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2011年7月22日 (金)

会議4日目 会議の強制終了

 宿泊しているホテルから会場のオテル・ド・フランスまでは歩いて10分くらい。最初にも書いたように、イギリス風の煙突のついた建物が並ぶくねくねと細い道をたどって歩いていくと、少し小高い丘に建っているオテル・ド・フランスが(どこからでも)見えてくる。

 BBCのブラック氏が言ったことを思い出す。自分はイギリスで暮らしているのでこうした建物は日頃からおなじみのはずなのだが、このジャージー島の町並みをみていると、なんだか不思議な気になってしまう。とても非現実的なような気がする、と。
 私は2001年のIWC会議でしかイギリスを知らないのだが、それでも彼のいうことが少しわかる気がする。確かに町並みはイギリスのようだ。だけど、光が違う。空の青さが、そして特に影の濃さが違うからだと気がつく。
 リゾート地というのは、どこも少し書き割りのような感じがするものだけど、それとも違う存在感の希薄さがこの島にはある。

 ところでとうとう帰国してから1週間経ってしまったのだが、この最終日の議論についてはなんとも書き進む気が起きない。
 ほとんどが「待ち」の時間であり、そして途中退席したということもあるが、その結果というのがどうにも納得できない。

 最初に、議題が終了していなかった海上の安全について、日本の決議案がコンセンサスで採択される。
http://iwcoffice.org/_documents/commission/IWC63docs/63-17.pdf

 次の南大西洋サンクチュアリ提案は、ブラジルとアルゼンチンが過去10年以上の悲願としてきたもので、10年前に比べ、国連での海洋保護区設置促進の奨励といった状況の変化があること、また、社会、経済的にも周辺沿岸国の貧困層にウォッチング活動などによる利益があること、さらには以前と比べ、沿岸関係国が2007年アルゼンチンで開催されたラテン諸国によるクジラの非致死的利用という方針による結束と条件は整っており、今回こそは通したいという強い意志が感じられる。

 この提案に関して、今回はじめてのNGOの意見発表が認められる。
サンクチュアリの支持発言として、アルゼンチンのNGO ICBのロクサーナが自分たちの住む南大西洋海域での設定について、クジラのうち54種が生息していること、広域移動種も7種類おり、未だ未解明の生態解明につながること、種の保全、観光による地域文化と貧困層への経済的な貢献など、当該地域におけるサンクチュアリ設定の必要性を訴えた(概要は別に掲載予定)。
 反対するNGOとしてIMWCのラポアント氏(かつてワシントン条約事務局長のときに、没収した象牙の違法販売疑惑で事務局を去り、そのあとで野生生物資源の利用を訴えている)がサンクチュアリは、絶滅に瀕していないクジラまで捕獲できなくなる。貧しい人たちへの蛋白の供給源でもあるクジラを保護することは問題である。また、クジラの保護によりあらゆる環境問題が解決したと勘違いされることもあるし、科学的な根拠もない、と発言した。

 昨日の英国提案がコンセンサスで受け入れられたのに続き、ブラジル、アルゼンチンはコンセンサスを求めたが、該当する沿岸国ではない捕鯨賛成派が、せっかくの正常化プロセスを破壊するとコンセンサスを拒否。それに対し、提案国であるブラジルとアルゼンチンが投票を選んだ。議長は、反対意見が5カ国から出ていること、そして、コンセンサスが無理で、提案国が投票を望んでいるので投票を行うので用意できるまで待ってほしいといった。

 ここで、少し予想外のことが起きた(捕鯨国はコーヒーブレークの間何やら相談していたので予想外ではない人たちがいた訳だが)。
 「われらが」森下氏が、捕鯨国(63回参加の21カ国らしい)の代弁だと断って、自分たちは自分たちにとって重要な小型沿岸捕鯨提案を今回あきらめたのに、提案国があくまで投票に固執することでこれまで醸成されてきた合意形成プロセスを壊すなら、捕鯨推進国は会議場の外に退出してすると言い出したのだ。そうすれば、会議成立のため必要な締約国の半数を割ることになり、会議が不成立になる、結果として投票を阻止するというのだ。森下さんは2度もこれは敵対的な行動ではないと言い訳をしたが、実際に退場し、投票は実施されなかった。
 
 そして、議長は非公開コミッショナー会議を宣言して会議は休会となった。その後、2度ほど、定足数について、あるいは会期中の中途不成立について法的な検討をしているなど、説明があったものの、会議そのものはいつもなっても始まらない。
 とうとう、私が会場を離れなければならない5時過ぎまで再会されず、IWCに参加して以来始めて、途中で退出することになった。

 その後の話を聞いてみると、結局会議が再開されたのは20時過ぎ。その前に議長レポートが配られたようだ。
http://iwcoffice.org/_documents/commission/IWC63docs/63-20.pdf

 そこには会議が休会に至る経緯と、退場した国、そして議長の解決案について書かれているので読んでください。
 一応、多くの国がサンクチュアリ提案を支持しているものの、多様な意見があるので来年の会議で最初に議論を行う、コンセンサスに至らなかったら、委員会の規則に則って処理するという曖昧なものだ。聞くところによるとその報告の書かれた紙で飛行機を折って飛ばした代表団もあるらしい。
 
 そのあとは、残された多くの議題を議論なして採択できないものか?という議長発言に対し、保護委員会は、たくさん議論したいことがあったのに残念だというコメント。
 また、小型鯨類調査について、ボランタリーにいくつかの国が資金提供を行ったので、今後小型鯨類についても調査が進むことは少しだけ明るい話題だ。

 NGO発言の予定されていた、環境と健康、ホェールウォッチングについては、議論もないため見送られることになってしまった。来年の会議がパナマで開催されることが決まったが、このことも重要な議題となって戻ってきてほしいものだ。

 会議の残念な成り行きに呆然として入るものの、現実をみれば海洋保護区や海洋資源の国際的な管理の進行など、世界規模での合意形成と予防原則のもとでの生物多様性の保全に向けた動きが活発化していることは否めないし、また、捕鯨が経済的にも引き合わないことは議論を待たなくても余剰鯨肉、そして、輸出をもくろんだアイスランドやノルウェーの思惑はずれにも明らかだ。

 角突き合わせるのではなく、もう少しゆとりを持って解決できないものだろうかと考えている。

<光と陰が違う>
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