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2007年4月13日 (金)

生物多様性国家戦略地方説明会

 生物多様性国家戦略の見直しについての意見を送ったので、先週末に環境省から埼玉で開催する地方説明会で意見を発表しませんか?という申し出を受けた。とてもいい機会なので、喜んでお受けし、意見(4月2日のブログ)を読み返してみると、大急ぎで作ったのがありありの言葉足らずのものであることを認識。早速パワーポイントを作成して、意見の補強を図ることにした。テーマを海洋の生物多様性保全をぜひ具体的に前進させてほしいというものとした。

日本はとても小さい国だというのが私たちに共通した認識である。日本の国土面積は世界の60番目に当たる。しかし、環境省の資料を改めてみると、排他的経済水域(EEZ)の面積は世界でも6番目なのだ。だからこそ、きちんとした戦略がすぐにも必要ではないか、ということでプレゼンテーションをつくった。埼玉は数少ない海無し県だけど、海の恩恵は有形無形で受けているのはみんな同じ。日本沿岸の生態系を健全に保つことは温暖化による海の環境の変化の進行している今、特に重要な課題となっている。

そして、これまでの国家戦略の中での海洋の扱いについて、各論は水産庁が作っているところの問題も指摘した。水産庁は、水産業が生物多様性保全に基づいた産業だといっているけど、現実はどうなのかという厳しい点検をしない。過去の乱獲や沿岸開発、干拓などでどれほどの沿岸の魚資源にダメージを与えてきたかというような総括もない。取れなければいったん禁止するとか、規制するとか、あまり根本的な解決となるような施策を作っていない。

それだけではない、毎年、せっせといわゆる種苗(つまり稚魚とか幼生)を放流していて、たとえばその数は魚で言うとヒラメの2400万匹、マダイの1800万匹にニシンやトラフグ、カレイがそれに続く。クルマエビは1億2千。一番多いのはアサリの18億。

一応は地域の系統群に配慮して放流しているというが、一時に、同じものを放流するわけだから、何らかの影響があるのでは?と思うのが普通でしょ?

養殖はまた別で、これには輸入物も当然入っている。逃げ出さないというけど、カナダのアトランティックサーモンのように、逃げ出したり、輸入サーモンについていたウオジラミが地域のサケの大きなダメージを与えてしまったという例がある。また、餌や糞などによる水の汚染も大きな問題となっている。

沖合いに張り巡らされた定置網に混獲されるクジラ類もあとをたたない。ニシコククジラがいい例であろう。

それにもちろん公海における漁業と日本人の責任。

それから、保護会域内での調査捕鯨についても問題として入れることにした。

というようなところから、こうした持続不可能なことをする省庁に下駄を預けて本当にいいの?ということ、でも環境省は弱い立場なのだから、それをクリアするにはどうすればいいのかというワークショップについての提案も出した。

当日の意見発表は5人。先ごろ、生物多様性国家戦略に対応した国内法が必要だという意見書を出した日弁連の弁護士さん、エゾシカの保護管理計画をいち早く作成し、実行した研究者、神奈川県秦野市の行政の人、企業の社会的責任(CSR)のコンサルタントをしている会社の人と、内容も、国内法の作成を、ということから、より良い野生動物の保護・管理施策の推進、生物多様性の地域計画への支援を、そして、国家戦略に企業が積極的に参加できるような仕組みを、という風に、内容は多岐にわたり興味深いものだった。

残念ながら、告知期間が短く、よく知られているわけではなかったためか、そもそも話題そのものが興味を引かないからか(両方ともかもしれないが)参加者が少ないのは残念だった。でも内情をいくらか知っていると、環境省が大変な思いをしながらも、ちゃんと地方説明会を果たそうとした努力の結果が昨日から始まった地方説明会なのだ。もし、これを見て、参加しようという方は環境省のHPで確かめて、今日は北海道だけど、仙台、名古屋から沖縄まで、全部で8箇所の開催が予定されているから。

意見をどしどしいって、より良い戦略ができるように協力しましょう。

2007年4月 5日 (木)

国費の使われ方について

自分たちの税金がどのように使われているか、知ることは私たちの権利と思っている。そこで、この2月13日から3日間、東京・麻布の三田共用会議所で開催された「国際会議」であったはずの「IWC正常化会合」について、情報公開を試みてみた。

