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2007年11月30日 (金)

<イルカは海のシンボル>

<イルカは海のシンボル>
シャチシンポの感想はもう少し書きたいが、鯨類関係ということなので紹介したい情報があるので一休み。
伊豆地方では、1619年からイルカの追い込みが行われていたということだ。しかし、イルカが大量捕獲されたのは追い込みの技術の向上とあいまっての敗戦前後から。
1産1子の哺乳類であるイルカの大量捕獲が持続的なはずはなく、やがて採算がとれなくなり、4箇所あった捕獲地のうち残っているのは現在富戸ひとつである。その富戸でも、今期の冒頭にあった水産庁の激励にもかかわらず、現在まで捕獲は実施されておらず、富戸でのイルカ捕獲産業は終焉にさしかかっている(と私は思っている)。

その一因となったのが、元イルカ漁業者の石井泉さんだ。
彼は、1996年に3年ぶりに行われたイルカ追込み猟で、捕獲枠のオーバーしたバンドウイルカ、及び捕獲枠のないオキゴンドウの捕獲について不正だと知らずに猟に参加、後にその事実を知って不正を内部告発した人である。

当時、彼は、漁師として正々堂々と正業に勤しみたかったからこそ告発したのだが、漁協の反応は残念ながら違った。彼はそのことで村八分の扱いを受けたのである。
このことは逆に彼に自分のしていることを振り返らせる結果となった。そして、彼はイルカを捕獲する代わりに、イルカたちの住む海を人々に見せる仕事-イルカウォッチングに鮮やかな転身を果たした。

東京に近い観光地域ということもあり、また、もともと富戸漁協のメインの収入はダイビングという事情も手伝い、石井さんの営業努力も実ってウォッチング事業はまずまずの滑り出しとなった。
彼はその利点を、もともとイルカ猟をしていたのでイルカを探すことはお手の物であること、イルカを湾に追い込んで捕獲することほど重労働ではないため、年を取ってからも無理なく仕事を続けられることだという。イルカが現れればもちろんお客さんに感謝されるし、殺すというストレスはないことも仕事としてやりがいがある。もちろん、捕獲が減少しているイルカ猟に携わるよりも将来性も見込める。富戸のイルカウォッチングは、テレビや雑誌にも取り上げられ、だんだんその知名度を上げている。ウォッチングの参加してくれる船も、8隻まで増えたと聞いた。

そんな中、石井さんはひとつの提案をした。『イルカを海のシンボルに』がそれである。
4年前に始めたこの提案にメールやファックスで賛同してくれた人々はこの11月18日で7333人となった。これらはほとんどがいわゆる一般の市民で、クラス全員で賛同したという子供たちもいれば、会社ぐるみで参加したというところもあるという。
イルカの姿を使用するさまざまな日用雑貨や企業広告の氾濫する日本である。市民の関心は確実に肉としてではなく、生きたイルカへと向かっている。

彼は、言う「昔から、大航海時代の船乗りの人々も 船と寄り添うように泳ぎ戯れるイルカに癒されたと聞く。 現在も、大海原を行く海人(うみびと)たちに近寄り 心の癒しを提供してくれている。 このイルカたちを海のシンボルにしないわけにはいかないと 賛同メール、FAXを募集させていただいた」

50代最後の誕生日である11月18日、とうとう彼は『イルカを海のシンボルに』から 『海のシンボルはイルカ』と宣言した。

おりしも、今年は国連の定めた「国際イルカ年」であった。
日本ではとかく自然資源としてみなされているイルカであるが、近年その存在は海の生態系の要の種として認識され、高度の社会性を持ち、人と共通するような自己認識を持つといわれるイルカ類保護の世界的な流れは止まらない。

こうした情勢の変化に乗り遅れ、産業の側にしか向いていない霞ヶ関官僚、一部の国会議員が、一般市民の思いを本当に受け取れる日はいつ来るのだろうか? 

