海洋基本計画改定
2007年に議員立法でつくられた海洋基本法についてご存知の方がどれくらいいるだろうか?
海に囲まれた日本にとって、海の利用はごく当たり前であったが、施策としては様々な省庁がばらばらに行ってきた。結果として、海洋の管理(や利用、利権)に関しては、アジア諸国の中でも遅れが目立つことがわかるにつれて、統合的な施策の必要性が求められた。
これまで各省縦割りの弊害で一向に進まなかった海洋域の管理/利用に関する政策を、内閣府のもと、一元化して進めるため海洋基本法がつくられたのだが、議員が素早く動いたのは、尖閣諸島など領土問題への懸念が高まったこと、海洋資源の開発に強い関心が持たれたことだ。
もちろん、中には「開発と環境の両立」という言葉や、「国際協調」という言葉が見られるし、付帯決議には「海洋保護区」設置も書き込まれており、そのもとにつくられた海洋基本計画をきちんと動かすことができるなら、沿岸・海洋の保全管理の可能性もある。
しかしこれは非常に心もとない可能性でもある。というのも、議員立法によるところ、その立案過程から、一般に知らせるという努力があまりとられなかったこと、政策決定権を握るのが利権の確保しかほぼ頭にない議員と開発推進の研究者や産業関係者が多数を占める密室審議だからなのだろう。
基本計画の5年後の見直しにあたり、現在、議員と「有識者」による改定作業が進み、この7月には素案ができるという。
事務局のはからいで、昨日やっと7〜8分という限られた時間だが、NGOからの意見の提出ができた。意見の一つは、縦割り解消が進まず機能が不十分であった海洋政策本部の機能強化を審議過程の透明性と参加型の計画により達成すること、もうひとつは開発と環境の両輪という言葉をお飾りにしないということである。その中身として、開発におけるアセスの必要性、実効性ある海洋保護区設置とその評価のための制度的な担保、国際的な視野を持つ海洋の保全管理の推進などを、WWF-Jの草刈氏が述べた。
しかし残念なことにそのあとの議論では(増税論議のごたごたで参加議員は元々少なかったが)、例えば中川秀直議員の発言のように、「施策への優先順位をつけるべき。重要なのは、国際的な競争力をもつ海洋産業の振興とそれに関わる人材育成。そのためには予算をこれまでの倍にしてでも実現すべき」というようなイケイケ意見が主だった。
5年前の基本計画を見ればわかるのだが、海洋におけるエネルギーや鉱物の開発にはまだ技術的に未知のものが多く、実用化が可能かどうかもやってみなければわからない.そこで、産業も二の足を踏んでいるので、実用化するかどうかという研究開発については政府が金を出し、実用化のめどがついた段階で、産業に引き渡すのだ。
つまり、かなり危険性の高い技術開発などでも政府がお金を出すからどんどんおやりください(開発系の研究者は諸手を上げて喜ぶはず)、だめなら仕方ないし、儲かるようなら利用してくださいというわけだ。
世界的に見れば、海洋の保全に対する懸念は年を追うごとに高まっており、すでに元に戻れないティッピングポイントに達しているというような研究さえある.国連の諸機関はもとより世銀でさえ、健全な海洋を維持していかなければ人類は生き残れないと言うスタンスを示している。
しかし、相変わらずこうした議員の頭にあるのは、自分の存在するうちは、将来懸念など忘れてどんどん利益を上げるように利用していきたいという願望であり、そのために沿岸や沖合の海洋生態系がめためたになっても、責任は取らないという態度である。
まず、透明性を高めて、もっと多くの市民のもとで議論できるようにしなければ、「ここぞ!」という海は、将来的な影響など無視して改変される。CO2の海中埋設とか、ジオエンジニアリング(鉄くずをばらまいて海を肥沃化させる)も進むかもしれない。このままでは、保全はもちろん、持続的な利用もできなくなるに違いない。
« さびしいクジラ | トップページ | IWC64 in パナマ »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント