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2008年10月28日 (火)

海洋保護区

生物多様性国家戦略に「海洋保護区の設立」が書き込まれてすでに1年。
最初ははやる気持ちでその進行具合を見守っていたが、なんだかその時点から
少しも前進していないように思える。

先ごろ、水産庁の担当者と話して、「まだ定義もないし・・」といわれて、それもそうだ
と思ってしまった。

それでもうれしいことに、「保護」という言葉からいやだという風にいわれていた
水産庁も「もうそんなこと言っている場合じゃないでしょ」と少なくとも「仕方ない、
はじめるか」というようなコンセンサスはできてきているらしい。
それは私には大いなる前進に思える。

大体、日本の水産行政は、周囲が海であるというのに、沿岸はつぶし、遠い公海
に出かけていくことを主眼にしてきた。沿岸での漁獲が減少すればいわゆる
「栽培漁業」というきわめて農耕民族的な解決法で何とかしようとしているけど、
識者によると稚魚や卵の放流なんて餌にしかならない、というし、管理不十分
の養殖やまき網などによる沿岸の小規模漁業との競合に関して、なんら効果的
な解決法は見出せていないようだ。

その挙句に海洋基本法ができて、海底エネルギーや金属採掘などの開発に力を
注ぐことになれば、ますます沿岸漁業は危うい状態になっている。

そのひとつの解決法として、海洋保護区があると私は感じている。

「保護区」というと、ただただ、手付かずの場を想像し、水産業にマイナスな
イメージしか抱かない向きが大きいが、産卵場所や稚魚の育つ場の確保は
乱獲で疲弊した漁業にこそ利益になるはずだ。海外事例でも、乱獲でにっちも
さっちも行かなくなったようなところでやっと海洋保護区を導入し、結果的に
成功しているというはなしだ。
これまで、水産の側でしか出来なかった海洋研究のお仕事も保全を含む多様な研究
が出来るというメリットもある。

たぶん、行政官の調整とか誰がどのように管理するのか、などの面倒な
仕事がなかなか進んでいかないのだろうとは思うが、そこはなんとか
関係者ががんばってもらいたいところだ。

私たちも、海洋法にコミットしてきたNGOのネットワークでもう一度きちんと
行政の背中を押していこうと、来月にやっと海洋保護区勉強会を開催する。

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□海洋ネット・第1回会合
「海洋・海岸環境の保全のための取組みを進めるため、海洋・海岸環境の
保全に取組むNGOや研究者等によるネットワークを形成し、各種活動を行
う。」ことを目的とした海洋ネットの第1回会合として、「海洋保護区」につい
て学びます。
どなたでも参加可能ですので、ぜひ多くの方々にご参加いただければと思
います。
なお、準備の関係から、参加希望の方はkobayashi@c-poli.orgまでご返信を
お願いいたします。


○テーマ:海洋保護区の定義と特徴、国内法制度について
○おはなし:加々美 康彦(鳥取環境大学 環境政策学科 准教授)
○日 時:11月17日(月)17:30~19:30
○会 場:WWF-ジャパン 7F会議室
      (MAP http://www.wwf.or.jp/aboutwwf/japan/map.htm )
○参加費:1,000円(資料代含む)
○定 員:30名(先着順)

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○市民がつくる政策調査会
○事務局長 小林幸治
TEL○ 03-5226-8843
E-mail○ kobayashi@c-poli.org
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転送ここまで

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海洋保護区の設立は、第一義的に海洋の生物多様性の保護、
そしてその結果としての持続的な漁業の確立、さらには
国境を越えたグローバルなネットワークによって、国境間の
緊張をほどき、平和的な方向を作り上げることが出来るという
余禄もある。

北方4島と知床との保護区連携に関しては、島がどこに
帰属するかというところですでにもめてしまうらしいが、
保護区を設定する前提で平和的な解決法を見出すという
ことを考えてみてはどうなのだろう。

2008年10月18日 (土)

日本沿岸のシャチ

 「データは同じではありません。1600頭というのは、80年代の古いデータで、一部はコビレゴンドウからの類推も含んでおり、過小評価の可能性がありました」と最近、水産庁を訪問したときに、担当者から言われた。
‘新しい’データ7512頭というのが1992-1996年8月ー9月の目視調査による結果による西部北太平洋のシャチの推定数だというのだ。
 しかし、担当者は続ける。「調査海域が広がっているので、必ずしもこれが増加を示すわけではありません」

 水産資源センターの資源評価では昨年、海洋大学で開催されたシンポジウム「シャチの現状と繁殖研究に向けて」で、沿岸シャチの現状が遠洋水産研究所の研究者たちによって紹介された。そこではこんな数字は出ていなかったのだが。
 そのときに、資源評価の部屋のシャチの1997年の捕獲数(生け捕り6頭)が間違いではないか、(生け捕り5頭と捕殺1頭)と後の懇親会で話したとき、担当する研究者は「新しい情報にどのみちしなければならないのでそのときに訂正します」といったので、その情報は今日の発表なのか、と聞いたとき、確か「そうです」といっていたと思うのだが。

 シャチだけの調査というのは(繰り返して言うまでもないが)まだないし、調査捕鯨で行われる目視調査の中だと思われる。おかしいな、と思うのは、該当海域のシャチがほかの同じような環境条件の海域と比べて格段に多いことだ。
 ご存知のように、北米西海岸では大目に見ても1500頭くらい、ノルウェー海域も1500頭ほどと考えられているようだ。それに比べると6倍近い生息数で、かつての小型沿岸捕鯨での捕獲数を考えれば途方もない数字に思われる。

 科学的調査をやっていると胸を張っている日本が客観的な評価なしで数字を一人歩きさせることは(百歩譲って調査技術が非常に優れているとしても)信頼性を失わせる元だ。もし、特別に生息数が多い理由があるなら知りたいものだ。

 この間のシャチに関するざわつきは、シャチ捕獲の環境整備が裏にあると私たちは考えている(根拠もある)。要するに生け捕りしたい、生け捕りしたのをいじくり回したい人たちがいるということだ。

 その結果が繁殖研究と技術の競争なのだから割り切れない。

 この13日、鴨川シーワールドで飼育2世代目のシャチが誕生した。日本では初めて、世界で確か10番目。水族館で生まれたシャチは現在世界で29頭になる。

 ヒトがヒトであるのは、その形態が人であるというわけではなく、家族があり、日常生活があり、社会があり、歴史、文化があり、その総体がヒトというものだと思う。

 社会的な動物であるシャチにしても、生息する環境に従い独自の生活形態を持ち、社会的なかかわりを自分の家族ともほかの群れとも培ってこそシャチではないだろうか。

 水族館で生まれるということは、確かに父母はいるが、帰属すべき社会や海域もないシャチの形をした模型(一般にとってはかわいいぬいぐるみかもしれないが)のようなものだ。悲しいかな、それらは「いのち」を持っている。そうした生き物をヒトの身勝手な欲望で作り出すことに違和感を覚える。

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