2007年11月27日 (火)

その2:シャチ飼育記録はまったく沿岸シャチの生態解明の役には立たない

<シャチ飼育記録はまったく沿岸シャチの生態解明の役には立たない>

 遠水研の岩崎俊秀さんがブログを見て早速メールを下さった。彼の真意が伝わっていなかったということなので、その点については掲載を約束した。コメントは以下である。
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・現状では恒常的に漁業に捕獲枠を与える状況にはないと認識している。
・しかし個人的にはカマイルカに枠を付けた考え方同様に、海区を狭く区切り
(資源量を再計算して)、再生産率1%を基礎に枠を考えることはできると考える。
・なお、学術目的の採捕にはまた別の考え方が必要。
**************************************
また、彼はメールの中で、「学術目的の捕獲は計画の内容次第」というお断りも付け加
えられた。そこで、では1997年の「成果」はどうだったかを検証しよう。

 第2部はいよいよ当日の「メイン」である1997年捕獲のシャチの記録であるがその前に、飼育暦30年という鴨川シーワールドの勝俣悦子氏から「飼育下におけるシャチの繁殖」という話題の提供があった。鴨シーのシャチはアイスランドから持ってこられたもので、6例の妊娠と4例の出産を経験しており、そのうちの3頭は今も生存している。
 97年のシャチの重要課題が繁殖研究であるとすれば、すでに十分研究されていると考えられ、いまさらなんで必要なのか分からないというのが正直な感想だ。しかも、面白かったことは、勝俣氏はこの研究発表に関して「重箱の隅をつつく」ようなものと現実を見ていたことだ。
ちなみに勝俣氏の前に飼育の歴史を話した祖一誠氏は、自分たちのしていることは研究ではなく展示と断り、「国際的な血統管理に基づく繁殖」と日本周辺海域のシャチとの繁殖の可能性を暗に否定している。

この後は、(だれがまとめたかはともかく)、97年のシャチを飼育した3館(太地くじらの博物館、アドベンチャーワールド、伊豆三津シーパラダイス)と名古屋港水族館が仲良く発表を分かち合った。
最初のプレゼンテーションは太地くじらの博物館の坂本信二氏による捕獲と輸送。いかにシャチに負担をかけずに捕獲し、輸送するかというもので、座礁個体のリハビリなどに役に立つかもしれない。
次はアドベンチャーワールドの圓山宣孝氏による「飼育環境・餌・成長」であるが、すでにこの館は購入した3頭のシャチをそれぞれ別個の理由で死なせている。次の次の今アドベンチャーワールドの「疾病と予防対策」とともに飼育技術向上から言えば、大きな損失を実体験した館の反省は貴重かもしれないが、野生シャチの研究とは少し異なるものだ。餌に関して言えば、「捕獲」のところで、坂本氏が報告したように、このシャチの群れは海生哺乳類(ミンククジラ)を食べていたようだが、どの飼育施設でも中心はマサバである。

次は、いよいよ名古屋港水族館のシャチの健康管理に関するレポート。血液の状態や体温に関して「日本産」を強調し、東部太平洋などと比較しようと試みたが、データも荒すぎて、会場からいくつか疑問がぶつけられた。たとえば、海域によるものか、エコタイプ(定住型か移動型か)によるものかは今後の野生化での調査が進まない限りはわからないということだろう。これについては第2部の座長を務めた吉岡基氏が「シャチはこれまで言われていたように、妊娠期間が17ヶ月ではなく、18~19ヶ月だと分かったことは飼育下における成果」というような安易な結論同様、日本のシャチ研究(というより実験生理学の)底の浅さではないか、と思ったことだった。

伊豆三津シーパラダイスの香山薫氏の繁殖整理(アスカとクーに関する性ホルモンの変化―プロゲステロン、エストラジオールの測定)についても、同じように分かったことよりも実際は結果からはなんともいえないということであった。

その後の環境エンリッチメントに関しては、動物園飼育よりも人口水槽における環境整備ははるかに難しいと考える。海水の循環、衛生面などから海の中の再現はできないということだ。特に、音響の動物である鯨類飼育に関しては、コンクリートの環境が陸上動物よりも何倍ものストレスを与えるという話を聞いたことがある。また、入り江を仕切った生簀の場合でも、環境的には限りがあるだろう。
そういう条件の悪さを人間の子どもたちが芸を見せることで解消しようという試みは、かなり自己満足的で、とてもばかげたものに見えた。

