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2007年6月30日 (土)

アンカレッジ日記(おしまい)

アンカレッジ日記(7)
 IWCに参加するNGOに対する意見というのは立場によって異なるが、このところ、その参加資格が議論されている。来年度には、IWCにどう貢献するか、文書提出が義務付けられるようだが、私たちはこれまでちゃんと貢献してきたと思っている。毎年、何らかの「お土産」を心がけているのだ。最初は1999年、日本の商業捕鯨再開と調査捕鯨に反対する団体署名で74団体を集めて共同ステートメントとした。日本は一丸となって捕鯨推進という政府のコメントを聞いていた人たちはびっくりしたようで、いろいろと質問された。大隅さんも、団体の日本名と住所を教えてほしいと言ってきた。
 今年は、「クジラが魚を食べ尽くす?んなはずがない!」の英文パンフレットで、日本支持の小国の多くは、「自分たちは捕鯨なんかしないけど、魚を食べられちゃうのは困る」と主張するので、急遽出かける直前に出そうと決めた。回りに迷惑かけましたが、大変に好評で、あっという間にパンフレットがなくなってしまった。でも、もし貢献度を所属国が審査するなら、今後の参加は絶望的かもしれない・・・・・・

<ホエールウォッチング>
 3日目の最後の議題はホエール・ウォッチング(WW)だった。「捕鯨を推進するための会議にはなじまない」とこれまで日本政府がたびたび議題の削除を要求してきたものだ。
昨年あたりから少し態度が変化し、「捕鯨とウォッチングが両立する」などというようになった。日本人は、国内だけでなく、海外のウォッチングツアーに積極的に参加していることは隠しようもない事実だ。
WWは最近の成長産業で、ところによっては観光収入が前年比の倍になったという報告もある。IWCでも「クジラ利用は、殺すのではなくウォッチングに切り替えるべき」とする意見もあり、無視できなくなっているのだろう。小さな資本でも始められる利点があり、中南米や南アフリカ、南太平洋諸国で期待の産業になっている。
科学委員会からはWWのもたらすクジラへのインパクト、調査に関しての産業への生物学的データの提供の重要性など議論と、ワークショップを2008年の会議の前に開催することが報告された。

会議ではラテン諸国などが、WWが社会経済的に沿岸社会に良い結果をもたらしたことを上げ、非致死的利用の推進が主張された。セント・ルシアはWWがクジラの繁殖海域で行われたことへの懸念を訴え、ノルウェーはWWをサポートするものの、イルカやクジラへの影響をニュージーランドの例を挙げて指摘し、それが唯一持続可能な利用であることに疑問を呈し、ルール次第で捕鯨もウォッチングもどちらにもなりうるとした。
オーストラリアは南太平洋におけるWW産業がいまでは10億を超すような大きな産業であることをあげ、南大洋でのクジラ捕殺に抗議した。
ニュージーランドはノルウェーに答えて、イルカへの影響はむしろ船の航行問題であり、影響の軽減を図るとした。アンティグア・バービューダは、観光収入は一部にしかいかず、自国の沿岸や内陸で貧困が広がり、見るより食べることを選択せざるを得ないとした。
日本は、いずれの方法も支持すると述べ、先住民生存捕鯨というカテゴリーと同じように、先住民生存WWというカテゴリーを作ったらどうか、と真意の分からない意見を出した。
 このあと、アルゼンチンがクジラの非致死的利用に関しての決議案を15カ国の共同提案として提出した。
これについては、捕鯨推進国が文面に「致死的利用も入れるべき」としたが、致死的利用に関しては、あえてここで入れる必要がないという提案者側の意見で票決に移った。結果は賛成42、反対2、棄権で採択された、日本はまた、決議には参加しないという立場で、それに同調した国は20カ国。5カ国が不在だった。
ブラジルとアルゼンチンがセントキッズの雪辱を果たしたともいえる一瞬だった。

5月31日(最終日)

9時に間に合うように、大急ぎで会場に着くと、会議の前にコミッショナーミーティング(非公開)があるので、開始が遅れると告げられた。いつも、どんなことを話しているのか興味しんしんだが、今回はそれほどもめたわけでもないらしく、30分ほどで本会議が再開された。最初は、グリーンランドの捕獲枠についての続き。賛成する人たちは修正前のものでいいというし、反対している側は、ミンクの数の拡大まではいいけど、ホッキョククジラは来年まで待ったらどうなの?という意見。それでも、おおむね、再々度の修正案を提出して必死で枠を獲得しようという態度は好感を持って見られている。ホッキョククジラ枠2頭は最初はゼロで、次年度持ち越しだが、文中のtaken(実際の捕獲)がすべてstruck(つまり銛を打った数)に変更された。結局、修正案は投票にかけられ、賛成41、反対11、棄権16で付表修正の数(4分の3)を満たして採択された。

<ワシントン条約(CITES)との関係>
 イギリスが、アイスランドの商業捕鯨再開に対して抗議した。いくつかの国がそれに同調した。しかし、アイスランドがこれから選挙を行い、政権交代の可能性があるとして、新政権における政策を見てから決議文をだすつもりであるといった。アイスランド国内でも観光業者は捕鯨再開に反対していると聞く。

次にイギリスは、ワシントン条約との関係に関する決議案を読みあげた。
「国際的にクジラ資源の保護と管理についての資格を有するものはIWCである。IWC科学委員会がその資源量の推定をしている。また、1986年にモラトリアムが発効してから、クジラ肉の商業利用は禁止されており、野生生物の国際取引を管轄するワシントン条約でもIWCの決定を尊重して独自に野生動物のランク付けをするべきではない」というもの。
日本政府が4分の3の票獲得をせずに、モラトリアムを失効させようという方法は、小型沿岸捕鯨の特別枠のほかに、ワシントン条約におけるクジラの格下げ提案がある。今回のハーグで行われたワシントン条約会議でも、大型クジラのランクの見直し提案を行い、かなりの大差で採択されなかった。こうした提案はこの間毎回、形を変えて行われてきた。 

  現在、日本は6種のクジラ(ツチクジラ、マッコウクジラ、ミンク(北、南とも)、ニタリ、イワシ、ナガス)を留保している。ノルウェーもアイスランドも留保しているので、実際には取引しようとすればできないわけではないが、取引したいがためではなく(輸入は避けたい)、モラトリアムに穴を開けるのが目的だ。そのため、たとえばミンククジラなどが絶滅の危機にはない、という主張で格下げ提案をする。しかし、ワシントン条約会議では、それはモラトリアムでの取引禁止という制約がなくなってからでしょう、ということで毎回否決される。
イギリスは、ワシントン条約で資源評価を個別にやらないで、IWCがクジラに関しては権威であることを明確にしよう、と強調したのだ。たくさんの旗が揚がり(意見を言いたい)、議長は時間の制限があるからとそれぞれ5カ国のみ発言を許可することにした。その上で、提案は票決にかけられた。オランダは、数日後に始まるワシントン条約会議のホスト国であるからと留保し、ほかは大体がいつものように投票(参加を辞退)し、37対4、棄権4で採択された。

<科学委員会のその他のお仕事>
 最後に残っていた小型鯨類などについての報告があった。今年の主要テーマはシャチ。前回のレビューが行われたのは1981年だったので、それから比べていくらかの進歩があったが、まだ解明されない部分も多い。今回は、新しい知見にそってシャチの生態や生活史、生息を脅かす要因などが検討された。羅臼で起きた群れごとの座礁(氷に閉じこめられた)については、とりわけ群れの中に異なる遺伝子を持つ個体がいたことが注目された。ノルウェーでの詳細な調査では、北米とはまた異なる個体群タイプ(ミンククジラを主食とするもの、鰭脚類だけのもの、魚を食べるもの)の存在が報告された。懸念要因として、カムチャツカでの2002年の生け捕り事件、グリーンランドでの2000年と2005年に15頭から34頭の個体が捕獲されたこと、また、モロッコで1995年に開始された延縄によるマグロ漁業の阻害要因として、2004年に2頭、2006年に6頭の捕獲があったらしいと報告されている。スペイン政府とモロッコ政府にちゃんと調査しなさいという勧告。

