海に関連するシンポジウム(2)
10月1日には、東大海洋アライアンスによる「新海洋像:海の機能に関する国際的な評価の現状」が
東大の小柴ホールで開催された。
趣旨は:
東大などを中心とした研究チームが平成24年から5年間の研究として
「新海洋像:その機能と持続的利用」をテーマに、海洋の物質循環と生態系
の機能を解明し、 漁業操業の制限強化といった即物的な内容に終始してきた
国際的な議論を越え、さまざまな恵みをもたらす海洋の機能と価値を
複数のまとまりとして見る海洋区系ごとに評価することで新しい海洋管理
を提唱する。」
というもの。
ちなみに、海洋アライアンスは
「東京大学がこれまで培ってきた海洋に関わる知識と人材を融合し、海洋と人類の新しい親和的・協調的な関係を築くために、専門分野を超え、組織横断的な教育・研究活動を実施・支援していく(東大海洋アライアンスホームページhttp://www.oa.u-tokyo.ac.jp/digest/index.html)」である。
今回のシンポジムでは、アライアンスの理事であり東大農学生命研究科の古谷研教授が冒頭挨拶を行い、海洋の生態系と物質循環による海洋の持つ様々な機能=恵みについて紹介。これまでの生物地理学の区分を越えて、これまで知られてこなかった外洋域、特に公海における生態系の構造や物質循環機能についての研究とガバナンスの追求を、法的経済的な枠組みを含めて文理融合的なアプローチにより進めることが重要であるとした。
次の講演者のピータ・ブリッジウォーター氏は、UNESCO生態・科学分野部長やラムサール条約事務局長など国際機関で活躍してきた。彼は、1972年のストックホルム人間環境会議で海洋汚染への警告が発せられて以来、ヨハネスブルグサミットなどをへて海洋生物多様性の解明が進んできたこと、を紹介。地球上に生息する33の動物部門のうちで、15部門は海洋にだけ生息すること、また最近の知見では海水中にこれまで知られてきたものとは異なる真菌類が発見されたことなどから、海洋には「不明であることが明らかであるだけでなく「不明であることが明らかになってさえいない」ことがまだ存在することを指摘したことは興味深かった。また、「生態系サービス」に関する研究では、人間へのサービス提供が中心で、人間中心的な見方に陥りがちであることを警告、CBDにおける生態系アプローチの導入と単一種と分野ごとの管理から、海洋空間計画をツールとして用いるべきだと言う主張は納得しやすかった。
次のベンジャミン・ハルバーン氏は、海洋健全プロジェクトのリーダーとして海洋の現状と改善に向けての海洋保護区設置を進言している。この海洋健全度指数は、海の健康診断としてコンサーベーションインターナショナルの知人から昨年紹介されたプロジェクトで、海の健康を、沿岸の自然度や生物多様性、沿岸における漁業のあり方や食料提供、水の安全性、インフラなど社会的な要素を含めた10の項目を円グラフで表示、17の地域での海の健康度を100点満点評価をしている。ちなみに平均点は60点で日本の評価は65点。http://www.oceanhealthindex.org/
海の現状を可視化し、モニタリングを継続して更新していく所は使いようによってはすごく分かりやすいものだと思う。国によって海域の問題点を洗い出し、積極的にこの採点をあげていく政策をとるところが増えれば、全体としての海洋環境と海からの恵みは改善されるということなのだろう。ただ、評価として入れ込む項目の選定、評価対象となっているデータなどに問題はないのかという疑問はある。
会場から、核による汚染も盛り込むべきという意見が出た。今のところ、数値に入れ込めるほど世界的には大きくないので今後考慮するという話だった。
午後からは、CBD事務局の海洋担当ジヒュン・リー氏の講演。2010年のCOP10以降の海洋、特に公海におけるEBSAs(ecologicaly biologicaly significant area)の地域ワークショップの開催など、非常に盛りだくさんの現状を急ぎ足で説明。私にとっては、名古屋会議以降にどんなことが起きているかが分かって一番興味深い講演ではあった。
CBDでは法的な縛りがないところに加えて、国際機関における綱引きや各国政府の思惑で、このEBSAsの重みがどんどん軽くなっていく様子を名古屋ではかいま見た。現在はいくつかの地域ワークショップが開催され(日本からの資金提供に感謝)、そのうちの75%がすでにカバーされているとのことで、関係者のみなさんのご努力に感謝だ。
海洋に関しては、乱獲、酸性化や海中の騒音、海洋がれきなど懸念される問題が多く、今後は公海や深海における生物多様性の確保が急務であり、彼女がよく言及する、海はひとつながりであり、全体で考えなければならない(ocean as a whole)というコンセプトは重要だと思う。
