IWC69回会議が23日からペルーのリマで開催された。今回私は2000年以来初めて、直接参加を見合わせ、ネットで会議を傍聴した。いいところは、こちらの都合の良い時間に、都合の良い間合いで聞くことができること。困ったところは、まず全体の雰囲気が掴みにくいことに加え、これまで同時通訳に甘えてきたのが、それがないこと。速度を遅くすることと繰り返して聞けば理解できるが、問題は英語以外のスペイン語とフランス語で、字幕を英語にしてみたものの、自動英訳はさっぱり役に立たないことがわかった。CCAMLRがKamalaになってるし・・・なんだよ!
まだ視聴されていない方は是非。
https://www.youtube.com/watch?v=C_WEPoQuCSs&t=8537s
まず、議長が会議に出席できなかったギニア共和国のディアロ氏に変わり、代理議長として、オーストラリアのコミッショナーのニック・ゲイルス氏が務めた。もともと、科学者としてだけでなく、頼もしい鯨類保全の第1人者である彼の采配は、適切で迅速な判断力と物腰の柔らかさをもって、想像以上に良かった。また、新しい事務局長に就任したマルタ・ロハス・ウレゴ氏はゲイル氏をしっかりと支えており、二人のコンビがなかなか良かった。
議長代理の仕事は、前回問題になった採決における定足数問題の解決だ。投票権はほんらい参加する当該国の信任状があり、3年間の会議参加費の支払いを行なっている国が持っているところ、前回、投票の3分の2の賛成票を必要とする附表修正、サザン・オーシャン・サンクチュアリの採択を阻止しようと、捕鯨応援国17ヵ国が投票ボイコットという手段に出て投票が不可能になったことを受け、いくつかの修正案が提案された。支払い義務が2年間になり、支払いの確約が取れれば例外もあるということらしい。しかし、どの修正案にも反対する国があり、最終的には議長代理であるゲイルス氏が手続き規則の解釈をした議長判断で進められうことになった。彼の手腕が発揮された瞬間だった。そして、実際には、その(休憩を含む)一つのアジェンダの間の議事の参加者をまず定足数と定め、国を代表して投票に参加するための信任状と支払い義務を満たしているを国の確認が行われた上で、投票が行われることになった。最初はわかりにくいなど繰り返しの質問に辛抱強くこたえ、まず、議題とそれに対してYES,NOがどのようなことかを説明、会議出席している参加国の信任状を持つコミッショナーであることの確認が行われ(事務局長が一つずつ確認作業を行う)、その上で採決にあたり、さらにその国の代表者として採決に加わっているかどうか事務局長が確認し、その上で賛成、反対の意見を言ってそれを事務局長が繰り返すという手順がとられた。とてもまだるっこしい方法だが、重要事項の決定には不可欠に思われた。
附表修正と決議に関しては、4日目の午後に行われた。今度こそと期待していたサザンオーシャンサンクチュアリは、40対14(棄権3)という結果で、1票という僅差で敗れてしまったのは残念だった。クジラのサンクチュアリは、クジラだけでなく、その元にある生物多様性の保全にも役立つわけで、反対する国にもそれなりの理由があるのだろうが、さらなる挑戦を続けて欲しい。
今回提出された決議案は5つ。二つは最終的には合意が得られないので70回会議まで検討を継続するとした捕鯨再開を目指した「食糧安全保障」と「捕鯨一時停止の解除のための保全及び管理プログラムの実施」。3つはEUを代表してハンガリーから出された「CCAMLRとの共同」、「CBD昆明・モントリオール議定書及びBBNJ(国家管轄権外区域における海洋生物多様性 )との共同」、「商業捕鯨実施における法的な義務」で、前者2つは合意されたが、最後は投票になり、過半数の賛成があって採択された。この法的な義務の決議案に対して、非参加国日本からの唯一の発言があった。森下丈二氏は、この提案が案に日本の捕鯨を指しているものとし、これに関して誤解があるようだと切り出した。日本は全ての科学的な土台で捕鯨を行い、その情報は全てIWCに提供している。商業捕鯨の捕獲枠は1995年に会議で合意されたRMPに基づいて計算されており、持続的でないという指摘は当たらない。それに日本はIWC参加国でもない・・・ナガスについての言及はなかった。
ナガスについてはいつ、どこから出されるかと思っていたら、2日目の科学委員会の報告の中で、北太平洋のナガスクジラの包括的評価が行われたのは1976年だとわかり、現在、捕獲が行われているのだから、早急に評価し直すべきではないか、という質問がイギリスから出た。今回、日本が60頭という捕獲枠を出したのに対して、その批判が各国政府に共有されていたのを受けてのことだ。科学委員会の答えは、科学委員会の作業にはすでに優先順位があり、すぐにはできないというものだったのだが、それに対して議長代理が、コミッションが優先順位の検討をするための科学リエゾングループを組織したらどうか、という提案を行った。そのメンバー(オーストラリアがコンビーナー、他はブラジル、南ア、ポーランド、ノルウェー、アイスランド、アメリカ、追加として西アフリカのどこかとアジアー多分韓国)も決まり、その対象として北太平洋のナガスクジラの包括的な検証が取り上げられ、70回会議に報告される予定だ。これには、ナガスクジラの捕獲枠設定に一貫して疑問を呈し続け、最終日にNGOとしてこの枠がどれほど問題があるか発言した真田康弘氏の功績もあると私は感じた。
もうひとつ、議長代理の仕事として、各自の発言時間は3分間に限られ、それ以上はマイクが切られるという手続きがとられた。そういえば前回、アンティグア&バービューダがだらだらと22分というまるで知らない人たちに講釈でもしているような長口舌を行なったのだ。この裁量で会議は粛々と進み、NGOが発言する機会も増えたと思う。(ついでに。議長代理が、今回会議の締めくくりの中で、多様で重要な意見を聞くチャンスと、NGOの存在を評価したことを特記しておきたい)
・その他今回会議で以下のような話題があった。
先住民生存捕鯨の捕獲枠は科学委員会の承認のもとの6年間固定する。
各国の参加費は、2025−2026年の2年間は3%の増加で、その後の2年間は5%を予定。
次期の議長は今回の議長代理であるオーストラリアのニック・ゲイルス博士、副議長はベニンのウルベイン・ブリト博士。
次回開催国なオーストラリア。
詳細については、IWCwebサイトのdaily report で見ることができる。
https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=22465&k=
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