中身については関係者にとっては異論もあろうが、問題はこうした研究が第1部で課題として出されたこと(社会構造、餌生物、系群の解明)とまったく関係ないということだ。
後で総指揮者の加藤秀弘氏も言っておられたが、「水族館は種の保存には関係がない」というのが本当のところだろう。

ということで、野生シャチの捕獲は今必要な学術研究にまったく貢献しない利己的なものという結論が見えたと思う。もし水族館がいくらかでも種の保存、あるいは生物多様性保全に貢献すると言うのであれば、たとえばバンクーバー水族館が実施しているような、シャチの生息海域保全に資するための野生シャチの里親制度のようなものであるかもしれない。

2007年11月26日 (月)

沿岸のシャチ:結論は調査が進むまでは捕獲は「なし」よ!

11月23日のシンポジウムに思ったことーその1
<この背景>
 東京海洋大学が音頭を取って11月23日に開催したシンポジウム「シャチの現状と繁殖研究にむけて」を聞きにいった。
 このシンポジウムは、1997年に和歌山県太地町で捕獲された5頭のシャチの10年にわたる研究成果の発表に合わせ、日本の水族館における繁殖研究発表、日本沿岸のシャチの動向や個別の生態研究発表など、主催者としては日本のシャチ研究の‘集大成’となるべく企画された。
 10年前の2月7日、たまたま10頭の群れ(家族)で熊野灘付近を通りかかったところを「学術目的の特別捕獲」という名目でうち5頭が捕獲され、高額(総額1億2千万円)で取引された。当時の責任者によると、許可時には研究計画などはなく、その後提出されたものも「異種間交流」などというかなり疑わしいものだ。その後各館はそれぞれ毎月、水産庁に生体のデータ(何をどれだけ食べたか、とか体温、身長、体重など飼育上の記録)を報告してきたものの、3館同士の情報交換もなく、2頭は捕獲後4ヵ月目に死亡、「ショーに使わない」というお約束も反故にされ、1頭はブリーディングローン名目で貸し出された。
 ところが10年たち、またしても捕獲したいというところが現れ、水産庁としても捕獲の正当性を証明する仕掛けが必要となった。そこで、仲の良くない水族館同士の情報交換を促し、その結果発表をすると同時に、公開シンポジウムを行うことにしたようだ。

<沿岸のシャチの動向はほとんど何も分かっていないことが明らかになった>
 シンポジウムは4部構成になっており、第1部は「シャチの資源動向と生態」というテーマで、日本沿岸におけるシャチの動向や漁獲の歴史、国際的な研究を引用したシャチの遺伝学的な側面からの社会生態が語られた。遠洋水産研究所の宮下富夫氏、岩崎俊秀氏、日本言類研究所の上田真久氏がプレゼンテーションを行った。
 日本沿岸のシャチの生態解明ではこれまでの捕獲情報や航空目視調査、ストランディングによるものなどがあるが、今回宮下氏の発表の主要なものは、日本鯨類研究所の実施する北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN II)の目視船によるデータである。この調査はご存知のように捕鯨対象種の大型クジラのために行われるもので、シャチはあくまでも「ついで」でしかない。従って、どこで何頭の群れがいた(あるいは運がよければ索餌行動が見られた)というだけのもので、どのようなタイプのシャチかはもちろんのこと、ロシア海域と日本沿岸海域との関連性も分かっていない。この調査では、バイオプシーサンプル採取や写真による個体識別は手間の問題だと思うが、行われていない(水産庁の資源評価には写真によるIDと書かれているものの、当日はそれについての言及はなかった)。
結果としては、シャチの主要な生息海域が北緯40度以北で冬季に南下してくるようだということ、北の沿岸(カムチャツカ周辺海域)に多く、沖合いでは発見数も少ないということが報告された。日本の太平洋側沖合いについては遭遇率もかなり低いので、定住する個体群がいることは考えにくい。調査においてシャチに遭遇するのは3日に一度くらいということだった。
また、岩崎氏の和歌山県におけるおよそ20年間の聞き取り調査の結果も、周辺海域においては非定住群、つまり移動の途中で通りかかる可能性があるということを裏付けた結果となった。
 第1部最後の上田(かんだ)氏の北東太平洋における調査・研究を借りての発表でもわかるように、世界のシャチ研究は、遺伝子の分化が進行しつつある2つないし3つのエコタイプに注目している。その部分に関して日本は相変わらず空白状態だといえる。
第1部での課題は、「系群、社会構造、餌生物」とされた。それはすなわち、これからのシャチ研究においては沿岸で、どこにどのようなシャチの個体群ーエコタイプが存在しているのか明らかにしていくことが必要だということだ。当然ながら、水族館飼育はこれには貢献できない。又、「まだ資源として評価できる段階ではない」と岩崎氏は答えられたが、「資源」としてだけでなく、学術目的であっても生態解明へのダメージになる可能性があるので、いかなる捕獲も現段階では控えるべきだということだ。

