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2008年11月13日 (木)

沿岸の生物多様性保全に

 昨年はご存知のように、海洋基本法が制定され、その中においても「生物多様性保全」が認識されている。
また、同じく、昨年作成された生物多様性国家戦略の中には「沿岸・海洋の生物多様性保全」が明記され、その
日本の責任範囲として排他的経済水域を含むと解釈されている。

 言うまでもなく、生物多様性保全には、その地域の野生生物の絶滅を防ぐことが大前提である。また、その中でもその地域(海域)の傘となる生物の保全は、その保全地域(海域)に含まれる幾多の種の保全に寄与できるので、生物多様性保全の要と考えられる。

 しかし、我が国においては、その傘としての重要な種を構成する海生哺乳類、とりわけその4分の3を占める鯨類の保全に対しては後ろ向きである。国家戦略でも、クジラが積極的にでてくるのは生物資源としてであり、具体的な保全策は見当たらない。あんなでっかいからだが目に入らないのか、目からはみ出してしまうのか・・・
 役人も中にはNGOの中にさえ、イルカとかクジラとかいうことばは使ってはいけないものと考える人たちがいる。

「産業」への顧慮が主たる理由であるが、水産庁も国が条約を批准しているわけだし、生物多様性保全に対して義務がある。もう少し、きちんと生息実態を把握するべきだと思うが一方で、実際は産業の実態も把握していない、あるいは誤解しているんじゃないかと思われるフシがある。

 生息状況についても産業との関わり(ウォッチングは含まれない)の濃いもの(食用と考えられているもの)でない限り、生息調査は実施されないと考えても良い。
 このような考え方で、しかも、産業として成り立ちにくい種についても将来的な資源という考え方を捨てないまま、管轄権を手放さないので、いつまでたっても、データ不明種はそのままである。

 たとえば、北米では、シャチの南の個体群が人間活動を主な要因として、減少しているということが数値的にも明らかにされている。こうした正確な個体群の情報などないまま、追込み猟は群れを根こそぎし続けているのだ。


 風の便りに、これまで追込み猟を実施してきた伊豆の最後の捕獲地・富戸で、湾内に定置網を設置し、イルカ追込みを実施しない選択を行った。定置網の設置具合で、その時期に南下してくるイルカたちを追い込むのが無理な状態であるという。

 それだけではない、当の猟を実施していた人たちの口から、「そんな時代ではないでしょう」という言葉ももれてきているのだ。

 水産庁は、現状に対して昨年から5年計画で捕獲枠を漸減させているが(沿岸のイルカに限定した水産庁の調査が始まったのは昨年で、この結果ではなく、かなり古いデータも含まれるものだ)中には既存の産業は永遠に続いて行くという考えか、捕獲しないならもっと積極的なところに枠を持っていけばいいという考え方の役人もいるようだ。

 今年もやがて(今週中だろうか?)南極に向けて調査捕鯨船団が出発する。第2期調査では、その捕獲数を激増させたものの、外では反捕鯨団体の攻撃とうちでは肉のだぶつきでとうとうミンク捕獲数を1割減らしたと今日のニュース報道にあった。

 イルカ肉は、一部を除き、クジラ肉代用品として出回ったもので、調査捕鯨の鯨肉の出回りで市場価値が落ち、イルカの追込み猟では、むしろ水族館への供給を主体とするものに変化しつつある。
もともとの業態ではなく、付随的なものであるが、それも、水族館での繁殖の成功などにより、一時期のようなニーズは少なくなっているといわれる。

 将来を見据えるとすれば、漁業者も行政も単に存続を前提とするのではなく産業としてのあり方を真剣に考える時期にあるのではないだろうか?
 海の生き物が取ったものの獲物だという考え方はもう捨てたほうがいい。

「もうそんな時代ではない」のだと思う。

 

 

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