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2011年1月26日 (水)

水族館の役割について

 月曜日の朝日新聞のGLOBE、8ページ目に、「突破する力」と題して、八景島シーパラダイス社長の布留川信行氏のインタビュー記事が出ていた。シーパラダイスの施設の一つである水族館に、関係する飼育員など、全員の反対を押し切ってジンベイザメを導入したというはなしである。

 ジンベイザメは、温帯、亜熱帯、熱帯の海に住む、英名Whale Sharkが示すように体長が10mを超えることもあるというが、体の大きさに似あわず、プランクトンを主食とする、おとなしいサメである。サメ類の多くの仲間と同じく、人間の捕獲によって数が減り、IUCNの規準ではVU(危急)で、確か、以前水族館用の捕獲に対して、反対運動が起きたことを記憶している。
 
 さて、朝日の記事であるが、以前から飼育したいと思っていたジンベイザメが千葉の海で定置網にかかったため飼育することにしたものの、飼育するスペースがないので、イルカ水槽にイルカとともに入れたことを記者は「突破する力」と感じたようである。
 (魚は、水産庁のストランディングの手引きでは対象となっていないが、こうした希少な種については今後検討が必要ではないだろうか?希少な動物を勝手に水族館に入れるというのは納得できないものがある)
 
 動物園や水族館は、一応教育目的の施設として、文部科学省が管轄している。しかし、実態は、多かれ少なかれ、施設運営上、教育より経済が重視されがちで、そこをどううまく「表現」するかというのが実態だと私は感じている。
(それに関して文科省も、動物の愛護と管理の法律を管轄する環境省も、きちんと対応しているようには見えない。今回改正中の環境省の動愛法改正では、動物園・水族館協会が、協会所属の動物園・水族館は取扱業者としての登録を除外してほしいといっているそうだが、所属水族館を見ていけば、どう他と違う「正しい」動物の扱いをしているか、疑問な園が少なくないことだろう)

 実は、この水族館では、2001年に、「海獣バンド」というものを結成。セイウチが2m以上もある長いバグパイプを吹きならし、ベルーガがそれにあわせて歌うというショーを決行したことがあり、IKANは動物福祉に反するし、教育施設のやることではない、と抗議したことがある。しかし、社長は地元の新聞に「生態にかなった展示」と強弁した前歴がある。

 今回は、ショープールで、イルカが結婚式を「祝って」ジャンプする横をジンベイザメが泳ぐという趣向で、集客を延ばしたそうである。

 この人、もともと、開発専門で、「山からホテルや観光施設が生まれるのが面白かった」と朝日の記事でコメントしているので、今回もその延長で、やっていることにもちろん何の疑問もないのだろう。いまどき、山がコンクリートに変わることを評価する人がたくさんいるとも思えないので、ある意味、(記者も)社長も正直な人である。

 また、イルカショーなどはすぐに飽きられるということを知っていて、水族館がこのままではやばいのではないか、という危機感が(他の水族館関係者よりも)あるようだ。今後どのような舵の切り方をするのだろうか。

 言うまでもないが、今回のような小手先のアイデアは永続的なものとは思えない。視覚も含めて多様な科学情報が流れている現状から、こうしたやり方をおかしいと感じる人たちも少なからずいるはずだと思う。

 こうした科学的・教育的にいびつな展示を一般市民がいち早く「おかしい」と気付き、そっぽをむくことによって経営そのものが成り立たなくなり、早々に水族館が方向を大きく転換させざるをえなくなることを祈るばかりである。

2011年1月18日 (火)

混獲クジラについての疑問

  大型クジラの商業的捕獲は、国際的に認められていないが、日本では鯨肉の市場が形成されており、維持のためにいくつかの方策がとられている。
 調査捕鯨による鯨肉供給が主たるものだが、小型沿岸捕鯨事業によるツチクジラ(ハクジラ)も利用されている。また、あまり公然とされているわけではないが、混獲したクジラ肉も流通しており、地元の市場を中心に販売されている。産地表示が義務付けられたことから、たまに都会でも見かけるようになった。

 混獲されたクジラに関しては1963年の省令から、「利用してはならない」こととされてきたが、実際は、地元消費は黙認されてきたし、こっそりと流通させて食中毒を起したり、座礁クジラの一部肉が切り取られていたりという事件もおきた。

