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2007年11月26日 (月)

沿岸のシャチ:結論は調査が進むまでは捕獲は「なし」よ!

11月23日のシンポジウムに思ったことーその1
<この背景>
 東京海洋大学が音頭を取って11月23日に開催したシンポジウム「シャチの現状と繁殖研究にむけて」を聞きにいった。
 このシンポジウムは、1997年に和歌山県太地町で捕獲された5頭のシャチの10年にわたる研究成果の発表に合わせ、日本の水族館における繁殖研究発表、日本沿岸のシャチの動向や個別の生態研究発表など、主催者としては日本のシャチ研究の‘集大成’となるべく企画された。
 10年前の2月7日、たまたま10頭の群れ(家族)で熊野灘付近を通りかかったところを「学術目的の特別捕獲」という名目でうち5頭が捕獲され、高額(総額1億2千万円)で取引された。当時の責任者によると、許可時には研究計画などはなく、その後提出されたものも「異種間交流」などというかなり疑わしいものだ。その後各館はそれぞれ毎月、水産庁に生体のデータ(何をどれだけ食べたか、とか体温、身長、体重など飼育上の記録)を報告してきたものの、3館同士の情報交換もなく、2頭は捕獲後4ヵ月目に死亡、「ショーに使わない」というお約束も反故にされ、1頭はブリーディングローン名目で貸し出された。
 ところが10年たち、またしても捕獲したいというところが現れ、水産庁としても捕獲の正当性を証明する仕掛けが必要となった。そこで、仲の良くない水族館同士の情報交換を促し、その結果発表をすると同時に、公開シンポジウムを行うことにしたようだ。

<沿岸のシャチの動向はほとんど何も分かっていないことが明らかになった>
 シンポジウムは4部構成になっており、第1部は「シャチの資源動向と生態」というテーマで、日本沿岸におけるシャチの動向や漁獲の歴史、国際的な研究を引用したシャチの遺伝学的な側面からの社会生態が語られた。遠洋水産研究所の宮下富夫氏、岩崎俊秀氏、日本言類研究所の上田真久氏がプレゼンテーションを行った。
 日本沿岸のシャチの生態解明ではこれまでの捕獲情報や航空目視調査、ストランディングによるものなどがあるが、今回宮下氏の発表の主要なものは、日本鯨類研究所の実施する北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN II)の目視船によるデータである。この調査はご存知のように捕鯨対象種の大型クジラのために行われるもので、シャチはあくまでも「ついで」でしかない。従って、どこで何頭の群れがいた(あるいは運がよければ索餌行動が見られた)というだけのもので、どのようなタイプのシャチかはもちろんのこと、ロシア海域と日本沿岸海域との関連性も分かっていない。この調査では、バイオプシーサンプル採取や写真による個体識別は手間の問題だと思うが、行われていない(水産庁の資源評価には写真によるIDと書かれているものの、当日はそれについての言及はなかった)。
結果としては、シャチの主要な生息海域が北緯40度以北で冬季に南下してくるようだということ、北の沿岸(カムチャツカ周辺海域)に多く、沖合いでは発見数も少ないということが報告された。日本の太平洋側沖合いについては遭遇率もかなり低いので、定住する個体群がいることは考えにくい。調査においてシャチに遭遇するのは3日に一度くらいということだった。
また、岩崎氏の和歌山県におけるおよそ20年間の聞き取り調査の結果も、周辺海域においては非定住群、つまり移動の途中で通りかかる可能性があるということを裏付けた結果となった。
 第1部最後の上田(かんだ)氏の北東太平洋における調査・研究を借りての発表でもわかるように、世界のシャチ研究は、遺伝子の分化が進行しつつある2つないし3つのエコタイプに注目している。その部分に関して日本は相変わらず空白状態だといえる。
第1部での課題は、「系群、社会構造、餌生物」とされた。それはすなわち、これからのシャチ研究においては沿岸で、どこにどのようなシャチの個体群ーエコタイプが存在しているのか明らかにしていくことが必要だということだ。当然ながら、水族館飼育はこれには貢献できない。又、「まだ資源として評価できる段階ではない」と岩崎氏は答えられたが、「資源」としてだけでなく、学術目的であっても生態解明へのダメージになる可能性があるので、いかなる捕獲も現段階では控えるべきだということだ。

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