また、話の中にCBDの環境影響評価基準がIMOで採用されたということが出てきて、そのことを詳しく聞きたかったのだが、次の森下さんがEBSAsについていろいろ質問をしたため(どうも元々は余り関心がなく、CBDについてはよく知らないように見受けられた)適わなかったのが残念だった。実は今年4月に策定された海洋基本計画では、海洋開発の奨励が盛んに出てくるが、肝心の環境影響評価については、「その手法を検討する」程度の書き込みでしかなく、開発の後づけの環境影響評価では意味がないのではないか、と思っていたところなのだ。
(参考:CBD-COP11における環境影響評価のガイドライン)
http://www.cbd.int/decision/cop/default.shtml?id=11042#_Toc124570465
次は森下丈二氏。IWC会議でおなじみの水産庁のプリンスだ(おっと、今は水研センターですが)。
昨年リオ開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)の成果文書「The future we want」の中の
海洋部分についての解説で、きちんと読んでいなかった分、分かりやすく面白く聞いた。
海洋に関する諸問題の重要性については「常識」になっているが、議論においてはなかなか一致点を見ることができない。特に公海における生物多様性の「保存」と持続的利用に関して、国連海洋法条約のもとに新たな条約を作ろうという提案があり、生物多様性「保護」と海洋保護区のための法的枠組みを求めるEUと、新条約を遺伝し資源の経済的利益分配の貯め、新条約を求める途上国、そして、新たな法的な枠組みは煩雑さを増すだけだ反対するアメリカ、日本、カナダの対立で、2014年の国連総会で検討するという妥協案が合意されたということだ。
また、愛知目標の3にある補助金に関しても、WTOで合意形成が計られてきたものの、漁業に悪影響をもたらす補助金の撤廃を訴えるEUなどと、補助金による支援が必要な途上国などの意見の相違が埋まらない。一方で、日本はアメリカ、韓国、ロシアと早々に北太平洋漁業条約を結んだそうである。
IISDのレポーティングサービスなどを見ていると、このところ様々な国際会議で途上国の存在感が増し、先進国による利益の独占への反発と、新たな利益の分配、資金援助やキャパビルなどの要望に、国際経済そのもののかげりも影響してなかなか合意形成ができない状態が続いていることがわかる。
途上国を始め、どちらかと言えば短期的な利益追求に対して、長期的な展望を求める声がなかなか現実化していかないもどかしさを感じる。
次は世銀のジェームズ・アンダーソン氏の世銀による持続可能な漁業への支援活動の報告。環境、経済、社会の持続可能性という「トリプル・ボトム・ライン」の達成に向けた漁業管理制度構築への指標開発についてある。アウトプットとして様々な漁業活動における資源管理の健全性や環境影響、漁獲高、資産やリスクから漁業者(所有者、船長、乗組員)の抱える問題、市場での健全性や加工、関連事業の実効性など多方面からその漁業と制度の評価を行う、一方インプットとしては総合的な環境や国のガバナンス、国家経済や漁業権など諸条件、漁業コミュニティの特徴、インフラなどで支援対象となる漁業活動を評価するものだ。世銀はこのところ海洋の健全さに関して積極的な保全を訴えており、こうした試みにおいても、持続可能な漁業の支援が円滑に行われることが望ましい。
最後は、かつて水産庁で捕鯨担当として面識があり、東大で教鞭をとっている今も水産関連に強い八木信行氏である。彼の主張は、国連海洋法条約における問題点の洗い出しと方向性である。
同条約に書き込まれている、単一種管理に基づく最大持続可能生産量(MSY)の概念を、今後は複数魚種の一括管理の方が望ましいのではないかとする。これまで、MSYの考え方では生態系への理解の上での海洋環境の変化やレジームシフトなどを考慮する中、新たな概念の構築が必要だとする。また、200海里の設定も資源管理の上では問題がある、という。こうした視点を、新たな法律の枠組み(BBNJ=国を超えた生物多様性)にも入れ込んでいくべきではないか。
一方で、海洋の生物多様性を計るのに陸の尺度を当てはめがちだが、海洋に関しては別の尺度が必要。陸における(商業的)狩猟の継続不可能性に比べて、漁業が存続してきた理由は、その物質生産スピードの速さによる。
確かに海洋に関しては、陸と同様に保全を考える必要はないのかもしれないが、一方で海洋環境の大きな変化を見ていくと、そこだけで判断していいものなのか、と疑問がわく。
最後に紹介された北海道野付におけるアマモとの共存を目指して、底引きではなく帆船を用いたエビ漁業の映像は面白かった。
国際的には、海洋環境悪化についての懸念が膨らんで、大きな問題として語られている。しかし、これまでの日本の様々な分野での意見を見ていると、そうした変化についてかなり楽観しているのではないか、と思ってしまう。素人の考えかもしれないですが。
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