 日本に関しては、1948年から1500頭以上の以上のシャチが捕獲された結果、沿岸におけるシャチの減少と地域個体群の絶滅を引き起こした可能性があるとして、親潮生態系のシャチに関しては注意が必要なので、今後の調査と個体数のアセスメントが勧告されている。

 
 生存が絶望視されている揚子江カワイルカ(バイジ)については残念であったというコメントがあり、中国もできる限りのことをしたと報告。日本さえ、中国を支援したと発言した(小型鯨類はIWCの管轄外であるがとしながら)。また、同じような懸念をもたれているメキシコの小型イルカのバキータについで、ベルギーが保護のための決議案を提出。珍しく、日本もそれに(積極的にではないが)異議を唱えずにコンセンサスで通過。
 科学委員会のレポートは最終的に採択された。
 次の保護委員会は、時間がないため、付託事項を次回報告するということで議論なく、レポートは採択された。違反に関する委員会報告もはしょられた。

 そのあとは財運。最初は会議の公用語で、フランス語、スペイン語の同時通訳や資料の翻訳作業と経費について、NGOの便宜地籍団体の排除と参加の仕方、IWCの運営に関しての法的な助言と続く。
 昨年に続き、事務所移転の話も現在借りているケンブリッジの建物の賃貸契約の継続か移転かで意見がわかれ、今年もらちがあかない。
 スペインが年度のGDIの計算方式により、分担金が突如前年度の倍になってしまい、予算措置に問題が出たために、評価の方法を考えてほしいという提案を提出。どの時期の世銀データを使えば合理的かで議論があった。国連のコントリビューション会議のメンバーであったアルゼンチン代表が、毎年の見直しではなく、3年ごとにするなど、算出方法を考えたほうがいいとアドバイス。スペインは、その道の専門家でもないので、専門的な知識のあるところに任せるということになり、日本政府が財運の文言修正を引き受けた。スペインは、自分のところの例がほかの国にも問題を引き起こす可能性があるから提案したとし、提案は合意された。
 次のアドバイザリーコミッティの議長にチリが選出された。

<小型沿岸捕鯨ー続き>
 議長に何度も促されても延ばし延ばしてきた日本の小型沿岸捕鯨枠についての決着をつける時がやってきた。
日本は付表修正(の採択)は事実上不可能なので、さらにいくつかの国からのアドバイスを盛り込んで決議案としたということを述べた。科学委員会には早急にミンククジラの捕獲枠を設定してほしい、また、今回はそれまでの暫定的なものとして、沿岸地域の救済を考えて検討してほしい。もちろん、異論があることは承知しているが長い議論は必要ないと森下さんは訴え、議長は賛成、反対の意見をそれぞれ限定して求めた。
 アイスランドは、一貫性をもって、誰が持続可能な捕鯨ができるかで決めるべきだとした。日本が期待以上の譲歩を行ったことを評価した。セントルシアは日本が大変な作業を行ったことを評価、ギニアは(先住民捕鯨と商業捕鯨の)ダブルスタンダードを持つべきではないとした。
 一方、ニュージーランドは、日本の資源評価が科学委員会の作成したものではなく、調査捕鯨枠に法律手続き上の拘束力がないことを問題とし、新しい捕鯨のカテゴリーは認められないとした。アメリカは、日本の譲歩を評価し、2,3年で科学委員会の作業が終了する予定だからそれまで待ったらどうか、といった。

 森下さんは、支持国に感謝を表明し、そのあとで既存の枠組みではうまくいかない状態があることを訴え、付表修正ではなく決議にした経緯を再度話し、論理的な解決は、これまでの考え方を改めて新しい方法論に変えることだと述べた。そして、(この決定に)幻想を抱いているわけではないし、また「正常化」に反して分断を促す結果になるので投票を望まないが、もう他に解決法が思いつかないとして、マイクを中前明水産庁次長に回した。
そして、中前次長が日本を代表して、用意された(これを用意していたので、議論を延ばしたのだろうか?)怒りのメッセージを読みあげた。「両極化したIWCを正常化するための役割を果たす最後の機会であったにかかわらず、沿岸小型捕鯨が否定されたことは、この委員会が機能を失い、崩壊していることを意味している。これまでの決議で沿岸社会の文化的・経済的価値を認めてきたのにかかわらず、今回の控えめで正当な要求がさまざまな形で否定される結果となったのはIWCのためにも残念である。アメリカのやり方は、自国原住民捕鯨を認めながら他国のものを認めないというダブルスタンダードに他ならない。また、RMSの作業を開始しようともしない。自分たちは相互不信を打開するために東京で会議を開き、NGOやメディアにも門戸を開き、対話の醸成を図ってきた。セントルシアの大使が言うように、もはやわれわれの忍耐も尽きた。与党を中心にIWC脱退と新機関の設立を促されていたが、今後はこれを検討する」という長いもので、今回初めて会議の席上で脱退と新機関の設立を発言したことになる。しかし、この発言はメンバー国の動揺を促すことなく、議長は次の議題に移った。

* 日本のメディアは、日本も欧米の理不尽なやり方に堪忍袋の緒が切れたというような論調だったが、実際に見たところでは、忠実に作られたシナリオどおりに事が運んだというようにしか思えなかった。科学委員会が資源評価を近いうちに出すといっているのに、しかも調査捕鯨という名目で沿岸捕鯨を実質的に獲得しているのに、暫定的に沿岸を救済してほしいという日本の主張は根拠に乏しい。
 これまで、沿岸捕鯨だけではいやだといい続けてきたのは日本政府で、今回だってこれまでと変わらず「公海での捕鯨はやめない」という前提で、しかも票の読み方は日本にいたときから分かっていたことだし、いまさら怒りを爆発させるような事態でもない。
もしかしたら、ザトウクジラを殺さなければ、認めてやるとメンバー国が言うと思ったのか? それも人を馬鹿にした話ではある。

 どうもこの怒りのポーズは「沿岸ができないのは私たち(日本政府)のせいではありません。理不尽な欧米が認めないからなのですよ」という沿岸地域社会への言い訳と「ちゃんと働いているから今後の予算もよろしく」というメッセージを兼ねたものだとしか思えない。 沿岸地域社会の人たちだって、実際はこんな茶番にだまされてはいないだろうと思うのだが。


<2009年の開催国>
 次の議題は、2009年の開催国決定で、昨年、ポルトガルがマディラ島で開催したい旨発言し、一方で、横浜の中田宏市長が開港150年記念行事として招致に立候補していた。今回横浜からは、若い女性スタッフなど5,6人が参加し、会場付近で色刷りのパンフレットや絵葉書を派手にばら撒いていた。
 最初に、映像によるポルトガルのプレゼンテーション。色彩鮮やかな絵のような島の自然と人々の暮らし、爆発するようなカーニバルのエネルギーそして紺碧の海に泳ぐイルカやクジラの姿。観光の優等生!といった映像だった。
次は横浜。
横浜は私の故郷で、さまざまな思い出にあふれている町なのだが、中田さんの横浜の紹介は、ペリー率いる捕鯨船がやってきたことが開国のきっかけになったということの強調(反・反捕鯨の論客の市長の好みの反映)に付け足して、みなみみらいの観覧者、パシフィコ横浜。そして、「環境」として紹介されたのは八景島の水族館の魚の展示とズーラシアのオカピ。ほかは日本情緒のありきたりな宣伝で京都まで2時間とか、鎌倉の大仏、お茶を立てる着物姿の女性とどこが横浜?と首をかしげるPR会社のやっつけ仕事。横浜を知っている人とはとても思えなかった。そして最後に2009年には横浜でお会いしましょう!というメッセージ。
 その上。
 そのみっともない映像を流したあとで、「こういう事態になってしまったので、横浜は招致を辞退します」ときた! もしかしたら、税金が使われたPR映像だから流さざるを得なかったのかも知れないが、あの映像を見て誰が「残念」と感じるだろうか?いずれにしても、参加国の多くが、配られた無記名投票用紙を使わずにすんでほっとしたに違いない。