 「クジラが定置網に入るとそれを取り除く作業や網の破損でお金がかかるから」、ということと、「もともと日本はクジラを食べてきた」という理由で、2001年に政府は、それまで地元消費に限られてきた一部クジラ肉の流通・販売を、DNAの登録を条件に公認した。当時の水産庁担当者は、こうした措置で密漁や密売買を防ぎ、実態を把握できると語っている。

 2001年7月1日に実施されたこの告示により、定置網に入ったクジラの標本を送り、日本鯨類研究所に10万円を支払えば仮登録が済み、販売することができる。

 対象種は、セミクジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ミンククジラ、コセミクジラ(ヒゲクジラ)とマッコウクジラ、ミナミトックリクジラ、トックリクジラ(ハクジラ)で、定置網による混獲に限って販売(無償配布や地元消費を含む)できる。

 座礁したクジラなど海生哺乳類の情報は、鯨研のホームページでみることができる。それを見ると、毎年、結構の数のクジラ類などが座礁していることがわかる。
 販売が許可されるようになってから、どの地域がいつ、どんな種のクジラを販売したかがわかる。ちなみに、最初の年は7月から年末までに52頭、2002年には112頭が登録されている。
 その後2003年に販売されたクジラは129頭、2004年には121頭、2005年は132頭、2006年150頭、2007年158頭、2008年135頭、2009年には121頭。販売されたもののほとんどがミンククジラだが、中にはナガスクジラやザトウクジラも含まれる。ウォッチング愛好者にとってはショックかもしれない。

 2010年の上半期のストランディングレコードが公表された。それを見ると、上半期でミンククジラがすでに104頭、販売されている。ザトウクジラも6頭、ニタリクジラが1頭。回遊の関係なのか、下半期の混獲数は前半よりは少ないが、それでも、半端な数とはいえない。確か、IWCで昨年合意には達しなかったが、沿岸捕鯨再開の提案の中で、ミンククジラの捕獲数は160頭だったのではなかっただろうか?

 これら混獲クジラについて、ほとんどの場合は網にかかった状態では生きていて、その後、解体されるまでのどこかで死んでいるというのも特徴といえる。漂着や死後時間を経たものを販売することはできないから当然かもしれないが、それにしても数は多い。

 混獲クジラの利用について、告示では「積極的に利用すべきとするものではない」「解放の努力に影響を与えるものではない」と明示し、2005年に整えられた座礁クジラの対処マニュアルでは、生きたものは海に帰し、「救出が困難になった」クジラについて、利用が許可されものとしている。

 だが、他種の記録を見ると、漂着したり死んだもの以外に、生きていて「保護」されたり、あるいは飼育中に死んだりというものは例外的にあるが、たいていの年度で一桁くらい。ミンククジラは本当に「ゴキブリのように」増えているのか、それとも、がっついていて、定置網の中の魚をとりに前後も考えずに飛び込むのか・・・・・・(死んだ状態で発見されるものではスナメリが最も多く、これは沿岸性であるので、汚染など人間の活動の影響が大きいと思われるが、明らかに混獲の様相が異なる)

 混獲された場所をざっと見ていくと、毎年、日本海側での数が多い。たとえば、2010年上半期のI県では20頭の混獲、販売がなされている。同じ港ではないから、複数業者がいるのだろうが、記録の中に出てくる混獲されたミンククジラ1頭の販売価格は、250万~350万くらい。大きさや鮮度によって値段は異なるのかもしれないが、5000万円ほどの収入になるとすれば、これはもう一つの事業といえなくもない。

 網に入ったクジラを海に戻す努力に対しては、網の改修費の半額程度の補助金が保証される。こんな些細なインセンティブでしかなければ、販売するというのが自然の成り行きかもしれない。
 しかし、「生きているものは放流」する建前で、間違って入ったものだからこそ「混獲」と呼ぶのだとすると、毎年毎年同じようなところで水揚げされ、販売が行われるような現状は、すでに「混」獲とは呼べない。

 もう一つ懸念されることがある。日本海側の混獲クジラの91%は、希少といわれ、捕獲を日本政府も自制しているJ-stock(日本海個体群)に属するクジラである。毎年の記録では、日本海側の混獲ミンクは全体の混獲数の3分の一くらいとなり、しかも同じようなところで繰り返し網にかかっている。もし行政が本気で混獲を防ぐつもりであればできないことではないと思われるが、そうした努力を奨励するつもりもないようだ。

