21日のシンポジウム
CBD-COP10で、海洋全般に関しての議論に関わってきて、決議案についてのポジション・ペーパーを書いたり、会期中は、非常に長丁場だった海洋・沿岸の生物多様性の議論を傍聴してきた。
沿岸鯨類に特化した活動ではなかったが、それでも、10月23日の海洋生物多様性戦略の前進と海の生物のレッドリストつくりの宣言で、ずっと訴え続けてきた国内における海洋の生物多様性保全の主張が少しずつだが形をなしつつあることを感じている。
ようやくひと段落したところで、水産海洋学会のシンポジウムが開催されることを知った。11月21日のテーマは「鯨類を中心とした北西太平洋の海洋生態系」であるという。調査捕鯨の成果が学会の大会シンポジウムのテーマとなったのは、これが始めてではないのだろうか(私の不明かもしれないが)。調査捕鯨というかなり微妙な話題がこうして公になるような世論つくりにSSが大いに貢献しているのではないか?と疑ってみている。
実際に朝の9時に始まったシンポジウムでは、日鯨研、遠洋水産研、海洋大、北大院水産の研究者たちが、実行委員長加藤秀弘氏の「今回は海洋生態系Ⅱ関連するテーマで」という前置きに従い、19のテーマに沿って話を進めた。
私自身、科学者ではないので、ここでのコメントには限界があるということはまずお断りしておかなければならないが、それにしても会場からの質問やコメントにはほとんど答えがないという変な発表であった。
・北西太平洋第二期鯨類捕獲調査の主要テーマは、生態系モデルの構築と鯨類と漁業との競合だと発表されている。そして、北西太平洋の海洋食物ピラミッドの高次捕食者である大型クジラ類の調査は必須、とされているが、今回の発表では、調査種のひとつであり、最も大型で個体数も多いマッコウクジラには触れず、もっぱらヒゲクジラ(ミンク、イワシ、ニタリ)調査の発表がメインである。マッコウクジラがはずされたのはなぜか?
注:鯨研によると
JARPNIIの目的は、a)摂餌生態および生態系調査(鯨類による餌生物の捕食、鯨類の餌の嗜好、生態 系モデル構築)、b)鯨類および海洋環境における環境汚染物質のモニターリング(鯨類における汚染物 質蓄積のパターン、食物連鎖による汚染物質の蓄積過程、汚染化学物質と鯨類の健康との関連)、お よびc)大型鯨類(ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラおよびマッコウクジラ)の系群構造を解明する こと。
・海洋生態系の解明といいながら、海洋の中で現在無視できない気候変動というファクターすらこれまで入れていない。クジラにとって、またその餌対象の魚類にとって、今後どのような影響が出るのか?ということは重要なはず。
・ミンククジラの回遊について、調査海域の外まで移動しているが、目視調査の結果発表は決められた調査海域だけなので、資源量は不明(分布量という言葉)という報告。生き物の生態解明を人の作った区切りの中だけでしてしまうという怠惰さ。決められた海域外での調査を実施しようという意志がないのか?独立した研究ではないという限界だろうか?
・ミンククジラが個別に餌をたべるか、集団か、また海水面か、中層か、海底まで行って食べるかという採餌に関しての基本的な疑問に答えられなかった(殺した後の胃袋調査に満足しているように見える)。
・ミンククジラと餌生物との関係において、これまで考えられてきたように、捕獲しやすい餌生物を日和見にたべるのではなく、選択性が見られたという主張。沿岸に近いところで採餌するミンクの未成熟個体について、(オキアミよりもスケトウダラやカタクチイワシを選ぶ)と沖合いで採餌する成熟個体がサンマを好むということで、これが「嗜好性」とまでいえるものなのか?
・エコパス・エコシムという複合漁業管理システムのシュミレーションにおいて、クジラの間引きがサンマやスケトウダラなどの増加をもたらす可能性があるという発表に、同じく会場から「結果を導き出すためにシュミレーションを急ぎすぎている」という批判あり。
・汚染問題について言えば、水銀とPCBだけの限られたサンプルでの不十分なもの。(そういえば、2000年に発表されたブルセラ症のその後はどうなっているか?研究では、かなりの数の罹患が見られたということだったはずだが)
自分としては、まだまだいいたいことはあるのだが、会場で適切に発せられた疑問や質問は、別に捕鯨がどうという立場の人たちではなく、普通の感覚を持った研究者によって発せられたものだ。
以前、IWCにおいて、ある国の代表から「日本の科学技術は大変優れているのに、なんで、クジラだけはだめなんだろうか?」と聞かれたことを思い出した。
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