« 沿岸のシャチ:結論は調査が進むまでは捕獲は「なし」よ! | トップページ | <イルカは海のシンボル> »

2007年11月27日 (火)

その2:シャチ飼育記録はまったく沿岸シャチの生態解明の役には立たない

<シャチ飼育記録はまったく沿岸シャチの生態解明の役には立たない>

 遠水研の岩崎俊秀さんがブログを見て早速メールを下さった。彼の真意が伝わっていなかったということなので、その点については掲載を約束した。コメントは以下である。
**************************************
・現状では恒常的に漁業に捕獲枠を与える状況にはないと認識している。
・しかし個人的にはカマイルカに枠を付けた考え方同様に、海区を狭く区切り
(資源量を再計算して)、再生産率1%を基礎に枠を考えることはできると考える。
・なお、学術目的の採捕にはまた別の考え方が必要。
**************************************
また、彼はメールの中で、「学術目的の捕獲は計画の内容次第」というお断りも付け加
えられた。そこで、では1997年の「成果」はどうだったかを検証しよう。

 第2部はいよいよ当日の「メイン」である1997年捕獲のシャチの記録であるがその前に、飼育暦30年という鴨川シーワールドの勝俣悦子氏から「飼育下におけるシャチの繁殖」という話題の提供があった。鴨シーのシャチはアイスランドから持ってこられたもので、6例の妊娠と4例の出産を経験しており、そのうちの3頭は今も生存している。
 97年のシャチの重要課題が繁殖研究であるとすれば、すでに十分研究されていると考えられ、いまさらなんで必要なのか分からないというのが正直な感想だ。しかも、面白かったことは、勝俣氏はこの研究発表に関して「重箱の隅をつつく」ようなものと現実を見ていたことだ。
ちなみに勝俣氏の前に飼育の歴史を話した祖一誠氏は、自分たちのしていることは研究ではなく展示と断り、「国際的な血統管理に基づく繁殖」と日本周辺海域のシャチとの繁殖の可能性を暗に否定している。

この後は、(だれがまとめたかはともかく)、97年のシャチを飼育した3館(太地くじらの博物館、アドベンチャーワールド、伊豆三津シーパラダイス)と名古屋港水族館が仲良く発表を分かち合った。
最初のプレゼンテーションは太地くじらの博物館の坂本信二氏による捕獲と輸送。いかにシャチに負担をかけずに捕獲し、輸送するかというもので、座礁個体のリハビリなどに役に立つかもしれない。
次はアドベンチャーワールドの圓山宣孝氏による「飼育環境・餌・成長」であるが、すでにこの館は購入した3頭のシャチをそれぞれ別個の理由で死なせている。次の次の今アドベンチャーワールドの「疾病と予防対策」とともに飼育技術向上から言えば、大きな損失を実体験した館の反省は貴重かもしれないが、野生シャチの研究とは少し異なるものだ。餌に関して言えば、「捕獲」のところで、坂本氏が報告したように、このシャチの群れは海生哺乳類(ミンククジラ)を食べていたようだが、どの飼育施設でも中心はマサバである。

次は、いよいよ名古屋港水族館のシャチの健康管理に関するレポート。血液の状態や体温に関して「日本産」を強調し、東部太平洋などと比較しようと試みたが、データも荒すぎて、会場からいくつか疑問がぶつけられた。たとえば、海域によるものか、エコタイプ(定住型か移動型か)によるものかは今後の野生化での調査が進まない限りはわからないということだろう。これについては第2部の座長を務めた吉岡基氏が「シャチはこれまで言われていたように、妊娠期間が17ヶ月ではなく、18~19ヶ月だと分かったことは飼育下における成果」というような安易な結論同様、日本のシャチ研究(というより実験生理学の)底の浅さではないか、と思ったことだった。

伊豆三津シーパラダイスの香山薫氏の繁殖整理(アスカとクーに関する性ホルモンの変化―プロゲステロン、エストラジオールの測定)についても、同じように分かったことよりも実際は結果からはなんともいえないということであった。

その後の環境エンリッチメントに関しては、動物園飼育よりも人口水槽における環境整備ははるかに難しいと考える。海水の循環、衛生面などから海の中の再現はできないということだ。特に、音響の動物である鯨類飼育に関しては、コンクリートの環境が陸上動物よりも何倍ものストレスを与えるという話を聞いたことがある。また、入り江を仕切った生簀の場合でも、環境的には限りがあるだろう。
そういう条件の悪さを人間の子どもたちが芸を見せることで解消しようという試みは、かなり自己満足的で、とてもばかげたものに見えた。

中身については関係者にとっては異論もあろうが、問題はこうした研究が第1部で課題として出されたこと(社会構造、餌生物、系群の解明)とまったく関係ないということだ。
後で総指揮者の加藤秀弘氏も言っておられたが、「水族館は種の保存には関係がない」というのが本当のところだろう。

ということで、野生シャチの捕獲は今必要な学術研究にまったく貢献しない利己的なものという結論が見えたと思う。もし水族館がいくらかでも種の保存、あるいは生物多様性保全に貢献すると言うのであれば、たとえばバンクーバー水族館が実施しているような、シャチの生息海域保全に資するための野生シャチの里親制度のようなものであるかもしれない。

« 沿岸のシャチ:結論は調査が進むまでは捕獲は「なし」よ! | トップページ | <イルカは海のシンボル> »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。