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2007年6月19日 (火)

アンカレッジ日記(4)

 2日目から私たちが投宿したのはキャプテンクックから歩いて5分ほどの小さなホテルだ。ちょびひげをはやした人のよさそうなメタボなおっさんと、(たぶん)リューマチで苦しんでいる肌の浅黒い女性が交代でオフィスにいる。夜12時には鍵をかけてしまい、1日目の夜に早速私の相棒が朝帰りとなった。朝食は、狭い事務所の一角にコーヒーメーカーを置き、その横に書類と一緒にピッチャーに入ったオレンジジュース、そしてプラスティックのコンテナーが2つ。中には砂糖ごろものついたチョコレートドーナツ、砂糖がけしたペストリー、チョコチップビスケット、マフィンなどが入っている。メタボになるのは当然の成り行きと見えた。いつもは、朝食をたっぷりとって、昼夜は省くか安く上げる方針できたが、これでは仕方がない。そういえば、ホテルの付近にスーパーとか食料品やさんさえ見当たらないのだ。みんな、どうやって暮らしているのだろうか?

閑話休題―

 2日目はいよいよ先住民生存捕鯨で開始された。5年前の下関では、日本の代表代理であった小松正之氏が日本の沿岸小型捕鯨を認めないなら、とアラスカの捕鯨枠を否決に持ち込んだ経緯があり、直前まで日本の出方を懸念する声を聞いた。しかし、実際は、すでに2月段階で先住民捕鯨に異議を唱えないという意思表示がアメリカに対して行われていたというし、私も新聞で安倍首相が先住民捕鯨を阻止しないということをアメリカで答えたというのを読んだ覚えがある。首相の発言をめぐって、省庁内で対立まであったという話を会議前に小耳に挟んだ。

 ご存知のように、先住民生存捕鯨(Aboriginal Subsistence Whaling)は、商業捕鯨とは別のカテゴリーで独自の管理制度を用い、アラスカ、アメリカ・ワシントン州のマカ、ロシアのチュクトカ、グリーンランド、セントビンセント&グレナディーンに対して5年間のブロック枠を与えて捕鯨を許可している。その見直しが今年の大きなテーマで、アラスカが選ばれた。
日本は、これらの地域に認められるのであれば日本の沿岸にも枠を与えるべきという立場をとってきた。昨年のIWC報告でも触れたが、確かにいくつかの地域で肉の販売、利用等で当初のような厳しい規制の摘要がされていないと聞く。しかし、日本がモラトリアムの下でそれを問題にするのであれば、規制をどんどんいい加減にするよりは、いっそ管理制度の完成をまって一緒にやろうよ!という意見をだすならそれなりに理解ができるのだが。

 まず、議長を務めたノルウェーから、本会議に先立ち、5月23日行われたABSW小委員会の報告があった。小委員会における議題の承認にあって、先住民生存捕鯨会議によるIWC会議に基づいた捕鯨の必然性と科学性を土台に、生存捕鯨の権利や捕鯨上の安全性、人道的捕殺、「臭いクジラ=stinky whale」に関しての問題提起を盛り込んだ声明が出された。
これに対してブラジルは、先住民の権利が守られるのと同じように、沿岸でクジラを非致死的に利用しようというラテン諸国の権利も守るべきだという意見を出し、先住民の捕鯨者に、ブラジルなどのクジラの非致死的利用国に招き、現状を理解してもらいたいと述べた。

 そのあとで管理制度に関する議論で、科学委員会よりグリーンランドの調査計画の進行が報告された。すでにグリーンランドは昨年のIWC会議で、クジラの捕獲枠をザトウクジラとホッキョククジラまで拡大するよう要求している。要求枠は西グリーンランドのミンククジラを2008年から2012年まで毎年200頭(前回175頭)を、東グリーンランドで同じく12頭、西グリーンランドのナガスクジラ毎年19頭に加え、西グリーンランドでホッキョククジラを毎年2頭、ザトウクジラを10頭追加してほしいというもの。理由としては、グリーンランドにおける人口の増加に対して、クジラ肉の供給が追いつかず、実際に必要な730トンの需要に対して、220トン不足し、これをホッキョククジラ、ザトウクジラで補給するというものである。これに対して、ドイツがグリーンランドではイッカクやゴンドウなどの小型鯨類を捕獲しているが、これは含まれないのかと質問、グリーンランドは含まれないと答えた。科学委員会は、ザトウクジラに関してはよりよい科学的データが2008年にそろうので、それまで待ってほしいという意見。ホッキョククジラに関しても東カナダにおけるアセスが不十分であるとしている。

