習を見たような思いだった)
ついでに、田村@鯨研に、今回の北調査でなんでミンクの捕獲は3頭だけなのかも聞いてみた。「出向時期が遅かったので、移動した可能性」がある」とか『自分としては別の餌場を見つけたという仮説を立てている」という答えが。だけど、今回の航路に、これまでミンククジラの目視調査及び捕獲していた海域は入っていないようなのだ。
そうした質問は想定外だったのだろうか?
« 会計監査院 | トップページ | 情報が隠され、操作されるということ »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント