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2012年8月22日 (水)

IWC 64 in パナマ最終日(5日目)

 5日目は、モナコ提案から始まった。高度回遊性の鯨類に関して、IWCが現時点でカバーしている種が限られているため、その管理に国連総会が関与すべきという内容だ。
国連海洋法条約の中には、鯨類についてのて言及が既にあるが、各国がそれに従って保護・管理をおこなっているわけではない。
(国連海洋法条約 第65条海生哺乳類)

 IWCが過去の捕鯨対象種のみを扱い続けるなら、それ以外の種をどこでどうやって保護・管理していけばいいのか、というこれまでのIWCにおける対立点のひとつを業を煮やして引っ張り出した提案である。
 付け加えるなら、商業捕鯨の取締というこれまでの枠組みが既に過去のものとなりつつある現在、(モラトリアムの中で留保して商業捕鯨をしている国は2カ国、調査捕鯨名目で捕鯨しているのは1カ国、先住民生存捕鯨枠での捕鯨は4カ国)IWCが鯨類全般について責任を負うべきかどうかという議論に決着を付け、IWCを超えて、参加国もそうでない国も連携して鯨類の保護・管理に取り組むべきという点で、国連との協力関係を築くというのも一つの考えである。

 COP10 において、私たちNGOがなぜCBD条約でなく、国連総会での決議として「国連生物多様性の10年」を求めたかというと(CBD条約そのものに法的な拘束力がないということもあるが)、すべての国連参加国が目的を達成するための努力をすることを担保するためだ。
 国連海洋法条約そのものが既に30年を経過する中で現状にあわないという意見も出ていて、改正が必要という議論がある中、提案がIWC内外に一定の波及力を持つことは悪くないと思う。特に、公海における生物多様性保全や遺伝資源の所属を巡っては新たな枠組みが必要だという方向も出ているときなので、モナコ提案は時宜にかなうと言えるかもしれない。

 しかし、実際の議論では、「IWCで従来の鯨種以外は取り扱うべきでない」とする国々が、クジラに関してはIWCが所轄であり、国連に任せるのは「無責任だ」と主張する!

 もし、ここで、彼らがこれまでの態度を変えて、いわゆる小型鯨類の管理もIWCでやればよいと言うのであればそれだけでモナコ提案は有効だと思えるが、残念ながら、彼らがIWCに求めるのは、従来捕獲してきた種の管理で、対象外の種についてはできることならば、主権国がその権利を保有したままでいたい(特に利用についてつべこべ言われたくない)ということだ。コンセンサスは得られるわけもなく、今後もそれぞれが勝手なことをいいながら議論が続くのだろう。

 次は科学委員会の来年度の仕事とその優先順位、各事業における予算の要求。
そのうちのアイスランドが2009年行った調査捕鯨の専門家による評価会合の費用について、捕鯨に反対する国々から勝手に(舞い戻ってきて)調査捕鯨を行っておいて、費用はIWCというのはどうよ、という疑問が出る。
しかし、アイスランド的には、国の経済がどん底でやらなくてもいい評価会議も遅れているのだし、評価したいのなら費用を出してよ、という立場である。

コーヒーブレークを挟んで、いくつかの対立する議題についての調整が行われる。

 そのあとは、日本の提案した沿岸地域における捕鯨の再開について。
日本はもちろん採決は求めない。もとからそんな気はなく、今回の新展開としては「関心のある5〜6カ国でIWC内に小グループを形成し、(隔年を想定して)2年をめどに解決のための努力を重ねてコンセンサスを目差す」のだという。新手の戦法。
だが、オーストラリアがそれは新しい提案だから、100日ルールの手続き規則に反するでしょ、と反対意見を出す。いくつかの日本同調国が反発するが、日本は決議案や付票修正ではないのでコンセンサスは不必要なものだが、コンセンサスを得たいと考えた提案した。しかし、コンセンサスが得られないのがわかったので議論は不必要という。
 
 この後の日本の演説は矛盾を含んでいると思われる。
 提案そのものは「モラトリアムの解除を求めない、地域共同体による地域消費を行い、提案は先住民生存捕鯨に準ずるもの」としている。
 一方で、演説は「沿岸捕鯨は科学的なデータによる権利であり、先住民生存捕鯨のみを認めるのはダブルスタンダードである。農業や林業など他の産業では商業性を否定されることはないし、ICRWは商業性を否定していない。商業捕鯨再開につながるという意見はICRWの趣旨に反するものだ。モラトリアムというのは一時的な停止措置で、期限が定められているもの」もっとも、こうした展開を予想しつつ、演説を用意したものともいえる。
 
『地域社会』復興のための予算を調査捕鯨に使い、つい最近も不適切な復興予算の使われ方の一例に挙げられていたが、復興ままならない状態での沿岸捕鯨提案というものはもともと本気なのか?と疑われるものである。
 (http://news.nifty.com/cs/headline/detail/postseven-20120803-134319/1.htm
復興用の予算からシーシェパード対策費に5億円使われていた
2012年8月3日(金)7時0分配信 NEWSポストセブン)

 しかし、そんな話はもとからちらとも出ず、「国民と政治家は我慢の限界にきている。脱退も辞さない」という毎回繰り返される脅しで締めくくられる。残念なことに、もう誰も驚かない。
そして議長は次の議題へ。

 オーストラリアがアイスランド調査捕鯨への支出に関して、支出の一部を認め、科学委員会提案が承認された。

 モナコに関しては、小型鯨類の議論を一体どこでするのかまだ不満を残しながらも、支持をしている国々と協議を重ねることとして、提案は取り下げられた。

 次は、財政運営委員会。
本会議の隔年開催(科学委員会は毎年)とその間隙を埋めるビューローの設置が決定。議長の任期は2年。
ビューローの構成者は、本会議議長/副議長と財運の議長/副議長、(非公式にホスト国代表)事務局という少人数で構成され、地域を代表する国が選ばれる予定。

 セントキッツが隔年開催に際して、分担金の毎年の支払いが困難な途上国のため、2年間のまとめて支払う許可について意見。しかし、実際本会議がなくても、実務作業はあるため、年度の分担金は不可欠。

 NGO発言の後、財運の続き。ちなみにこのときの発言者のラポアント氏は、かつて象牙の取引禁止に際して、押収した象牙の横流し疑惑で事務局長を辞した人。その後、野生動物の持続的な利用推進に、精力的に関わっている。キャンペーンホエールは、提供する基金は、クジラ保護のためだけに使ってよ〜と要求。

 隔年開催に伴う規則変更について、財運議長から説明がある。セントキッツが、分担金の滞納にかんする利率(銀行利率+2%)の軽減を要請してきたが(滞納しなければいいのに、という厳しい意見も)、合意形成がないため、結局財運レポート全体とセントキッツの動議が採決に。
いまでもかなり赤字であるIWC運営の認識のもと、セントキッツの提案は否決された(賛成15/反対41/棄権2/欠席4)。

もう一つ決議案が出ている。アンティグア、グレナダなどのカリブ諸国、キリバスなど10の途上国からだされた、貧しい国が国際会議に参加するための基金の創設である。これまで、IATTCなど他の地域漁業協定などで採用されてきた方法で、資金不足の途上国の参加を促すもの。しかし、これについても、条約には参加国が分担金を支払うという規定がある、などの反対意見が出て決まらず、閉会期間中の継続討議に。ロシアは「途上国だけでなく、移行国も含めるべき」と反対意見を述べた。

そのあと、閉会期間中の財運に関連する議題が報告され、時期財運議長を現在の議長が継続することで財運の議題は採択された。

 議長の選出。セントルシアのジェニーン・コンプトンーアントワン氏が立候補して選出される。
リバプール(セントキッツ)議長代理に続き、カリブ出身、IWC初めての女性議長である。副議長はベルギーのジーンーバティスト・デグビー氏が推薦を受け受諾された。

 ビューロはこの二人の他に、アメリカ、日本、パナマ、ガーナが手を挙げ、最初のビューローの構成員が決定した。

 来年度の科学委員会は韓国が主催することに決まり、韓国提案の調査捕鯨についてもそこで討議されることになった(しかし、次の週の報道では韓国内でもすべきかどうかの意見がわかれ、科学委員会の意見を聞いてから実際のことは決まるようだ)。

 2014年度に開催される本会議のホスト国は決まらない。
もしかするともはや本会議での議論はどこに取ってもあまり重要ではなくなったのかもしれない。
韓国の爆弾発言にも見られるように、もはや角突き合わせる本会議での決定で物事が動くのではなく、各自、やりたいことをやりたいようにやっていく、その結果を持ち寄って議論すればいいことになってしまったのではないだろうか。相手の容認というより相手はないことにするという態度に近いが、そうだとすると世の流れの方向がどっちかということが重要だと思われる。

 中でもアクティブに感じられるのは、クジラを殺さないでいかにクジラに関する調査・研究をするか、という明らかな目的を持って行われている幾多の新たな研究手法の開発への強い意欲と情熱だ。

 いくら捕鯨国がクジラを捕ろうとしても、そうそうに消費が拡大するとも思えず(ika-net.jp 23.7g
)、むしろ、海洋環境の保全の一環としての、あるいは指標動物としての鯨類の保護・管理という方向性が全体としては強まっていくという感触がするのは私だけではないだろう。

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