2007年11月22日 (木)

ザトウクジラ

11月18日、調査捕鯨船が南極に向けて出発した。ハイレベルの政治的な話し合いで何とか日本が捕獲の拡大を断念してくれないか念じてきたが、それだけではだめなようで・・・・・・
この間、さまざまな場面で、クジラとなると政治の中枢部分で正常な反応が得られないということが分かってきたが、今回は絶滅危惧IB類のナガスクジラ(最初10頭とプレスリリースに書いてあったがこれは単なる書き間違えであったらしい。鯨研はすぐに削除したがここのHPにはわざと残した)50頭、絶滅危惧II類のザトウクジラ50頭を捕獲する計画である。
ザトウクジラは、日本でもウォッチングで大人気を博しているクジラだが、南半球でも人気で、オーストラリアやニュージーランドだけでなく、島嶼地域の重要な観光資源になっている。
今回、その中でも白いクジラとして人気を誇る「ミガルー」が殺されるのでは、という大きな不安が彼らの中で膨らんでいる。人を信頼し、船に近づいてくるミガルーが簡単に標的になってしまうのではという彼らの恐れは分からなくもない。
白いクジラを見間違えるわけはない。そんなことしたら、たいへんな外交摩擦になるし、やらないだろうと一旦は思ったものの、それでも、もしかしたら、あえて外交摩擦を繰り返してきた彼らのことだから、「たまたま、サンプルとして捕るクジラの順番に入っていました」とか言いかねないなあという思い始めた。
いや、ミガルーだけではない。「ヒトというのは自分たち姿を見て喜ぶもの」という風に認識している南半球のクジラたちが、自分たちを殺しに来る船を識別できるとは思えない。
でも、彼らが寄ってくるクジラを殺さないという保証など何もないのだ。

2007年11月 7日 (水)

コククジラが水産資源保護法に?

10月29日付の農水省のパブコメ募集の中に、ニシコククジラを水産資源保護法にリストすることについての案件が出ているのを見つけた。
2005年に3頭、翌年にも1頭のメスが定置網にかかって死亡するという事態に、水産庁は水産資源保護法にリストするからもう大丈夫という言葉を繰り返してきた。やっとそのお約束が果たされる見込みになったということだ。
しかし、それだけで「もう大丈夫」かというとそれはどうだろうか。確かに、これまでのように、定置網にかかっても、食肉としての流通は禁止される。しかし、水産資源保護法にある保護のための漁法の規制について言えば、定置網のそのための規制措置はできないと思われる。本来ならば、クジラがかからないような工夫、混獲防止策を考えていただきたいところだが、こちらのほうは現在の混獲クジラの流通状況を見るとあやしい。

しかし、この春の水産庁担当者の意見では、「資源として有効でないものは検討しない」という発言からみれば、格段の進展。保護の方向で一歩踏み出したわけで、これに関しては素直に歓迎したいと思う。

できるならば、ニシコククジラの移動時期や経路などをさらに調査し、一定期間だけでも海上保安庁などの助けで、監視措置と混獲されないための予防措置をとれないものだろうか。

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