 となれば、希少なクジラの販売を、政府がお墨付きを与え、研究機関が許可して毎年続けることが常態化しているわけだ。「ミンククジラは増えすぎ」というキャンペーンを垂れ流すことで、希少な生物を販売したり、あるいは食べたりしていることの自覚はないと思われ、これは地元の責任とばかりはいえないだろう。
 沿岸捕鯨再開の合意形成にとってマイナス要因になることは確かだが、もしかしたら、沿岸捕鯨で厳しい管理を課せられるより、こうした「融通の利くやり方」で需要を満たしたほうが都合がいいから、ほうっておきたいのかもしれない?
 

2011年1月15日 (土)

シャチのナミの死・水族館事業と価格の吊り上げ懸念

 昨夜、名古屋港水族館で飼育されていたメスのシャチ、ナミが死んだということを知らされた。ある意味、予想されたいたことではあったけれども、やりきれない気持ちには変わりない。

 シャチのナミは、和歌山県太地で、25年前、2歳か3歳のときに捕獲された。地元の関係者の話では、追い込みではなく、突きん棒で捕獲されたということだから、相当荒っぽいやり方だったにかかわらず、生き延びたということだ。そして、その後、昨年5月に名古屋に移送されるまで、太地くじらの博物館脇の、海囲いで飼育されてきた。飼育シャチとしては、かなり長く飼育されてきたことになる。

 一方で、メスの寿命が平均60歳という野生下では、この年齢はまだまだ命の盛りであろう。
 太地の中では、ナミが名古屋に売られることに反対する人たちも少なくなかったと聞く。ナミの健康状態が芳しくなかったことに心をいため、わざわざ訪問した人もいたという。

 囲われているとはいえ、少なくとも海の一部で暮らしてきたナミを、人工的な水槽に入れることへの懸念は、研究者を含め、多くの人たちが共有してきたことだ。飼育下での繁殖に躍起になっていたとしても、こうしたリスクを水族館関係者が知らないわけがない。また、太地の博物館の水面から出たところで名古屋港水族館の所有であるとした、太地の関係者は、このリスクをよくよく知っていた上で、5億円という驚くべき値段でナミを手放した。

 ふつう、民営の施設ではかんがえられない購入とこの多額の価格は、言ってみればどこも直接的に『腹が痛まなかった』からつりあがった値段だと思える。名古屋港水族館は、名古屋港管理組合の管理下にある半官の施設であり、名古屋港管理組合は、愛知県、名古屋市、(そして弥富町)の共同管理・運営するところで、港の利用や土地所有などで利益を得ている。管理組合の議会に所属する議員は、そのポジションをなかなか手放さないようなところだとも聞く。
 そういうところだから、水族館内部の意見よりも、議員としての思い込みの「公共」サービスでとんでもないことがおき、かつて、ロシアにシャチ捕獲を依頼した際、失敗したにかかわらず、購入価格のおよそ半分の1億円ほどを支払い、オンブズマンに訴えられてこともある。内部的な改革なしには、このような非常識が、シャチ購入以外でもまかり通る素地がある。

 懸念されることは2つある。
まず値段。前回、ロシアの捕獲では、ロシアの捕獲業者を活気付け、翌年も捕獲を実施し、シャチが死んでいる。今回の件ではまたしても、価格がつりあがったことで、捕獲実施の可能性が高まるだろうということ。カムチャツカ海域では、IWCの科学委員会が、調査の不十分な海域での捕獲に対して反対しているにかかわらず、ロシア当局が許可を出している。昨年、実施し、失敗した捕獲業者が再度試みる可能性があること。

もうひとつは、太地の中に、ナミと引き換えに、新たなシャチの捕獲をすればいいと考えているものがいるということだ。ご存知のように、日本沿岸のシャチの生態の解明はまだ明らかではない(ロシアを含む合同調査がある)カムチャツカ海域よりもひどい)。どこの海域からどこまで移動するか、どこで繁殖しているのかなど、今後の生態調査なしにはわからないことばかりだ。

 水族館関係者が少しでもナミの死から学び、わからないまま捕まえて飼育しようと考える前に、生態調査に力を入れるというような本来の学術的、教育的な施設に生まれ変わってほしいと心から願っている。


 

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