この会議は、IWCに参加しているすべての国に呼びかけて開催されたが、いわゆる反捕鯨国は参加せず、参加国は35カ国、参加団体は20団体と水産庁は報告している。

農水省の情報公開窓口の担当者はとても丁寧に、開示してほしい政府文書の公開について説明してくれた。私が請求したのは、この「正常化」会合に開始前からかかったすべての費用である。担当者がその旨、関係部局(この場合は捕鯨班)に伝え、開示文書のあるなしを調べてくれる。その後、説明があり、水産庁が担当したものに限り、ほかのところに関しては別だといわれる。ほかのところというのは外務省ですか?と聞くと、今回は外務省はかかわっていないという。不思議な国際会議である。

そして、たとえば警備に当たった警察庁については別だし、ほかの団体等についてはできないという。ほかの団体って何ですか?政府主催ではないのか?と聞くと、政府が主催しても、団体などが協賛することもある、と。なるほど、ではその団体名も教えくださいといったが、その場では分からないということで、後で連絡してくれることになった。しかし、その後の電話では、担当者の間違いで、ほかの団体などはないという。

請求したのが3月9日で、3月30日に開示請求への回答があり、印影や銀行名等がコピーされて悪用される恐れがあるので、その部分は開示できないと書いてあった。どうやって悪用するのか?と思ったが、とりあえず、知りたいのは支出内容であったので、4月3日に取りに行った。

「支出負担行為即支出決定決議書」と書かれたその文書は3月7日に発議され、同日確認。

農林水産省の一般会計で項目はそれぞれ「漁業調査取締費」、「庁費」となっており、細分は「雑役務費 漁業調整指導対策費」である。
支払先は3件で、一つは三田共用会議所にある日本料理店で、支出項目はブッフェ料理(来賓国のお弁当代)120×4200円
+飲み物代120×1575円+サービス料=762,300円
コーヒーブレイク代として360×315円=124,740円

もうひとつは富士ゼロックスで支出項目は上と同じ。内容は複合機2台レンタル一式
が107800円、レンタル機種保守サービス料金モノクロ32510円。

もうひとつは東日本電電で項目は同じ、電話料金として20765円。

総計940,315円である。

えっ??

でてきたのは会議の間に使われた飲食費(大体が参加国のお弁当)とコピー機、会期中の電話代のみ。

会議場は政府が使用する場合はただだとわかったが、それにしても事前準備にまったく予算が使われなかったのか?

会期中の外郭団体職員(鯨研)はただで働いたのか?

資料代は?

日・英・仏・西の同時通訳代とレシーバー代金は誰が支払ったのか?

また、参加国代表は、プリンスホテルに宿泊し(どこのかは知らないが)、朝晩に送迎バスが使われていたが、誰が支払ったか?

等々、経費の真ん中が抜け落ちているような文書だった。

知る権利なんて、この程度でいいのだと思っているのか?情報公開制度なんて所詮、お飾りでしかないのだろうかと考え込まされる経験だった。

2007年4月 2日 (月)

生物多様性国家戦略見直しにかかる論点整理への意見

環境省への私たちからの意見です:

生物多様性国家戦略の見直しに向けた「論点に対する意見」

氏名:イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク 

意見該当箇所

1.(2)

2.(3)

3.(7)

いずれにも共通しますが、具体的な方針が見えないことが残念です。このままではお飾終わるのではないか、という懸念がなくなりません。

たとえば、1.(2)について言えば、長期的な視点に立ったとき、日本の漁業はどのような方向に向かうのか、という予想が重要な要素となりますが、この部分は水産庁丸投げになってしまうのではないかと懸念しています。

沿岸の再生なしには漁業の持続性も多様性保全もありえないということは常識ですが、水産庁はいまだに遠洋頼みで、沿岸生態系の回復への意欲はありません。「つくり育てる漁業」では「栽培漁業の推進」が最初にあげられ、「環境・生態系に配慮した内水面漁業・養殖業の推進」は最後です(3月29日の農水生物多様性国家戦略検討会の資料)養殖場による環境汚染、魚卵の多量な輸入などを考えると、長期的な視点に欠けているし、新たに作るが回復計画は見えないというものです。これまでの水産庁は、産業の推進・擁護の立場を堅持してきましたが、これでは沿岸漁業の再生もむずかしいのではないでしょうか。

一方で、現在立法化が進む「海洋基本法」では、国連海洋法条約への言及があるものの、内容への言及はなく、主眼は開発と国土としての海洋利用です。生物多様性国家戦略における海洋の保全との確たるリンクが必要と思われます。

以上について、環境省が主導し、長期的な視野に立った生物多様性の保全という命題にのっとって、どのように連携し、グランドデザインをイメージできるか、多少抽象的でもかまわないので、方向を提示してほしいと強く願っています。