 一方、アメリカとロシアは協同で声明を出し、両国先住民の捕鯨の必要性を改めて訴えた。BCB(Bering-Chukchi-Beaufout Seas)個体群のホッキョククジラに関してその肉は地域消費に限るとし、捕獲枠は、前回と同じ5年間のブロック枠で2008年から2012年で(陸揚げ分として)280頭。年間67頭(銛打ちした分)を越えない数字で、例外は2003年から2007年の15頭を含む水揚げできなかったクジラの追加捕獲で、年間15頭以上の追加枠を与えないと言うもの。また、この枠は毎年科学委員会の助言に従って見直しをする。これに対しては、各国が「先住民の需要を理解する」(どちら側からも)、「科学的根拠であればいかなる捕鯨も支持する」(日本、捕鯨推進国)、「先住民の捕鯨を理解するように、南半球の非致死的利用も認めてほしい」(アルゼンチン、ブラジル)という意見がでたが、基本的に反対はなし。コンセンサスでの採択となった。

 次に、アメリカ、ロシアのマカ族とチュクトカのヒガシコククジラの捕獲枠。前回と基本的には同じ要求だが、ロシアはチュクトカの人々は商業捕鯨の禁止で、現在栄養面では満たされているかも知れないが伝統的にクジラを食べ続けたいという要求は満たされていないとした。そして、年間100kg必要なのだが、現在は30%くらいしか供給されていない。しかも過去10年くらい、その肉に化学臭のするいわゆるくさいクジラ(stinky whale)で肉の供給が減っているとぐちをこぼした。本当は350頭ほしいのだが自主的に枠の拡大は控えるとした。

*ちなみに、日本人の年間の魚の消費はひとり66kg、肉は牛、豚、鶏全部で43kg。アメリカの肉の消費量は124kgだそうだ。
*クジラのみで100kgという数字がどうかと言う立場にはないかも知れないが、先住民捕鯨枠がどんどん拡大されていっていいのだろうか?という疑問はある。もともと、商業的には認められないくらいの個体数の中で、毎年見直しをして特別に枠を設けているのである。グリーンランドなど人口増に対してクジラ捕獲を増やすというが、本当にそんな解決法でいいのだろうか?

 コククジラの2008年から2012年までのブロック枠は620頭で年間140頭を超さないという当初案がコンセンサスで採択された。
それから、比較的新規に参入したセント・ビンセント&グレナディンのザトウクジラの枠で(ポール・ワトソンはあんなの先住民捕鯨であるもんか!といっているらしい)2008年から2012年まで、20頭以下で同じように採択された。
残るグリーンランドは、ザトウクジラの頭数については妥協の余地があるとしながらも、各国との調整を議長から勧告され、そのまま議題が開かれたままとなった。

 そのあとで、日本政府などが「先住民(日本政府はいまだに原住民と訳している)という言葉が植民地的で侮蔑的だから、社会・経済的な捕鯨とか何とか、名前を変えるように」という提案を出した。アメリカ代表が「その言葉は、決して侮蔑的な意味合いを持つことばではありません」と答えたが、今後、言葉の定義等で話し合うことになった。

*日本政府としては、特別カテゴリーとしての「先住民」という言葉は、沿岸捕鯨基地を認めさせる上で邪魔な言葉なのではないだろうか。過去の歴史の中で、日本政府は沖縄やアイヌを先住民としてきちんとみとめず、あいまいなままごまかしてきた。「あんたにだけはいわれたくない!」ときっと先住民の人たちが言うであろう発言であった。日本政府の立場というのは、そのあとの記者会見で、GPの星川淳さんが「日本政府の先住民の定義は?」と聞いて、「分かりません」という答えが帰ってきたということでも明らかである。

