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2012年8月16日 (木)

IWC 64 in パナマ4日目その2

 科学委員会による小型鯨類についての報告。

大型商業捕鯨対象種ではなかった鯨類一般については「小型鯨類」とひとまとめにされているが、実際は世界でおよそ80種とも言われる鯨類の多くが「小型鯨類」に分類され、基本的には各国の管理下におかれている。
 国を超えて移動する動物に関するボン条約や、国際取引を規制するワシントン条約でこれらの種はある程度カバーされているものの、鯨類の保護と管理に特化しているわけではないので、いっそIWCが扱ったらどうか、という議論はこれまでも行われている。
 今回、モナコが提案している国連における鯨類の保護管理提案は、IWCでの制限された鯨類管理(管理の不十分さ)に起因していると考えられる。
 鯨類の調査・研究を行う研究者は、大体IWCの科学委員会に所属している可能性が高いし、IWC科学委員会が鯨類に関して最も専門的な科学機関と認知されているわけだから、商業捕鯨対象種だけでなく他の鯨種もIWCが管理した方が合理的なような気もする。
 すに、科学委員会の報告や勧告に基づいて保全委員会が保全・回復計画をつくり、関係国がそれに従って保全・管理を実施している種がいくつかある。日本政府は保全委員会を認めていないが。

 科学委員会の報告は、北太平洋と北部インド洋に生息する10種のアカボウクジラ類に属するクジラについての報告から始まった。アカボウクジラの仲間は沖合の深い海域で生活しているため、生態について十分知られていない。
 日本では、この仲間で一番大型のツチクジラが千葉の和田浦で1600年代から捕獲されてきた歴史があり、小型沿岸捕鯨対象種として毎年66頭が国によって捕獲を許可されている。捕獲による影響は未知だが、日本政府は許可枠を徐々に増やしてきており、また、日本海の捕獲を許可したことから持続可能な漁業かどうか、判断はできないということだ。
 
 ツチクジラについて、国内では和田浦の伝統的な捕鯨に関してはいろいろと紹介される機会もあるのに対して、野生の生き物としてのツチクジラについてはあまり興味を持たれることがないようだ。
 粕谷俊雄博士がその著書「イルカ」の中で50頁ほどを割いてツチクジラとツチクジラの捕鯨の歴史について記されている。目視調査も不十分で、捕獲時期も限られているため、得られる情報に限りがあるが、それでもこの種がかなり特異であることが理解できる。
 ツチクジラの特徴としてまずあげられるものに「上顎には歯がなく、下顎の前端近くに2-3対のにぎり飯状の歯がある(Kirino 1956, 黒江1960)」という記述がある。一番前に位置する歯は長さが10センチ、前後幅10センチ、厚さ5センチもあって、くちばしの先に飛び出しているのだ。
 姿だけでなく、他のハクジラと比べてもかなり特徴的なのは、オスが長寿で、しかもメスと比べて30歳ほどの寿命の開きがあることだ(オスの最高齢は84歳)。そのためか、群れの構成はオスが多いようだ。これは捕獲される個体の性比によるもので、群れが密着して素早く泳ぐことから、選択的な捕獲は難しいという上での推測で、実際の社会的な構造はわかっていない。こうした生存のための戦略が一体どこからきているのか、知りたいものだ。

 アカボウクジラの多くは、IUCNのレッドリストでは情報不足になっている。ソナーによると考えられる集団座礁の多くはこの仲間で、科学委員会も、この仲間の生息海域付近では海軍のソナーや地震探査など慎むべきと勧告している。

 北米沿岸では、大きな環境の変化に伴ってこの種の特に定住型の生息数の減少が見られる。広い範囲での遺伝子解析や写真識別など統合的な手法による調査が必要だと勧告された。

 フロアの議論に移り、中国が発言を求めた。情報提供としてヨウスコウカワイルカの現状を報告。現在1400頭が生息し(???)、政府の保護政策により順調に回復している。捕獲して人工授精を行うことで、頭数が回復してきた。
*この件については、スウェーデンからヨウスコウカワイルカは絶滅したのではなかったか?と質問を受け、後に淡水のスナメリの間違いだったと謝罪。

 ペルーが北部沿岸でのイルカの大量座礁(死亡)について報告。今年度に入ってから数百頭以上の座礁が報告されているものの、その原因についての特定はまだできていない。

 科学委員会の報告は、小型鯨類の調査や保護に関するボランタリー基金に移った。IWCの管轄外のこれらの種の保護のための調査に関して、参加国が自主的に基金を拠出してきた。2009年にはオーストラリアが25万ポンドの拠出を行ったが、2011年の中間会合においてフランス、イタリアとイギリスそしていくつかのNGOが、これまで委員会が勧告した2つのプロジェクトや招待参加者のための基金、将来の基金に利用すること総計で73万ポンドの基金を拠出した。

 保護プロジェクトに関連して、メキシコの絶滅危惧種のバキータに関する報告があった。保護海域がもうけられているが、違法に保護海域で操業した船が87隻もあり、刺し網によるら網は回避できていない。各国の保護の意見にメキシコ政府は混獲回避の努力を約束。

 次はネズミイルカ。この種も混獲による大きなダメージを受けており、特にバルト海の個体群への懸念がある。これに関してはボン条約の地域協定のASCOBANS(Conservation of Small Cetaceans of the Baltic and North Seas) の報告があり、混獲やえさ生物の減少、開発など、原因となる脅威を理解し、回避措置をとることが話された。

 ブラジルのフランシスカナについての報告が続く。この種も混獲の脅威にさらされていて、IWCの基金による調査が実施されている。
 その他、カワイルカについての報告(ブラジルとコロンビアで捕獲されて市場に出回っているBOTO、イラワジカワイルカなど)。

 小型鯨類についで、オーストラリア政府の主導する南大洋非致死的調査パートナーシップ(SORP)の報告。10カ国の参加、アメリカとオーストラリアの資金提供により実施されるもの。今回の報告はシロナガスクジラの音響調査及びザトウクジラの摂餌行動についての調査報告がなされた。

 また、2012年3月に行われたチリ政府主催のLiving Whale in The Southern Oceanのシンポジウムについても報告された。
(以下にその詳細が掲載されており、非致死的調査というものがなぜ、またどのように行われるか、講演者のビデオ録画で確認できる。門外漢の私にとってもいくつかはたいへん興味深い)
http://www.simposioballenas.cl/?lang=en

 次年度の科学委員会議長が東京海洋大学准教授の北門利英氏に決まったという報告。

ついで、EU提案(鯨類とそれに関連した人間の健康影響に見られる海洋環境の悪化のインパクトに関する科学調査継続の重要性について)修正版がコンセンサスで採択された。
 1999年から、日本の消費者団体等が関係省庁に働きかけてきた鯨肉の化学物質汚染の危険性について、消費国が危険性を喚起する必要性が決議文という形で認められることになった。

 モナコ提案は最終日に再度検討されることになり、4日目の議事が終了した。


 

 
 

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