« シャチのナミの死・水族館事業と価格の吊り上げ懸念 | トップページ | 水族館の役割について »

2011年1月18日 (火)

混獲クジラについての疑問

  大型クジラの商業的捕獲は、国際的に認められていないが、日本では鯨肉の市場が形成されており、維持のためにいくつかの方策がとられている。
 調査捕鯨による鯨肉供給が主たるものだが、小型沿岸捕鯨事業によるツチクジラ(ハクジラ)も利用されている。また、あまり公然とされているわけではないが、混獲したクジラ肉も流通しており、地元の市場を中心に販売されている。産地表示が義務付けられたことから、たまに都会でも見かけるようになった。

 混獲されたクジラに関しては1963年の省令から、「利用してはならない」こととされてきたが、実際は、地元消費は黙認されてきたし、こっそりと流通させて食中毒を起したり、座礁クジラの一部肉が切り取られていたりという事件もおきた。

 「クジラが定置網に入るとそれを取り除く作業や網の破損でお金がかかるから」、ということと、「もともと日本はクジラを食べてきた」という理由で、2001年に政府は、それまで地元消費に限られてきた一部クジラ肉の流通・販売を、DNAの登録を条件に公認した。当時の水産庁担当者は、こうした措置で密漁や密売買を防ぎ、実態を把握できると語っている。

 2001年7月1日に実施されたこの告示により、定置網に入ったクジラの標本を送り、日本鯨類研究所に10万円を支払えば仮登録が済み、販売することができる。

 対象種は、セミクジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ミンククジラ、コセミクジラ(ヒゲクジラ)とマッコウクジラ、ミナミトックリクジラ、トックリクジラ(ハクジラ)で、定置網による混獲に限って販売(無償配布や地元消費を含む)できる。

 座礁したクジラなど海生哺乳類の情報は、鯨研のホームページでみることができる。それを見ると、毎年、結構の数のクジラ類などが座礁していることがわかる。
 販売が許可されるようになってから、どの地域がいつ、どんな種のクジラを販売したかがわかる。ちなみに、最初の年は7月から年末までに52頭、2002年には112頭が登録されている。
 その後2003年に販売されたクジラは129頭、2004年には121頭、2005年は132頭、2006年150頭、2007年158頭、2008年135頭、2009年には121頭。販売されたもののほとんどがミンククジラだが、中にはナガスクジラやザトウクジラも含まれる。ウォッチング愛好者にとってはショックかもしれない。

 2010年の上半期のストランディングレコードが公表された。それを見ると、上半期でミンククジラがすでに104頭、販売されている。ザトウクジラも6頭、ニタリクジラが1頭。回遊の関係なのか、下半期の混獲数は前半よりは少ないが、それでも、半端な数とはいえない。確か、IWCで昨年合意には達しなかったが、沿岸捕鯨再開の提案の中で、ミンククジラの捕獲数は160頭だったのではなかっただろうか?

 これら混獲クジラについて、ほとんどの場合は網にかかった状態では生きていて、その後、解体されるまでのどこかで死んでいるというのも特徴といえる。漂着や死後時間を経たものを販売することはできないから当然かもしれないが、それにしても数は多い。

 混獲クジラの利用について、告示では「積極的に利用すべきとするものではない」「解放の努力に影響を与えるものではない」と明示し、2005年に整えられた座礁クジラの対処マニュアルでは、生きたものは海に帰し、「救出が困難になった」クジラについて、利用が許可されものとしている。

 だが、他種の記録を見ると、漂着したり死んだもの以外に、生きていて「保護」されたり、あるいは飼育中に死んだりというものは例外的にあるが、たいていの年度で一桁くらい。ミンククジラは本当に「ゴキブリのように」増えているのか、それとも、がっついていて、定置網の中の魚をとりに前後も考えずに飛び込むのか・・・・・・(死んだ状態で発見されるものではスナメリが最も多く、これは沿岸性であるので、汚染など人間の活動の影響が大きいと思われるが、明らかに混獲の様相が異なる)

 混獲された場所をざっと見ていくと、毎年、日本海側での数が多い。たとえば、2010年上半期のI県では20頭の混獲、販売がなされている。同じ港ではないから、複数業者がいるのだろうが、記録の中に出てくる混獲されたミンククジラ1頭の販売価格は、250万~350万くらい。大きさや鮮度によって値段は異なるのかもしれないが、5000万円ほどの収入になるとすれば、これはもう一つの事業といえなくもない。

 網に入ったクジラを海に戻す努力に対しては、網の改修費の半額程度の補助金が保証される。こんな些細なインセンティブでしかなければ、販売するというのが自然の成り行きかもしれない。
 しかし、「生きているものは放流」する建前で、間違って入ったものだからこそ「混獲」と呼ぶのだとすると、毎年毎年同じようなところで水揚げされ、販売が行われるような現状は、すでに「混」獲とは呼べない。

 もう一つ懸念されることがある。日本海側の混獲クジラの91%は、希少といわれ、捕獲を日本政府も自制しているJ-stock(日本海個体群)に属するクジラである。毎年の記録では、日本海側の混獲ミンクは全体の混獲数の3分の一くらいとなり、しかも同じようなところで繰り返し網にかかっている。もし行政が本気で混獲を防ぐつもりであればできないことではないと思われるが、そうした努力を奨励するつもりもないようだ。

 となれば、希少なクジラの販売を、政府がお墨付きを与え、研究機関が許可して毎年続けることが常態化しているわけだ。「ミンククジラは増えすぎ」というキャンペーンを垂れ流すことで、希少な生物を販売したり、あるいは食べたりしていることの自覚はないと思われ、これは地元の責任とばかりはいえないだろう。
 沿岸捕鯨再開の合意形成にとってマイナス要因になることは確かだが、もしかしたら、沿岸捕鯨で厳しい管理を課せられるより、こうした「融通の利くやり方」で需要を満たしたほうが都合がいいから、ほうっておきたいのかもしれない?
 

« シャチのナミの死・水族館事業と価格の吊り上げ懸念 | トップページ | 水族館の役割について »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。