水族館の役割について
月曜日の朝日新聞のGLOBE、8ページ目に、「突破する力」と題して、八景島シーパラダイス社長の布留川信行氏のインタビュー記事が出ていた。シーパラダイスの施設の一つである水族館に、関係する飼育員など、全員の反対を押し切ってジンベイザメを導入したというはなしである。
ジンベイザメは、温帯、亜熱帯、熱帯の海に住む、英名Whale Sharkが示すように体長が10mを超えることもあるというが、体の大きさに似あわず、プランクトンを主食とする、おとなしいサメである。サメ類の多くの仲間と同じく、人間の捕獲によって数が減り、IUCNの規準ではVU(危急)で、確か、以前水族館用の捕獲に対して、反対運動が起きたことを記憶している。
さて、朝日の記事であるが、以前から飼育したいと思っていたジンベイザメが千葉の海で定置網にかかったため飼育することにしたものの、飼育するスペースがないので、イルカ水槽にイルカとともに入れたことを記者は「突破する力」と感じたようである。
(魚は、水産庁のストランディングの手引きでは対象となっていないが、こうした希少な種については今後検討が必要ではないだろうか?希少な動物を勝手に水族館に入れるというのは納得できないものがある)
動物園や水族館は、一応教育目的の施設として、文部科学省が管轄している。しかし、実態は、多かれ少なかれ、施設運営上、教育より経済が重視されがちで、そこをどううまく「表現」するかというのが実態だと私は感じている。
(それに関して文科省も、動物の愛護と管理の法律を管轄する環境省も、きちんと対応しているようには見えない。今回改正中の環境省の動愛法改正では、動物園・水族館協会が、協会所属の動物園・水族館は取扱業者としての登録を除外してほしいといっているそうだが、所属水族館を見ていけば、どう他と違う「正しい」動物の扱いをしているか、疑問な園が少なくないことだろう)
実は、この水族館では、2001年に、「海獣バンド」というものを結成。セイウチが2m以上もある長いバグパイプを吹きならし、ベルーガがそれにあわせて歌うというショーを決行したことがあり、IKANは動物福祉に反するし、教育施設のやることではない、と抗議したことがある。しかし、社長は地元の新聞に「生態にかなった展示」と強弁した前歴がある。
今回は、ショープールで、イルカが結婚式を「祝って」ジャンプする横をジンベイザメが泳ぐという趣向で、集客を延ばしたそうである。
この人、もともと、開発専門で、「山からホテルや観光施設が生まれるのが面白かった」と朝日の記事でコメントしているので、今回もその延長で、やっていることにもちろん何の疑問もないのだろう。いまどき、山がコンクリートに変わることを評価する人がたくさんいるとも思えないので、ある意味、(記者も)社長も正直な人である。
また、イルカショーなどはすぐに飽きられるということを知っていて、水族館がこのままではやばいのではないか、という危機感が(他の水族館関係者よりも)あるようだ。今後どのような舵の切り方をするのだろうか。
言うまでもないが、今回のような小手先のアイデアは永続的なものとは思えない。視覚も含めて多様な科学情報が流れている現状から、こうしたやり方をおかしいと感じる人たちも少なからずいるはずだと思う。
こうした科学的・教育的にいびつな展示を一般市民がいち早く「おかしい」と気付き、そっぽをむくことによって経営そのものが成り立たなくなり、早々に水族館が方向を大きく転換させざるをえなくなることを祈るばかりである。
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