 5時の結婚式までに引き払えるのか、とはらはらさせた議事も、これを頂点におしまいとなり、最後は議長から関係者に、各国から議長に、またホストしたアラスカに、といういかもの儀式で終わりを告げた。次回はチリで開催される。

 あわただしく帰り支度を急ぐ各国やNGOに混じって、消化不良のような後味の悪さを感じつつ会議場を後にした。昨年は対立している内容を盛り込んだ「宣言」が採決され、通過したのを見たわけだが、それでも今回のようなもやもやした感じの悪さを覚えたわけではない。会議そのものも、日本政府が会議場で脱退と新組織の立ち上げをいってしまったということを除いては、予定調和といえなくもない終わり方だ。それでも何となく重ったるい感じがするのは、森下さんが言ったように「もう何も打つ手がない」といういよいよどん詰まりに着いたのか、という気持ちに似ているのかもしれない。

 今回は、対立を避け、対話を重視し、合意形成を図る会議という建前だったが、実際には誰も彼もが(グリーンランドは少し別かもしれないが)欲求不満に陥った会議だったと思う。日本は調査捕鯨を中止しない。これが条約に認められた正当な権利なのかどうなのか、1国の裁量で行う捕鯨をどこまで受容していくのか、IWC委員会としてきちんと議論し、結論を出さない限り、実際IWCは機能していないといえる。
もし日本がこの点に関して妥協点を探る努力をすれば(ザトウを取引材料とするような変則ではなく)対話というものもあるかもしれない。この点については、もしかしたらIWC会議では解決しないもっと別のレベルでの話し合いなのかもしれないが。

 私自身は、「ザトウクジラを殺さないで」という強い願いをこめて署名を集め、渡航費用を工面して会議場にやってきた3人の少女たちのかたい顔つきを思い出して、多少ともセンチメンタルな気持ちにならずにはいられない。

 アラスカの空は、真夜中まで明るいので、私たちは、少しはいい空気を吸いに、浜辺に歩いていった。会議場からほんの10分くらいで、干潟に沿ったトレイルがあり、アンカレッジの住民とおぼしき人々が犬の散歩をさせたり、夕食後の散策を楽しんでいた。
 トレイルに平行してアラスカ鉄道のレールが走り、やがて列車がゆっくりと走ってくるところが見えた。夕日に映えて黄色い車体がまぶしかった。
また、20分ほど歩くとそこには潟湖があって、中ノ島にたくさんのカモメともに、ガンやカモの姿があり、ここちよい風に吹かれて気持ちも和んだ。

2007年6月20日 (水)

アンカレッジ日記(5)

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アンカレッジ日記(5)
 
 IWC珍道中の相棒から、森本稔氏が鯨研の理事長になったよ、という知らせがあった。なるほど、6月15日付で役員の入れ替えがあり、畑中寛氏の代わりに森本氏の名前が。
森本稔氏は、水産庁資源管理部次長を2000年4月に退職、公益法人を3つほど歴任して、今回の人事になった。1999年からIWC日本代表を務めている。前任者の島一雄氏は、水産庁次長から海洋水産資源開発センターに天下っている。畑中氏ももとは水産庁だし、世の中で問われている『天下り』の構図そのものかなあ、と思ったりもするが、70年代のころは、最初は水産庁に所属し、大日本水産会とかニッスイとかに移った人が代表を務めたらしい。水産業界の人が日本を代表しているかたちだ。
アメリカのホガース代表は、アメリカ海洋漁業庁の長官だし、今回のオーストラリア、ニュージーランド、イギリスなどは大臣が代表代理となって参加している。それに比べ、日本は、大騒ぎしている割には国として重要視していないのではないか、という疑問がわいてくる。

<最初の投票>
3日目の最初は南大西洋サンクチュアリ。これまでの会議でのやり取りとほとんど変わらない双方の意見が出て、ころあいを見計らった議長がブラジルにどうするかと聞く。
「はい、強い反対があることは認識しておりますし、また同時に強い支持があることに感謝もしています。いずれにしても私はこの結果を国に持ち帰って、国民に説明しなければならない責任があります。投票をお願いします。」とブラジルのマリア・テレサ氏がいう。今年最初の投票の結果は39対29、棄権3でまたしてもラテン諸国の祈りは届かなかった。

<日本の社会ー経済的価値に基づく小型沿岸捕鯨>
いよいよ、日本の小型捕鯨の提案である。森下丈二交渉官が、なかなか感情のこもったプレゼンテーションを行った。いわく、「沿岸小型捕鯨の歴史は、破られた約束の歴史なのです」。
どのように破られたかというと、まず科学委員会も同意しなかったモラトリアムの受け入れで、アメリカからアメリカの排他水域での漁業と捕鯨とどちらを取るかと迫られ、日本政府としては、漁業を選択する以外になかった。
ところが2年後にアメリカは自国200海里での漁業を禁止したので、結局日本は漁業も捕鯨も失うことになった。(確か、このとき、アメリカは沿岸捕鯨だけは残すという選択肢はどうか、と打診したと関係者から聞いたけど???)
これが最初の裏切りである。次に、モラトリアムの見直しを1990年にし、捕獲枠を設定するとした、しかし、枠の設定はされなかった。科学委員会は懸命に働き、1992年にRMPが出来上がった。しかし、本会議ではこれを否定し、科学委員会の議長が辞任するということになった。RMSに関しては、昨年作業が停止されてしまった(調査捕鯨がIWCの管理外で行われているのがネック)。
毎年のように沿岸地域社会に同情する決議が採択され、モラトリアムが沿岸地域社会に影響を与えていることを認識しながら本会議は迅速な対応をとらない。人類学者は、これらの地域社会が慣習として、また家族関係もクジラを中心に発達し、料理法や祭事、芸術なども古くから記述されている。生存捕鯨との区別はないと考えている、ひとつの反対される理由として「商業性」があるが、すべての活動は、商業にかかわっている。事実、アラスカでも、クジラヒゲで数千ドルもするバスケットを作って販売している。販売することがいけないのでなく、どんどん商売をするのは結構。日本の沿岸捕鯨も同等の権利がある。今回はこれまでで一番いい提案を持ってきた。今回は、

1.クジラ利用は沿岸地域社会に限る。モラトリアムの解除は求めない。
2.捕獲頭数を示していない、頭数の交渉は委員会の受け入れやすい数で設定する。その分をJARPN IIから差し引き、トータルな数は変わらない。
3.管理面を強化し、国際管理官を受け入れ、空中モニタリングも行う。DNA登録を実施し、100%違法なものがでないようにする。
4.2007年から5年間の実施でその間科学委員会からの助言があれば修正を受け入れる。

これが受け入れられないということは悪いメッセージとなり、結果が不毛であれば「ほかの方法」を選択する」というもの。

 次に発言した石巻市長は、一生懸命、英語でメッセージを読み上げた。その内容を聞き、彼が正直な人であることに驚いてしまった。あるいはこれは政府の隠されたメッセージだったのか・・・

 彼はまず、牡鹿の捕鯨が20世紀に始まった近代捕鯨であることを紹介した。また、石巻市というのは、町村合併の動きで、26の町村が合併し、現在は17万人を擁する町だといった。かつて、牡鹿町には入り江単位に15くらいの集落があり、その先端部に1906年に山口の東洋捕鯨が基地を作った。それまでは50数軒の寒村であったが、捕鯨産業が開始されるや、西日本から産業従事者が移動し、町の規模が拡大し、西の文化の交じり合った独自の町の様相が展開されるようになった。また、1960年が絶頂期で、国内でもトップの捕鯨基地になった、と。
つまり、少なくとも鮎川は近代捕鯨産業によって作られた町であり、文化そのものも、1900年以降に培われたものだと明言したのである。この点に関しては、何回か、NGOなどが調査しているので海外の代表は知っているにしても、日本の側からかくもはっきりと説明されることはなかった。この発言、日本政府が事前に確認していなかったということがあるだろうか?もし確認してこのような発言をさせたのなら、日本政府の真意はどこに?