2.その他全般的なこと

【意見】 今回、海洋における生物多様性保全が掲げられたことの意義は大変に大きいと感謝しております。

しかし、現実には、言葉の定義そのものもあやふやで、産業への配慮が優先されていると感じています。というのも、水産庁の漁業に関連する方針は変わらず、「漁業そのものが持続的な産業である」というひとことで、検証も方向も明らかではない後ろ向きの対応になったままだからです。
実際に、資源として利用できないニシコククジラについて、水産庁の水産資源保護法改正に関する担当者は「資源にならない」ために水産資源保護法対象として検討はしないと答えています。

まずこうした考え違いを何とかしない限り、海洋の生物多様性保全はたんなる言葉遊びになると懸念します。

また、懇談会の委員の中に、海洋生態系(あるいは海洋生物)の専門家が存在しなかったことも、議論を深めることのできなかった一因と思われます。

以上を踏まえ、今回課題として以下の3つについて、今後の検討会等の設置を要望します。

1.   海洋保護区の設置

今回の懇談会で唯一、ゲストスピーカーによるプレゼンテーションがあったものですが、概論は別として、具体的な方向に関する知床の実情について、現場(たぶんに漁業者の意見の代弁)の意見が前面に出ていて、日本沿岸全体に関しての青図がそこからはイメージできませんでした。南北に長く、黒潮、親潮の流れにはぐくまれた多様な海洋生態系を持つ日本の沿岸をどのように捉え(たとえばブロックごとの検討など)、どのような海洋保護区を設定していけば生物多様性の保全が可能であるのか、早急な具体的検討が必要だと思います。

2.   種の保存

ゲストとしてWWFJがニシコククジラについて触れましたが、まず最初に、沿岸の種の
保存に関して、水産庁が種としての保護ツールを持たないことが問題です。

現在100頭前後しか生息していないニシコククジラについての対応に顕著なように、水産庁のできることは漁業法で捕獲・所持・販売を規制することです。実際に「毎年メスが死に続ければ、早晩絶滅の可能性がある」といわれるメスをこの2年間で4頭も日本沿岸で死なせています。
にもかかわらず、水産庁は海外調査とのデータの突合せそのものも拒否しているような子どもじみた対応を取り続けています。

私どもがかかわるクジラ類の多くは情報不足も含め、レッドリストに掲げられています。しかし、たとえば推定個体数が日本海149~2371頭(1991年IWCーなぜか、水産庁の資源評価では古い情報が掲載されている)太平洋2500~10000(1991~92)、
オホーツク海310~1000頭(1983~89)とされ、希少種にリストされるツチクジラについて、年間66頭捕獲が許可されています。ツチクジラの社会行動については、父系社会の可能性もあるという意見もありますが、まだ解明されていません。

高度の社会性を持ちながら、個体群の動向がまったく把握されていないだけでなく、推定
個体数が他の種からの推定でしかないシャチに関しても、学術目的と称した捕獲計画が
進行中です。

残念ながら、これはほんの一例なのです。種の減少を減速する目的で行われる2010会議を日本で開催する意気込みであるというのに、足元の種の保存への対応がとられていないのが現状です。

3.   国際条約の批准

もうひとつ、異常なことは、日本のように周囲を海で囲まれ、海洋生物種に恵まれている国が、移動性の種に関する国際条約の批准を長年拒否していることです。「ボン条約にはクジラが含まれている」というのが複数の行政担当者に聞いた言葉です。しかし、ボン条約は持続的な利用を否定してはいません。留保を含め非常に緩やかな条約と聞いています。日本が科学的な保護・管理をもし本当に推進しているというのであれば、ボン条約を早急に批准し、その誇るところの「科学調査」を生かせばいいと思いませんか?

この3つに関しては、専門家やNGO等関係者による生物多様性保全を前提とした検討を
行うべきだと思います。具体的な戦略が作られなければ、海洋の生物多様性保全を掲
げた意味がありません。

もうひとつ、一般的な意見として、「持続的な利用」という言葉の共通認識が必要ではないかと思っています。
産業の側から言うと、「持続的な利用=利用できる」になりかねないからです。
生物多様性の保全が前提でなければ持続的に利用できないといいながら、
産業推進を第一義とする省庁がそのことを理解しているようには(少なくともこれまで
の経緯を見ると)見えません。

もちろん、環境省の担当官の方たちだけで解決できることでもなく、障壁があることは
分かります。しかし、いずれどこからか始めなければならないことだと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

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