« 2013年3月 | トップページ | 2013年5月 »

2013年4月15日 (月)

海のレッドリスト

 2010年、名古屋で開催された生物多様性条約会議の最中に環境省が公表した海生生物のレッドリスト作りに向け、海洋生物の希少性評価検討会についての環境省記者発表があった。

http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=16534

 それによると、検討会は昨年10月から4回行われ、その中で環境省がこれまで管轄してきた陸生のレッドリストとの関係や、評価基準、対象、方法等が議論された。

 ここでは、その評価対象について、少し報告しようと思う。
まず、二国間、多国間協定の対象種は、「我が国に限定した評価を別途行うことは適切ではない」という事務局案に対して「最初から評価せず対象から除外するのは、対外的にもマイナス。小型鯨類はIWCの管轄外」とする委員からの意見が出た。
それに対して事務局が「小型鯨類は対象から除外するのではなく、多くの知見を有する水産庁が評価を行うこととしたい」とした。
 さらに、「資源評価が行われている種については、評価を実施する主体が管理・保全措置を含め対応しているため、対象から除外すべき」「水産庁が資源評価と管理をしっかり行っている種は、さらにここで、重複して評価を行うべきではない」と言う意見が「資源評価と絶滅のおそれの評価は異なる。また、資源管理を実施する主体とは別の主体が評価をすることに異議がある」という意見を制して、これまでの水産庁の資源管理を踏襲することになった。

「なんで、水産庁ではいけないのか?」という意見もあるかもしれない。
これについては、少なくとも小型鯨類に関しては、これまでの水産庁の管理のあり方が、産業の側についていたこと、それがレッドリスト掲載で変わるとは思えないことをあげたい。小型鯨類に関する捕獲についての1993年当時の捕獲枠の設定、その後やっと枠の更新が行われたものの、「一気に枠を縮小して産業を圧迫することはしない」という方針で、5年間の暫定枠が作られ、期間後もそのやり方が踏襲されているのが現在だ。

 評価については、日本哺乳類学会の評価と一致するものの方が少なく、しかもその調査についても、1980〜90年代のものも少なくないし、また、2007年に予算がついて1〜2ヶ月の限定的な調査を行った以外、海域的にも同一ではないニタリクジラの目視調査に付随して行われたことなどである。捕獲したい気持ちが強まってか、とんでもない資源評価をされてしまったシャチのような生き物もいる。

 水産庁の管理の問題点としては、もうひとつ、行われるのは資源として有用種で、それ以外についての調査を今後行うとも考えにくいことだ。

 ここでは、未だに1971年当時の水産庁と環境庁(当時)との覚え書きが生きており、環境省は計画を立て、予算をとるなど面倒なことを避けて、それを変えない方が楽なのだ。

 せっかくここまで来たというのに、またしても鯨類は野生生物として評価されるのではなく、「資源」として定着させられてしまいそうな残念な結果なのだった。

2013年4月 7日 (日)

海洋基本計画(原案)への意見提出

以下のような意見を提出。


新たな海洋基本計画(原案)への意見

以下の2点につき、意見を申し上げます。

<意見1>
海洋生物多様性等の海洋環境保全を全体に反映
<理由>
国連の諸機関のみならず、世界銀行なども海洋環境保全を喫緊の課題と考えて繰り返しメッセージを発しています。国内のみならず、国際的にもリーダーシップを発揮するには、今回の基本計画においてはこうした危機感の共有がいささか欠けているように思います。「海洋立国」を打ち出すうえで、ぜひご検討をお願いしたい課題です。
参考:
http://www.globalpartnershipforoceans.org/
(意見内容)
 冒頭の「海洋立国日本の目指すべき姿」(1)に掲げられた基本法の文言「海洋の生物の多様性が確保されること等の海洋環境の保全は、人類の存続の基盤である」ことは、「海洋の開発・利用は我が国の経済社会の基盤である」ことと同列に書くべきではありません。開発・利用が短期的な利益だけを目指すのではなく、将来世代を見据えた持続的なものであることを共通認識とすべく、まず「人類の存続の基盤」を全体の核に据えるべきだと思います。
○反映すべき箇所の例
特に、(海洋の開発・利用による富と繁栄)において、「富」と「繁栄」を短絡的な利益追求に終わらせないために、「海洋環境との調和」の前に「将来的にも海の恵みを受け続けるため、海洋生物多様性保全戦略に書かれている重要海域を重視しつつ」「環境影響評価を行うなど」を挿入し、海洋環境との調和が単なる枕詞に終始しないよう注意すべきだと思います。
同様に、第1部 「海洋に関する施策についての基本的な方針」すべてに、この考え方を反映させることが重要だと思います。
例えば:2「本計画において重点的に推進すべき取組」には、この考え方が希薄です。
海洋産業の振興と創出 3行目「今後」のあとに、「海洋環境保全を図りつつ海洋の開発・利用を進め」とするなど、保全を位置づけることが重要と思われます。
確かに、3「施策の方向性」(1)海洋の開発及び利用と海洋環境の保全との調和の中に「開発に際しての環境影響評価手法も併せて検討を継続・推進」という文言はありますが、すでに開発が先行している現状を考えれば、「手法の検討・推進ではなく、「環境影響評価の実施」でなければ「調和」とはいえないのではないでしょうか。
第2部の「海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」においては、1.海洋資源の開発及び利用の促進 と 2.海洋環境の保全等 が具体的に連携していないので、別々の2つの海域があるようです。相互的につながっていることを明らかにするためにも、(1)「海洋エネルギー・鉱物資源の開発の推進」の冒頭に海洋環境の保全のための環境影響評価の推進などの文言を入れる必要があると思います。