それに対して「それ見たことか」という人はいなかった(いても不思議はなかったが)。
「すでに17年前に沿岸捕鯨は商業的な側面があるから認められないという議論があり、先住民捕鯨と同じというが、それとは別物である。モラトリアムの元ではできない。新しいカテゴリーの要求となっている(ニュージーランド)」
「石巻市長の話はよくわかった。しかし、60年前と今では事情が異なり、科学的な進歩を活用してRMPが作られ、また、国際的な協力を含め、RMSが実施する手段として求められている。この効果的な実施を目指すのがいいのではないか(スェーデン)」
「新たな提案に感謝するが、マグナソン法はアメリカの漁業者の発展のためにつくられた法律で、すべての外国船を対象とした。その代わりに、加工業者などの支援を行ってきたので、裏切りという言葉は当たらないと考える(アメリカ)」
「日本の提案は第3のカテゴリーに属するものと考えられ、支持できない。1国が出すのではなく、科学委員会が枠を提示すべき。特に希少で沿岸での混獲による減少が懸念されているJ-stock のアセスが終わってから出すべき(オランダ)」
「石巻市長のプレゼンテーションに感謝する。窮状は理解できるが、混獲や調査捕鯨によって鯨肉の供給はできているのではないか?(メキシコ)」
「日本は被害者といっているが実際は加害者ではないか(これに対しては暴言はやめるべき、というノルウェーの動議が出た)。調査捕鯨枠から減らすというのは結局のところ調査ではないのではないか?現在のサイエンスでは余分に殺さないのが原則だと思う。(イギリス)」など手厳しい意見がでた。

一方で支持する意見は、
「伝統的な食料の確保がIWCによって禁止され、被害を受けているのはわれわれも同じ。沿岸捕鯨が先住民捕鯨に通じているのは疑う余地がない。4つの社会で何千年(!?)も続いた伝統を支えたい。ただし、日本提案の監視制度は厳しすぎるので、(今後そのあおりは食らいたくない)(ロシア)。」
「持続可能な生活を求めるANCLOSにも適合し、また調査捕鯨の枠から捕ってくるので影響がない。アメリカは工芸品の販売が商業流通ではないというがそれには反対。地域住民にとって役立つことが重要(セントキッツ)」
「持続的な海洋資源利用を支持する。正常化、近代化の前向きな努力が重ねられている中で、差別的な扱いはやめるべき(ギニア)」
「豊かな文化、伝統を否定する権利はない。分配には一貫性が求められ、偽善は許されない(セント・ビンセント)」
「生活がかかっている。IWCのダブルスタンダードはやりすぎである。先住民と4つ地域ではニーズが同じだし、また先住民という呼び方はやめるべき(ドミニカ))
等々、双方がえんえんとそれぞれの立場での意見を表明した。
日本政府は、「モラトリアムには説得力がない。なぜほかの活動と比べてはいけないのか。木材も商業流通しているし、自動車だって商業流通しているのになぜクジラだけ全面的に禁止するのか?」と訴え、J-stock に関しては沿岸10海里以上離れることで混獲を防ぎたい。また非致死的利用も否定していない。沿岸地域でホエールウォッチングも盛んだ、と付け加えた。議論はまだ継続することになった。

最後に、私が知り合いに教えてもらった太地の市民によるブログの中に書き込まれたIWCについての意見を付け加えておきたい。ご存知のように、もし日本で伝統捕鯨の地があるとしたら、太地がそれに当たるわけだから。

ここから__________________

「続IWC会議」2007年5月24日(木)
日本の官僚がIWC会議において日本の捕鯨基地である太地町などの住民が鯨が獲れなく非常に困っているから先住民捕鯨のようなものを認めろというような発言をしていると何かの本かネットで読んだことがあります。こんな嘘を本当にIWC会議で発言しているとしたら太地町民として怒りを感じます。私たちは鯨がなくても十分生活していけます。そんなことより調査捕鯨枠の拡大で鯨の肉が増え太地で獲れるゴンドウ鯨やイルカの肉の値段が下落して困っているということを聞きます。太地町の鯨関係者は調査捕鯨はやめてほしいというのが本音ではないでしょうか。大方の太地町民は別に鯨が獲れなくても困らないと思います。その発言が本当なら先住民捕鯨などという嘘で世界をだまさないでください。そしてそのような詭弁で太地町のような小さな町を利用しないでもらいたいと思います。ここで私の素朴な疑問を書かせてもらいます。水産庁は捕鯨が再開されれば南氷洋に鯨を獲りにいきたいという会社があると本当に思っているのでしょうか。というのは私は捕鯨が再開されても船団を組み南氷洋に鯨を獲りに行きたいという会社は今の日本にないと思うからです。なぜなら大手の会社は商売をグローバルに展開しています。外国で鯨に関係しているとわかるとその会社の商品は不買運動の対象となり会社のイメージダウンは目に見えています。自分たちの会社の利益を守るため危険を冒してまで鯨の捕獲や販売には手を出さないでしょう。鯨を獲りにいく会社がなければ今国がIWC会議でやっていることは絵に描いた餅だと思います。そんなにしてまで捕鯨再開を訴える続けるのは自分たちの既得権益を守るためだとしかどうしても思えないのです。調査捕鯨をしている国営船団が商業捕鯨に名前を変えて捕鯨を続けるだけではないのでしょうか。私は国が鯨に多額の税金を使っていることに非常に不満を持っています。大方の日本人は鯨に税金が使われていることを知らないのではないでしょうか。IWCでの票買いだといわれるODAを含め一度公表してもらいたいものです。

今回の28日から始まるIWC会議を見物に行く三軒町長ご一行様の旅行費は一体いくらぐらいなのでしょうか。この前の中国旅行といい本当にいいかげんにしてもらいたいものです。
                                                  たいじちょうみん

2007年6月19日 (火)

アンカレッジ日記(4)

 2日目から私たちが投宿したのはキャプテンクックから歩いて5分ほどの小さなホテルだ。ちょびひげをはやした人のよさそうなメタボなおっさんと、(たぶん)リューマチで苦しんでいる肌の浅黒い女性が交代でオフィスにいる。夜12時には鍵をかけてしまい、1日目の夜に早速私の相棒が朝帰りとなった。朝食は、狭い事務所の一角にコーヒーメーカーを置き、その横に書類と一緒にピッチャーに入ったオレンジジュース、そしてプラスティックのコンテナーが2つ。中には砂糖ごろものついたチョコレートドーナツ、砂糖がけしたペストリー、チョコチップビスケット、マフィンなどが入っている。メタボになるのは当然の成り行きと見えた。いつもは、朝食をたっぷりとって、昼夜は省くか安く上げる方針できたが、これでは仕方がない。そういえば、ホテルの付近にスーパーとか食料品やさんさえ見当たらないのだ。みんな、どうやって暮らしているのだろうか?

閑話休題―

 2日目はいよいよ先住民生存捕鯨で開始された。5年前の下関では、日本の代表代理であった小松正之氏が日本の沿岸小型捕鯨を認めないなら、とアラスカの捕鯨枠を否決に持ち込んだ経緯があり、直前まで日本の出方を懸念する声を聞いた。しかし、実際は、すでに2月段階で先住民捕鯨に異議を唱えないという意思表示がアメリカに対して行われていたというし、私も新聞で安倍首相が先住民捕鯨を阻止しないということをアメリカで答えたというのを読んだ覚えがある。首相の発言をめぐって、省庁内で対立まであったという話を会議前に小耳に挟んだ。

 ご存知のように、先住民生存捕鯨(Aboriginal Subsistence Whaling)は、商業捕鯨とは別のカテゴリーで独自の管理制度を用い、アラスカ、アメリカ・ワシントン州のマカ、ロシアのチュクトカ、グリーンランド、セントビンセント&グレナディーンに対して5年間のブロック枠を与えて捕鯨を許可している。その見直しが今年の大きなテーマで、アラスカが選ばれた。
日本は、これらの地域に認められるのであれば日本の沿岸にも枠を与えるべきという立場をとってきた。昨年のIWC報告でも触れたが、確かにいくつかの地域で肉の販売、利用等で当初のような厳しい規制の摘要がされていないと聞く。しかし、日本がモラトリアムの下でそれを問題にするのであれば、規制をどんどんいい加減にするよりは、いっそ管理制度の完成をまって一緒にやろうよ!という意見をだすならそれなりに理解ができるのだが。

 まず、議長を務めたノルウェーから、本会議に先立ち、5月23日行われたABSW小委員会の報告があった。小委員会における議題の承認にあって、先住民生存捕鯨会議によるIWC会議に基づいた捕鯨の必然性と科学性を土台に、生存捕鯨の権利や捕鯨上の安全性、人道的捕殺、「臭いクジラ=stinky whale」に関しての問題提起を盛り込んだ声明が出された。
これに対してブラジルは、先住民の権利が守られるのと同じように、沿岸でクジラを非致死的に利用しようというラテン諸国の権利も守るべきだという意見を出し、先住民の捕鯨者に、ブラジルなどのクジラの非致死的利用国に招き、現状を理解してもらいたいと述べた。

 そのあとで管理制度に関する議論で、科学委員会よりグリーンランドの調査計画の進行が報告された。すでにグリーンランドは昨年のIWC会議で、クジラの捕獲枠をザトウクジラとホッキョククジラまで拡大するよう要求している。要求枠は西グリーンランドのミンククジラを2008年から2012年まで毎年200頭(前回175頭)を、東グリーンランドで同じく12頭、西グリーンランドのナガスクジラ毎年19頭に加え、西グリーンランドでホッキョククジラを毎年2頭、ザトウクジラを10頭追加してほしいというもの。理由としては、グリーンランドにおける人口の増加に対して、クジラ肉の供給が追いつかず、実際に必要な730トンの需要に対して、220トン不足し、これをホッキョククジラ、ザトウクジラで補給するというものである。これに対して、ドイツがグリーンランドではイッカクやゴンドウなどの小型鯨類を捕獲しているが、これは含まれないのかと質問、グリーンランドは含まれないと答えた。科学委員会は、ザトウクジラに関してはよりよい科学的データが2008年にそろうので、それまで待ってほしいという意見。ホッキョククジラに関しても東カナダにおけるアセスが不十分であるとしている。

 一方、アメリカとロシアは協同で声明を出し、両国先住民の捕鯨の必要性を改めて訴えた。BCB(Bering-Chukchi-Beaufout Seas)個体群のホッキョククジラに関してその肉は地域消費に限るとし、捕獲枠は、前回と同じ5年間のブロック枠で2008年から2012年で(陸揚げ分として)280頭。年間67頭(銛打ちした分)を越えない数字で、例外は2003年から2007年の15頭を含む水揚げできなかったクジラの追加捕獲で、年間15頭以上の追加枠を与えないと言うもの。また、この枠は毎年科学委員会の助言に従って見直しをする。これに対しては、各国が「先住民の需要を理解する」(どちら側からも)、「科学的根拠であればいかなる捕鯨も支持する」(日本、捕鯨推進国)、「先住民の捕鯨を理解するように、南半球の非致死的利用も認めてほしい」(アルゼンチン、ブラジル)という意見がでたが、基本的に反対はなし。コンセンサスでの採択となった。

 次に、アメリカ、ロシアのマカ族とチュクトカのヒガシコククジラの捕獲枠。前回と基本的には同じ要求だが、ロシアはチュクトカの人々は商業捕鯨の禁止で、現在栄養面では満たされているかも知れないが伝統的にクジラを食べ続けたいという要求は満たされていないとした。そして、年間100kg必要なのだが、現在は30%くらいしか供給されていない。しかも過去10年くらい、その肉に化学臭のするいわゆるくさいクジラ(stinky whale)で肉の供給が減っているとぐちをこぼした。本当は350頭ほしいのだが自主的に枠の拡大は控えるとした。

*ちなみに、日本人の年間の魚の消費はひとり66kg、肉は牛、豚、鶏全部で43kg。アメリカの肉の消費量は124kgだそうだ。
*クジラのみで100kgという数字がどうかと言う立場にはないかも知れないが、先住民捕鯨枠がどんどん拡大されていっていいのだろうか?という疑問はある。もともと、商業的には認められないくらいの個体数の中で、毎年見直しをして特別に枠を設けているのである。グリーンランドなど人口増に対してクジラ捕獲を増やすというが、本当にそんな解決法でいいのだろうか?

 コククジラの2008年から2012年までのブロック枠は620頭で年間140頭を超さないという当初案がコンセンサスで採択された。
それから、比較的新規に参入したセント・ビンセント&グレナディンのザトウクジラの枠で(ポール・ワトソンはあんなの先住民捕鯨であるもんか!といっているらしい)2008年から2012年まで、20頭以下で同じように採択された。
残るグリーンランドは、ザトウクジラの頭数については妥協の余地があるとしながらも、各国との調整を議長から勧告され、そのまま議題が開かれたままとなった。

 そのあとで、日本政府などが「先住民(日本政府はいまだに原住民と訳している)という言葉が植民地的で侮蔑的だから、社会・経済的な捕鯨とか何とか、名前を変えるように」という提案を出した。アメリカ代表が「その言葉は、決して侮蔑的な意味合いを持つことばではありません」と答えたが、今後、言葉の定義等で話し合うことになった。

*日本政府としては、特別カテゴリーとしての「先住民」という言葉は、沿岸捕鯨基地を認めさせる上で邪魔な言葉なのではないだろうか。過去の歴史の中で、日本政府は沖縄やアイヌを先住民としてきちんとみとめず、あいまいなままごまかしてきた。「あんたにだけはいわれたくない!」ときっと先住民の人たちが言うであろう発言であった。日本政府の立場というのは、そのあとの記者会見で、GPの星川淳さんが「日本政府の先住民の定義は?」と聞いて、「分かりません」という答えが帰ってきたということでも明らかである。

<IWCの硬直化を防ぐための2つ+1の会合-IWCの将来>
 その後、科学委員会からRMPについての報告があった。北太平洋ニタリクジラに関するもので、4つの管理オプションのうち3つに関して作業が進み、残り1つは2008年度に仕上げができるということに関し、日本代表が「捕獲枠が算出できる状態となったが、それがIWCの本来の姿だ」という意見を述べた。次の2年間で北大西洋のナガスクジラについて、また中央と北大西洋のミンククジラについては来年検討される。RMSに関しては、調査捕鯨を日本が取り下げないために、停止した状態。

 その後、2月に日本政府主催で開催された「正常化会合」と4月にニューヨークで開催されたPEW慈善財団による会合に関しての紹介が議長よりあった。アルゼンチンが、その2つだけでなく、昨年ブエノスアイレスで開催されたラテン諸国による会合とブエノスアイレス宣言についても同様に扱ってほしいという要望があり、宣言文が回覧されることになった。
正 常化会合に関しては、議長を務めたパラオのナカムラ氏が議長のサマリーを報告(2月に会合の概要はすでに書き込み済み)その後、ニューヨーク会合の議長を務めたニュージーランドのジェフリー・パーマー卿が会合の報告を行った。片方はセントキッツ宣言を母体にした1946年の国際捕鯨取締条約の精神の復活宣言だが、片方では、近代化の過程としてクジラの非致死的利用を軸としながらどのような妥協があるかも話し合われ、沿岸の捕鯨のみを認めるといういわゆるアイルランド提案の可能性なども議論された(もっとも、すでにその件は徹底的に議論され尽したとして、選択肢には入らなかった)。IWCが違反に対する規制措置をもてないことの問題も話された。留保している国、調査捕鯨枠を勝手に設定している国があっても、有効な手段が取れないからである。