<IWCの硬直化を防ぐための2つ+1の会合-IWCの将来>
 その後、科学委員会からRMPについての報告があった。北太平洋ニタリクジラに関するもので、4つの管理オプションのうち3つに関して作業が進み、残り1つは2008年度に仕上げができるということに関し、日本代表が「捕獲枠が算出できる状態となったが、それがIWCの本来の姿だ」という意見を述べた。次の2年間で北大西洋のナガスクジラについて、また中央と北大西洋のミンククジラについては来年検討される。RMSに関しては、調査捕鯨を日本が取り下げないために、停止した状態。

 その後、2月に日本政府主催で開催された「正常化会合」と4月にニューヨークで開催されたPEW慈善財団による会合に関しての紹介が議長よりあった。アルゼンチンが、その2つだけでなく、昨年ブエノスアイレスで開催されたラテン諸国による会合とブエノスアイレス宣言についても同様に扱ってほしいという要望があり、宣言文が回覧されることになった。
正 常化会合に関しては、議長を務めたパラオのナカムラ氏が議長のサマリーを報告(2月に会合の概要はすでに書き込み済み)その後、ニューヨーク会合の議長を務めたニュージーランドのジェフリー・パーマー卿が会合の報告を行った。片方はセントキッツ宣言を母体にした1946年の国際捕鯨取締条約の精神の復活宣言だが、片方では、近代化の過程としてクジラの非致死的利用を軸としながらどのような妥協があるかも話し合われ、沿岸の捕鯨のみを認めるといういわゆるアイルランド提案の可能性なども議論された(もっとも、すでにその件は徹底的に議論され尽したとして、選択肢には入らなかった)。IWCが違反に対する規制措置をもてないことの問題も話された。留保している国、調査捕鯨枠を勝手に設定している国があっても、有効な手段が取れないからである。

ブエノスアイレス宣言は、南半球の途上国がクジラを非致死的に利用することをメリットを主張し、IWCがそのことを認識すべしとしたものだ。いずれも結局は立場をまったく譲らないものだが、同時にこのままでは前に進まないのでどうすべきかということがとりあえず話されたということだ。

 意見も、アイスランドがニューヨーク会合に招かれなかったと非難したのを別として、いつもの立場からのもので特筆すべきものはないが、それぞれの陣営が「立場こそ違え、考え方に交差するところがあるのを評価する」とし、協調と妥協の精神を我先に訴えたのは気持ちが悪かった。
まあ、私自身は、国際捕鯨取締条約時に帰るというのは、アナクロ以外の何者でもないし、国際海洋法条約などに基づいて「モダナイゼーション」を進めるという考え方が理にかなうのではないか、と思っているが。

<サンクチュアリ提案>
 1998年から毎年、ブラジルとアルゼンチンは懲りずに南大西洋サンクチュアリの提案を行っている。南極のサンクチュアリ提案時と異なり、4分の3の票を獲得するのは至難の業であるが、毎回、科学的データなどを付け加えつつ、また、ラテン諸国の結集を得て、何とかサンクチュアリを獲得しようとする姿は涙ぐましくさえある。特に、ブラジルやアルゼンチンは過去に自国領海内でほかの国が乱獲をしてきた歴史を忘れられない。また、ホエールウォッチング産業の進展も、周辺国での支持を得る因となっている。一方で捕鯨推進国は、自国の経済水域だけでやればいいと否定的である。アイスランドはこの設定が捕鯨取締条約の5条に反すると主張する。条項のよみあげを要求した。5条はA.条約の主旨にのっとり、保存と開発に利用する B.科学に基づいたものである D.消費者、捕鯨業者に制限を与えるものであってはならない。
 これに対し、アルゼンチンが動議を出し、条約の解釈が間違っているかどうかの論議をするのはおかしいとした。またブラジルも、自分たちが消費者としてクジラの利用を非致死的にしているという主旨の発現をした。持続的利用という面でも、また科学的なデータの収集でも機能できるものであり、主旨に反してはいない。
アイスランドは提案者を侮辱する意図はないので、委員会判断にゆだねると答えた。ブラジルは、周辺諸国とアフリカ諸国を結集し、同意を得たという国の中にギニアやセネガルが含まれていたため、それらの国々から同意していないという反論が出た。これに関してはアルゼンチンがそれらの沿岸諸国参加のワークショップを開催し、非致死的利用に関し理解を得たというのを通訳上の問題で誤解を生じたらしいと釈明。この議題に関しては妥協の余地がないため、翌日にどうするか検討することとなった。
とても長い一日だった。

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