海洋汚染のもたらす海の生物への影響にはさまざまなものがある。特に、長い長い年月をかけて徐々に変化していく自然界に原因を持つものもあるだろうが、比較的短期的に影響するのは人の活動の結果によるものと考えるのが真っ当あろうと思う。最初に耳目を引いたのは、1980年代終わりの北海におけるアザラシの大量死で、これはジステンパーの罹患によるものと記憶している。
クジラ類に蓄積している重金属、有機化学物質については、私たちは1990年代終わりごろから注目してきた。
ハクジラ類の筋肉や内臓に顕著な水銀、温血動物であるクジラたちが体内に蓄えている分厚い脂肪層にたまるPCBsは、日本人にとっては食べることの危険性として繰り返し問題になってきている。1999年には研究者が日本国内で市販されているクジラ肉の調査を行い、その恐るべき濃度に驚愕して、関係行政に要望書を出している。その後も汚染の高さが繰り返し新聞報道されるに及び、政府も調査に乗り出し、2003年に厚労省がやっと魚介類の水銀汚染についてお知らせを出し多という経緯がある。しかし、このお知らせの中に用いられているサンプル数は少なく、バンドウイルカ、ツチクジラ、コビレゴンドウ以外の種に関しての警告はないことと、影響を受けるとされる対象が胎児のみであることは今後の課題としてまだ残されている。
今回も、捕鯨で名高い町で、子どもたちに汚染の可能性のあるコビレゴンドウの肉を給食に提供したことで、子どもの親として、当事者でもある、太地町の議員さんが指摘し、問題になっている。危険性覚悟で自ら選んで食べるのではなく、子どもたちが否応なく「教育」の名目で食べさせられることを問題にするのは親として当然だと思う。
一方で、さまざまな化学物質が生物そのものにあたる影響というものも無視できない。「奪われし未来」で多くの事例となっているように、癌などの病気をもたらしたり、繁殖に影響していることが徐々に理解されるようになってきた。いわゆる「環境ホルモン」の野生生物に与える影響について、一時大きな問題となり、環境庁(当時)がその調査を行ったこともある(話題になったときだけで、継続的に調査しているとは聞かないが)。
汚染物質の貯留でずば抜けているのはやはり、海に住む哺乳類である。1998年5月の日経新聞は「日本近海の汚染拡大」という記事で、「シャチからは最高で脂肪㌘あたり400mgを検出し、犬など陸上生物に比べ約4千倍の濃度だった」としるし、同年6月の朝日新聞は、イルカやクジラの座礁問題に関連し、イルカやクジラなど海生哺乳類が「危険を知らせるカナリア」で、いずれこうした問題は人にも降りかかることだと報じた。
そして今度は北太平洋のミンククジラ(コモンミンク)の20%がブルセラ菌に侵されて生殖器官にさまざまな症状を示しているという。そういえば、2000年のアデレードにおけるIWC会議の席上で、当時の代表代理の小松正之氏が「北西太平洋の調査で、ミンククジラのオスの20%に生殖器異常が見られる」といっていたのを聞いたことを思い出した。その後、誰もその件について言及もせず、私の聞き違えか?と考えていたが、これがどうもブルセラ菌によるものらしい。
ネットで調べてみると人畜共通の伝染病で、家畜の妊娠障害などの原因となるほか、インフルエンザやマラリアのような高熱が続き、しかもそれがかなり長期間持続するという。人間の場合、感染した動物の組織に触れたり、菌に汚染された食品を口にしたり、菌を吸い込んだりすることで感染する可能性がある、ということだ。これまで、羊や牛などの家畜に感染が見られ、感染が確認されると治療は行わずに殺処分するようだ。
日本では、今年の初めに大阪で集団飼育されていた犬にその菌の感染が認められ、殺処分されるか、されたというようなニュースがあったことを記憶している。
同じくネットでは、ブルセラ菌が生物兵器にも使われるというような情報も見た。
北のミンククジラ、特に現在行っている沿岸捕獲「調査」のミンククジラは冷凍ではなく、生で出回るが、刺身で食べても大丈夫なのかどうか。感染しているものは廃棄するのかどうか・・・・・・
もっとも、こちらは水銀やPCBsの汚染の影響と同じように、確信的にお食べになる方々よりも、その影響でクジラたちがどうなるのかがたいへん心配なのである。
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