ブエノスアイレス宣言は、南半球の途上国がクジラを非致死的に利用することをメリットを主張し、IWCがそのことを認識すべしとしたものだ。いずれも結局は立場をまったく譲らないものだが、同時にこのままでは前に進まないのでどうすべきかということがとりあえず話されたということだ。

 意見も、アイスランドがニューヨーク会合に招かれなかったと非難したのを別として、いつもの立場からのもので特筆すべきものはないが、それぞれの陣営が「立場こそ違え、考え方に交差するところがあるのを評価する」とし、協調と妥協の精神を我先に訴えたのは気持ちが悪かった。
まあ、私自身は、国際捕鯨取締条約時に帰るというのは、アナクロ以外の何者でもないし、国際海洋法条約などに基づいて「モダナイゼーション」を進めるという考え方が理にかなうのではないか、と思っているが。

<サンクチュアリ提案>
 1998年から毎年、ブラジルとアルゼンチンは懲りずに南大西洋サンクチュアリの提案を行っている。南極のサンクチュアリ提案時と異なり、4分の3の票を獲得するのは至難の業であるが、毎回、科学的データなどを付け加えつつ、また、ラテン諸国の結集を得て、何とかサンクチュアリを獲得しようとする姿は涙ぐましくさえある。特に、ブラジルやアルゼンチンは過去に自国領海内でほかの国が乱獲をしてきた歴史を忘れられない。また、ホエールウォッチング産業の進展も、周辺国での支持を得る因となっている。一方で捕鯨推進国は、自国の経済水域だけでやればいいと否定的である。アイスランドはこの設定が捕鯨取締条約の5条に反すると主張する。条項のよみあげを要求した。5条はA.条約の主旨にのっとり、保存と開発に利用する B.科学に基づいたものである D.消費者、捕鯨業者に制限を与えるものであってはならない。
 これに対し、アルゼンチンが動議を出し、条約の解釈が間違っているかどうかの論議をするのはおかしいとした。またブラジルも、自分たちが消費者としてクジラの利用を非致死的にしているという主旨の発現をした。持続的利用という面でも、また科学的なデータの収集でも機能できるものであり、主旨に反してはいない。
アイスランドは提案者を侮辱する意図はないので、委員会判断にゆだねると答えた。ブラジルは、周辺諸国とアフリカ諸国を結集し、同意を得たという国の中にギニアやセネガルが含まれていたため、それらの国々から同意していないという反論が出た。これに関してはアルゼンチンがそれらの沿岸諸国参加のワークショップを開催し、非致死的利用に関し理解を得たというのを通訳上の問題で誤解を生じたらしいと釈明。この議題に関しては妥協の余地がないため、翌日にどうするか検討することとなった。
とても長い一日だった。

2007年6月14日 (木)

アンカレッジ日記(3)

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その(3)1日目後半
<資源評価(続き)>
ザトウクジラの次は、南半球のシロナガスクジラについての報告が続いた。南極のシロナガスとピグミーシロナガスと異なる生活史の南西太平洋シロナガスに関して、チリが調査を開始しているが、まだその結果は十分ではなく、継続した調査が求められた。アルゼンチン、コスタリカなどラテン諸国はチリの努力に感謝し、継続的な調査を促した。
そして、ニシコククジラ。この群れは、世界でもっとも危機に瀕する大型ヒゲクジラのひとつである。近年、その主な索餌海域であるサハリン島でガス・石油開発が計画、実施され、会議では毎回のように保護を求める決議が採択されている。また、2004年のIUCNバンコク大会でも、この種の保護のための開発の影響緩和の提言とともに、周辺国が緊急国家行動計画を策定すべしという決議が通っている。国内でも私たちを始め、いくつかの団体がこの種の保護を求めて、関係省庁に対策を要望してきたが、それが実らないまま、2年間で4頭のメスを定置網によって死なせるという最悪の事態を招いてしまった。こんなことが続けば、2050年には絶滅するかもしれないそうだ。
しかし、水産庁は、この2年間、定置網業者への注意を促し、コククジラ肉が流通しないようにと指導して入るが、水産資源保護法にもリストできない状態が継続している。また、調査主体のアメリカとロシアへのデータの提出も行わないなど、後ろ向きの態度を取っている。
科学委員会の報告では、さらにこのクジラの2006年に写真識別された79頭のクジラの5.1%がいわゆる痩せクジラだったということも報告された。ロシアとアメリカの協同調査で個体識別がすんでいるコククジラにテレメをつけ、追跡調査をするという提案もでている。IUCNが石油開発会社に依頼されて組織した独立パネルとの協同で調査を進めるということだ。調査のかかる多大な資金が問題となっている。
いくつかの国々が、ニシコククジラの保護が現在最も優先されるべき事項だと意見を述べる。日本は、現状を危惧しているとし、地方自治体や漁業者に回遊の邪魔をしないよう指示を出し、また、水産資源保護法にリストし、保護策の改善を図ると答えた。

* これには驚いた。おととしからそればっかり言っているが、今度こそ3度目の正直と信じてもいいものだろうか?確か、この春の水産資源保護法改正はナマコとアワビの違法操業への罰則強化だけで、コククジラは?という質問に、「もう資源じゃないから」と答えていたと思うけど?

その後は、ホッキョククジラ(bowhead whale)。テレメ調査で西グリーンランドと東部カナダでのすみわけが進んだという仮設がでている。会議のあとの情報では、アラスカで先月捕獲されたホッキョククジラの首筋から130年前の矢じり様の破片が見つかったという。以前には200年前の武器が出てきたという話もあり、長生きに驚かされる。
* ちなみに、この記事の訳がヤフーにでたところ、ふだん数百人の訪問者しかいないうちのHPが突然6万7千人の訪問を受けたらしい!しかし、その人たちはほとんどがセミクジラ(right whale)のところに行き、そのままお帰りになったらしいというのは残念だった。

ホッキョククジラの次は北大西洋のセミクジラ(まだ、絶滅の危機を脱していない。船との衝突や混獲が憂慮されている)、南半球のセミクジラ(オーストラリアの調査では年7.5%の同化率)、北太平洋のイワシクジラなどの報告が科学委員会議長によって淡々とすすめられた。

<クジラの人道的捕殺方法>
次の話題はフィンランド代表によるクジラの人道的捕殺に関するワークショップの報告である。これは、捕鯨を行っている国々が自主的にクジラの捕殺方法や致死時間などの報告を行い、それについて検討をするもので、捕鯨国にとってはいやなものであるが、私自身は殺さないで!という人たちもいる以上は当然の義務ではないか、と思っている。
デンマークがまず、2006年のミンククジラとナガスクジラの捕鯨に関しての行動計画の概要を報告した。また、動物の福祉に関連したグリーンランドの大型クジラ猟に関する白書を紹介した。その後、ノルウェーがミンククジラの捕鯨に関しての報告をし、捕殺した546頭に損失クジラ(陸揚げできなかったもの)はないとした。彼らの開発したブルーボックスというレコードと陸からの監視の結果である。これに対してイギリスは1999年からのすべてのデータが出なかったことを遺憾だとし、ブルーボックスによる監視に懸念を表明した。
ノルウェーはこれに対し、自分たちは1981年から報告を継続してきたと反論。また、致死時間に関してはすでにデータが十分出たので、今後は必要ないとした。