<意見2>
海洋立国には計画策定への多様な主体の参加が必須
(意見内容)
一般の意見聴取期間が7日間というのはいささか短すぎると思います。計画立案過程における多様な主体の参加が保証されていない状態も含め、幅広い市民の参加を促すうえでは問題があるのではないでしょうか。
海洋の利用形態はますます多様化しています。一方で海洋環境保全が国際経済や社会にとって必須であることが明らかであり、その実現のためには市民社会の参加が欠かせません。
海洋に関する法律制定の遅れた日本では、まず領土と開発利用が先行している嫌いがありますが、総論にもあるように「海に守られた国」から「海を守る国」へと早急に成長しなければなりません。
 今後国際的にも評価できる政策を展開していくためには、これまでのように海洋政策研究会、参与会議など閉鎖的に行われてきた政策決定の透明性を高め、上からの情報提供という一方通行ではなく、双方向的な情報交換と意思決定が継続的に保証される制度を確保する必要があるのではないかと思います。特にこれまで参加の不足してきた環境や生物系の科学者、研究者、地域での保全活動に従事しているNGOなど、現場での知識を生かした計画策定を心がけることで、より多くの人たちがこの計画への関心を「自分ごと」として寄せることができ、総合的で実践的な計画へと前進することができると思います。
ご検討をお願いします。

日新丸下関に到着

 http://ika-net.jp/ja/

の「もうかる漁業」その後は・・・で予想したように、日新丸はたった今、下関港に着岸した。
今後のことはともかく、午後から記念式典が用意されているということだ。


2013年4月 3日 (水)

海洋基本計画のパブコメ開始

 昨日の毎日新聞朝刊は「メタン埋蔵量3年で把握」という見出しで、海洋基本計画の原案ができ、その柱となるものを次世代エネルギー資源「メタンハイドレード」やレアアース(希土類)の埋蔵量を把握することと報じた。このブログでも何回か書いたが、海洋基本計画は、2007年に制定された内閣府のもとの海洋基本法の実行計画で、5年ごとの見直し規定がついており、昨年がその5年目にあたる。
 海に関する多様な利害関係を調整するために総合海洋政策本部が内閣府に置かれ、内閣総理大臣が本部長となって海洋管理を推進する。
 この基本法では、「四方を海に囲まれた我が国にと って、海洋の開発・利用は我が国の経済社会の基盤であるとともに、海洋の生物の多 様性が確保されること等の海洋環境の保全は、人類の存続の基盤である」とされてい る。しかし、実際に基本計画を見ると分かるが、開発による経済効果に熱心なあまりに、環境保全は単なるお飾りとなってしまっているきらいがある(今回計画減算の第2部 「海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」に海洋環境の保全があるが、他のところとリンクしていない)。

 もう一つ、今回のパブコメの期間がたったの1週間であることからも明らかなように、政策決定者は一部の開発に熱心な議員であり、彼らによって選ばれた参与による政策提言であり、一般市民の関与というのは、計画を理解し、ゴミ拾いなどで貢献する(もちろん、海洋のゴミ問題は深刻だ。だからこそ、市民レベルより先に政策段階でのもっと突っ込んだ提案も必要だろう)という程度に矮小化されている懸念がある。
 海の保全を推進してきたのは、地元の市民やNGOであることを考え、多様な主体が積極的に関わるためには政策立案段階でのより幅広い意見聴取が必須だし、また、今回のパブコメのように1週間よりも期間を長く取り、意見聴取の機会を多くつくることが海洋管理推進には欠かせないのではないだろうか。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/public/goiken.html

« 2013年3月 | トップページ | 2013年5月 »