アイスランドはこの組織が中立的でないので捕殺法などの報告はNAMMCOに行っているという。ちなみに、NAMMCO(Atlantic Marine Mammal Commission北大西洋海生哺乳類会議)は1992年にノルウエー、アイスランド、フェロー諸島、グリーンランドによって組織されたクジラを含む海生哺乳類の科学的管理機関であり、現段階での捕鯨を否定していない。日本がアイスランドとノルウェーの意見の同調。日本の捕殺方法や致死時間の報告もNAMMCOの作業部会で報告にしたので、IWCに出さなくても閲覧できるとした。
 これに対して、ドイツやオーストリアは捕鯨に関する会議はIWCが中心なので、それはおかしい、出すべきだという意見を表明。
アメリカがロシアとアメリカの先住民捕鯨の共同演習を報告。また39頭のホッキョククジラのうち、31頭が水揚げされ、S&L(ストラックアンドロスト=銛が当たったが、水揚げできなかった)は8頭で、昨年より悪く79.5%だったと報告。アメリカ先住民は銛による捕鯨を行っているが、二次的にはライフルを使用する。

イギリスは、もしこの委員会が捕鯨を奨励するつもりであれば、クジラの人道的捕殺については道徳的観点からも責任があるとし、対象となるクジラの苦しみを減らす努力は必要であり、そのためにもデータがなければ検討できないと意見を表明した。
日本は、合意できるポイントがあるとしながら、3つの点についての留意を促した。致死時間についてはデータを検討し、方法は改善する。その上で1.クジラの捕殺時間だけでなく、ハンターの安全性や効率も同じように重要である。2。日本は致死時間の改善に努めており、毎年短縮している。半数以上が即死している。これは陸上動物の捕殺よりはるかにいいものである。(えっ!半分は即死じゃないの?という驚きがNGOから)もうひとつはIWCが誠意を持って管理した捕鯨を認めれば協力をするが、誠意が感じられない場合は次善の策としてNAMMCOにデータを提出し、前向きな議論をして結果を報告する。
オランダは倫理的な観点から捕鯨国に改善を求めたいと意見をいい、また科学データは透明性を確保する必要があるとした。
ニュージーランドは、日本の前向きな発言に感謝を表明し、南大洋でのナガスクジラ捕殺に関するデータについて質問した。ミンククジラよりずっと大きいナガスの致死時間はミンクよりも長いのではないか?というのである。これに対して、日本は2年目のフィジビリティスタディの最中なので、NAMMCOにもデータは提出していないと答えた。
オランダから、太地におけるイルカの追い込み猟が人道的ではないという意見が出されたが、これに対して日本はイルカ類は国内管理の問題なので、2国間ルートで質問がほしいとした。
その後、混獲、ら網クジラの解放と人道的捕殺についての議論が行われた。

<その他の組織との関係>
2006年、ジャマイカで開催されたUNEP(United Nations Environment Programme)第12回の海洋環境を守るカリブ環境プログラムの行動計画の報告が行われ、科学委員会の委員がUNEPにオブザーバーとして参加してほしいという要望が出された。
また、クジラと船との衝突や油流出などの問題からIMO(International Maritime Organization=国際海事機関)において、適切な検討がなされるためにIMOと事務局の意見交換を求める意見があり、アドバイザリー委員会との協議で次回総会にIMO事務局長宛に手紙を送ることになった。また、漁業関連と混獲問題からFAOとの関係が、手続き上の議論からCITESとの関係について、また鯨肉の汚染問題からWHOとのかかわりも検討された。

会議後、7時からのアメリカ主催のレセプションのため最後は駆け足の議論となった。議長が1日目の議題がすべて終了したことに関して、参加国の協力に感謝した。確かに協調と妥協の精神とやらで表面は無事に終わったものの、鋭い刃を真綿でくるんだような会議の進行は不気味でさえあった。

レセプションは、ダウンタウンから車で15分ほど離れたアラスカ先住民遺産センターで行われた。いくつかのテントにはサーモンステーキをはじめ、トナカイやムースのソーセージ(食べなかったので味は分かりません)を含む山盛りの食べ物が用意され、横には紙皿、紙コップとプラスティックの使い捨てスプーンやフォークが。会議場のコーヒーブレークでも同じような使い捨てのコップや皿が置かれていたが、これはこの会議としては大変珍しいものである。今回はマイカップを持ってきてあたりだったと思いつつ、やはり紙皿に抵抗感が残った。

遺産センターの周囲は木立に囲まれ、中心に池があり、そのまわりに先住民の居住してきた家や使っている道具が展示されている静かなところだ。展示されている家の鴨居に毛皮がいちいち貼り付けてあるのは、頭をぶつけたときの緩衝用なのだろうか?ツリーハウスのような食料貯蔵庫(たぶん)もなんだか懐かしいような感じがしたし、人々の生活のあとというのは古今を通じてやわらかく、馴染み深く感じられる。

いつも、反捕鯨側のレセプションには日本政府代表団のほとんどが出てこないのだが、今回は驚くことに、ほとんど全員が参加しているかのように見えた。『だって、アメリカ主催ですもん』というGPのS君の答えに妙に納得。

2007年6月12日 (火)

アンカレッジ日記(2)

アンカレッジ報告(2)

 順を追って報告することにしよう。
私たちがアンカレッジに到着したのは、会議が始まる前日の5月27日。報告されていたほど寒くはなく、あちこちで白いバイカウツギのような木の花やタンポポなどが咲いていた。科学委員会に参加した人たちによると、来た当初は木々もほとんど裸同然だったということである。道端のスギナもツクシも日本の3倍はあろうかという大きさだが、植生の感じは日本と比べ、あまり違和感はない。町の3方を雪をいただいた峰々が取り囲み、一方は建物の間から海がみえる。ダウンタウンといっても、広く開発したところに建物を建てるのが追いつかず、ポツン、ポツンとまばらに高層ビルが立っているという風。広い道路を行きかう車はほんの少し。
 会場のキャプテン・クックホテルは、アンバー色のレンガ造りのどっしりした建物で、正面にやや控えめにIWCのバナーが上げられている。そこらじゅうに、やたらと警備員の姿が目立つ。登録を済ませ、顔写真つきのタグと分厚いアラスカの写真集などの入ったアメリカからのIWCバッグを受け取り、今年もとうとう来たな、という実感がわく。

 翌朝、会議場の前には青い衣装をつけた先住民の人たちがうちわ太鼓を持って集まっている。開催のセレモニーの用意をしているようだ。
10時から始まった会議は、昨年議長に選出されたビル・ホガース氏のあいさつ、アラスカ先住民の長老であり、牧師のあるアルバータ・ステファン師の祈りと続いた。それから、アンカレッジ市長、アラスカ知事、そして、上院議員と持続可能な利用と保全を両立させるアラスカの試みを自画自賛し、そのあと、車椅子の古老を先頭に厳粛な面持ちの先住民の人たちが会場に登場、アラスカ先住民と支援するマカ、ロシアのチュクトカの人々によるパフォーマンスが繰り広げられた。ちなみに、今回アメリカは参加者数で日本をしのいだ!(70名。日本は65名)

コーヒーブレークを挟んで新規加盟国のオープニングステートメントが述べられる。今回はエクアドル、スロベニア、クロアチア、ギリシャがそれぞれ保護の立場からの意見を述べた。エクアドルは93年にIWCを脱退したが、このほど、ラテンアメリカの国々主導で開催された南半球のクジラ保護のための会議に参加し、クジラの非致死的利用の促進をうたった「ブエノスアイレス宣言」を支持する立場から意見を述べた。クロアチアは、2005年、世界で始めてバンドウイルカのための自然保護区の設立を成功させた国だ。
ラオスは、人権の正当な利益に基づく資源の管理、利用を訴えた。今回は、格段に捕鯨推進を訴える新規参加国が少ない。それだけでなく、はじめの事務局からいくつかの国が参加費を支払っていないため、投票権がないという告知があった。票取り合戦では、クジラ保護側の勝ちのようだ。

<妥協の精神による会議運営の促進>
ホガース議長は、コミッショナー会議による事前協議と歩み寄りで、対立を回避して決議を少なくし、議論をコンセンサスでできるだけ進めたいということ、また、政府代表の発言も原則1回とし、2回目は具体的な事項のみに限定し、会議の時間短縮の努力を訴えた。
それに対し、日本政府は、正常化の第一歩として、日本がこれまで会議の冒頭に行ってきた「通過儀礼」の保護関連の議題の削除提案、決議等の無記名(秘密)投票提案を出さないことに決めたと発言した。これで、かなりスムーズな議事が開始されることになった(図らずも‘正常化’の鍵は日本が握っていることを実証してくれた!)。ノルウエーは保護委員会とホエールウォッチングに関する議題の整理提案を効果的な運営のため取り下げた。
最初の議題、鯨資源に関する科学委員会の報告が始まった。

<クジラ資源の動向>
科学委員会議長はまず冒頭で、IWCクジラ目視調査(SOWER)に対する日本政府による船の貸与を例年にならって感謝。
最初はこれまで2000年から懸案となっていた南極海のミンククジラの資源量である。1993年に76万頭とされたが、その後の調査で、かなり数が少ないという結果が出ており、これが実際の減少なのか、調査方法による誤差か、あるいは群れの移動(氷淵の目視調査外)か、結論が出ないまま、今回も来年に持ち越された。日本は、調査の方法が原因で、減少してはいないという意見。JARPA I が役に立たなかったじゃないか、といわれると、そんなことはないと日本が言い返すが、実際に当初目的であった推定個体数については結論がでなかったことは確かである。
次に北太平洋のミンククジラ。日本の周辺海域の個体群はO-stock(オホーツク海個体群) J-stock(日本海個体群)がこれまでに明らかになっており、希少種で減少が懸念されるJ-stockの混獲が毎回問題となる。比較的沿岸近く(3海里)に生息すると思われ、沿岸調査捕鯨による捕獲及び日本と韓国での混獲が懸念されている。韓国がJ-stockに関連する目視調査を日本と協同で行い、またロシア政府が経済水域での調査を許可したことが評価される。今後、韓国と中国による共同調査も行われる予定。日本政府はDNAサンプルを収集し、モニタリングを行って対策を実施するというが、みんな信用していないような雰囲気。
昨年、調査捕鯨の結果ではJ とOの比率はどうなのですか?と水産庁に聞いてみた。「調査を実施している鯨研の知的財産ですから、お教えできませ~ん!」という答えだった。税金使ってやってるのに?

次に、今回のクジラ保護側の主な懸念材料である南半球のザトウクジラについての報告があった。 
南半球のザトウクジラは、戦前に鯨油目的で乱獲され、1938年に捕獲が禁止された種である。最近になって、ようやくそそのめざましい回復が複数国から報告されている。
ザトウクジラは、日本でもそうだがその派手な姿や歌声によって世界中で最も人気のあるクジラの筆頭に上げられる。南太平洋のいくつかの国々でウォッチングが開始され、集客はうなぎのぼりの活況、それらの国々にとって重要な収入源となっている。それと同時にこれまで生息状況がわかっていなかった海域での調査が実を結ぶようになった。トンガ、クック諸島、フレンチポリネシアなどの海域で調査が行われ、周辺で繁殖し、南極で索餌すると思われるザトウクジラの孤立した小さな群れがいくつか確認されている。そのザトウクジラが、この秋から日本が50頭捕獲する調査捕鯨のターゲットになる可能性があるのだ。
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2007年6月 8日 (金)

自動車だって商業流通してるのに

IWCアンカレッジ会議報告(1)

アンカレッジで開催された第59回国際捕鯨委員会(IWC)に参加し、月曜日に帰国した。すでに4日もたつというのに、(これまでと同様にきちんと内容を伝えたいという気持ちはあるのだが)なんだか脱力感が強くてなかなか書く気になれない。

脱退?本会議発言は初めてだそうだが、?「オオカミが来た!」発言はいい加減にしてほしい。

開催国がアメリカであったこと、議長国もアメリカだったことが会議の進行に関係しているかもしれないが、これまでと比べて派手な言葉の応酬はなし。決議案も少なく、投票も少なく、最終日の日本の大見得以外は盛り上がりなし。

変わったこと:ネームタグに顔写真がつくようになった。しかも、会議場入り口でいちいちそれを機械にふれさせて、認識させなければならない。

今回のキーワードは「妥協の精神」と「参加しません」(妥協の精神から参加を拒否する!?)。

そして本会議議論での特別賞というものがあるなら、森下代表代理の

「・・・木材だって、自動車だって商業流通しているのに、なぜクジラだけだめなんですか?」

を推薦したい。

<先住民枠と沿岸小型捕鯨枠は同じ?>

今回アラスカが選ばれたのは、IWCで認められている先住民による特別捕獲枠の5年目の見直しが行われるからだ。アラスカ先住民、ワシントン州のマカ、ロシアのチュクチ、グリーンランド(デンマーク)、セント・ビンセント&グレナディーンに対しては、鯨肉がその地域にとって不可欠の栄養源であり、また商業的な流通は行わないという制約のもと、捕鯨を許可している(その一部に疑わしいところがある、といううわさもあるが、それはまた別の話題ということで)。

日本はこれに対して、日本の沿岸の4捕鯨基地に、先住民捕鯨と同じような特別の計らいをしてほしいと訴え続けてきた。この要求の勘所は、モラトリアム解除をするための4分の3の票獲得が無理な状態の中で、同情票でもって捕鯨基地に枠を与え、実質的な商業捕鯨禁止を突破しようというところにある。

毎回、それぞれの基地の町長や市長が会議に出席し、プレゼンテーションを行う。「モラトリアムによって疲弊し、立ち行かれなくなった地域に救済を!」というわけだ。カリブなど「飢えて苦しんでいる沿岸の人たちに、なんで救いの手を差し伸べようとしないのですか?」と本気で憤る。

しかし、鯨肉供給について言えば、2004年に沿岸の調査捕鯨を小型沿岸捕鯨業者に委託し、当初ミンククジラ60頭、翌年から120頭を捕獲するということでこれまでの沿岸捕獲枠の要求を実質獲得した。沿岸の鯨肉は母船による冷凍ものとは違い、生で販売されるため、人気も高く、市場で値段も高く付けられる。いずれにしても、カリブの人がイメージする「飢えて苦しんでいる捕鯨基地」というのとは少し事情が違う。

今回の日本提案では、「モラトリアムの解除を意味するものではない」、「沿岸地域に限る」「捕獲数は調査捕鯨の捕獲数からさっぴく」という新たな提案(これまでで一番いい提案だそうだ)がなされた。しかし、当然ながら反対意見が出る。「沿岸に限るということであっても、商業的な流通をするということであればRMSの完成を待つべき(RMSは日本が調査捕鯨を取り下げないといっているため進まない)」、「捕獲数を調査捕鯨から引くということは、調査そのものがそもそもいい加減なものだったということではないか」。

これに対して、先ほどの「商業流通のどこが悪い」発言がでたのだ。

彼は国際漁業資源問題に関しては専門家であるから、当然、国連海洋法条約の中にその生態の特殊性から海洋哺乳類、特に鯨類に関する特別の措置の必要(第64条)が明記されていることを知らないわけはない。では、知っていながら工業製品である自動車の商業流通とクジラをあえて同列に論じたのはなぜなのか。

彼は、こうした語り口が国際的に通用するかどうかは問題にしていないのではないだろうか。彼が語りかけているのは会議そのものではなく、日本の支持国であり、日本のメディア、議員そして動画中継を見ている日本の応援団なのだろう。

捕鯨問題に関心のない日本メディアはそれにまんまとのせられ、「日本が科学的根拠に基づく主張を展開しても、一切耳を貸さないという反捕鯨国の態度は、理不尽の極みだ(北海道新聞)」とか「非難の応酬に終始してきたIWCを‘正常化’する努力が実を結ばなかったことが・・・(毎日新聞)」などと書く。そして、水産庁と鯨研はしばしの安泰をえるわけだ。

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